青天の霹靂ってこれじゃない?

浦 かすみ

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師匠と弟子

やっぱり怖かった

ナフテラージャ王女殿下…私のお姉様は私と同じ銀色の髪の一見、本当に一見すると可愛らしい印象を与える人だ。

「突然伺いまして申し訳御座いません。ベイフィート国王陛下」

「これはこれは、ナフテラージャ王女殿下。ご健勝で有られますかな?」

「体は健勝で御座いますわ」

ピリリ…とした魔力がお姉様から放たれる。クラシス、本当にこの魔力に気が付かないの?

お姉様は淑女の礼を解いて顔を上げてから、少し顔をこちらに向けた。ちょっと鋭い目をしている?あれ?

「あちゃ…気づかれた、かな?」

「うそっ?」

お姉様はまた表情を穏やかなものに変えるとゆったり微笑みながらクラシスに笑いかけた。

「で…今日はミランジェに会いに来たのです。呼んで頂けます?」

ズバッとお姉様は本題に入った。クラシスは目に見えて狼狽えていた。さあどうする?クラシスよ?ここで私が放逐されたと声高に叫んではいけないよ?国際問題に発展するからね?いいかい?私を悪しざまに罵ってはいけないよ?

ここでの正解は「ミランジェは今日は外に慰問に出ております。」と時間稼ぎをすることだよ?そして速やかに私を見つけて城に連れて帰ること、これしかない。離縁や諸々の話はそれからだ。

クラシスは狼狽えた後に話を切り出した。

「ミ…ミランジェは我が国の国宝の玉座を盗んで逃げたのだっ!姉御として責任を取って頂けるだろうな!?」

ああ~やっちゃった………思わず頭を抱えた。お姉様は目を見開いた。私の横でリュー君が呟いた。

「表立ってミランジェを非難しちゃいけないだろう…」

「玉座を盗んで逃げた…それは確かな情報なのですか?」

「私の近衛が目撃した」

「そう…近衛の証言だけなのですね…ではその玉座の保管場所に案内して頂けますか?」

「え?」

お姉様の発言にクラシスは間抜けな声で聞き返していた。

「私共、トキワステラーテ王国の者は人より魔質の感知能力が優れております。仮にミランジェが盗んだとすれば、魔力の残滓を追えば今の居場所が分かります」

おおっ!お姉様流石!さあ行きましょう!行きましょう!

「おお、そうであったか。ではナフテラージャ王女殿下に見て頂ければ全ては分かりますね」

クラシスは馬鹿正直にそう答えたが、これに慌てたのが今、護衛でついて来ているあの近衛のアイツらだ。

「へ…陛下、そんな不確かなものを…」

と近衛が言いかけたのをお姉様が鋭く諫めた。

「不確か?不確かと申すか?我がトキワステラーテ王国の復活の御手の力を侮るのか?」

お姉様の本気のお怒りの魔力が近衛にバチンとぶつかった。流石の近衛達もすごい魔力を受けて、自分達の発言がまずかったことに気が付いたようだ。

クラシスとお姉様と宰相と貴族の方々その後にビクビクした近衛達が続く。

宝物庫は地下にある。当然だが、ここにも本来かけてなければいけない、盗難防止用の魔物理防御障壁は無い。

そして何故だかプリエレアンナ様が宝物庫の中に入ろうとしていた所に私達は出くわした。

「プリエレアンナ?」

プリエレアンナ様にクラシスが声をかけると、プリエレアンナ様は、ぎゃあ!と淑女あるまじき声をあげて、飛び上がっていた。何をそんなに驚いているのだろう。

「へ…陛下!?どうしてこちらに…」

プリエレアンナ様は手に小さな袋?を持っていてその袋を慌てて背後に隠した。

「何を隠したんだ…?」

リュー君はそう呟いてから、ゆっくりとプリエレアンナ様に近づいた。そして皆から見えないことをいいことに、プリエレアンナ様の背後に回ってなんと、隠していた袋を引っ張って地面に落としてしまった。

