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師匠と弟子
辺境伯領にやって来ました
私は、先ほど地図で確認した辺境伯領への道を思い出しながら、商店街の北側に行こうと歩き出した。北門から出て、まずは道なりに…
「ミランジェ~こっち、こっち!」
「へ?」
思わず間抜けな返事をしてしまったが、リュー君は商店街の中心部、南側に向かって歩いている。え?北に抜けて街道を歩いて行くんじゃないの?
「え?街道こっちだけど?」
と、聞くとリュー君は笑いながら南を指差した。
「歩きも馬車も時間かかっちゃうよ?冒険者ギルドに行けばすぐに行けるから」
すぐ?どういうことだろう?リュー君の後について行き、冒険者ギルドに入ると、ギルド事務所の奥の扉を開けて、更にカッシーラ伯達とお会いした応接室を通り過ぎ、廊下の突き当りの扉の前に私達は辿り着いた。
リュー君はご自分のギルド証を取り出して扉の鍵穴の付近にかざした。解術の気配がして扉のカードロックキーっぽいものが開いた。
「プラチナカー…あわわ、綺麗な色だね」
リュー君のギルド証は淡く輝く魔石?素材で出来ているようなカードだった。
「SSSの証だよ。ランクが上がれば素材が変わる。はい、ここが冒険者ギルドの転移陣の間」
リュー君が扉を開けて中を見せてくれた。その部屋は床に大きな魔法陣が描かれたソファと小さなテーブルしかない部屋だった。
「ここ…何?転移ってことはこれまさか巨大な転移魔法陣?」
私がそう聞くと、リュー君はニッコリと微笑んで部屋の中へ私を連れて入った。
「このギルドの転移陣はギルドに登録している冒険者なら誰でも使えるんだ。だけど魔法陣の起動に膨大な魔力が要るから…実質はAクラス以上の冒険者じゃないと使えないし、使わないね」
なるほど…使用はご勝手に~だけど、魔力は自力で何とかしてよ…か。
「じゃあえーと…」
リュー君は魔方陣の横に置いてあるテーブルの上に置いてある、平たいガラスのケースの中を見ている。私も一緒に覗き込んでみた。
魔石が入れてあるね。化石や小さい宝石を収納出来るショーケースみたいだね。
「カ…カ…あった」
リュー君はケースの中から魔石をひとつ取り出した。
「これはこの辺りの主要都市のギルドの場所を魔石に予め入れてあるんだ。転移魔法はどこでも好きな所に飛べる訳じゃないんだ。自分の知らない場所は飛ぶのはまず無理だ」
「どうして無理なの?」
「ミランジェはトキワステラーテの王宮の中庭の景色覚えてる?」
突然リュー君に聞かれて王宮の景色を思い浮かべる。
「まあ、なんとか覚えてる」
「景色が浮かんだ所は、転移魔法で飛べるんだ。だけど、カッシーラ伯領は?」
「行ったことないから分からない…?あ、そういうことね!イメー…あわっ…えーと、見たことのない場所は行けないのね」
「そういうこと、そこでこの魔石だ。これは行ったことない人の為に、投影魔法で情景を魔石に封じ込めているんだ。これに魔力を注いで投影魔法を発動しながら、転移を起動する、すると知らない場所に行けるって訳」
へえ~!凄いわね。
リュー君が手を差し出してきたのでその手を握ると、まるでエスコートされるようにして魔法陣の上に立った。
「じゃあ行くよ~」
「えぇ?」
と、私が叫んだ瞬間、視界が暗転し、
「ぎゃあ…あ…あ、あれ?」
もう明るくなった。今の何?リュー君の顔を見るとニッコリ笑いながらまた私の手を取った。
「さあ、着いたよ」
「う、嘘でしょう!?」
「本当だよ?」
地蔵の綺麗な顔を訝し気に見詰める。だって一瞬暗くなっただけよ?私の事馬鹿にしてない?
