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37.新居選び
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ヴェルの赤ちゃんを身ごもり、日に日に大きくなる私のお腹……それを頬を当て、愛おしく撫でながら、彼は言いました。
「アーシャ……俺、ここから引っ越そうかと思うんだ」
「でも、エレオノーラさんと暮らしてた大事な家なんじゃないの……」
「確かにそうなんだが……アーシャはそういうの嫌じゃないか?」
「私は別に……」
もう、この家に慣れちゃったのもあるし、エレオノーラさんは私達の仲を嫌がってないような気がして……それに大きなお屋敷だと執事さんか、メイドさんが必要になる……
どうしよう……確かに家事はしなくちゃいけないけど、ヴェルと二人切りの時間は少なくなる。
でも、子供がいっぱい出来るとやっぱり狭い……
「アーシャ? アーシャ、どうしたんだ? そんな考え込んで……」
「えっ、あっ、ごめんなさい……」
私が考え込んじゃっていると、心配そうに美しい瞳で覗き込んで訊ねてきます。
「じゃあ、次の非番の日でもいいかな?」
「はい、予定を空けておきます」
「ああ、そうしてくれ」
これって……もしかして、ヴェルとデート!? お家選び、そっちのけで楽しみになっちゃいます……
――――当日。
色々と何軒か見て回ったあと……
「こちらにございます」
「ここだとお庭もあるし、子供部屋までちゃんと揃ってる!」
「ああ、比較的新しい方だし、王宮にも通いやすい……」
「この邸宅に決めようと思うだが価格は?」
「はい……こちらになります」
不動産を取り扱う商人さんはヴェルに金額の書かれた紙を提示したのですが……
「ヴェル? 顔が青いけど、どうしたの?」
「た、足りない……」
思っていたより高かったみたいです。
「お金貸しに頼むというのも一つの手ですよ?」
「ダメだっ!」
「えっ? どうしてですか?」
ヴェルはお金貸しという言葉に強く反応して、否定的しました。
「済まない……俺に何かあって、支払えない場合は借金の形に家どころか……いや、家なんかよりアーシャが取られたら、俺はもう生きていけないんだ……だから、あいつらから借りるのは避けたい」
「ヴェル……」
彼は私を絶対に手放さない……そんな強い意思を示すように強く私の身体を抱き締めてくれていました。私もそんな彼の優しさに嬉しくて、しっかりと抱き締め返します。
「あ、あの~、ヴェルナー様……」
商人さんは私達に呆れてしまっていました……
「済まない。まだ、他の物件を見てみたいんだ」
「分かりました、またのお越しを……」
商館をあとにして、二人で語り合います。
「結構、見て回ったが俺達の条件に合う物件がなかったな……」
「はい……手頃な広さとお値段のお屋敷は王宮から遠くて、ヴェルの通勤に支障がでちゃいますよね……」
「ああ、街外れから通勤となると馬が必要……飼うとなると馬飼いを雇わないといけないから、結局、屋敷自体は安くても、あとで高くつく……」
「「はぁ……」」
二人で深く溜め息を付いてしまいました。
歩いていると前から来る人達から私を守るように前に出て、手を引いてくれるヴェル。安心して人通りの多い大通りも歩けました。
ありがとう、ヴェル。
学院にいた頃、男爵や子爵の爵位が低い令嬢達が結婚するなら騎士爵もありよね~って言っておりました。そのときは玉の輿を狙う彼女達なのに、何故なんだろうと思っていたのですが……
今なら彼女達が言っていた意味が深々と分かります。
ヴェルの下で働く騎士さん達は皆さん紳士で優しいんです。特にヴェルは……
「アーシャ、疲れてないか?」
「うん、ちょっと疲れたかも」
「じゃあ、少し休憩を入れてから帰ろう」
「はい!」
喧騒の少ない裏通りの喫茶を楽しめるお店で歩き疲れた足を休めることにしました。
ヴェルが椅子を引いてくれ、そこに座ります。
「アーシャは何が良い?」
「レモンティーをお願いします」
「分かった、俺はストレートだ」
決まったことで彼は手を挙げ、給仕を呼び、注文を伝えました。しばらくして、運ばれてきた紅茶と柑橘類の香りを楽しみながら、ほっこり過ごしました。
「ここはマドレーヌがおいしいんだよ」
意外です、甘党ではないと思うのですがヴェルが詳しいなんて!?
