矛と盾 ぶらり二人旅

浦 かすみ

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出会い

矛のお兄さん2

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「そう言えば…何だか聞きそびれていましたが…」    

「何だよ」

私に歩調に合わせてゆっくり歩いてくれるシーダ。これもモテる秘訣なんだろうか?

「世界最強のシーダが何故、死に掛けていたのでしょうか?」

ギギッ…とシーダの周りの魔圧が上がった。どうやら私は地雷を踏み抜いてしまったみたいだ。

「……」

「いえ、お返事は結構です」

シーダとギクシャクしたまま山頂のアザベル村に着いた。シーダは村の入口で立ち止まった。

「約束だからな、入口までだ…じゃあな」

「え?」

シーダはそのまま踵を返すと、山を降りて行った。何だか…あっけない。

「おおっ奇跡の使い手様!」

「ようこそお越し下さいました!」

私が村の門を抜けて入ると気が付いた村の人達に囲まれた。私は山を降りて行ったシーダを気にしつつも、村に入り治療を始めることにした。

今回アザベル村の重篤患者は治療が間に合ったようだ。奇跡の使い手だって万能ではない。別の村ではもう少し早く来てくれたら…と怒鳴られたこともある。

そう…奇跡の使い手の私でも治せない病もある。それは『不治の病と寿命』だ。普段なら治療をすればすぐに治る病が何をしても治らない…。私はこうなった時は死期が迫っている状態だと判断する。そして患者にご家族がいる場合はご家族に告知をしている。

死期の告知…

これほど残酷なことはない。いつも伝えるのは気鬱で、皆が受け入れてくれる訳ではない。ご家族から暴言を吐かれたり、患者本人から何が何でも治せと怒鳴られたり、逆恨みを受けたりする。

私は万能ではない、神ではないのだ…と言うと大概の人は押し黙る。そう言って詰め寄ってきた人がいる村や町には暫く立ち寄らないようにしている。

私だって人間だ。詰め寄られては怖いし、逆恨みからどんな嫌がらせを受けるかもしれない。だったらそういう嫌がらせを受けないように護衛を引き連れていけばいい…と言われそうだが、元異世界人としては護衛とかメイド?などの職種の人と馴染みがないので共に旅をする気にはなれない。

どこまで行っても異世界人だな…とつくづく思う。

この日も治療が終わって村長から纏めて治療代を頂く。実は、治療代以外に食材や時には貴金属を送られる場合もある。まあ元日本人の血が騒いで、最初は断って…まあまあ~いえいえ~どうぞどうぞ~のやり取りの後受け取ることにしている。

なかには胡散臭い貢物っぽいものもあるのだ。あくまで貰い過ぎはせずに節度ある差し入れとして受け取るようにしている。

そして、村に滞在する時も拠点となる宿屋に連泊して、宿泊代はタダにして頂いている。まあ個人からは治療代は規定額以外は取らないけれど、国(市町村)が負担してね!とお願いしている。

これは奇跡の使い手保護法に示されている、法律に法っている。まあ、私は治療代がわずかでも、タダ飯で野宿じゃないから有難いけどね。

この日もアザベル村の宿屋に泊まる予定だ。宿屋に入り二階の部屋に入った頃には夕闇が迫っていた。夕食は山菜のフライと野菜シチューを頂いている。もう寝ようかな~とベッドにゴロンと横になった時に気がついた。

実は先程、村の入口で別れたシーダ=クラィツァーは村からは離れたが、まだ山裾にいるようだ。遠くすぎて彼の魔質の奥までは探れないが…どういうつもりだろう?1人で危なくない?私とは離れすぎているから防御障壁を張ることが出来ないし…ああ、でもシーダくらい強ければ障壁くらい自分で張れるか。

とか、色々と考えている間に山裾に複数の魔力の気配を感じた!

飛び起きると、張り巡らせた探査魔法の強化を図る…。これはシーダに向かって動いている!一瞬、迷ったがすぐに起き上がってローブを羽織った。

またお人よしを発動してしまっているのは分かっているが、知らないフリは出来ない!