恐る恐る魔法陣から外に出て扉を開けて部屋から出た。確かに廊下の内装がちょっと違う気がするけど…そしてギルドの事務所内に出た。まだ分からない…受付のお姉さんは全員知らない人だけど、まだ半信半疑だ。
そしてギルドの外へ出た。そこには見たことのないお店が並んでいて、遠くには険しそうな山々が見えていた。〇ッターホルンみたいだ!
「商店街じゃない!?」
「だからもうカッシーラ伯領だって~まだ信じてなかったの?」
あんな1秒か2秒で瞬間移動とか出来るものなの?もっと体に負荷がかかったり、浮遊感とかが感じられるものだと思っていたわ…。自分の転移の時はもっとぐらついたような気がするんだけど?
私は物珍しさもあって通りに出てキョロキョロとしていた。だけどね…しばらく見ていて気が付いたのよ。表通りを歩いているのは厳つそうなお兄様達ばかりで、子供とか女性の姿って殆ど見ないのよ。
リュー君も異変に気が付いたみたい。顔色を変えて私を見た。
「ミランジェ、カッシーラ伯の所へすぐ行こう」
「う、うん」
リュー君は私を抱えてトンッと足を踏み込んで、一度弾みをつけたと思った瞬間、走り出した!いや、ほぼ飛んでいるではないか!
ひ、ひ…姫抱っこにしてくれぇぇ~~何故俵担ぎなんだよぉ!私の宇宙(内臓)が隕石(胃の内容物)をリュー君の背中にぶつけてしまいそうだよぉぉ…っぷ…
「ここかな?」
ここかな~じゃないよっ!こらっ地蔵!私の隕石ぶつけられなかっただけでも有難いと思えっ!
リュー君はギルドから走って(飛んで)来て堅牢な城壁に囲まれた、大きなお城の前で立ち止まった。お城の前は城下町という感じの通りがあるのだけれど、人影はまばらだ。
リュー君は私を肩から降ろすと、立たせたくれた…けど私は地蔵の脇腹に肘鉄を食らわせた。
「いっ…たいよっミランジェ!」
「こらっちょっと綺麗なだけの地蔵のくせにっ!仮にも自分の奥様を俵担…ゴホンゴホン、肩に担ぐ人がいますかぁ!そこは足の膝裏に手を差し入れて、姫抱っ…ゲホンゲホン、横抱きするのが一般的でしょうがっ!」
私とリュー君が盛大なコント?をしていたのが不審人物に見えたのだろうか、丁度巡回していた兵士の2人組に鋭く声をかけられた。
「何か揉め事ですか?」
私は20代くらいの兵士のお兄さん達の前に進み出るとキッとリュー君を睨んだ。
「丁度いいわ、この方々に聞いて判断して頂きましょうよ。この主人ったら急ぐからと私を肩に担ぎあげて運びましたのよ?普通は女性なら体の前に横抱きにして運んでくれません?仮にも私、妻ですのよ?私、間違ってます?!」
私が睨み上げる様に兵士のお兄さん達にそう聞くと、お兄さん達は顔を赤くしながら私とリュー君を交互に見て
「そりゃ旦那が悪いよ」
と、答えてくれた。それ見なさいよ!どうよ?これが世の中の姫抱っこの常識よっ!
リュー君は頬を膨らませたまま、その兵士の人に自分の冒険者のSSSプラチナカードを、彼らの目の前に突きつけた。
「スカウザーのリュージエンス=ヴェシュだ。カッシーラ伯の依頼で魔獣討伐に来た。案内してくれ」
SSSのギルド証を突き付けられた兵士のお兄さん達は、しばしポカンとした後、大慌てで私達を城の中に案内してくれた。
その間もリュー君はムスッとしている。
「いつまでむくれているのよ?さっきの兵士の方の話を聞いていたの?今度から横抱きよ?分かった?」
「分かったけど…何も人前で俺を罵らなくてもいいだろ~」
リュー君は基本は王子様だしね…雑草根性の私とは元々のポテンシャルが違うか…けっ、これだから軟弱な王子様は…。
「はいはい、どうすればご機嫌が戻られますかね~」
と私が聞くと、リュー君が何故か耳を赤くしている。そしてチラチラとこちらを見ながら小声で
「エ…エロいことしてくれたら許す…」
と言ってきた。このっエロ地蔵め!