「そうなんですね、でもヴェルが甘い物に詳しいなんて……」
「いや、俺が詳しいというより、ゴズ……ゴズワルドが詳しいから、一緒に行こうって誘われるんだ。あいつ一人じゃ入りにくいらしい」
「くすくす……」
「何か、おかしいか?」
「いえ、笑ってしまっては失礼なんですが、あの大きなお身体で小さなマドレーヌを食べているお姿を思う微笑ましくって」
「ああ、熊がお菓子を食べてるみたいだって、ウチの団員は話してる」
「やっぱり皆さん、思うことは同じなんですね」
良いお家は見つかりませんでしたが、ヴェルと楽しくデート出来ただけでも私は良かったです。
だって、広いお屋敷や贅沢な暮らしよりもヴェルさえ、居てくれれば、私は幸せなんですから……
――――後日。
お腹が大きいこともあり、赤ちゃんに触るということでヴェルに愛されることは控えていたのですが……
ソフィーさんに呼ばれて、王宮で話していたときでした。
「アーシャ……ヴェルは知っての通り、絶倫だ。奴に限って、ないと思うが万が一ってこともある。やっぱ、溜まったときは……ごにょごにょごにょ……」
ふんふん、ふんふんと私は彼女の話に興味深く耳を傾けました。ボッと顔が赤くなるような淫らな行為についてお話されます。
ソフィーさんが王妃に成られたあと、貴族に親しい者が居らず、忌憚なく話せる私が彼女の礼儀作法について教える教育係にジュールとソフィーさんの二人から、たってのお願いで就任しています。
扇子を取り出し、ソフィーさんの耳元で囁き……
「何度かやってみたことがあるのですがヴェルが満足してくれたか、分からなくて……」
慌てて、ソフィーも扇子を取り出し、私に作法を合わせます。
「大丈夫、子種汁が出りゃ、それで満足してるって!」
「はいっ!」
どちらが教育されてるのか、分かりませんでしたが経験豊富なソフィーさんは頼もしく感じました。
ヴェルが帰宅する前に家に馬車で送ってもらい、戻ってしばらくした頃でした。
見知った声が聞こえ、ドアを開けると両親がいました。
「孫はまだか~!」
「アーシャ、お元気?」
「お父様、お母様!」
気の早いお父様にお母様が……
「もう、あなたったら! まだ、先のことですよ」
「済まん、早く見たくて、仕方なかったんだ……ヘルマンの奴が孫を抱っこして、私にどや顔するものでな……」
そんなお父様のお気持ちも分からなくもなく、お母様と一緒に扇子を口に当てて、ふふっと笑っていました。
「ところでアーシャ……ヴェルナー殿には悪いのだが、子供が産まれるとなると狭くないかな?」
お家を見て、心配するお父様………侯爵家のお屋敷と比べて言ってる訳ではなさそうです。
「はい……それなんですが叙爵されたこともあり、新しいお屋敷を見に行ったのですが良い場所がなくて……」
私は二人で新居を見に行ったことを伝え、何か良い案がないか、両親に相談したのです。
「ふむ……ならば、改築するのが最も良さそうだ」
「そうね、それが良いわ」
二人で手を取り合い、熱い眼差しで見つめ合う仲睦まじい両親です。もしかしたら、弟か、妹が出来てしまわないかと一瞬、変なことが頭を過りました……
「でも、そんなお金は……」
「私が出そう! 初孫が見れるとあれば、金に糸目は付けん! 豪邸を建てるのだ!!!」
婚約破棄のあと、ヘンリーの派閥から圧力を掛けられ、領地経営に支障を来しておりましたが、ジュールに代わり、かなり潤っているとの話でしたが……
「お父様、お気持ちは大変、ありがたいのですが豪邸は流石に……」
「そうか……また、ヴェルナー殿と相談して、間取り等は決めてくれ。大した祝いも出来ておらんからな」
「ありがとうございます」
お母様が扇子を耳元に持って来られ、小声で囁きました。
「ねえ、アーシャ、知ってる? 巷でね、ヴェルナーさんは一番の出世頭と噂されているのよ。果ては宰相、大臣は堅いだろうって。本当に良い人と結婚してくれて、嬉しいわ、うふふ」
両親が心配して持ってきてくれた婚約だったので……ヴェルを選んだお父様、お母様の目利きが良かっただけではと思い、二人に感謝したのでした。
