青天の霹靂ってこれじゃない?

浦 かすみ

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夫と妻

絶妙なる距離感

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今日は一旦帰る、と言うガンバレス大尉とキューインス閣下をお見送りしようと3人で我が家の外へ出た。

リュー君は先ほど冒険者ギルドの支部長補佐のワランジさんがやって来て、緊急呼び出しでギルドに出かけている。

「大型の魔獣でも出たのかな?」

とかキューインス閣下は仰っていた。なるほど…

3人で魔獣の話などしつつ大通りまで後少し…という所でガンバレス大尉が立ち止まって私を顧みた。

「不敬だとは存じておりますが、言わせてくださいね。私…リュージ殿下とミランジェ姫との政略婚…反対しておりました」

あ……、はい。そうでしょうね。ガンバレス大尉の話は衝撃っていうか、それなりにショックだったけれど何とかガンバレス大尉に笑顔を見せて頷いた。

「トキワステラーテ王国の後ろ盾を得る為に、リュージ殿下の首根っこを押さえるような交換条件を出してきて…ミランジェ姫をリュージ殿下に押し付けたのだ…と思いました。殿下には何度も考え直すように言いました。ですが…あの子も…追い詰められていたので、もう逃げ場がない所まで追い込まれていたので、この政略婚を受けることにしたのだと…諦めました」

そっか…ガンバレス大尉達もリュー君のご兄弟の所業を知っているものね。

キューインス閣下が「おまけにさ~」と話しかけてきたので、閣下の方を見た。キューインス閣下は困ったような顔をしていた。

「俺もね、リュージ殿下の為にミランジェ姫の素行調査したんだよ」

私の素行調査…

「まあ何というか…問題ありな王女殿下だと俺は判断してね。俺もね、リュージ殿下に進言したんだよ~。あの王女殿下との婚姻じゃお前が苦労する…って。そしたらさ~俺は俺で適当にやるし、あの子もそれなりにするだろう。政略婚だし…とか言っててさ」

これは衝撃だった。
 
俺は適当にする…つまり私への対応は適当にするつもりだったということよね?

ははっ…会う前からリュー君は婚姻は私でも構わないけど、私個人とは仲良く?なるつもりはなかったみたいだ。もしかして今も?そう考えると私の距離感というか…リュー君はこんな私のおばちゃんのノリみたいな気安い感じは本当は苦手なのかもしれない。

そうだ…リュー君は生粋の王子様だ。

政略婚の相手に気安くされて相当に困っているのかもしれない。優しいから言い出せないのかもしれない。

私がどよ~んと落ち込んだのに気が付いたのか、ガンバレス大尉が慌てて、違うのさ~~!と大尉のふくよかなお胸に私を抱き込んでくれた。

「それは~ミランジェ姫に会う前の話さ!ですよね?キューインス閣下」

「ああっああ!そうだぞ!実際今日2人を見たらそんな心配は吹き飛んだ。2人共仲が良さそうで俺はホッとした」

「ですよね~。だから今は何も心配はいらないですよ、姫様はあの腹ぐ…じゃねー。え~とひねくれ者の王子と仲良くしてやって下さいね?」

ガンバレス大尉の魔質は優しい。私を気遣う魔力が体中から溢れている。おまけに香水の良い匂いがする。どこのメーカーだろう?