しかしだ…よく考えれば自然なことだ。一応、婚姻もしているし、私だってこれが政略結婚のようなものだとは理解している。
クラシスとは断固として拒否していたアレやソレをリュー君とするのか…
リュー君はまだ耳を赤くしている。自分で言ってて照れてるって何事だ。
こっちもつられて恥ずかしくなる。
2人して顔を赤くしていると、来客の取り次ぎの兵士と一緒に
「で、殿下!?ミランジェ妃も…来賓室にご案内してっ!お二方共に王族だよ!」
マジアリート様が叫びながら走って来られた。あれ?マジアリート様、此方にいらしてたの?
私達を最初に案内してくれた兵士のお二人は、私達の正体に仰天されたようだ。とんでもない顔汗をかきながら、こ、こ、此方で御座います~!と、慌てていた。
「まさかミランジェ妃もこちらにいらっしゃるとは…」
「もう妃じゃありませんよ~。陛下と正式に離縁しましたし」
マジアリート様は目を見開いた。
「あれ?ですが、リュージエンス殿下とご婚姻されるのですよね?第二王子妃には違いないですよ?」
そうだった…。私、旦那が違えどまだ妃殿下だった。
「カッシーラ伯はまだ王都におられるのです。あの…」
兵士の2人が退席して、私とリュー君、そしてマジアリート様の3人になった時マジアリート様が声を潜めて私に聞かれた。
「あの…父とカッシーラ伯にさらっとしかお聞きしないで…ここに来ちゃったんだけど、本当にプリエレアンナ妃のお腹の御子…近衛のバンカッシーの子供なの?」
近衛のバンカッシーとはあの大柄な金髪の近衛の名前か…
「はい、私のトキワステラーテ王国の王女殿下…私の姉も見て確認しました。間違いありません」
マジアリート様は大きな溜め息をつかれた。
「馬鹿だな…王族筋の懐妊に関しては種違いは誤魔化しが利かないのに…」
「誤魔化せないってどういうこと?ん~と例えばだけど生まれた子供が髪の色とか目の色が父親…戸籍上の父親に似ていたら、実子じゃないって気付かれないこともあるんじゃないの?」
リュー君がそう聞くとマジアリート様は、ちょっと思案されていたが、秘匿案件ですが…と前置きしてから話し出された。
「我がベイフィートの王族の血脈には不思議な力が宿るのです。大昔…竜、ドラゴンの血が混じったと言われていて…」
「ええっ!?」
「まあっ!」
ドラゴンってあのドラゴン?!羽が生えてて、グワーッと炎を吹いて、七つ玉を集めたら…あ、あれは違うか。
「ベイフィートの王族の祈りの儀という6才なったら行う儀式があるのですが、表向きは王宮の奥にある神殿で祈りを捧げて終わり…と言われてるけど実際は違います。その神殿にはドラゴンの鱗が納められていて、その鱗に触れて初めて王族の仲間入りを果たすことになるのです。私も話にしか聞いたことがないですが…数代前の王子で1人…鱗に触れた途端、鱗が光り手に火傷をおった王子が居たそうです。鱗に認められない者は一族ではないと言い伝えがあって、その子は本当の王の子じゃなかった…。王妃と臣下の男との間に出来た子だった」
「まさに今その状態だな…」
リュー君が溜め息をついた。マジアリート様も溜め息をついた。
「今…カッシーラ伯が信頼のおける術医と共にプリエレアンナ様の診断して、更にトキワステラーテ王国の最高位術医の診断書を提出して、この懐妊が公になる前に手を打とうとしていますが、あの国王陛下が信じるかどうか…もし、信じないとしたら今後、6年間はその生まれた子供を世継ぎとして…扱わなければならないのかと思うと…」
