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夫と妻
有耶無耶のどさくさ
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「私の妃?」
クラシスがポカンとしてリュー君を見ている。クラシスは私が再婚したことを知らないの?
視界の端の方でカッシーラ伯とボレンティ公爵…それに宰相が何かを話し合っているのが目に入った。クラシスは知らされていない…。そうか、クラシスには何も教えないつもりだったのか…
これは派閥が出来ているのかな?…ああやだやだ。クラシス派とカッシーラ派という所か。
今、変な茶番劇に参加しているのはクラシス派閥の役人達か…プリエレアンナ様のご実家の伯爵家の勢力も一緒かな?
なんだか盛大なコントが突然政権争いのドロドロ群像劇に変わってきた気がする。
リュー君は一歩、クラシス達の方へ歩み出た。
「そうですよ、ミランジェは私の妻です。子供の頃からの幼馴染でお互いに親の争いに巻き込まれて引き裂かれて…」
……あれ?その設定?
「どんな長い時間離れていてもお互いを想い続けて…引き裂かれても尚待ち続けたのです。その焦がれるような想いが今、やっとここに結ばれた私の永久の恋人なのです!」
ジャジャーーーンとBGMが流れるんじゃないかと思うくらいの長台詞の後、地蔵は手を大きく天に掲げた。
おい、ちょっと待てよ?
その台詞、それさ『恋慕の果て~恋から愛に変わる時~』全年齢版のほうの作中のカルテル(主人公)の台詞じゃない?仕立て屋カオラ・ジオールのユリナに全年齢版の方の小説借りて読んだもん、間違いない。
リュー君は天に向かって掲げていた手をクラシスに向けた。
「あなたには感謝しています。私のミランジェを絡め縛り付ける劣情の牢獄から解き放ってくれたことに。私のミランジェは傷つきながらも羽ばたいて私の所にまた戻って来てくれた!」
「…ぶっ!」
「…ごはっ!」
この台詞はぁ!?
私が吹き出したのとほぼ同時に、ガンバレス大尉とカッシーラ伯の横に立っていた若い役人の男性が吹き出した。お互いに目線で確認してしまった。
ガンバレス大尉、そしてお兄様…あなた方18禁版の『劣情の果て~幼馴染のすべてを奪う~』も読んでいる幼馴染シリーズのファンだね?
正直に言おう。ちょっと言い回しが若干臭いが、地蔵のほうが遥かに演技が上手かった。台詞も一語一句間違えていなかったと思う。
知らない人が見たらこれは実話で本当に引き裂かれていた幼馴染の2人だと勘違いしたはずだ。
そしてあまりのリュー君の熱演にお腹が痛いはずのプリエレアンナ様が、痛い事を忘れたのか目を見開いて地蔵をガン見している。
プリエレアンナー!お腹が痛い設定忘れてますよー!
リュー君は茫然としているプリエレアンナ様に近づくと、腰を落とした。途端にプリエレアンナ様の魔質が桃色に輝く。
何度も言うが、お腹が痛い設定忘れてますよー!
リュー君は急に魔力を上げてプリエレアンナ様に魔圧をドンッとぶつけていた。
「私はあなたと違ってミランジェ一筋なんだ。旦那がいるのに他の男に体を許すなんてとんでもないアバズレだね」
どっかーーん!
リュー君はプリエレアンナ様に地蔵爆弾を投下してから、ゆっくりとこちらに戻って来た。皆、リュー君の演技に引き込まれていたから、最後の台詞はこの部屋にいる全員に聞こえていると思う。
リュー君は何食わぬ顔で私の横に戻って来ると私の腰に手を置き、体を摺り寄せて耳元に唇を寄せてきた。
「私の愛しい人」
ぬおおおおおっ!?
囁かれてびっくりしたのと、エロボイスに興奮で頭に血が昇るっ?!倒れそうだ!と思った時に、ドカンという音と共にプリエレアンナ様の方が先に倒れた。
悲鳴が上がり、クラシス派閥のおじ様達に担がれて失神しているのかよく分からないプリエレアンナ様は、クラシス国王陛下と一緒に部屋を出て行った。
何だったのだ…ひどいコントだった。倒れるまでがお約束なのか?
