青天の霹靂ってこれじゃない?

浦 かすみ

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幸か不幸か予定通り

取り敢えず馴染む練習中

大通りを移動しながらこんなにも緊張しているのは、私だけじゃないかな?

手汗がすごい。背中も脇汗もヤバい…

田舎者?不慣れな者に見えないように堂々と移動しなければ…

あっ、あった!宝石店…看板の横に書いてある、貴金属高価買取!の貼り紙も確認してから店内に入った。

「いらっしゃいませ」

ドッと緊張の汗をかいた。慌てて体に冷却系の魔法をかけて涼しくさせる。

「宝石の買取査定をお願いしたいのですが…」

そう、カウンター内にいる、オジサマに声をかけるとチラッと私の全身を見られてから、どうぞ…と手招きされた。

私の身なりを確認されたのかな?

私は巾着袋の中から持ち出してきた小粒の宝石を一粒取り出した。まずはこれがどれほどの価値があるのかが知りたい。

オジサマは私が渡した宝石を布に包んで受けとるとルーペで宝石を鑑定し始めた。

幾らになるんだろ?せめてフライパンが買える金額は欲しい。

オジサマはニコニコしながら

「お待たせ致しました、金貨20枚になります」

と、言ったのだけど…オジサマの魔質が濁っている。これは…嘘をついてるね?

「やっぱり買取やめます」

「え!?」

私は宝石返してくれ~とオジサマに手を差し出した。

オジサマは目をさ迷わせ始めた。

迷ってる~迷ってる~。さあ!どうする?

「金貨25枚に…」

「宝石返して下さいな~」

「っ…40枚でどうだ!」

まあ、最初だしこんなものだろう。それに宝石を売りに出すのは足がつくので出来ればしたくない。

「買取お願い致します」

オジサマは深く溜め息をついてから、買取依頼書と領収書に署名を…と用紙を差し出してきた。

ここで何か不備があって失敗してはいけない、私は利用規約などの小さな小さな字を読み進めた。

「しかし本当に上質な宝石ですな。もしかしてトキワステラーテ産の石でしょうか?」

このオジサマ、宝石を見る良い目をお持ちね。思わずニッコリ微笑んだ。

「はい、母の実家がそちらでして…」
 
私は署名の名前をミランジェ=エスベラータと書いた。この国の王名を名乗る訳にいかないしね。

「はい、確かに。では金貨40枚ね」

「あ、そうだ、すみません。金貨を両替しておいてもらえます?」

この宝石店に来る前に貨幣価値を実際の商品販売価格で確認してみたのだ。

有難いことに十進法で、尚且つ葉物野菜が大体が前の世界の価格帯とほぼ一緒だったのだ。これは買い物がし易い。金貨一枚は大体15000円ほどの価値がある。つまりこの宝石は60万円位と言う訳だ。

こんな小粒な宝石で60万か。これは市井でいっぱい使えるわね。

私はオジサマが差し出したズシッと思い巾着袋の中を開けて金貨を数えた。よしっ間違いない。

「お嬢さん、まだ宝石お持ちですか?」

「あ、え~と、まだ家を片付けている途中なので、見つけたら持ってきますわ」

私は金貨の入った袋に重力軽減の魔法をかけて巾着袋に入れた。オジサマに会釈をして大通りに戻る。

さて、まずは調理器具だな。金物屋さんに突撃した。

「煮炊き用の鍋、炒め物用の鍋、包丁、まな板、フライ返しに…お玉、カトラリー…こんなものかな」

そして洋裁道具一式と糸と布を買い、最後に生鮮食品を買いに行った。

「ええ?お魚無いんですか?」

お城でちょいちょいメニューに出ていたので、普通に市場に売りに出ていると思っていた。

「魚はもっと西のホワンテーシッタ王国ぐらいまで行かないと、市場には並ぶなんてことはないと思うよ」

お肉屋さんのお兄さんに聞かされて、茫然とする。

知らなかった…何気に高級食材なのかな。おまけにコーヒー豆っぽい大豆も市場では目を剥くような金額で売られていた。でも仕方ない…コーヒー好きなんだよね…

お肉屋さんで恐らく牛肉っぽいものと、鳥肉っぽいものを買って…香辛料のお店まで急いで回ると、取り敢えず城の自室に転移した。

転移し自室の寝室に静かに降り立った。市場に出かけてから、二時間は時間が経過している。

そっと寝室から居間を覗くと特に荒らされてはいなかった。流石に近衛のお兄様達が押し入って宝石類を持ち出そうとしていたら…いや、やっているな?と宝石を置いている部屋の鍵を見て思わず笑った。

魔力の残滓が残っている。表に立っている三人と同じものだ。開けようとしたけど私の魔力の鍵がかかっていて、どうしようもないわよね?まあ魔法で施錠していることや、私が部屋に居なかったことも、もしかしたら国王陛下に報告しているかもね。

さてどうしようか…

グルル…お腹が鳴った。よし…ちょうど昼食の時間だ!

「新しい調理器具ってやっぱりいいわ~」

最初は恐々だった包丁さばきも段々慣れてきて、リズミカルに野菜も切れる。それほど凝った調味料も買ってきていないので塩胡椒炒めしか出来なかったけれど大満足だ。

蒸かした芋と肉野菜炒めを食べる。しまった…パンを買ってくるんだった。食べ終わり食器を片付けてお茶を飲んでいると、国王陛下の魔力が近づいて来た。

何の用?