「アーシャ……俺、ここから引っ越そうかと思うんだ」
「でも、エレオノーラさんと暮らしてた大事な家なんじゃないの……」
「確かにそうなんだが……アーシャはそういうの嫌じゃないか?」
「私は別に……」
もう、この家に慣れちゃったのもあるし、エレオノーラさんは私達の仲を嫌がってないような気がして……それに大きなお屋敷だと執事さんか、メイドさんが必要になる……
どうしよう……確かに家事はしなくちゃいけないけど、ヴェルと二人切りの時間は少なくなる。
でも、子供がいっぱい出来るとやっぱり狭い……
「アーシャ? アーシャ、どうしたんだ? そんな考え込んで……」
「えっ、あっ、ごめんなさい……」
私が考え込んじゃっていると、心配そうに美しい瞳で覗き込んで訊ねてきます。
「じゃあ、次の非番の日でもいいかな?」
「はい、予定を空けておきます」
「ああ、そうしてくれ」
これって……もしかして、ヴェルとデート!? お家選び、そっちのけで楽しみになっちゃいます……
――――当日。
色々と何軒か見て回ったあと……
「こちらにございます」
「ここだとお庭もあるし、子供部屋までちゃんと揃ってる!」
「ああ、比較的新しい方だし、王宮にも通いやすい……」
「この邸宅に決めようと思うだが価格は?」
「はい……こちらになります」
不動産を取り扱う商人さんはヴェルに金額の書かれた紙を提示したのですが……
「ヴェル? 顔が青いけど、どうしたの?」
「た、足りない……」
思っていたより高かったみたいです。
「お金貸しに頼むというのも一つの手ですよ?」
「ダメだっ!」
「えっ? どうしてですか?」
ヴェルはお金貸しという言葉に強く反応して、否定的しました。
「済まない……俺に何かあって、支払えない場合は借金の形に家どころか……いや、家なんかよりアーシャが取られたら、俺はもう生きていけないんだ……だから、あいつらから借りるのは避けたい」
「ヴェル……」
彼は私を絶対に手放さない……そんな強い意思を示すように強く私の身体を抱き締めてくれていました。私もそんな彼の優しさに嬉しくて、しっかりと抱き締め返します。
「あ、あの~、ヴェルナー様……」
商人さんは私達に呆れてしまっていました……
「済まない。まだ、他の物件を見てみたいんだ」
「分かりました、またのお越しを……」
商館をあとにして、二人で語り合います。
「結構、見て回ったが俺達の条件に合う物件がなかったな……」
「はい……手頃な広さとお値段のお屋敷は王宮から遠くて、ヴェルの通勤に支障がでちゃいますよね……」
「ああ、街外れから通勤となると馬が必要……飼うとなると馬飼いを雇わないといけないから、結局、屋敷自体は安くても、あとで高くつく……」
「「はぁ……」」
二人で深く溜め息を付いてしまいました。
歩いていると前から来る人達から私を守るように前に出て、手を引いてくれるヴェル。安心して人通りの多い大通りも歩けました。
ありがとう、ヴェル。
学院にいた頃、男爵や子爵の爵位が低い令嬢達が結婚するなら騎士爵もありよね~って言っておりました。そのときは玉の輿を狙う彼女達なのに、何故なんだろうと思っていたのですが……
今なら彼女達が言っていた意味が深々と分かります。
ヴェルの下で働く騎士さん達は皆さん紳士で優しいんです。特にヴェルは……
「アーシャ、疲れてないか?」
「うん、ちょっと疲れたかも」
「じゃあ、少し休憩を入れてから帰ろう」
「はい!」
喧騒の少ない裏通りの喫茶を楽しめるお店で歩き疲れた足を休めることにしました。
ヴェルが椅子を引いてくれ、そこに座ります。
「アーシャは何が良い?」
「レモンティーをお願いします」
「分かった、俺はストレートだ」
決まったことで彼は手を挙げ、給仕を呼び、注文を伝えました。しばらくして、運ばれてきた紅茶と柑橘類の香りを楽しみながら、ほっこり過ごしました。
「ここはマドレーヌがおいしいんだよ」
意外です、甘党ではないと思うのですがヴェルが詳しいなんて!?