それよりも地蔵の迫真の演技の方がびっくりしたけれど。
「ちょっと地蔵!びっくりしたわっ演技上手いじゃない!」
私がそう言いながらリュー君の脇腹を小突くとリュー君は、え~?と言いながら
「台詞はカルテルの台詞をそのまま話してみたけど、俺の気持ちは本当だよ?」
と、またまた女子が喜びそうな決め台詞を言ってきた。
も~~このぉ~~!
「分かった分かったっ!もうっ地蔵は顔もいいから得よね~ちょっと臭い台詞でも妙に浮かないで聞いていられるんだからぁ!」
私がそう言いながら扇子でバシバシとリュー君を叩いていると今まで静かに成り行きを見ていた(見守っていた?)ナフィお姉様が
「台詞?台詞なのアレ!?」
と絶叫された。あ、お姉様もしかして感動しちゃってた?あれね小説の一文なのよ?
私とリュー君の代わりにガンバレス大尉と役人のお兄様が笑いながら小説の話をして補足してくれた。
そしてすぐにこの部屋に残った治療術師で話し合いが行われた。しかし話題はリュー君の演劇について、である。
「すごいじゃないですか、本当にリュージエンス殿下自身の事をお話しているのかと思いました」
「いや~最後の決め台詞も的を得ていて怖いくらいでしたね。おや?最後のアレ、リュージエンス殿下の創作ですか?それしてもあのお腹の御子をご覧になりました?」
「ええ、リュージエンス殿下に比べてお腹が痛い演技も下手でしたね~。しかしあの御子誰の子でしょうね?」
「ここにいない護衛なのですよ!今日は休んでいるようですわ~」
「まあ…もしかしてわざと休みを?いやらしい作戦ね」
治療術師のおば様とガンバレス大尉が喋っている所にナフィ姉様が参加して女三人で毒づいている。
私は残りの男性2人、カッシーラ伯の推薦の治療術師とマジアリート様と話しをすることにした。
「リュー君が毒づいてしまったので流石のクラシス国王陛下も、プリエレアンナ様の不貞をお疑いになられるかと思うのですが…」
マジアリート様はすごくニヤニヤしている。
「プリエレアンナ様の余興のせいで時間をかけて診察は出来ませんでしたが、皆様すでにお腹の御子を診て下さっていたようですので、正式な診断書を発行して陛下に突きつけたいと思います」
余興…
「まあ芝居をされている間に第一妃を診る時間は取れましたのでね。もしかしてリュージエンス殿下の機転ですかな?あのまま退出されていたら、御子の診断が出来ないままでしたしね」
治療術師のおじ様の言葉に思い至った。
まさか…とも思うけど、リュー君のことだからそうかもしれない。何せポヤポヤしていると見せかけておいて結構計算高いと思うのよね。
さて
有耶無耶のどさくさ紛れで、折角の気合の入ったメイクをしたのに肩透かしだった。もっと、ざまあ!を叫びたかったわ。そうだ、リュー君と演劇しながら高笑いしておけばよかった…歌と演技は自信無いけど…
演技派俳優、リュー君が窓際のソファに腰かけながら
「ミランジェ帰る~?」
と聞いてきた。そうか、今日はもうベイフィート城には用事が無いか…診断書とやらは他の治療術師の皆様が書くだろうし、もし診断書や証明書のようなものを書いてくれと言われたら、後で一筆書けばいいしね。
「そうだね、今日は商店街の家に帰ろうかな…保存箱の中に作りかけのおかずを置いたままにしているの。あれ食べたいし~」
「おや~?またあの傾きかけた家に帰るの?」
私は義兄のダーシュ=タウメントス大佐を睨んだ。
「傾きかけたってなんですかっ!真っ直ぐに立っておりますよ!」
「傾きかけって何?」
とキューインス閣下が聞いてきた。そしてご丁寧にもダーシュお義兄様がキューインス閣下に説明してしまい
「面白い!見に行くぞ!」