落ちた袋の中から…キラキラと何かが沢山転がり出る。

宝石だった。プリエレアンナ様は悲鳴をあげると床に散らばった宝石をかき集めている。

「宝石…かしら?」

お姉様が呆れたような声で呟いているが、リュー君は拾い集めている宝石を見詰めながら、首を横に振っている。

「違う…これ輝石だ、どうしてこんなもの持ってたんだろう?」

輝石とは…川などに落ちている光る石のことだ。宝石に似たような輝きがあり、安価なので宝石の代替品として需要の高い石だ。

すると床に屈んで石を拾っていたプリエレアンナ様に向かって、お姉様が近づくと肩に手を置かれた。

「あなたそんなに屈んでいたら、お体に障るわ」

私は息を飲んだ…やっぱりプリエレアンナ様…

プリエレアンナ様はポカンとした顔をしている。ナフテラージャお姉様は何故か、怖い顔のままクラシスを見た。

「この方、お腹に御子がいらっしゃいます」

クラシスはハッとした後に、満面の笑顔になると茫然としたプリエレアンナ様を抱き締めた。

「プリエレアンナ!よくやった!私にも世継ぎがやっと…」

クラシス…。私はプリエレアンナ様とそして、その周りにいる人達を魔質の奥まで見てみた…。

ああやっぱり…溜め息が漏れる。

「ミランジェ…やっぱり辛い?」

リュー君が心配そうな何だか複雑な顔をして、私の顔を覗き込んだ。

「辛くはないけど、困ったことになったわね。いや?私には関係ないっちゃないけどね」

「言ってる意味がわかんねぇけど、どう言うこと?」

「う…ん、非常に言いにくい事なんだけど…プリエレアンナ様のお腹の子…クラシスの子供じゃないわね」

たっぷり5秒ぐらい固まった後にリュー君は、ええっ!?と絶叫した。

「リュー君も多少は見えるんでしょう?プリエレアンナ様のお腹に渦巻く魔質と同じ魔質は誰でしょう?」

リュー君に最大のヒントを出して上げた。流石はリュー君、魔質を見る前に私の言葉で大方の予想がついてしまったようだ。

「おい…まさかこの中に本物の父親がいるのか…まさか?」

リュー君は近衛のアイツらを指差した。

「アタリ、その一番大柄な金髪の方が父親ね」

そう…近衛のアイツらは宝物庫の前で顔色を失くしている。その中で今一段と顔色を失くしている男がその金髪の近衛だ。まあまあ男前だ…リュー君の足元にも及ばないけど…

「どっ…どうするんだよ?ミランジェ!」

「どうもしないわよ、だって本人が黙っているのに…隠す気なんでしょう?」

そう…プリエレアンナ様はクラシスと共に馬鹿みたい抱き合ってイチャイチャしている。お前達忘れているのではないのだろうか?ここには怖いナフテラージャお姉様がいらっしゃるんだよ?

そうしたら案の定お姉様の冷ややかな声が響いた。

「もう宜しいかしら?盗まれたモノはそこの近衛とそこの身重の方に聞けば分かりますでしょう」

キャッキャッしていたクラシスとプリエレアンナ様は固まっている。皆が固まっている間もお姉様は淡々と話を進めていた。

「ミランジェが盗んで逃げたと、あくまでも仰るのならばこちらにも考えがあります。私共でミランジェを見つけ次第、トキワステラーテ王国の特務隊の隊員で本物の犯人捜しをさせて頂きます。その代わりミランジェは離縁という形を取らせて頂きまして、自由の身にさせて頂きますけど、構わないでしょうか?こちらが国王陛下の親書になります」

トキワステラーテ王国の特務隊…

トキワステラーテ王国の軍人の中でも超実力主義の部隊である。貴賤問わず厳しい試験で勝ち抜いた者が入隊出来る極めて珍しい部隊だ。たまに勘違いした貴族の坊ちゃんが裏口入隊をしてきて、僅か3日かで泣きながら辞めていくのが、数年に一度ある恒例行事だ。

