青天の霹靂ってこれじゃない?

浦 かすみ

文字の大きさ
29 / 43
夫と妻

白薔薇の王子様

しおりを挟む
顔色の悪いリュー君を見詰めながら、どうしよう…と内心焦っていた。

「今までもっと気さくに話しかけてくれていたよね?どうして急に殿下呼びにするの?」

何となく…リュー君の方からおどろおどろしい魔圧が流れてきている気がする。

怒っているの?どうしてよ…

「それは…リュージエンス殿下に失礼だったと思い至りまして」

「何が?」

「敬称を付けずにお呼びしたり、その…不躾にも許しも得ずに近づいたり…」

「だから急にどうしてそう思うようになったの?…もしかしてアイツに何か言われたの?」

アイツ…て誰だろう?私がそう考えている間にリュー君は

「そうかっ…キューインス閣下かガンバレス大尉に何か言われたのか?そうなのか?」

と勝手に決めつけて矢継ぎ早に問いかけてきた。

違う違うよ、そうじゃない。

「いえ…違います。政略婚姻なのに私の接し方がおかしかったのです。殿下のご迷惑も考えずに…だからリュージエンス殿下はどうかお気になさらずに!」

と、言いながらキッチンに走って逃げ込んでしまった、根性無しの私…

こんなに胸が苦しくなるなら言わなければよかった…。自分で想像しているより、リュー君に対する依存度が大きいことに気が付いて唖然とする。

ベイフィート城を出てからの生活で常にリュー君にサポートしてもらってた。私の方が精神的に年上だからーとか謎の上から目線をリュー君にぶちかましているつもりだったけど、実は何も出来ないのは自分の方だった。そのくせリュー君には馴れ馴れしく接する厚かましさ…

そうだ、最初にリュー君は言っていたではないか。

クリマリ(兄弟)の追撃から逃れたい為の婚姻だって…その話の時にしっかり意識して節度ある距離感を保っていれば良かったんだ。

その時、リュー君が部屋の中から静かに外に出て行ったのが分かった。

ああ…これで良かったんだ。

元々1人でここで生活するつもりだったし、リュー君は名目上私と婚姻しているし、後ろ盾は手に入れたしお互いに困ることは無い。

静まり返った室内は怖くて…私は意識を他に向けようとハンバーグのタネを作ることにした。

玉ねぎを細かくみじん切りにしていく。途端に視界がブレる。次から次から涙が溢れる。

「玉…玉ねぎ目に沁み…。ひーっく…ぐすっ」

この涙の原因はそれだけではないのは分かっている。自分から距離を取っておいて、実際置いて行かれたら泣くなんて馬鹿じゃないだろうか…。

「リュー君への依存度半端なーーいっぃぃ…ひーーんっ…。うぐっ…」

私は馬鹿だ。

どうしてもっと上手く話しを出来なかったんだろう。そして今まで通り仲良くして下さいとお願いして、そこでリュー君に無理だと断られたとしても、きっぱりと気持ちを切り替えて…リュー君にご迷惑をかけないように慎ましく名目上の妻として生活しておけばよかったんだ。

後から後悔ばかりしてどうするんだっ!みじん切りにした玉ねぎをフライパンに放り込んでから、洗面所に飛び込んで顔を洗った。

淋しくないっ辛くないっ!元々独りだっ!これ以上リュー君に頼ってどうするんだ!

タオルで顔をゴシゴシと擦っているとリュー君が突然、室内に戻って来た。転移魔法使ったのか?…そして迷わずリュー君は洗面所まで歩いて来た。

私は戸口に立ったリュー君を見た。リュー君は手に何か白い大きな包みを持っている。どうしたのだろう?緊張感が走る。

「ミランジェ」

「は、はい!」

リュー君は一歩、洗面所の中に入って来ると私の前で跪いた!?そして…その大きな包みを私に差し出した。

「ミランジェ…改めて俺と婚姻して本当の夫婦になって下さい」

なっ…なっ…?

