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旅路
矛と騎士2
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ギルドの本部のある北ホグレイッツ王国は、北と国名についているだけに…
「寒いぃぃ寒い寒い寒い寒い寒いぃ!」
「ちょっと静かにしてろ。まだギルドの転移陣の外に出たとこだぜ?」
「思ってたより寒いっ!」
転移陣でモスビート王国から飛んで、ギルド本部の室内に降り立ったのだけれど…寒い!手袋…手袋…私はリュックサックの中から手袋を探すが、野宿の時に使ってた軍手しか持ってなかった…。これじゃナイ!いや…軍手だって役に立つアイテムだけどさ。
「防寒着は後で買ってやるから…」
「わあっいいの!?」
「やったーシーダが防寒着が買ってくれるって!」
「……」
因みに転移陣で北ホグレイッツ王国に着いてから私は一言も発していない。煩く騒いでいるのはリコイーダ君、時々ギアラクさんだ。
シーダが怖い顔のまま私の横に移動してきた。
「ララーナは寒くないのか?」
「寒いですけど、私にはこれがあります!」
私はスカートのポケットから掌サイズの巾着を取り出して掲げた。
「それ、何だ?火魔法がかかってるのか?」
「フフフ…中には火魔法を入れた小粒の魔石が入ってます。そして袋の外側には私の絶妙な防御魔法かけて火力を調節しております!ほら、触って下さい!」
私はシーダの掌に巾着を乗せた。
「あったかい!?」
「でしょ~?」
これは改良に改良を重ねた…『マッカイロ』だ!魔力で温かくなるカイロ…うふふ。
「寒い時には温かく、暑い時の氷魔法は…まだ試していませんがいいでしょう?これを服の中に忍ばせているのですよ」
とは言ったもののリコイーダ君が防寒着が欲しいと騒ぐので、皆で衣料店に行き…私もオレンジ色のマフラーを買ってもらった。マフラーの先を折り返すとね、白いモコモコの飾りがついてるんだよね~
「ありがとうございます!大切にしますね」
私が首に巻いてシーダにお礼を言うと、シーダは嬉しそうに微笑んで何度も頷いている。
「シーダ兄ぃ!ありがとうございます!大切にしますね」
私の横に走り込んで来て、何故だか私と同じ台詞を言って微笑んだリコイーダ君。リコイーダ君は本魔獣皮のお高いコートを買ってもらったようだ。
リコイーダ君も可愛い系イケメンさんなので、本魔獣皮の深緑色のレザーコートをビシィィと格好良く着こなしてはいるけれど…。そんなにお高いコート必要か?
シーダはそんなリコイーダ君を鋭い目で見ている。
「お前に礼を言われてもなぁ…だってその防寒着の代金、お前のギルド口座から引き落としにしたけど?」
「ひえぇ嘘だっ!?」
リコイーダ君…お気の毒、それ一番高いコートだよね?わざわざ高い方を選んでなかった?
リコイーダ君はシーダに泣きついて…シーダが7割コート代を払ってあげていた。なんだかんだ言ってリコイーダ君に甘いよね。
「さぁて~じゃあシーダ兄ぃの家に行こうか!」
…………ん?
リコイーダ君の言葉に耳を疑った。今、何て言った?
「シーダの家?」
リコイーダ君はキョトンとした顔で私を見ていた。ギアラクさんもだ。
ん?
「北ホグレイッツ王国は、ギルドの本部もあるし魔獣がよく出るから、宿屋は冒険者でいっぱいなんだ。おまけに宿代が相場よりちょっと高いんだよ。だからシーダ兄ぃの所に泊まるんだよ」
いや、リコイーダ君…何故宿屋を使わないかを聞いているのではなくてだね…
「シーダの家がこの国にあるの?」
「?!」
リコイーダ君が何故だか慌てたように私を見てシーダを見て…最終的にギアラクさんの背後に逃げ込んだ。何しているの?