「そうなんですね、でもヴェルが甘い物に詳しいなんて……」
「いや、俺が詳しいというより、ゴズ……ゴズワルドが詳しいから、一緒に行こうって誘われるんだ。あいつ一人じゃ入りにくいらしい」
「くすくす……」
「何か、おかしいか?」
「いえ、笑ってしまっては失礼なんですが、あの大きなお身体で小さなマドレーヌを食べているお姿を思う微笑ましくって」
「ああ、熊がお菓子を食べてるみたいだって、ウチの団員は話してる」
「やっぱり皆さん、思うことは同じなんですね」
良いお家は見つかりませんでしたが、ヴェルと楽しくデート出来ただけでも私は良かったです。
だって、広いお屋敷や贅沢な暮らしよりもヴェルさえ、居てくれれば、私は幸せなんですから……
――――後日。
お腹が大きいこともあり、赤ちゃんに触るということでヴェルに愛されることは控えていたのですが……
ソフィーさんに呼ばれて、王宮で話していたときでした。
「アーシャ……ヴェルは知っての通り、絶倫だ。奴に限って、ないと思うが万が一ってこともある。やっぱ、溜まったときは……ごにょごにょごにょ……」
ふんふん、ふんふんと私は彼女の話に興味深く耳を傾けました。ボッと顔が赤くなるような淫らな行為についてお話されます。
ソフィーさんが王妃に成られたあと、貴族に親しい者が居らず、忌憚なく話せる私が彼女の礼儀作法について教える教育係にジュールとソフィーさんの二人から、たってのお願いで就任しています。
扇子を取り出し、ソフィーさんの耳元で囁き……
「何度かやってみたことがあるのですがヴェルが満足してくれたか、分からなくて……」
慌てて、ソフィーも扇子を取り出し、私に作法を合わせます。
「大丈夫、子種汁が出りゃ、それで満足してるって!」
「はいっ!」
どちらが教育されてるのか、分かりませんでしたが経験豊富なソフィーさんは頼もしく感じました。
ヴェルが帰宅する前に家に馬車で送ってもらい、戻ってしばらくした頃でした。
見知った声が聞こえ、ドアを開けると両親がいました。
「孫はまだか~!」
「アーシャ、お元気?」
「お父様、お母様!」
気の早いお父様にお母様が……
「もう、あなたったら! まだ、先のことですよ」
「済まん、早く見たくて、仕方なかったんだ……ヘルマンの奴が孫を抱っこして、私にどや顔するものでな……」
そんなお父様のお気持ちも分からなくもなく、お母様と一緒に扇子を口に当てて、ふふっと笑っていました。
「ところでアーシャ……ヴェルナー殿には悪いのだが、子供が産まれるとなると狭くないかな?」
お家を見て、心配するお父様………侯爵家のお屋敷と比べて言ってる訳ではなさそうです。
「はい……それなんですが叙爵されたこともあり、新しいお屋敷を見に行ったのですが良い場所がなくて……」
私は二人で新居を見に行ったことを伝え、何か良い案がないか、両親に相談したのです。
「ふむ……ならば、改築するのが最も良さそうだ」
「そうね、それが良いわ」
二人で手を取り合い、熱い眼差しで見つめ合う仲睦まじい両親です。もしかしたら、弟か、妹が出来てしまわないかと一瞬、変なことが頭を過りました……
「でも、そんなお金は……」
「私が出そう! 初孫が見れるとあれば、金に糸目は付けん! 豪邸を建てるのだ!!!」
婚約破棄のあと、ヘンリーの派閥から圧力を掛けられ、領地経営に支障を来しておりましたが、ジュールに代わり、かなり潤っているとの話でしたが……
「お父様、お気持ちは大変、ありがたいのですが豪邸は流石に……」
「そうか……また、ヴェルナー殿と相談して、間取り等は決めてくれ。大した祝いも出来ておらんからな」
「ありがとうございます」
お母様が扇子を耳元に持って来られ、小声で囁きました。
「ねえ、アーシャ、知ってる? 巷でね、ヴェルナーさんは一番の出世頭と噂されているのよ。果ては宰相、大臣は堅いだろうって。本当に良い人と結婚してくれて、嬉しいわ、うふふ」
両親が心配して持ってきてくれた婚約だったので……ヴェルを選んだお父様、お母様の目利きが良かっただけではと思い、二人に感謝したのでした。
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