とか言い出して双子と肩を組んで騒ぎ出した。あのさ、17才の双子と並んでも同じ年頃の男の子に見えるんだけど…キューインス閣下の実年齢を怖くて誰にも尋ねられない。
そしていつか見た光景のように、今度はサザウンテロス帝国の軍の方々を連れて我が家の前まで転移した。
「嘘ぉ…家?」
「はい、ガンバレス大尉。民家ですよ」
「傾いてないけど、倒れそうだね?」
「キューインス閣下、無事にしっかり立っております」
なんだか既視感を覚えるやり取りの後、サザウンテクロス軍部の皆様を家内へ案内した。双子と義兄様は追い返しておいた。
こんなごちゃごちゃした時に更に疲弊する原因を作りたくない。
「まだ店舗部分も片付いておりませんの~申し訳ありません」
「何だか内装は魔術で強固にしているみたいだね。だったら外装も直せば?」
とガンバレス大尉に聞かれたけど、理由は簡単だった。
「一瞬で新築みたいな家に復元したら不審ですもの」
「なるほど!」
リュー君とキューインス閣下の声が重なった。
私はキッチンに入ると、ヤカンにお湯を沸かし紅茶を入れた。
「テーブルが小さくてすみません」
手早くティーカップを並べてお茶を入れて出すと、キューインス閣下もガンバレス大尉もキョトンとした顔をしていた。
「姫様がお給仕を?」
「はい。リュー君もお茶でいい?」
「いいよ~」
テーブルにミルクポットとレモンに似た果実汁と砂糖の小瓶を置いてキッチンにすぐ戻った。
さて
冷保管庫を開けて揚げる前のトンカツを取り出す。そしてトマトペーストとコーンスープ…作りかけの木の実クッキー。
よしっ一気にやるわよ!
トンカツをフライパンで表面を焼いた後、オーブンの中に入れてじっくり焼いておく。
そしてコーンスープに香辛料を入れて完成させ、トマトペーストと炒めたお肉と野菜を入れて味を調えてトマトシチューを作ろう。
そして野菜を切っていると、背後に気配を感じて振り向くとガンバレス大尉とキューインス閣下がキッチンの戸口からこちらを覗き込んでいた。
「料理してるよ…」
「揚げ物の良い匂い…」
お2人はササッとキッチンに入って来ると私の手元やオーブンの中を覗き込んでいる。
「本当に作っていらっしゃるのですね!」
ガンバレス大尉は微笑まれている。
「ガンバレス大尉は甘いものはお好きですか?」
ガンバレス大尉がガッと目を見開いた。あ、お好きなんですね。
「え~とお待ちくださいよ~」
冷保管庫の奥からバレットを取り出した。自分だけこっそり食べようとミルクゼリーを作っていたのだ。私は器に盛りつけると、上から桃に似たジャムを飾り付けて、はい!とガンバレス大尉に渡した。
ガンバレス大尉はそれはそれは嬉しそうに微笑まれている。
「ミランジェ姫!私はこの揚げ物が食べたい!」
キューインス閣下はオーブンの中のトンカツを指差している。了解ですよぉ~!
「きゃああ!このクオテ美味しい!」
おお、クオテね…確かにミルク菓子(こちらの言語の直訳)だ。
私はオーブンからトンカツを取り出すと食べやすい大きさにカットして葉野菜のサラダとロールパンと一緒にキューインス閣下にお出しした。
軍人2人はキャッキャッしながら菓子とトンカツを食べている。
「ミランジェ姫は魔術も独創的だし料理も上手いな!」
「いえ魔術もですが、このお料理も全て本のままに作っておりますよ」
私は以前、書物店で『植物解説録』と一緒に『新婚の奥様にお薦め☆これで旦那の愛情も独り占め!』というふざけたタイトルの料理本もリュー君に買ってもらっていたのだ。
奇をてらわずに本の通りに基本の基本から作っている最中だ。自己流を出すのはもっとベテラン主婦になってからだ!