ノックもされずにいきなり扉が開けられた。国王陛下こと、クラシス=パイロ=ベイフィートはドアを開けて、私と目が合うと固まっていた。

「ミ…ミランジェ?」

「何か御用でしょうか?」

クラシスは廊下にいる近衛を顧みて

「居るではないか!」

と叫んでいる。やっぱりね~。王妃、部屋に居ないっすよ!って、報告を近衛達から受けたわね?

「我々が声かけした時にはおられませんでした」

「あら?寝室で眠っていたかしら~?」

と私がとぼけたように答えると近衛のお兄様の一人は、あろうことか第一王妃の私を睨んで

「寝室にもおられませんでした!」

と叫んだ。叫んじゃったね、あなた?

「へぇ~寝室の中まで入って来たのねぇ~」

と私が逆に聞き返すと護衛のお兄様は狼狽した。そしてまた私を睨みながら

「だ…第一王妃が私を招き入れたのですっ!」

と叫びましたよ。

あらら…寝室に居ないのに招き入れたの?すごい矛盾しているけど?

クラシスはどう出るかな~と思っていると、クラシスはこっちを見た後、深い溜め息をついた。それだけで分かっちゃったよ。クラシスって育ちが良すぎて、上に立つ人間にしては素直なんだよね。

「お前…やはり…」

やっぱりショックだわ。いくら第二王妃が好きだからって言ってもさ~私、仮にも第一王妃なのよ?どっちの言葉を信じるってたかだか近衛の言葉を信じるなんて、普通は有り得ないでしょう?

私は一つ息を吐くと

「国王陛下」

とクラシスに声をかけてから立ち上がった。クラシスは私の服装に初めて気が付いたみたい。私の足元から全身を舐めるように見つめると首を捻っている。

「一つご提案がありますわ。私をこのまま放逐されるか、第一王妃として留め置いておくか…もし留め置く場合は私の好きにさせて頂けると…どちらかを選んで下さいませ」

「な、何を…」

私は微笑んでクラシスを見た。これほどクラシスにガッカリする日が来るとは思わなかった。

「勿論、放逐された後は、私がこの城にまだという偽装もしておきますから、ご心配なく」

クラシスは迷ってしまっている。本当ならね、こんな近衛もいるような場所で決めちゃいけないのよ?

ここでの正解は「後で私室に来い。そこで話す」つまりこんな近衛の前で話してはいけない内容なのよ?分かっている?クラシス?

「おっ…お前を放逐する!出て行け!」

あ~あ…やっぱりクラシスはダメだね。

私はクローゼットに残されていたリメイク服や鞄を、風呂敷代わりにしたストールに包み込むと、背中に背負った。手にはさっき市場で買った食材等を持っていて、傍目にはものすごい荷物を持っているが重量軽減魔法を使っている。

「ミランジェ…お前まさか…」

やっと気が付いたかね、クラシスよ。私は最初からここには残るつもりはないのだよ?どちらを選んでも私の選択はここを出て行くの一択だからさ。

「ごきげんよう、クラシス」

私は転移魔法で再び商店街近くの路地へと飛んだ。

何も馬鹿みたいに飛び出して来てはいない。自分の部屋の宝石を保管している部屋は誰にも入れないし、落ち着く先が決まったらあの中の宝石ぜーんぶ、ぜーんぶ移動させちゃおう。ウフフ…。

さて、そうと決まればやることはアレだよ、アレ。

「洋装店ミランジェをオープンさせなくちゃね!」

私は意気揚々と不動産屋さんに向かった。

それから1時間後

「すぐ見つかるかと思ったけど甘かったわ…」

商店街のど真ん中で家賃も安めで、住居兼店舗…しかも洋装店に出来そうな作り…なんて、すぐ見つかる訳ないのだ。

ああ、もう夕方になってきた。露店でクラブサンドを二種類買って、ミックスジュースも買った。

「今晩の宿、どうしよう」

日用品を買うことで頭がいっぱいで宿屋の料金とか、どこが人気の宿とか全然調べていなかった。

「今日一日で、あれもこれも片付けてしまおうというのが、そもそも無理だったわけで…」

自由に動けることで、嬉しすぎて空回りしすぎちゃったかな。出来ることからコツコツやっていかなきゃね。兎に角体を休める場所が欲しいけど、いきなり下調べもなく適当な宿屋に泊まるのも怖いし…。

そ、そうだ!灯台下暗し…というじゃない?

私はその場所を頭に思い描くと、一気に転移した。

その場所に着いた早々、消音魔法を使う。そう…ここは城の中の宝石を保管している、私の部屋の鍵付きのおまけに魔法をかけて施錠している部屋の中だ。

まさか放逐された当の本人がその日のうちに戻って来て、この宝石の保管部屋に居るとは誰も思うまい。

背負っていた荷物を床に置くと

「はぁ~しんどい…流石に体力無さすぎるよ~私ぃ」

脹脛ふくらはぎを揉みながらソファにゴロンと横になった。

明日から宿か定住出来るアパートとか探そう。防犯面は自身の魔法でいくらでも安全な空間に出来るので、安い家賃の商店街の近所の物件を探そう。

買って来たクラブサンドとジュースの夕食を取った後、そっと鍵を開けて部屋の外へ出た。

手早くトイレを済ませ顔を洗い、また部屋に戻りソファに寝そべった。

そして…眠ってしまったらしい。

何か話し声が聞こえてきて

「言い訳はいいから早く開けなさい!」

という金切り声で飛び起きた。この部屋は明り取り用の窓くらいしかなく、日中でも薄暗いのだ。

「し、しかし…この鍵の周りに張られている魔法は特殊魔法で、こんな文字見たことがありません」

この部屋の前に、第二王妃と話の内容から察するに魔術師が来ているようだ。

しまった、寝過ごした。
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