青天の霹靂ってこれじゃない?

浦 かすみ

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幸か不幸か予定通り

異世界でもお金って大事

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ゆっくりと扉の前に移動して部屋の外、この保管部屋の向こうに居る人達の魔力を探る。

あれ、第二王妃のプリエレアンナ様かな? あんな金切り声を上げる性格だったっけ?

「見たことの無い術式?どういうことなの?」

「つまりはこの部屋に我々には解術出来ない未知の術が施されていて、誰も室内に入れないということです」

魔術師?の男性の説明にプリエレアンナ様が扇子でどこかを叩いている音が聞こえる。

まさか魔術師の方を叩いているんじゃないよね?

「ミ、ミランジェは?あの女は…これ、あの女がしているんじゃないの!?」

え~私を呼び捨て?それは無いわ…。仮にも私、元一国の王女殿下なのよ?あなたよりかなり身分が上なのよ?

プリエレアンナ様ってこんなに口が悪うございましたでしょうか?なんだかこれもこれでショックだわ。

「そんな…ミランジェ妃はこんな術が扱える術師ではない、と私共はそう伺っております」

そうそう、私はこんな術は使えない設定なの。

「もういいではないか。ミランジェ本人もこの術で中には入れないし、私が新しい宝石を買ってあげるから」

とクラシス=パイロ=ベイフィート…国王陛下の声が聞こえた。

あ~あ、簡単に買っちゃうとか言っちゃって…人の事は言えないけれど、宝石を買うお金も血税だよ?

本当に血税よ…私は自分の背後でキラキラした光を放つ宝石達を見て、猛反省していた。

記憶が戻った今の状態で今更嘆いたって後の祭りだけれど、私の豪遊は悪手だったわ。

こんなやり方をしなくてもいくらでも、この国から逃げ出せる方法はあったはず…。ミランジェは魔法は使えても王女殿下だもんね…そりゃ世間知らずだわ。

「そうだ、陛下!私この部屋に移りたいわ~」

プリエレアンナ~~いやあのね、私一応ここに住んでいるっていう設定だからね?分かっている?

「そうか、じゃあプリエレアンナはこちらに移りなさい」

おーい!設定忘れてるよー!クラシスはやっぱり馬鹿だった。私が居ないということが対外的も露見した場合、うちの実家が、おい?ミランジェはどうしたの?と聞いてくるのは目に見えている。

私の今持っている記憶でも、お父様はけっこう厳しめの人だったし、姉上も真面目で勝気な性格だ。私が放逐されたなんて外聞の悪い状態になっているなら私も怒られるけど、クラシスがうちの国から睨まれることもありうると思うのだけどね。

はっきり言っちゃうと、私が追い出された~と泣きついたら姉達は多分信じてくれるよ?クラシスどうすんのさ。

まあ?出来うる限りは私が放逐していることは伏せてあげるけど…てか、なんで私がそんなに気を使ってあげなきゃいけないんだよ?おかしくない?私出て行ったほうだけど?

外ではメイド達が部屋替えの準備を始めているようだ。

どうしようかな…。取り敢えずこの部屋に踏み込まれる心配はなさそうだが…ちょっと落ち着かないけど、ここで準備していこう。

私は買ってきた布を裁断し、『魔法の使い方』の本を見ながら術を練り、ゆっくりと糸で縫い合わせていった。小一時間かかって、小ぶりなリュックサックを縫い上げた。一針一針に魔力を籠めながら縫っていったので魔法定着永続化が可能な鞄が出来た…はずだ。

『魔法の使い方』の本によると、魔力を込めながら物を制作するとその物(食品、衣類、美術工芸品など)に半永久的に魔法がかけられるようになるらしい。

さっき巾着袋に重量軽減の魔法を使った時に気が付いたのよね~。巾着は持っていると手が塞がっちゃうし、だったらリュックサックがあればいいな~と。衣服系は買うより自分好みの物を作ってしまいたい。

一度リュックサックを背負ってみた。背負った感じも良いですね…うん。クルクルと回ってみた。外ポケットを充実させて女子向けに可愛らしく、刺繍やアップリケを付けたいところだけど、それは追々…

「え~と、封印結界と空間連結…と腐敗防止と…重量無し…複数掛け魔法使って大丈夫かな」

この魔法の使い方の本によれば、術者のレベルが高ければ高いほど複数掛け魔法が成功するとある。私、何度も言いますが、『復活の御手』の力を持ってますので魔力量はかなりあるほうです。

「もういいや、失敗したって爆発はしないだろうし、えいっ!」

リュックサックに向けて順番に術をかけていく。上手くいったかな?何度も本を見ながら術式を確認していく。やがて…リュックサックが綺麗な発色で輝きだした。

これ多分成功だ!よし、グズグズしている暇はない。まずはフライパンでもぶっこんで魔法が発動しているか確認してみよう。はぁ…ドキドキする。リュックサックの中に明らかな重量オーバーな大きめのフライパンを差し込んだ。フライパンはリュックサックの中にギュン…とまさに掃除機が如く、吸い込まれていった。

中に…入った?よね。よし、重さの確認。

片手で恐る恐るリュックサックを持ってみる。うん!リュックサックの重みくらいしか感じない!やった!