大通りで何度も振り返って手を振ってくれるお2人に、手を振り返してお見送りした後、私は路地に入って行った。

リュー君のこと、精神的に年下だしつい構ってあげちゃう感覚で接していたけど…この距離感はマズイかあ…そりゃそうか~。

私は中身は庶民のおばさんだけど、あっちは生粋の王子殿下だものね~

考え込みながらヨロヨロと歩いていると、家まで後少し…と言うところで目の前に人影が立ち塞がった。

顔を上げられない…。この魔質…

「お捜ししましたよ、ミランジェ妃…いや元妃」

ベイフィートの近衛…プリエレアンナ様の浮気相手の金髪の近衛だ。

「宝石はどこだ?」

「……」

「どこだと聞いているんだ!?」

突然腕を掴まれた。咄嗟のことで防御障壁も張れなかった。物凄い力で腕を捩じ上げられる。

「…っい!?イタッ…知らないっ…」

「嘘をつくなっ!?」

掴んだ腕を引っ張られてぶん投げられた。元々の体重差と私が運動神経ゼロのせいで、腕が変な方に引っ張られて激痛が走る。

「ぃあああ!」

絶叫して、投げ出されて路地裏に置かれている植木鉢に体を打ち付けた。背中にも激痛が走る。

倒れた私を尚も蹴り上げようとしたのか近づいて来た近衛と私の間にスッ…と影が割り込んだ。

「…おいっテメェ…ミランジェに何してるんだ…」

…え?あ…ああ…来てくれたぁ…気が緩んで視界が涙に揺れる。

「リュ…く…」

リュー君はすぐに転んだ私の体を抱き起してくれた。

いだぁ!あだだだだっ!

腕が上がらない!?めっちゃ痛いんだけど骨折したのかな、これ?

「もう大丈夫だから、ごめんなごめんな…」

リュー君は私のおでこと頬にキスを落としてくれている。

それはそうとして…リュー君の触っている背中も腕も痛くてもう限界ですっ!

「デューグン…いだい…」

「な…腕かっ!?体か?……おいてめぇ、ミランジェに何しやがった…」

いやあのぉぉぉ…阿修羅像のような魔圧を放つ前に、そんなに力を入れて私の体に触れないでくれっ!

「どうしたの!?」

「大丈夫かっ!?」

ブワッと風が巻き起こって先ほどお別れしたガンバレス大尉とキューインス閣下が飛びこんで来られた。私の状態を見てガンバレス大尉は瞬時に治療魔術をかけてくれた。

「怪我させやがって!…こいつかぁ!」

キューインス閣下がそう言った瞬間、辺りが一瞬眩しく光った。光ったと思ったら光が消えて後には三角の透明な箱?の中にあの近衛が入っていた。

この箱どうなっているの?

閉じ込められた近衛のあいつは箱の中で何か叫んでいるけど、声も聞こえない。

「あれは閣下の特殊魔法よ?あの三角柱の中ではすべての物理攻撃は吸収され、魔術は反射されるの。犯罪者を閉じ込める牢屋ね」

ガンバレス大尉の説明を聞いて三角柱の魔術式を視る。凄い…ものすごく精密な術式が視えるわ。視えるけど分かるかと聞かれたら、全然だ。

あ…治療魔術が効いてきたのかな~?体が痛くなくなってきた。手をワキワキと動かしてみる。おおっ動く。

「ほら、リュージ殿下。ミランジェ姫様はご無事なんだから、そのおっかない魔力はしまいなよ?」

そうだった、未だにリュー君が私を抱き締めたまま阿修羅の如く魔圧を放っている状態だった。

「リューく…じゃなかった。リュージエンス殿下ありがとうございます。もう大丈夫です」

いけない、いけない。気安くしちゃいけないわ…。リュー君は王子様。距離感大事…

そう言ってまだ近衛を睨みつけながら、おらついた魔力を放っているリュー君の腕をペシペシと叩いてみた。

するとリュー君はハッとしたように私を見下ろすと、また体を抱き締めてきた。

「ごめん…ミランジェ」

「もう大丈夫です。こちらこそご心配おかけしてすみません」

リュー君はますます私に抱きついてくる。 ぐえええっ…流石に苦しいよ、地蔵っ。

「何だよ、こいつ!これは看過できない事態だね~!よーしお城に抗議に行ってこようかな~おいっお前らっ!」

「はいっ!」

キューインス閣下の呼び声にサザウンテロスの軍人のお兄様達がどこからか走ってくると三角柱の牢?をヒョイと持ち上げた。

「ちょっと城に行って来るから!」

えっ?と、思った時にはキューインス閣下と部下の方々はいなくなっていた。

抗議…ということはクラシスにオラついてくるのかな?他力本願になっちゃうけど、私が城にかちこめない分、あの可愛い閣下にガツンと言ってきてもらおう。

そしてここに残ったガンバレス大尉は、私に付き添ってくれるみたい。正直、有難いです。

「大丈夫?歩けますか?」

ガンバレス大尉に支えられてヨロヨロと立ち上がった。体…重い。重い原因は分かっている。

「はい…え~と歩けるのですが…殿下、少し腕の拘束を緩めてもらえますか?」

そう…未だにリュー君は私をがっちりガード?しているからだ。

「そうだよっリュージ殿下、いい加減にしなさいな~」

リュー君は渋々という感じで私の体を離した。ふぅ…まだ興奮だか恐怖だかで心臓がバクバクしている。元日本人の平凡な私はこんな喧嘩や争い事と無縁の生活だった。手も震えてる。