私は暫く思案してから、手を打った。
「だったら、プリエレアンナ様の前で今の話をしてみたらいいのよ?怖くなって真実を話されるかも?」
するとリュー君が久々にオラオラした魔力を出しながら、少し怖い顔をして私を見た。
「そんなことを今ばらしてみろよ、カッシーラ伯かマジアリート様や王族筋の貴族が全員襲われるよ。もしかしたらマジアリート様の姉上も…女性の血族だって危ないよ?」
「こ、殺されちゃうの?」
私が聞くとリュー君はもっとオラついた魔力を出してきた。怖いなぁ…
「そんなことしたら血族いなくなるだろ?襲うといっても、そっちじゃないよ。孕んだり…子種を取られたり…そっちだな」
「ぎゃあ!」
私とマジアリート様の叫び声が重なった。命を取られるのもイヤだけど…それも絶対イヤだ。
「俺がプリエレアンナ様の立場だったら、自分の地位を守る為に子供の偽物を準備するかな~と思ったんだよ。もし王族筋に年の近い子供がいるならその子を誘拐して、プリエレアンナ様の子供とすり替える…という手も考えるかな」
怖い…何がってキラキラした綺麗な地蔵顔でそんな悪辣な作戦を思い描けるリュー君が怖い。
でも…だからこそ、お綺麗な王子殿下じゃないからこそ、今…リュー君は生き残っているのかも…兄弟2人に同時に襲われて並みの神経なら参ってしまう。それでもリュー君は壊れずに歪まずに生きている。
そして魔質も濁らずに穏やかだ、並みの神経じゃない。図太いなんて可愛い言い方じゃ収まらない。強かで強靭な精神の持ち主だ。
もしかしたらリュー君の兄弟も、自分より強靭で自分より強かで…自分より優れている王子殿下…眩しくて脅威で、怖くて憎くて…羨ましくて…同じ人間…王族として比べられるのが怖かったのかもしれない。
「ミランジェ~こっち、こっち!」
「へ?」
思わず間抜けな返事をしてしまったが、リュー君は商店街の中心部、南側に向かって歩いている。え?北に抜けて街道を歩いて行くんじゃないの?
「え?街道こっちだけど?」
と、聞くとリュー君は笑いながら南を指差した。
「歩きも馬車も時間かかっちゃうよ?冒険者ギルドに行けばすぐに行けるから」
すぐ?どういうことだろう?リュー君の後について行き、冒険者ギルドに入ると、ギルド事務所の奥の扉を開けて、更にカッシーラ伯達とお会いした応接室を通り過ぎ、廊下の突き当りの扉の前に私達は辿り着いた。
リュー君はご自分のギルド証を取り出して扉の鍵穴の付近にかざした。解術の気配がして扉のカードロックキーっぽいものが開いた。
「プラチナカー…あわわ、綺麗な色だね」
リュー君のギルド証は淡く輝く魔石?素材で出来ているようなカードだった。
「SSSの証だよ。ランクが上がれば素材が変わる。はい、ここが冒険者ギルドの転移陣の間」
リュー君が扉を開けて中を見せてくれた。その部屋は床に大きな魔法陣が描かれたソファと小さなテーブルしかない部屋だった。
「ここ…何?転移ってことはこれまさか巨大な転移魔法陣?」
私がそう聞くと、リュー君はニッコリと微笑んで部屋の中へ私を連れて入った。
「このギルドの転移陣はギルドに登録している冒険者なら誰でも使えるんだ。だけど魔法陣の起動に膨大な魔力が要るから…実質はAクラス以上の冒険者じゃないと使えないし、使わないね」
