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14.侮辱

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「ヴェル……私、どうしても気になって、イライザに会いに来たの……そうしたら、護衛隊の人達が川に彼女を……投げ捨てたなんて言ってた……」

「そうか、やはりそうだったんだな……アーシャ、辛かっただろう」

 私を抱き締め、慰めてくれたのです。ヴェルとおじ様に聞いた内容を伝えると……

「ヘルマン卿、俺達はイライザ様の魂を秘密裏に弔おうと思います」

「うむ、それが良かろう。だが、気を付けるのだぞ。何やら化け物が目覚めてしまいおったらしいからのう……」
「「はい……」」

 おじ様は眉間に親指を当て、心痛な面持ちでした。

「行こうか、アーシャ」
「はい」
「それでは失礼します」

 うむと頷き、おじ様の下をあとにし、予定通り、イライザのところへ向かおうと王宮の廊下を歩いていると……

「おう、誰かと思えば、マグロ女と父上の犬ではないか!」
「ヘンリー!」
「殿下!」

 私達は端に逸れ跪いて、ヘンリーに道を譲りました。しかし、通り過ぎ際ににやけ面をヴェルに近づけます。

「どうだ? マグロ女と寝た感想は? 貴様程度には俺の中古がちょうど良かろう?」
「は! 殿下のご配慮痛みいります」

 私達を見下し侮蔑の言葉を投げつけるも、ヴェルは全く表情を変えることはありません。

「はは、流石、犬! 分かっているな、精々、くすりとも鳴かぬ、感じぬマグロを存分に味わうといい。ハーハッハッハッ!!!」

 嫌みったらしく話すヘンリー、それを軽く受け流していたと思っていたのですが後ろに隠した拳を強く握り締め、爪が傷口を開いてしまったのか、赤く滲んでいました。

 アランと護衛隊士が鼻で私達を笑い、ヘンリーのあとを付いていきます。ヘンリーが立ち去り、姿が見えなくなると立ち上がり、王宮をあとにして、騎士団の駐屯所に来ていました。

「お前達……ポカンとして一体、どうしたんだ?」
「「「「綺麗……」」」」
「「「「お美しい」」」」

 えっ!? 私のことを言っているの?

「団長の婚約者さんですよね?」
「あんな噂、絶対ウソだ! 団長が羨ましいぃぃ!!!」

「アーシャ、済まない。こいつら、初めてキミの顔を見るようで驚いているらしい。煩いようだったら、すぐに訓練に行かせるが……」

「いえ、でもちょっと恥ずかしくて……」

「団長、お帰りなさい。それにアーシャさんも! そろそろ戻るだろうと思って馬、用意しときました」
「こんにちは、ヨルギスさん。この間はお世話になりました」

「副長! 何、アーシャ様と仲良く話してるんですか! 抜け駆けは副長だからって、無しですよ!」
「いや、深夜に呼び出されときにお会いしただけだって」

 団員の皆さんに言い寄られるヨルギスさん。

「じゃあ、あとは頼んだ」
「あっ、団長、せめて、この混乱を収めてからに……」

 皆さんに詰め寄られるヨルギスさんに一言だけ告げ……

「頑張れ、副長!」
「そ、そんなぁ~! 団長ぉぉ……」

 颯爽と馬に跨がると私の手を取り、馬に乗るのを補助してくれました。

 もしかして、ヴェルもヨルギスさんに嫉妬してしまったの?


 包帯が赤く染まったまま、手綱を握る彼が心配で……

「掌、大丈夫?」
「俺のことを悪く言われても、気にはならない。だが、アーシャのことをなじられたときは悔しくて堪らなかったよ……」

「ヴェルが分かってくれただけでも私は嬉しい」
「今夜はもっとアーシャのことが知りたい」

 そんなことを耳元で甘く囁かれるので彼に抱かれ、大地を駆ける中で真っ赤になってしまいました……


 ――――王都郊外の教会。

 ヴェルに乗せてもらい、街外れの寂れた教会へと来ていました。外にある墓標は苔むしていて、手入れが届いていないような場所……

「寂しいところですね……」
「ああ……受け入れてくれるところがここしかなくてな……」

 損壊が激しいそうで身元もはっきりしないなら、仕方のないことかもしれません。ただ、そう思いたくなくても様々なことから亡くなったのはイライザとしか思わざるえなかったのです。

「アーシャ、こっちだ」
「はい……」

 教会周りの荒涼とした墓地を眺めているとヴェルが手を差し出し、繋ぎました。

 教会の神父様から地下墳墓への鍵を受け取り、ひんやりとした風と鼻をつく強い臭いに耐えながら、階段を下りるとレリーフの彫られた可動式の壁があります。

「この先にイライザ様を安置した。だが、先に行けば、キミは必ず後悔する。ここから、冥福を祈ろう」
「はい……」

 彼女は私に嫉妬して、ヘンリーを奪ったんだと思います。でも、私は自由なイライザが羨ましかった……それがこんなことになってしまうなんて……
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