青天の霹靂ってこれじゃない?

浦 かすみ

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師匠と弟子

師匠の鍛練

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私はメイド長にお願いして、女性用のトラウザーズを用意してもらい、それに着替えてカッシーラ伯のお屋敷…というかお城ぐらいの大きな屋敷の城壁の柱に凭れて立っている、地蔵の前に向かった。

凭れて立っているだけなのに無駄に色気を醸し出している地蔵…リュー君は微笑みを私に向けながら

「来たね、じゃ始めよっか」

と、仰った。私はポニーテールにした髪を更に締め直すと、リュー君に視線を向けた。

「じゃあ外周をまずは軽く一周してみようか。その前に…柔軟だね」

あ、そうだね、ストレッチだね!足がつったりしたらいけないものね。

私は某朝の体操の音楽を頭の中で歌いながら、ストレッチをした。

「ミランジェ、意外に体の解し方、上手いね」

「ホホホ!」

上体を反らーす!大きく息を吸って~!はいっ!

「そろそろいいかな?じゃ行こっか。はいっ!」

と、言うリュー君の合図に私は勢いよく駆け出した。

……あれ?

リュー君が私の横に並走してくれているのだけど…リュー君のそれってさ、早足でついてきてない?駆け足でもないよ?競歩みたいだ。

ん?あれ?私、なんか駆け出したはいいが、速度めっちゃ遅くない?しかも、まだ10㍍か20㍍ほどしか進んでないよ?

カッシーラ伯城壁はまだ最初の曲がり角すら見えないけど…アレー?足が段々と重く…

「ミ、ミ…ミランジェ?歩いた方がよくないか?」

私的には太腿を軽快に蹴り上げているつもりなのに、バタバタ…正にこんな効果音が似合うような足の動きだ。

「ミランジェ…ほら」

リュー君に肩を抱かれて、速度を落として歩きだした。

心臓がバクバク音をたてている。本当に50㍍も走ってないのに足がもつれる。

「ミランジェ?ほら、手を貸して。まずはゆっくり散歩から行こうか?」

リュー君の差し出してくれた手を掴んだ。もはや地蔵に文句を言う元気もない。

なんたる屈辱っ!元王女殿下で元国王妃の私の体力はミジンコ並だった…

「ッヒ…リュー…く…」

「無理して喋ることないよ。大きく深呼吸して」

ハアハア…と息が乱れる。なんかこの構図、徘徊しているおばーちゃんに付き添うイケメン介護スタッフみたいじゃないかっ!ヨロヨロだ…本当におばーちゃんぐらいの移動速度で外周をゆっくり周る。

「いきなり駆け出すからびっくりしたよ?まさか基礎体力もないのに颯爽と走れると思ってたの?」

思ってました。

リュー君は自愛の籠った目で私を見ながら

「まずはゆっくり歩いて行こうね」

行こうね…の後に、おばーちゃんって付け加えられた気がしたよっ!