なるほど…使用はご勝手に~だけど、魔力は自力で何とかしてよ…か。
「じゃあえーと…」
リュー君は魔方陣の横に置いてあるテーブルの上に置いてある、平たいガラスのケースの中を見ている。私も一緒に覗き込んでみた。
魔石が入れてあるね。化石や小さい宝石を収納出来るショーケースみたいだね。
「カ…カ…あった」
リュー君はケースの中から魔石をひとつ取り出した。
「これはこの辺りの主要都市のギルドの場所を魔石に予め入れてあるんだ。転移魔法はどこでも好きな所に飛べる訳じゃないんだ。自分の知らない場所は飛ぶのはまず無理だ」
「どうして無理なの?」
「ミランジェはトキワステラーテの王宮の中庭の景色覚えてる?」
突然リュー君に聞かれて王宮の景色を思い浮かべる。
「まあ、なんとか覚えてる」
「景色が浮かんだ所は、転移魔法で飛べるんだ。だけど、カッシーラ伯領は?」
「行ったことないから分からない…?あ、そういうことね!イメー…あわっ…えーと、見たことのない場所は行けないのね」
「そういうこと、そこでこの魔石だ。これは行ったことない人の為に、投影魔法で情景を魔石に封じ込めているんだ。これに魔力を注いで投影魔法を発動しながら、転移を起動する、すると知らない場所に行けるって訳」
へえ~!凄いわね。
リュー君が手を差し出してきたのでその手を握ると、まるでエスコートされるようにして魔法陣の上に立った。
「じゃあ行くよ~」
「えぇ?」
と、私が叫んだ瞬間、視界が暗転し、
「ぎゃあ…あ…あ、あれ?」
もう明るくなった。今の何?リュー君の顔を見るとニッコリ笑いながらまた私の手を取った。
「さあ、着いたよ」
「う、嘘でしょう!?」
「本当だよ?」
地蔵の綺麗な顔を訝し気に見詰める。だって一瞬暗くなっただけよ?私の事馬鹿にしてない?
恐る恐る魔法陣から外に出て扉を開けて部屋から出た。確かに廊下の内装がちょっと違う気がするけど…そしてギルドの事務所内に出た。まだ分からない…受付のお姉さんは全員知らない人だけど、まだ半信半疑だ。
そしてギルドの外へ出た。そこには見たことのないお店が並んでいて、遠くには険しそうな山々が見えていた。〇ッターホルンみたいだ!
「商店街じゃない!?」
「だからもうカッシーラ伯領だって~まだ信じてなかったの?」
あんな1秒か2秒で瞬間移動とか出来るものなの?もっと体に負荷がかかったり、浮遊感とかが感じられるものだと思っていたわ…。自分の転移の時はもっとぐらついたような気がするんだけど?
私は物珍しさもあって通りに出てキョロキョロとしていた。だけどね…しばらく見ていて気が付いたのよ。表通りを歩いているのは厳つそうなお兄様達ばかりで、子供とか女性の姿って殆ど見ないのよ。
リュー君も異変に気が付いたみたい。顔色を変えて私を見た。
「ミランジェ、カッシーラ伯の所へすぐ行こう」
「う、うん」
リュー君は私を抱えてトンッと足を踏み込んで、一度弾みをつけたと思った瞬間、走り出した!いや、ほぼ飛んでいるではないか!
ひ、ひ…姫抱っこにしてくれぇぇ~~何故俵担ぎなんだよぉ!私の宇宙(内臓)が隕石(胃の内容物)をリュー君の背中にぶつけてしまいそうだよぉぉ…っぷ…
「ここかな?」
ここかな~じゃないよっ!こらっ地蔵!私の隕石ぶつけられなかっただけでも有難いと思えっ!