「ごごごごごめんっ!もしかしてシーダ兄ぃは内緒にしてたの?ララーナに内緒で~ここでコソコソするつもり…げふぅ…」
目の前を突風が吹いて…気が付いたらリコイーダ君が地面に倒れてた。何だか前もこんな光景見たことあるな…
「ララーナ」
「はい」
シーダに呼ばれたので振り向くと、シーダは困ったような顔をしていた。
「いや…何だ。うっかり言うの忘れてた。俺…北ホグレイッツ王国に家、持ってるんだ」
そう言って自分の頭を掻いているシーダに嘘や偽りの魔質は視えない。
「そうですか…ここから遠いのですか?」
シーダは明らかにホッとしたような顔をした。私が怒るとでも思っていたのだろうか?良く分からない…
「いや…そこの商店街の奥」
そこ…と言って指差したのは、先程買い物を終えて出て来た衣料店の斜め前の路地だった。
「あ~えっと当たり前だが台所もあるし…ララーナ、モスビートで包丁買ってただろう?俺の家なら料理出来るぞ、使いたくないか?」
包丁!そうだった…モスビートで切れ味抜群、ドラゴンの硬い皮もスパッと切れちゃう優れもの!とか言う謳い文句のお高い包丁をシーダに買って貰ったんだった。
私はシーダにグイッと近づいて大きく頷いた。
「はいっ是非お料理させて下さい!」
シーダは嬉しそうに微笑むと私の頭を撫でた。
「じゃあ、商店街で食材買って帰るか~」
「はい!」
「……新婚さんの所にお邪魔しちゃってすみませんねぇ…」
「何か言ったか?ギアラク」
シーダが問いかけるたので、私も何かを呟いたギアラクさんを見たが、ギアラクさんはまたリコイーダ君を肩に担ぎ上げると
「いえいえ~じゃあ行こうか」
と笑顔で答えた。う~ん?まあいいか…よっしゃーー久々の料理だっ腕が鳴るぜ!
私はシーダ達と一緒に食材選びに市場に突撃した。途中でリコイーダ君も目が覚めて?色々と料理のリクエストをくれた。荷物持ちがいるので魔獣塊肉と、大根とキャベツに似た根野菜を沢山買い込んだ。
そして、商店街から歩いてすぐのシーダの自宅へお邪魔した。
男の人の1人暮らし(今は?)ってこんなもんだろうね。何だかね…飾り気が無いんだよね。よく言えばシンプル内装、悪く言えば家の家具が少なすぎる…これだ。
「お前らはいつも使ってる客間な」
リコイーダ君とギアラクさんがその素っ気無い5LDKもある家に入るなり、移動仕掛けたのを私は手で制した。
「ちょっと待って下さい!お部屋の点検をさせてからにして下さい」
男の1人暮らし=小汚いというイメージが先行して、私はリコイーダ君より先に客間に入ると、「寒いのに開けるな!」と騒ぐリコイーダ君を無視して窓を全開にした。
部屋の掃除に洗浄魔法を使う…これがこの世界の常識ではあるのだが…私は敢えて、バケツと雑巾と箒を持っていた。客間にはベッドと小さめのテーブル、これしか置いてなかったが、ベッドの敷布と掛布団を引っ剥がし、洗浄魔法をかけながら敷き布団と掛毛布を持って裏庭に出ると外で埃をはたいておいた。
汚れていないだろうだろうとは思うが、気持ちの問題だ。そしてベットメイクをした後、手早く部屋の床を箒で掃いた。そしてテーブルと椅子を雑巾で拭き、ギアラクさんの泊る部屋も同様に掃除した。
「水で拭いたり、埃をはらったりって必要なの?」
「…っ!」
異世界じゃ「ギアラクさんって不潔!」と女性から、汚じさん扱いを受けること間違いない台詞を吐くギアラクさんに冷たい目を向ける。
「不潔にして良い訳ないじゃないですか…」
思ったよりどすの効いた低い声が出た。ギアラクさんがビクッと体と魔力を強張らせた。
そしてその勢いのままシーダの部屋も空気の入れ替えを行い、そしてお風呂場とキッチン、リビングダイニングも掃除をして回った。
「ララーナが母ちゃんに見えた」
「今、何か言ったか?リコイーダ君よ?」
私はリコイーダ君にも冷ややかな目を向けた。「リコイーダ君って余計な一言言うよね!」と異世界じゃ女の子に顔だけ男と認定されるであろう、暴言顔だけ男を更に冷ややかに見詰める。
私は何故かリビングに固まって座っている、汚じさん、暴言顔だけ男、彼氏の前に渋茶とクッキーを出して休憩を取るように勧めた。