「私は馬鹿だぁ!」

そう叫んでから部屋を飛び出した。

宿屋を後にして村の入口に走る。大きな門の前には夜番の見張りの方が立っていた。

私が走って近づくと夜番の男が立ち塞がってきた。

「20時刻以降の外出は控えて…奇跡の使い手様!?」

私は背中のリュックサックから、魔物理防御障壁を描いた魔法陣の魔紙を取り出すと村の門扉に張り付けた。

「山裾に攻撃的な魔力を持つ複数人の魔質を感じます」

「っな!」

夜番のお兄さん達が集まって来た。私はお兄さん達の顔を見回した。

「山裾なので、こちらまでは来ないとは思いますが念の為に障壁を張っています。私が戻るまでは村の外に出ないようにして下さい」

夜番のお兄さん達は一様に戸惑いを見せた。

「奇跡の使い手様が山を降りられるなら、俺達も…」

私は首を横に振った。

「大丈夫です。私は障壁を張れますし、遠くからでも人の魔質を感知出来ますので」

何か言い募ろうとした夜番のお兄さん達を振り切って、私は山裾へ向けて動き出した。魔物理防御障壁を張りながら、消音魔法も自身に施す。

良くない魔質の持ち主達は真っ直ぐに、シーダ=クラィツァーに向かって移動している。移動速度はそれほど速くない。私の補助魔法で間に合うはず…!私は山裾に居るシーダの近くまで移動すると草陰に隠れた。

良かった…間に合ったみたいだ。

シーダ=クラィツラーは暗闇の中、灯りも付けずに岩場にぼんやりと座り込んでいた。彼ほどの魔法剣士なら、近付いて来る魔質の気配にも絶対に気が付いているはずだ。

シーダの魔質は凪いでいる。どうしようか…。私がシーダの前に飛び出した所で防御しか役に立たないし…と思案している間に、その集団はシーダの前に躍り出てしまった。

数は20…1、2…23人か。子供も居る…子供と言っても10代前半くらいの男の子だ。しかし魔質の色は黒いし暗い。

「手こずらせやがってっ!おらっ…」

その黒い魔質の、とても腹黒な男の子は結構可愛い顔をしていた。そしてその集団の1人に蹴り飛ばされてシーダの前に転がり出た。おお…泣いている。でも…

「お…お兄さんごめんなさい…僕、僕…この人達に言われて…ひっく、怖くって…ふっ、ごめんなさいっ…!」

シーダの魔質はその男の見た瞬間に揺らいだ。シーダの前で謝罪して泣き崩れている男の子…涙は出ているけどなぁ…魔質は冷静沈着。そして腹黒…

それとは反比例してシーダの魔質は段々戸惑いと困惑…そして目の前の男の子に同調しているような魔質に変化してきた。これはいけない。

「はいよ、ごめんなさいよ!」

そう言って私は草陰から飛び出すと、シーダの前に立って、その泣き崩れている可愛い男の子を見下ろした。突然、出て来た私にその不逞の輩もびっくりしているようだ。

「ララーナあぶねえよ」

「平気です、私強いですから」

私が声をかけてきたシーダにそう返事をすると、シーダは少し笑ったようだ。そして魔質を落ち着けてきたみたいだ。そうそう、平常心ですよ。

私はまだ泣き濡れている可愛い男の子をジロリと見下ろした。これは騙されるな~確かに可愛い。

「あなた、嘘泣きならもう少し上手くすれば?心から悲しんでいない涙は誰にも響かないから」

可愛い男の子の魔質は暗いまま、少しも揺るがない。すごいね、すごい精神力だ…負の方向のね。

「なに…を言ってるの?ぼ…く、あのおじさん達に……ら、乱暴され…言う事聞けって…て…っうぅく」

凄い演技力だね。乱暴…レイプとか?そう言っている割には心はピクリとも動かない。動揺も一切なし。もしかしてさ、この不逞の輩…この子がボスとかじゃないよね?有り得るかも…