そうそう
リュー君も欲しそうにしていたのでミルクゼリーを入れてあげたのだが…
「うちの嫁は最高だな~」
とか、ぽ~っとしながら呟いているリュー君…
大丈夫?ミルクで酔ってるの?
クラシスがポカンとしてリュー君を見ている。クラシスは私が再婚したことを知らないの?
視界の端の方でカッシーラ伯とボレンティ公爵…それに宰相が何かを話し合っているのが目に入った。クラシスは知らされていない…。そうか、クラシスには何も教えないつもりだったのか…
これは派閥が出来ているのかな?…ああやだやだ。クラシス派とカッシーラ派という所か。
今、変な茶番劇に参加しているのはクラシス派閥の役人達か…プリエレアンナ様のご実家の伯爵家の勢力も一緒かな?
なんだか盛大なコントが突然政権争いのドロドロ群像劇に変わってきた気がする。
リュー君は一歩、クラシス達の方へ歩み出た。
「そうですよ、ミランジェは私の妻です。子供の頃からの幼馴染でお互いに親の争いに巻き込まれて引き裂かれて…」
……あれ?その設定?
「どんな長い時間離れていてもお互いを想い続けて…引き裂かれても尚待ち続けたのです。その焦がれるような想いが今、やっとここに結ばれた私の永久の恋人なのです!」
ジャジャーーーンとBGMが流れるんじゃないかと思うくらいの長台詞の後、地蔵は手を大きく天に掲げた。
おい、ちょっと待てよ?
その台詞、それさ『恋慕の果て~恋から愛に変わる時~』全年齢版のほうの作中のカルテル(主人公)の台詞じゃない?仕立て屋カオラ・ジオールのユリナに全年齢版の方の小説借りて読んだもん、間違いない。
リュー君は天に向かって掲げていた手をクラシスに向けた。
「あなたには感謝しています。私のミランジェを絡め縛り付ける劣情の牢獄から解き放ってくれたことに。私のミランジェは傷つきながらも羽ばたいて私の所にまた戻って来てくれた!」
「…ぶっ!」
「…ごはっ!」
この台詞はぁ!?
私が吹き出したのとほぼ同時に、ガンバレス大尉とカッシーラ伯の横に立っていた若い役人の男性が吹き出した。お互いに目線で確認してしまった。
ガンバレス大尉、そしてお兄様…あなた方18禁版の『劣情の果て~幼馴染のすべてを奪う~』も読んでいる幼馴染シリーズのファンだね?
正直に言おう。ちょっと言い回しが若干臭いが、地蔵のほうが遥かに演技が上手かった。台詞も一語一句間違えていなかったと思う。
知らない人が見たらこれは実話で本当に引き裂かれていた幼馴染の2人だと勘違いしたはずだ。
そしてあまりのリュー君の熱演にお腹が痛いはずのプリエレアンナ様が、痛い事を忘れたのか目を見開いて地蔵をガン見している。
プリエレアンナー!お腹が痛い設定忘れてますよー!
リュー君は茫然としているプリエレアンナ様に近づくと、腰を落とした。途端にプリエレアンナ様の魔質が桃色に輝く。
何度も言うが、お腹が痛い設定忘れてますよー!
リュー君は急に魔力を上げてプリエレアンナ様に魔圧をドンッとぶつけていた。
「私はあなたと違ってミランジェ一筋なんだ。旦那がいるのに他の男に体を許すなんてとんでもないアバズレだね」
どっかーーん!
リュー君はプリエレアンナ様に地蔵爆弾を投下してから、ゆっくりとこちらに戻って来た。皆、リュー君の演技に引き込まれていたから、最後の台詞はこの部屋にいる全員に聞こえていると思う。
リュー君は何食わぬ顔で私の横に戻って来ると私の腰に手を置き、体を摺り寄せて耳元に唇を寄せてきた。
「私の愛しい人」
ぬおおおおおっ!?