リュー君はギルドから走って(飛んで)来て堅牢な城壁に囲まれた、大きなお城の前で立ち止まった。お城の前は城下町という感じの通りがあるのだけれど、人影はまばらだ。
リュー君は私を肩から降ろすと、立たせたくれた…けど私は地蔵の脇腹に肘鉄を食らわせた。
「いっ…たいよっミランジェ!」
「こらっちょっと綺麗なだけの地蔵のくせにっ!仮にも自分の奥様を俵担…ゴホンゴホン、肩に担ぐ人がいますかぁ!そこは足の膝裏に手を差し入れて、姫抱っ…ゲホンゲホン、横抱きするのが一般的でしょうがっ!」
私とリュー君が盛大なコント?をしていたのが不審人物に見えたのだろうか、丁度巡回していた兵士の2人組に鋭く声をかけられた。
「何か揉め事ですか?」
私は20代くらいの兵士のお兄さん達の前に進み出るとキッとリュー君を睨んだ。
「丁度いいわ、この方々に聞いて判断して頂きましょうよ。この主人ったら急ぐからと私を肩に担ぎあげて運びましたのよ?普通は女性なら体の前に横抱きにして運んでくれません?仮にも私、妻ですのよ?私、間違ってます?!」
私が睨み上げる様に兵士のお兄さん達にそう聞くと、お兄さん達は顔を赤くしながら私とリュー君を交互に見て
「そりゃ旦那が悪いよ」
と、答えてくれた。それ見なさいよ!どうよ?これが世の中の姫抱っこの常識よっ!
リュー君は頬を膨らませたまま、その兵士の人に自分の冒険者のSSSプラチナカードを、彼らの目の前に突きつけた。
「スカウザーのリュージエンス=ヴェシュだ。カッシーラ伯の依頼で魔獣討伐に来た。案内してくれ」
SSSのギルド証を突き付けられた兵士のお兄さん達は、しばしポカンとした後、大慌てで私達を城の中に案内してくれた。
その間もリュー君はムスッとしている。
「いつまでむくれているのよ?さっきの兵士の方の話を聞いていたの?今度から横抱きよ?分かった?」
「分かったけど…何も人前で俺を罵らなくてもいいだろ~」
リュー君は基本は王子様だしね…雑草根性の私とは元々のポテンシャルが違うか…けっ、これだから軟弱な王子様は…。
「はいはい、どうすればご機嫌が戻られますかね~」
と私が聞くと、リュー君が何故か耳を赤くしている。そしてチラチラとこちらを見ながら小声で
「エ…エロいことしてくれたら許す…」
と言ってきた。このっエロ地蔵め!
しかしだ…よく考えれば自然なことだ。一応、婚姻もしているし、私だってこれが政略結婚のようなものだとは理解している。
クラシスとは断固として拒否していたアレやソレをリュー君とするのか…
リュー君はまだ耳を赤くしている。自分で言ってて照れてるって何事だ。
こっちもつられて恥ずかしくなる。
2人して顔を赤くしていると、来客の取り次ぎの兵士と一緒に
「で、殿下!?ミランジェ妃も…来賓室にご案内してっ!お二方共に王族だよ!」
マジアリート様が叫びながら走って来られた。あれ?マジアリート様、此方にいらしてたの?