家に入り、ガンバレス大尉にソファに座らせてもらう。しかしリュー君がすぐ横に座って来て、また抱き付いてくる。

いや…あのさ、さっきから何だろうこれ…。居心地悪くてモゾモゾしているとガンバレス大尉が

「殿下、ミランジェ姫は殿方に暴力を振るわれて怖い思いをされたのですよ?そんなに殿下に触られてはアレを思い出してしまわれるじゃないですか!」

と、ズバッとリュー君に切り込んだ。流石、リュー君の魔術の元師匠?自国の殿下とはいえ遠慮無しだ。

リュー君は顔色を変えると小さい声でゴメン…と言ってソファの離れた所へ座り直した。

暫くすると動悸も手の震えも治まってきた。

そうだ…何か飲み物を…と腰を浮かしかけた時に玄関ドアがバーンと開いて、ナフテラージャ王女殿下…ナフィ姉様とダーシュお義兄様…デジバラとガンダレが家の中に飛び込んで来た。

「ミランジェ!ミランジェ!?」

ナフィ姉様は叫びながら部屋に駆け込んで、半泣きになりながら私に抱き付かれた。デジバラとガンダレにも背後から思いっきり抱き付かれた。

くるしぃ…。また骨が折れそうだ…

そしてひとしきり泣いたり怒ったりしたナフィ姉様に聞いた所

キューインス閣下と部下の方々はあの近衛を連れてベイフィート城に乗り込み、カッシーラ伯とクラシスに激高して見せたそうだ。お姉様曰く、キューインス閣下の魔質は非常に落ち着いていて、冷静だった…とのこと。

「あの閣下、見た目と中身の乖離の激しい方ですわね。可愛らしいから油断していると中身は狡猾というか…」

「流石、素晴らしい洞察力でございます。その通りです、閣下はあの童顔で中身は食えないおっさ…ゴホン、御仁ですから」

そうか…ガンバレス大尉の発言でやっと確信が持てた。キューインス閣下は超童顔を活かした、食えないおっさんなのか。

「兎に角さ、キューインス閣下がミランジェが襲われた~大怪我で今は臥せっている~責任とれやこの野郎~甘っちょろいこと抜かしやがるなら出るとこ出てもいいんだぜ、ああん?…て言ってくれたから~」

「そんな言い方してた?」

「してた、してた!もう、デジバラッ話の腰折るなよ!」

「ガンダレが変な脚色するからだろ?」

言い争いを始めた双子の間にダーシュお義兄様が割って入った。

「はいはい、喧嘩しな~い。兎に角、あの近衛は不敬罪で投獄…恐らく極刑だね」

極刑…ということは死罪。そんな暴行罪くらいで…という甘い考えはこの世界ではいけない。私は王族だ、身分というものがありこの国の法に従わなければいけない。

「しかしそんな簡単にいくかな~」

と、突然声がしてキューインス閣下が部屋の中に入って来られた。いつの間に帰って来たのか。おまけにこの高校生みたいな見た目で実年齢おっさんか…。これから閣下を心の中で老化の反逆児と呼ばせてもらおう。

「プリエレアンナ妃がどう動くか見ものだな~あの近衛を切り捨てるか…愛情があるならば何かしら策を講じてきそうだけどね~」

とか格好いいことを言いながらキッチンに入って行ったけど、何をしてるの?反逆児。

不審に思いキッチンを覗き込んでみると、なんとトンカツを盗み食いしようとしていた!こらっおっさん!

暫くして皆様は帰られた。

この家の防御は私の魔術障壁があるし、リュー君もいるから大丈夫だと言ったけど、ダーシュお義兄様がこの周辺を警護するからそれは諦めてくれ、と言ってから帰られた。

大げさなのは困るんだけど…。

そう言えば

先ほどからリュー君が地蔵のように石像化?しているのか妙に静かだ。玄関口で皆様をお見送りしてから部屋に戻るとリュー君は本当に石像と化していた。

「リ…リュージエンス殿下…」

「さっきから、その言い方何?どういうつもり?」

と…言って顔を上げたリュー君は本当に石像みたいに顔色が悪かった。

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