そのリュー君が差し出した包みは白薔薇の花束だった。リュー君は真剣な表情で私を見上げている。

「俺との関係に距離を取らないで欲しい。いつもみたいにリュー君でもジゾーでもいい、そう呼んでくれ」

私の涙腺は崩壊した。

「だって…リュー君っ、最初リュー君て呼ぶな!って怒ってたぁ…」

「あ…あれはっそのいきなりだったから…びっくりしたというか、ミランジェに戸惑っていたっていうか…兎に角さ、この白薔薇を受け取って?俺の白い薔薇をミランジェの好きな色に染めてくれ」

きゃああああっ!?ちょっと!?何それ何それぇ!俺の白薔薇を好きな色に染めろだってぇぇ!?

「そ…それ花嫁衣裳の婚姻相手に捧げる、白色の代わり?」

「そのつもり」

私はリュー君の差し出した白薔薇の花束にゆっくりと手を伸ばした。リュー君が嬉しそうな笑顔になった。

純白の薔薇と美形の王子様。とんでもない乙女なシチュエーションだ。私は泣きながら花束に手をかけた…と同時にリュー君に腕を掴まれると花束ごとリュー君に抱き込まれた。

「ミランジェ、了承してくれる?」

「…はいっリュー君。宜しくお願いします」

そして、リュー君の顔が近付いてきた。私は自然と目を閉じた。

そっと触れるリュー君の唇。

リュー君の魔力が唇からゆっくりと流れ込んでくる。やっぱり優しい…心地よい魔力だ。何度か軽く口づけが落とされて、深く溜め息をついたリュー君にがっちりと抱き込まれた。

「も~うっ脅かしてきてぇ~何だよっ!あ、花束潰れた…!」

「ちょっ…とヤダ!」

私は潰れた花束を魔法で再生させると、花瓶に生けて窓際に置いた。白く輝いて綺麗だ!おっといけない~防腐魔法をかけて保存しちゃおう、ぐへへ。

さてその後、夕食の準備をする私にへばりつきながらリュー君はさっきまでのことを散々愚痴っていた。

「びっくりしたよ!急によそよそしくなるしさっ。アイツに何か吹き込まれたんじゃないかとか、閣下達に何か言われたとかさ!ってか、本当に言われてないの?」

さっきから言っているアイツってこの話の流れから察するに近衛のアイツのことか!

「あの近衛は城の部屋の中にあった宝石のことばっかり叫んでたよ?」

「そうか、しかしムカつくなあいつ。俺もぶん殴って鼻をへし折ってやるんだった」

白薔薇の王子様が野蛮な言い方をされてますよ?

「じゃあやっぱり閣下に何か言われたの?」

ハンバーグの形成をしている私を後ろから抱き締めながら、リュー君は頭頂部にキスをしてくる。へえ~リュー君って彼女とかに結構ベタベタしてくるタイプなんだね。

「ん~、私とリュー君の婚姻に閣下は反対していたらしいのね」

「あ~そうだね。反対だ~とか言ってたな」

「その時にリュー君は私とは適当に付き合います…みたいな事を言ってたって閣下に聞かされて…」

「あ……っち…あのおっさん…」

何かリュー君がブツブツ言っているけど…取り敢えず私は話を続けた。

「で、私とは適当に付き合いたいのに、私のほうから図々しくリュー君、リュー君って言って馴れ馴れしいので仕方なく付き合ってくれていて~本当はリュー君を困らせてるんじゃないかって思い至って…。」

「あ……なるほど」

「そう思い出したら、ギルド前で会った時から馴れ馴れしすぎたし王子殿下のリュー君にあまりにも不敬過ぎたことに今更気が付いて…一人猛反省してあの態度になりました。」

ふぅ…とリュー君は溜め息をついた。呆れたよね?自分でも考え過ぎて視野が狭くなっていたな~とは思うわよ?