「基礎体力は無いと色々と困るからね、これからは毎日時間を作って歩く事。慣れてきたら少し走る…いいな?」

「は…はい、師匠…」

情けない…取り敢えず、お城の周りをリュー君の介助で一周まわった。

一周、たった一周まわっただけで足がガクガクしている。

「ミランジェ今日はもうやめてお…」

「なっ何言ってんのよ!まだまだやるわよっ!」

……と、心配そうなリュー君に息巻いてみせて、私はヨタつきながらも何とか2周まわった所で足がつってしまい、ダウンした…

それから1時間後

私は生ける屍と化していた…リュー君に姫抱っこされて部屋に連れて帰ってもらい

「ちょっと休んでな」

と、言われ…ベッドに寝転がったはいいがうっかり、そう…ついうっかりうつ伏せになってしまい、そこから体が固まって身動き一つ取れない状態になってしまった。

先ほどから治療魔法と回復魔法をかけようとしているのだが、術の途中で術式が消えてしまう。

これアレだな、前にリュー君が言っていた体力がないと魔力も発動しない…アレだな。

ヤバい、私このまま本当に屍になりそうだ。

眠りそうになったのか、はたまた気絶しかけていたのか、意識が朦朧としている所へ仏の御遣い、お地蔵様が部屋に戻ってきた。

「ミランジェ、起きてる?アレ寝てる?」

イヤ、死にかけてます…早く助けてくれ。

「…クッ…シッ…」

断末魔のような声を出すと、流石にリュー君はすっ飛んで来てくれて、私の体を抱き起してくれると、水魔法で指先から水を私の口の中に流し込んでくれた。

わおっ魔法って便利~…って死にかけたわ、マジで死にかけたわ。部屋の中で遭難しかけたわ。

「落ち着いて飲めよ…大丈夫か?」

私は何度も頷いた。

「も…大丈夫、ありがと…」

そうしてゆっくりとリュー君の膝の上で体を動かそうとしたけど、うえっ?!何、体の関節硬ったい?なんで~?

「ミランジェ、体が死後硬ちょ…じゃない、急に体を動かしたから筋肉が固まって魔力の廻りがおかしくなってるんじゃないかな?体の指圧してあげようか?」

地蔵ーー!気が利くよっ流石地蔵、指圧マッサージ頼んだよ!

そしてリュー君が再びうつ伏せになった私の体をほぐし始めた…



「ああん…やっ…」

「……」

「ひぅぅん…くぅ…あっ…」

「……」

「リューく…っ…ああん、ソコ…ソコォ…」

「ミランジェ、あのね…」

「ひゃん…あん、なにぃ?」

「どうして、そんな卑猥な声を出すのかな?」

リュー君の親指が私の脹脛をグクッと押す。

「だって声…止まらないぃぃ…あん!」

リュー君は舌打ちをしている。

だって本当にリュー君の指圧堪らんのよ。人体のツボを熟知している整体師の方のような絶妙な指圧なのよ。

「リュー君、気持ちいい…」

リュー君はまた舌打ちした。本当の事を言っただけじゃないか…。疲れた体に効く、効く!

「リューく…背中ぁ、背中もしてぇ~!」

「…ふぅ…」

リュー君は大きく溜め息をついた後、背中をググッと指で押し込んできた。

体が指圧の刺激で震える。

「く、来る~!すごいわ…リュー君!」

するとリュー君が私の頭を結構な勢いで叩いた。スパーンと良い音がした。

「いっだぁ!?なによう?」

「声を慎め!」

「気持ちいいんだから仕方ないじゃない!リュー君、指圧上手いね」

リュー君はベッドの上で仰向けに寝転がった私の上に体を跨いで馬乗りになった。

アレ…何この体勢?

リュー君は私を睨み付けながらゆっくりと手を動かしてきた。

「ミランジェが悪いよな?」

「何が?」

じ、地蔵から神々しいまでの色気が垂れ流されてきた!

「煽ってきたのは、ミランジェだし?」

「煽ってなんか…」

リュー君の綺麗な顔が近づいて来るっ?!思わずきつく目を瞑った。これってキスされるんじゃない?!来るーー?

キ…キ…アレ……?