私達を最初に案内してくれた兵士のお二人は、私達の正体に仰天されたようだ。とんでもない顔汗をかきながら、こ、こ、此方で御座います~!と、慌てていた。
「まさかミランジェ妃もこちらにいらっしゃるとは…」
「もう妃じゃありませんよ~。陛下と正式に離縁しましたし」
マジアリート様は目を見開いた。
「あれ?ですが、リュージエンス殿下とご婚姻されるのですよね?第二王子妃には違いないですよ?」
そうだった…。私、旦那が違えどまだ妃殿下だった。
「カッシーラ伯はまだ王都におられるのです。あの…」
兵士の2人が退席して、私とリュー君、そしてマジアリート様の3人になった時マジアリート様が声を潜めて私に聞かれた。
「あの…父とカッシーラ伯にさらっとしかお聞きしないで…ここに来ちゃったんだけど、本当にプリエレアンナ妃のお腹の御子…近衛のバンカッシーの子供なの?」
近衛のバンカッシーとはあの大柄な金髪の近衛の名前か…
「はい、私のトキワステラーテ王国の王女殿下…私の姉も見て確認しました。間違いありません」
マジアリート様は大きな溜め息をつかれた。
「馬鹿だな…王族筋の懐妊に関しては種違いは誤魔化しが利かないのに…」
「誤魔化せないってどういうこと?ん~と例えばだけど生まれた子供が髪の色とか目の色が父親…戸籍上の父親に似ていたら、実子じゃないって気付かれないこともあるんじゃないの?」
リュー君がそう聞くとマジアリート様は、ちょっと思案されていたが、秘匿案件ですが…と前置きしてから話し出された。
「我がベイフィートの王族の血脈には不思議な力が宿るのです。大昔…竜、ドラゴンの血が混じったと言われていて…」
「ええっ!?」
「まあっ!」
ドラゴンってあのドラゴン?!羽が生えてて、グワーッと炎を吹いて、七つ玉を集めたら…あ、あれは違うか。
「ベイフィートの王族の祈りの儀という6才なったら行う儀式があるのですが、表向きは王宮の奥にある神殿で祈りを捧げて終わり…と言われてるけど実際は違います。その神殿にはドラゴンの鱗が納められていて、その鱗に触れて初めて王族の仲間入りを果たすことになるのです。私も話にしか聞いたことがないですが…数代前の王子で1人…鱗に触れた途端、鱗が光り手に火傷をおった王子が居たそうです。鱗に認められない者は一族ではないと言い伝えがあって、その子は本当の王の子じゃなかった…。王妃と臣下の男との間に出来た子だった」
「まさに今その状態だな…」
リュー君が溜め息をついた。マジアリート様も溜め息をついた。
「今…カッシーラ伯が信頼のおける術医と共にプリエレアンナ様の診断して、更にトキワステラーテ王国の最高位術医の診断書を提出して、この懐妊が公になる前に手を打とうとしていますが、あの国王陛下が信じるかどうか…もし、信じないとしたら今後、6年間はその生まれた子供を世継ぎとして…扱わなければならないのかと思うと…」
私は暫く思案してから、手を打った。
「だったら、プリエレアンナ様の前で今の話をしてみたらいいのよ?怖くなって真実を話されるかも?」
するとリュー君が久々にオラオラした魔力を出しながら、少し怖い顔をして私を見た。
「そんなことを今ばらしてみろよ、カッシーラ伯かマジアリート様や王族筋の貴族が全員襲われるよ。もしかしたらマジアリート様の姉上も…女性の血族だって危ないよ?」
「こ、殺されちゃうの?」
私が聞くとリュー君はもっとオラついた魔力を出してきた。怖いなぁ…
「そんなことしたら血族いなくなるだろ?襲うといっても、そっちじゃないよ。孕んだり…子種を取られたり…そっちだな」
「ぎゃあ!」
私とマジアリート様の叫び声が重なった。命を取られるのもイヤだけど…それも絶対イヤだ。
「俺がプリエレアンナ様の立場だったら、自分の地位を守る為に子供の偽物を準備するかな~と思ったんだよ。もし王族筋に年の近い子供がいるならその子を誘拐して、プリエレアンナ様の子供とすり替える…という手も考えるかな」
怖い…何がってキラキラした綺麗な地蔵顔でそんな悪辣な作戦を思い描けるリュー君が怖い。
でも…だからこそ、お綺麗な王子殿下じゃないからこそ、今…リュー君は生き残っているのかも…兄弟2人に同時に襲われて並みの神経なら参ってしまう。それでもリュー君は壊れずに歪まずに生きている。
そして魔質も濁らずに穏やかだ、並みの神経じゃない。図太いなんて可愛い言い方じゃ収まらない。強かで強靭な精神の持ち主だ。
もしかしたらリュー君の兄弟も、自分より強靭で自分より強かで…自分より優れている王子殿下…眩しくて脅威で、怖くて憎くて…羨ましくて…同じ人間…王族として比べられるのが怖かったのかもしれない。
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