「本当にびっくりさせんなよ」

「すみません」

「謝らなくてもいいよ。俺だって最初から王女殿下のミランジェに馴れ馴れしかったよ?」

そうだったっけ?最初は美形の地蔵だー!と興奮していたからよく覚えていないわ。

「ミランジェは馴れ馴れしいって言うけどさ、久しぶりに会ったのに…昨日も会ってた幼馴染みたいな感じで自然に話しかけてくれてたから、俺も砕けて話せたのもあるんだよ?俺、基本は人見知りだし。」

ああ~そうだったそうだった!いくら美しく成長していても元の中身はモジモジ大人しいぽっちゃり地蔵だよね。

「そうだよね、リュー君は子供の時に会った時もモジモジしてて薄っすら笑顔の無口なぽっちゃりだったもの」

「ぽっちゃりって言うな!よく覚えてるな~俺と会ったのって一年に一、二回程度だよな」

「印象に残るぽっちゃり王子だったもの」

「ぽっちゃり王子って言うな!あれ?そういえば、お互いの国に訪問した時にクリヒリエンス兄上にも会ってるんじゃないか?兄上の事憶えてる?」

う~ん…クリヒリエンス王太子殿下かぁ…顔は正直憶えてないけどなあ。

「顔は印象に無いけれど、板みたいなお兄様だな~とは思った」

「イタ?」

「そう、真っ直ぐな木の板。何だか平たくて細長くて厚みの無い体型だったのは憶えてる」

何故だかリュー君は爆笑した。

あれ?何だかバカ受けですが、私そんな笑いを取るような発言をしましたっけ?

ヒィヒィ言って笑い転げているリュー君は放置して、形成の終えたハンバーグを焼いていくことにした。まず軽く表面を焼こう。作り終えたハンバーグを全部焼いていく。

そして焼き色のついたハンバーグをオーブンのトレイに並べているとやっと笑いの治まったリュー君が

「ミランジェの兄上への表現、的確過ぎるっ!」

と言ってきた。だって板みたいに見えたんだもん。

「あ~おかしい!今もさ兄上、体が細長いんだよ。おまけに体の厚みも無い。今も板のままだよ…小さい板から大きい板になっただけ…ブッ!思い出してまたおかしくなってきた」

自分で兄上弄りして勝手に笑ってるよ。はいはいっと…

本日の夕食が出来上がりました。

メニューは先ほど作ったハンバーグとコーンスープと頑張って八宝菜を作ってみた。とろみも上手く出来たし中華っぽい仕上がりになってるし、味見もしたので大丈夫なはず。

リュー君は大喜びだった。ずっと美味しいを連発してくれた。お酒を飲みながら八宝菜を食べてニコニコしている。

さてとうとう来ました、夜です。先ほどの甘い流れから察するに初夜になりそうです。

あまり考えたくはないけれど、リュー君はそういう方面の手練れっぽいのでモヤモヤはするけれど、お任せしてみることにしよう。

だがしかしこんな私でも大昔、彼氏がいたことは…ある。

事に至らずにお別れしてしまったけれどもね。まあ、死ぬまでそこそこの年齢まで生きてきていたので、知識もある、ただ実践経験が無いだけだ。

色々と言い訳を頭の中でしながらお風呂から上がって来ると、地蔵がナイスタイミングで部屋にやって来た。

「ミランジェ~。俺の部屋に行く?その方が寝台大きいし~」

妙に浮かれた語尾の感じからすでに地蔵は浮かれモードに突入していると思われる。こっちは戦闘に赴く戦士の心持ちだというのに…。

「よっ宜しくお願いします!」

気合いを籠めてリュー君にそう挨拶をすると、リュー君は苦いお茶を飲んだみたいな顔をして

「何それ~色気が無いよ~」

と言ってきた。色気なんて今は要るものかっ!要るのは気合いだっ気合いだっ!気合いだーっ!
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました

志熊みゅう
恋愛
 十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。  卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。  マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。  その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。  ――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。  彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。  断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ
恋愛
教師との悲恋、そして突然の死をもって転生をした少女、シャーロット・ジェム。凍れる国にて、小さな魔法屋を営んでいた。名門学園からの推薦状が届いたことにより、平和だった日々に暗雲が訪れるように。 今世も彼女に死は訪れる――未来を望むには二つ。 ――ヤンデレからもたらされる愛によって、囲われる未来か。そして。 ――小さくて可愛いモフモフ、女神の眷属と共に乗り越えていくか。 鳥籠に囚われるカナリア色の髪の少女、ヤンデレホイホイの彼女が抗っていく物語。 生きていく物語。 小説家になろう様でも連載中です。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...