囁かれてびっくりしたのと、エロボイスに興奮で頭に血が昇るっ?!倒れそうだ!と思った時に、ドカンという音と共にプリエレアンナ様の方が先に倒れた。
悲鳴が上がり、クラシス派閥のおじ様達に担がれて失神しているのかよく分からないプリエレアンナ様は、クラシス国王陛下と一緒に部屋を出て行った。
何だったのだ…ひどいコントだった。倒れるまでがお約束なのか?
それよりも地蔵の迫真の演技の方がびっくりしたけれど。
「ちょっと地蔵!びっくりしたわっ演技上手いじゃない!」
私がそう言いながらリュー君の脇腹を小突くとリュー君は、え~?と言いながら
「台詞はカルテルの台詞をそのまま話してみたけど、俺の気持ちは本当だよ?」
と、またまた女子が喜びそうな決め台詞を言ってきた。
も~~このぉ~~!
「分かった分かったっ!もうっ地蔵は顔もいいから得よね~ちょっと臭い台詞でも妙に浮かないで聞いていられるんだからぁ!」
私がそう言いながら扇子でバシバシとリュー君を叩いていると今まで静かに成り行きを見ていた(見守っていた?)ナフィお姉様が
「台詞?台詞なのアレ!?」
と絶叫された。あ、お姉様もしかして感動しちゃってた?あれね小説の一文なのよ?
私とリュー君の代わりにガンバレス大尉と役人のお兄様が笑いながら小説の話をして補足してくれた。
そしてすぐにこの部屋に残った治療術師で話し合いが行われた。しかし話題はリュー君の演劇について、である。
「すごいじゃないですか、本当にリュージエンス殿下自身の事をお話しているのかと思いました」
「いや~最後の決め台詞も的を得ていて怖いくらいでしたね。おや?最後のアレ、リュージエンス殿下の創作ですか?それしてもあのお腹の御子をご覧になりました?」
「ええ、リュージエンス殿下に比べてお腹が痛い演技も下手でしたね~。しかしあの御子誰の子でしょうね?」
「ここにいない護衛なのですよ!今日は休んでいるようですわ~」
「まあ…もしかしてわざと休みを?いやらしい作戦ね」
治療術師のおば様とガンバレス大尉が喋っている所にナフィ姉様が参加して女三人で毒づいている。
私は残りの男性2人、カッシーラ伯の推薦の治療術師とマジアリート様と話しをすることにした。
「リュー君が毒づいてしまったので流石のクラシス国王陛下も、プリエレアンナ様の不貞をお疑いになられるかと思うのですが…」
マジアリート様はすごくニヤニヤしている。
「プリエレアンナ様の余興のせいで時間をかけて診察は出来ませんでしたが、皆様すでにお腹の御子を診て下さっていたようですので、正式な診断書を発行して陛下に突きつけたいと思います」
余興…
「まあ芝居をされている間に第一妃を診る時間は取れましたのでね。もしかしてリュージエンス殿下の機転ですかな?あのまま退出されていたら、御子の診断が出来ないままでしたしね」
治療術師のおじ様の言葉に思い至った。
まさか…とも思うけど、リュー君のことだからそうかもしれない。何せポヤポヤしていると見せかけておいて結構計算高いと思うのよね。
さて
有耶無耶のどさくさ紛れで、折角の気合の入ったメイクをしたのに肩透かしだった。もっと、ざまあ!を叫びたかったわ。そうだ、リュー君と演劇しながら高笑いしておけばよかった…歌と演技は自信無いけど…
演技派俳優、リュー君が窓際のソファに腰かけながら
「ミランジェ帰る~?」
と聞いてきた。そうか、今日はもうベイフィート城には用事が無いか…診断書とやらは他の治療術師の皆様が書くだろうし、もし診断書や証明書のようなものを書いてくれと言われたら、後で一筆書けばいいしね。
「そうだね、今日は商店街の家に帰ろうかな…保存箱の中に作りかけのおかずを置いたままにしているの。あれ食べたいし~」
「おや~?またあの傾きかけた家に帰るの?」
私は義兄のダーシュ=タウメントス大佐を睨んだ。
「傾きかけたってなんですかっ!真っ直ぐに立っておりますよ!」
「傾きかけって何?」