そう…その部隊の部隊長を務めているのが、実はお姉様の旦那様、私の義理のお兄様のダーシュ=タウメントス大佐…。普段はチャラチャラした優男っぽい雰囲気を出しているんだけど、戦闘になると鬼神になる。本当に鬼神なのだ。

クラシスはお姉様の差し出した親書を見ながら、お姉様の発した言葉を頭の中で整理しているようだ。そして隣のプリエレアンナ様を見た。

「ど…どうしてプリエレアンナに…宝物庫の盗難のことを聞かねばならんのだ…?」

お姉様は鬼神の嫁の眼力でクラシスとプリエレアンナ様を見詰めると

「でしたら、中に入って確かめましょうか。先ほど玉座を盗んだとおっしゃいましたが他にもありそうですね」

と言った。ま、まさか?

「お姉様…プリエレアンナ様が…宝石を盗んでいる、そう言うことなの?」

聞こえないのにお姉様に聞いてしまう。お姉様は宝物庫の中には入らずに、戸口で立ち止まってドアを見詰めていた。成程、ドアに残っている魔力残滓を見ているのね。

「ミランジェの魔力はありませんね。この城の住人…複数人がここに出入りしています。何人かは今ここにおられる方ですが、残りの方もお会いすればすぐ分かりましょう」

お姉様の淡々とした説明にプリエレアンナ様が顔色を変えて叫んだ。

「何ですってっ!私が勝手に宝物庫に入ったとおっしゃいますの!?この…っ」

自分が先ほど入ろうとしたことを棚に上げて…今、この…やろう?か、この〇〇…という罵声をお姉様に浴びせようとしちゃった?

血の気が引いた。プリエレアンナ様は元伯爵家…今は第二王妃とはいえ…他国の第一王女殿下で次期女王のお姉様の方が身分が上。そのお姉様に罵声を浴びせかけた…ギリギリセーフだったけど。

お姉様は無表情のまま、淡々と話しを続けた。

「今の不敬な発言は見逃しましょう。もう宜しいわね?ミランジェとは離縁して頂けますわね。これで今後一切トキワステラーテ王国の支援及び援助は無いという国王陛下のお言葉を承諾頂けたということで構いませんわね?」

この言葉にクラシスとずっと後ろに控えていたこの国の重鎮の方々、宰相やマジアリート様のお父様は慌てている。

「分かった。そうしてくれ」

クラシスの馬鹿ー!いや、馬鹿だから助かったのか…。クラシスはお姉様が準備していた「離縁承諾書」に署名しようと貴賓室へと移動を始めた。

「陛下っお待ち下さい!それはあまりにも…」

「ミランジェ妃ともう一度話し合いを…」

宰相と公爵が詰め寄っているが、クラシスはその2人をキリッと睨み返した。

「妃の公務も放棄して遊び回っていたミランジェはもういらん!」

ひぇええ…自分の事を言われているんだけど…肝が冷えるわ。いやマジでやめて、お姉様の魔質が恐ろしい形状?を醸し出してものすごい魔圧を発しているよ。

流石に宰相様と公爵はこの魔力に当てられたみたいで、顔面蒼白で泡でも吹いて倒れそうな感じだ。

「ミランジェの元旦那?っていうかこの国王陛下って…案外バ……やめとこうか。聞こえないとはいえ、不敬だね」

私の隣で茫然としていたリュー君が小さく呟いている。

「ねえ…リュー君、宝物庫の中見てみない?」

「ミランジェ、本当に盗むつもりか?」

地蔵がオラついた怖い魔力を私に向けてきた。怖い怖い!

「違うよ~もし盗られているなら、宝物庫の中は空っぽてことにならない?」

リュー君がちょっといたずらっぽい顔をしている。

そしてリュー君と2人、宝物庫の中に入ろうとした時に

「こら、お前らいい加減にしろ」

と、私には懐かしい声が後ろから聞こえてきた。

何故、ここにいることがバレたのかぁぁ…

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