取り敢えず壊れてもいいものから、リュックサックのに入れてみた。うん、重さは全然感じない。そしてリュックサックの中から取り出したいものをイメージしながら取り出していく。

「フライパン…OK。包丁…OK。ワンピースも大丈夫。生肉…も腐ってない、よしっ!」

私は再び、全部の手荷物をリュックサックの中に詰め込んだ。そして、部屋の中を見回した。

最後の最後まで迷っている、宝石貴金属。

自堕落を装ったうえに購入した宝石だった…思い入れなんて何もない。けれどやっぱり悔しい。何も出来ない国王妃と思われて、逃げ出したと思われて、惨めだと笑われて…。悔しいから全部持って行ってやろう。

持って行くだけで、もう宝石を換金するつもりはない。いつかこの部屋に入った人達が悔しがって怒ればいい。

ストールを風呂敷代わりにしたものにケースの中から宝石類を全部詰め込んで、床に置いたリュックサックの中に押し込んでいった。なんとなく掃除をした気分だった。

私はリュックサックを背負うと部屋から転移した。

背中のリュックサックは軽いけど気持ちは重く沈んでいた。てっきり、放逐されたら気分爽快で楽しくなると思っていた。ところが、はいどうぞ~と独りぼっちにされると非常に惨めな気分になった。

私…いらない王妃だったんだな。目から涙が零れ落ちた。こんなはずじゃなかったのにな。いきがって放逐されてやるよ!って思っていたのが現実は本当に切なくって悔しい。

くそ~ぅ!今日だけは目一杯泣いてやる!そうしたら明日から働きまくって、見返してやるからな!覚えてろ!

私は不動産屋さんを数件回り、最後に入った不動産屋さんで商店街の外れの元衣料品店だった年季の入った古ーい店舗兼住居を格安で借りた。物凄く粘って粘って格安にした。達成感が半端ない。不動産屋さんのお兄さんに、クラシスやプリエレアンナへの憎しみを代わりにぶつけた…ということも少しは、ある。ええ…少しだけはある。

そして不動産屋さんから鍵を頂き、商店街の外れに建つ私のお城『ミランジェ洋装店(仮)』の前に立った。

「しかしボロいね…」

扉は鍵を差し入れても、開かないくらい錆びついているようだ。


ギギギ…。何かが出てきそうなほどの音を立てて扉がゆっくりと開いていく。

埃っぽい…。浄化魔法を使いながら室内に入ると、急いで窓を開けようとしたが、窓が錆びついて開かない。強引に窓を押し開いたら、ガキャ…と、とんでもない効果音と共に窓枠が完全に外れて裏庭に落ちてしまった。

これは…不動産屋さんのお兄さんの言った通りだった。家賃を安くする代わりに、手直し無しで即日渡しにしますけど、構いませんよね?と…。上手い話には訳がある。

私の手元には換金した宝石の日用品を買った残りの金額から、この店舗の敷金と一ヶ月分の家賃を引いた残金しかない。他の宝石は意地でも使いたくない。こうなったら自力で見返してやらねば気が済まない。自業自得だけど、あいつらには負けたくない。

私は屋敷全体に『復活の御手』の魔法を使った。家の内側の修復が出来た。窓枠も元通りだ。

何をするにもまず、お金だ。洋装店を開店するにもまず資金を貯めてからだ。私はリュックサックの中から日用品と宝石類を出すと手早く片付けた。

「朝食食べ損ねた…」

もうお昼すらも過ぎているけど、腐敗防止魔法をかけたリュックサックの中から鳥肉と野菜を取り出して、塩胡椒で煮込んだシンプルスープを作った。トマトに似たマーストという野菜も買っておいて良かった。

スープを食べ終わると、立ち上がってテーブルの上に置いてある本を手に取った。まずはどこかで働き口を探そう。私は城の図書室から拝借してきた『冒険者ギルドとは』のタイトルの本を熟読した。

「ふぅ…」

本を読み終え、ミルクコーヒーを飲んで一息ついた。

まずはバイトだ、この世界で安全に尚且つしっかりとお金を稼ごうと思ったら、冒険者ギルド仲介のバイトが一番良いことが分かった。

運動をまともにこなしたことない国王妃の私が、いきなり戦闘行為が絡んだ依頼は受けるのは無謀だし、まずは空き缶拾いとか草むしりとか…簡単なことから仕事を始めよう。

幸いにもまだ18才だ。人生これから!前向きに!

私はリュックサックを背負うと、家の外からも魔法でしっかり施錠して冒険者ギルドに向けて歩き出した。

冒険者ギルドとはファンタジーな小説でよく登場している施設だ。簡単にいうと『バイトの紹介センター』みたいな施設だ。依頼(求人)があり請負(応募)をして依頼を無事完了して依頼主から成功報酬(バイト料)が貰える仕組みだ。そして依頼するのも請負うにもまずはギルドに登録してギルド会員になっておかなければならない。

会員になるには手数料がかかるけど、冒険者ギルドは全世界に支部があるし、おまけにギルドにお金を預け入れ出来るシステムがあり、ギルド会員の方はほぼ預貯金の為に利用していると言われている。

手数料は入会金が大体木貨3枚、日本円で約600円。年会費は約1000円、高いな~と思う人はギルド推奨の依頼を年二回受けていれば年会費は無料になる。

私は颯爽と冒険者ギルドの建物の前に立った。大通りの公所の横に立つ世界規模のバイト紹介センターだ、絶対良いバイトがあるはず…私が足を一歩踏み出したその時…

「ミランジェ?」

と背後から急に名前を呼ばれて私は声のした方に顔を向けた。

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