いつまで待ってもリュー君の唇が触れる気配は無く、ソオッと目を開けると地蔵は部屋の扉の前に移動していた。

「軽く食べれるもの貰ってくるよ」

そして、さっさといなくなった……

「…っておおおぃ!今、期待した!緊張した!とうとう来たっと思っ…ゴエッホ…ゲホゲホ…」

興奮しすぎて咳き込んでしまった。私も水魔法を口の中に発動して、喉を潤した。

今のなんだったの?もしかして、からかわれただけかな?その可能性が高いよね。

なんと言っても親の薦めで結婚しただけだし、いままで一つ屋根の下で生活してても、地蔵からエロいことされたことは一度もない。

そっか、リュー君は悟りを開いてるんだね…

「いや、ちょっと待てよ…」

今の今まで忘れていたけど、リュー君は綺麗な王子様じゃないか…当然おモテになる。

つまりは私は本妻の座に納まったけど、実は本命の彼女が居て、私は実質は只の同居人扱いじゃ…。それに前に言ってたじゃないか。

「リュー君は私の護衛…」

私はポスン…とベッドに横になった。

ああ、なんだかあれやこれやを期待と言うか、気負った分だけドッと疲れた。

疲れているからか、段々眠…く。

………

この時私は忘れていた。

このカッシーラ伯領に来た日にリュー君に言われていたことを。

「エロいことしてくれたら、許す」

そう言われていたことを…

…………

…… 

「…ェ?」

「…ジェ。寝てる?」

「ミランジェ…」

私は一気に覚醒した。

「あ…起きちゃったか」

私は起き上がって枕元に立つリュー君を見上げた。リュー君はニコニコしながらベッドの端に腰掛けると、サイドテーブルに置いていたガラスの小鉢を手に取ると、その小鉢に入っているマスカットみたいな果物をフォークで刺すと私に向けてきた。

「はい、あ~ん」

………はい?

私が固まっているとリュー君はフォークで刺した果物を、更に私の口元に近づけた。

「あ~ん?」

私は差し出しているフォークをリュー君の手から奪おうとして、リュー君の手を掴もうとし…掴み損ねて、更に反対の手で奪おうとしたが、リュー君にかわされた…。

「ミランジェ?あ~ん。」

……負けた。どう仕掛けてもかわされる。私は諦めて恐る恐る口を開けた。

「…んぅ…ん。」

「ミランジェ、何それエロッ!」

こらー!お前が『あ~んプレイ』を強要したんじゃないかっ!自分でさせといて、エロいとは何事かっ!

私は小鉢の果物が無くなるまで『あ~んプレイ』を強要された。

自分の中の乙女の何かがゴリゴリと削られた気分になった。

翌日の夕方

介護スタッフ、リュー君に見守られながら、昨日よりは足取りも軽く散歩をしていると、カッシーラ伯の魔力が感じられた。

「あ、カッシーラ伯帰られたみたいよ?」

「え?ああ、ホントだ」

リュー君は城下町の通りの向こう側を見ている。そして馬車が見えてきた。

「これはお2人共、どうされましたか?」

私達に気が付いたカッシーラ伯は、門前で馬車を降りられると近づいて来た。私は淑女の礼をしてご挨拶をした。

「体力をつけようかと思いまして、歩いておりますの!」

カッシーラ伯はキョトンとした後、微笑まれた。

「ミランジェ妃はご健勝ですね。どこかの浮かれた国王とは違って…」

カッシーラ伯は魔力をどんよりさせると大きく溜め息をつかれた。

これは…クラシス元旦那に物申したけれど、成果が得られなかったのね?

私はカッシーラー伯と御屋敷に入り、応接間でお話を聞くことにした。

カッシーラー伯はメイドの入れてくれたお茶を一口飲むとまた溜め息をつかれた。何だかこの数日でお疲れ出てますね…

「少し下世話な話になりますが…トキワステラーテ王国からミランジェ妃が嫁いでこられた時に、持参金として膨大な金額をお持ちになられて…その持参金が我が国の一年分の国家予算が賄えるほどの金額だったことはご存じでしょうか?」

「ええっ!?」

し、知らなかった…カッシーラー伯は困ったような顔をして私を見ている。

「おまけに毎年、援助金と言う名目でトキワステラーテ王国から多額の援助も受けておりました…。正直、予算の一部を最初からトキワステラーテ王国から援助を想定して組んでいるものもあり…今一度再算出したところ、今年の予算が足りないのです。で…国庫から出そうとしましたら…ほぼカラでした」

「カラ…て残高ゼロ…。え?今年まだ後三か月はありますよ?」

カッシーラー伯はまた溜め息をつかれた。

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