とキューインス閣下が聞いてきた。そしてご丁寧にもダーシュお義兄様がキューインス閣下に説明してしまい
「面白い!見に行くぞ!」
とか言い出して双子と肩を組んで騒ぎ出した。あのさ、17才の双子と並んでも同じ年頃の男の子に見えるんだけど…キューインス閣下の実年齢を怖くて誰にも尋ねられない。
そしていつか見た光景のように、今度はサザウンテロス帝国の軍の方々を連れて我が家の前まで転移した。
「嘘ぉ…家?」
「はい、ガンバレス大尉。民家ですよ」
「傾いてないけど、倒れそうだね?」
「キューインス閣下、無事にしっかり立っております」
なんだか既視感を覚えるやり取りの後、サザウンテクロス軍部の皆様を家内へ案内した。双子と義兄様は追い返しておいた。
こんなごちゃごちゃした時に更に疲弊する原因を作りたくない。
「まだ店舗部分も片付いておりませんの~申し訳ありません」
「何だか内装は魔術で強固にしているみたいだね。だったら外装も直せば?」
とガンバレス大尉に聞かれたけど、理由は簡単だった。
「一瞬で新築みたいな家に復元したら不審ですもの」
「なるほど!」
リュー君とキューインス閣下の声が重なった。
私はキッチンに入ると、ヤカンにお湯を沸かし紅茶を入れた。
「テーブルが小さくてすみません」
手早くティーカップを並べてお茶を入れて出すと、キューインス閣下もガンバレス大尉もキョトンとした顔をしていた。
「姫様がお給仕を?」
「はい。リュー君もお茶でいい?」
「いいよ~」
テーブルにミルクポットとレモンに似た果実汁と砂糖の小瓶を置いてキッチンにすぐ戻った。
さて
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よしっ一気にやるわよ!
トンカツをフライパンで表面を焼いた後、オーブンの中に入れてじっくり焼いておく。
そしてコーンスープに香辛料を入れて完成させ、トマトペーストと炒めたお肉と野菜を入れて味を調えてトマトシチューを作ろう。
そして野菜を切っていると、背後に気配を感じて振り向くとガンバレス大尉とキューインス閣下がキッチンの戸口からこちらを覗き込んでいた。
「料理してるよ…」
「揚げ物の良い匂い…」
お2人はササッとキッチンに入って来ると私の手元やオーブンの中を覗き込んでいる。
「本当に作っていらっしゃるのですね!」
ガンバレス大尉は微笑まれている。
「ガンバレス大尉は甘いものはお好きですか?」
ガンバレス大尉がガッと目を見開いた。あ、お好きなんですね。
「え~とお待ちくださいよ~」
冷保管庫の奥からバレットを取り出した。自分だけこっそり食べようとミルクゼリーを作っていたのだ。私は器に盛りつけると、上から桃に似たジャムを飾り付けて、はい!とガンバレス大尉に渡した。
ガンバレス大尉はそれはそれは嬉しそうに微笑まれている。
「ミランジェ姫!私はこの揚げ物が食べたい!」
キューインス閣下はオーブンの中のトンカツを指差している。了解ですよぉ~!
「きゃああ!このクオテ美味しい!」
おお、クオテね…確かにミルク菓子(こちらの言語の直訳)だ。
私はオーブンからトンカツを取り出すと食べやすい大きさにカットして葉野菜のサラダとロールパンと一緒にキューインス閣下にお出しした。
軍人2人はキャッキャッしながら菓子とトンカツを食べている。
「ミランジェ姫は魔術も独創的だし料理も上手いな!」
「いえ魔術もですが、このお料理も全て本のままに作っておりますよ」
私は以前、書物店で『植物解説録』と一緒に『新婚の奥様にお薦め☆これで旦那の愛情も独り占め!』というふざけたタイトルの料理本もリュー君に買ってもらっていたのだ。
奇をてらわずに本の通りに基本の基本から作っている最中だ。自己流を出すのはもっとベテラン主婦になってからだ!
そうそう
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