「シーダ」

「何だ?」

「この子の演技に騙された?」

「……」

無言の肯定か。ああ。これで確定ですか?男前のシーダさんはBのLな人種さんなんだぁ。ああ、シーダさんって格好いい!素敵!と思った私の淡いフワッとした気持ちを返せよ。

まあ、BでもLでもカッコイイには違いないんだけどね。

さて私の淡いフワッとした気持ちは兎も角としてもだ。そんなシーダの純情?な気持ちを踏みにじったのはいただけないね?非常にいただけないことだよ?

「泣きの演技を見せたいなら、魔質の濁りを直してからにしな。そんな腹黒じゃ口からどす黒い嘘の塊しか出せないよ」

腹黒男の子は首を横に振りながら、また泣き出した。

「ちが…っ、お兄さんっ助けて…僕を助けて!」

ひえぇ…まだ演技しますか?流石にシーダは魔質を動かさない。私は自分の周りに張っていた魔物理防御障壁をシーダにもかけてあげた。シーダは立ち上がって、私の横に立った。

「ありがとよ」

「どういたしまして~怪我したら治してあげますから」

私は一歩後ろに下がった。シーダは弾丸の如く飛び掛かると不逞の輩の中に飛び込んだ。あっという間だった。もう半数が沈んでいる。すると、地面に伏せていた腹黒男の子が立ち上がると、私に飛び掛かってきた。

ガキィィーーーン…

「ララーナ!?」

「大丈夫…私、守りは世界一だから」

「…っちっ!」

シーダが打撃音に気が付いて私を呼んだけど、大丈夫~大丈夫。障壁破られたりしないから。腹黒男の子は舌打ちをした後、後ろに飛び退いて魔法を練り始めた。

私は術の詠唱を始めた男の子に向かって声をかけた。多分言ったところで心に響かないとは思うけど言ってみた。

「生まれた時からこういう職業なのかもしれない。それでも心は清廉に保てる人はいるのよ?物凄い生活している人を沢山知っているけれど、性根まで腐っていない人は沢山いるわ。でもあなたはそうじゃないみたいね。私の言葉があなたの心に少しでも響けばいいのだけど?」

腹黒男の子は詠唱の終わった魔法を私の障壁にぶつけてきた。腐食魔法…!暗黒系ね…さすが腹黒。私の言葉を聞いても動揺もみられない。辛いな…環境かな。それとも本当に色々されて心が壊れたのかな…。さすがにそれは治療出来ないわ。

ジュ…ジュッ……

腐食魔法は私の障壁を食い破ろうと魔力の侵入を試みている。私は腹黒男の子を見た。無表情だ…

「ごめんねぇ…君の心の病は私には治せないわ」

ほんの少し…少しだけ男の子の魔質が動いた。その瞬間、シーダが男の子に切り込んで来た。物凄い血飛沫が上がる。男の子は何とか避けて逃げたが片腕をシーダが切り落とした!切った腕が私の目の前に落ちてきた。

グロすぎる…

「…!」

腹黒男の子は切り落とされた手を掴むと一瞬で消えた。転移魔法か…。周りには死屍累々…。流石トリプルスター、手加減無しの滅多切りだ。シーダは剣に洗浄魔法をかけると鞘に納めた。

「怪我は無いか?」

「勿論」

死屍累々の前で落ち着けないので、私達はアザベル村に戻った。夜番のお兄さん達はシーダを見て警戒心を高めていたけど、腕の虹色のブレスレットを見せると、コロッと態度を変えていた。

「詳しい話は明日な」

シーダはそう言って宿屋で宿泊手続きをしてしまうとさっさと就寝してしまったようだ。おいおい?私にこのもやーっとした気持ちを一晩中抱いたまま寝ろと?

イケメン様だからって何でも許されると思うなよっ!

…と思いながらお風呂に入りベッドにダイブして…そのまま夜明けまで気絶という名の爆睡をしたのだった。
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