さて…慣れないキッチンでの料理だ。キッチンに持ち込んでいた私のリュックサックの中から、シーダに買ってもらった切れ味抜群、ドラゴンの硬い皮もスパッと切れちゃう優れものな包丁の三種類セット(特価品)を取り出し…愛用のフライパンとまな板、キッチングッズを取り出す。
奇跡の使い手として色々な国を移動しているので、各国の珍しい香辛料や食材…調味料、実は色々と取り揃えているのだ。その中でも特に和食料理に欠かせない醤油、味噌、鰹節と昆布…勿論これらの類似品も手に入れている。
「フ…フフフフッ」
さてさていつまでも忍び笑いをしていると、不審に思ったのかキッチンを覗き込んだシーダに益々気味悪がられるので、商店街の中の市場で手に入れてきた、白身魚と魔獣肉をメインにした料理を作ろうか。
白身魚は軽く素揚げをして…キャベツに似た葉野菜と鶏がらのスープと干し肉を入れて煮込む。魔獣肉は軟骨を叩いてミンチと混ぜ、肉団子と野菜の黒酢和えにした。
黒酢もどきが手に入ったのは僥倖であったわ…
「アーーッハハハッ!」
「うるせーぞララーナ。あ、果実酒飲んでいいか?つまみある?」
何だか会社の同僚を連れて帰って来て、おつまみ作れよ、酒出せよ、と偉そうにしているサラリーマンの旦那のようだ…とお酒の貯蔵棚から酒瓶を出しているシーダを冷ややかに見詰めてしまう。
あくまで全部イメージだけどさ。
私は魔獣肉の腸詰を焼いたものと、ポテトフライもどきを作ってすでにお酒を飲み始めていたシーダ達の所へおつまみで~すと言って持って行った。
そして調理の続きをしようとキッチンに戻りかけた時に玄関の呼び出し鈴が押された。シャリンシャリン…と音がしたので私は玄関ドアを開けて外を覗いた。
「あ~シーダ帰ってき………どちら様?」
開けた玄関の先には、背が高く恰幅の良い…長めの黒髪で金色?銀色かな?の綺麗な目をしたすごくすごく格好いいお兄さんが立っていた。ついそのお兄様に見惚れてしまっていたのでほぼ無意識に
「ララーナ=レイジアンテです」
と自己紹介をしていた。
するとその黒髪のお兄さんがカッ…と目を見開き、私の鼻先5㎝くらいまでの距離に一瞬で近付いてきた。
「やばーーーっ君が!?めっちゃ可愛い…ぃっちっ!」
私の体が後ろに引っ張られて、視界が暗くなりいつの間にかシーダの腕の中にいた。
ギイィィィン!
「ララーナに触ろうとしてんじゃねーよっ!」
うおっっ?!ちょっと待って?もしかしてシーダと黒髪のお兄さん抜刀してる?!ちょっと待て!ここは室内…
「うわわっ!」
「あぶな…」
そこへリコイーダ君とギアラクさんが廊下に顔を出したので助けを求めた。
「ギアラクさん…止めてっ」
「そーですよー、室内で抜刀はいけませんよ?殿下。」
……ん?
………でんか。殿下?
私はシーダの腕の中から黒髪をサラサラ~と靡かせながら抜刀している綺麗なお兄さんの姿を覗き見た。
「でんかぁ?」
黒髪のお兄さんは抜刀したままにっこりと微笑まれた。
「初めまして、奇跡の使い手ララーナ=レイジアンテ嬢。スィーダレン=シアデ=ホグレイッツと申します」
な、名前に国名が入っている……でんか、このお兄さん、王子様なのぉぉ!?
そう言ってにこやかな笑顔を浮かべたまま、剣を振り回した王子様が私が買ってきて廊下に立てかけておいた箒を真っ二つに切ったのを見て、絶叫した。
「王子はいいから剣をしまえぇぇ!」
「寒いぃぃ寒い寒い寒い寒い寒いぃ!」
「ちょっと静かにしてろ。まだギルドの転移陣の外に出たとこだぜ?」
「思ってたより寒いっ!」
転移陣でモスビート王国から飛んで、ギルド本部の室内に降り立ったのだけれど…寒い!手袋…手袋…私はリュックサックの中から手袋を探すが、野宿の時に使ってた軍手しか持ってなかった…。これじゃナイ!いや…軍手だって役に立つアイテムだけどさ。
「防寒着は後で買ってやるから…」
「わあっいいの!?」
「やったーシーダが防寒着が買ってくれるって!」
「……」
因みに転移陣で北ホグレイッツ王国に着いてから私は一言も発していない。煩く騒いでいるのはリコイーダ君、時々ギアラクさんだ。
シーダが怖い顔のまま私の横に移動してきた。
「ララーナは寒くないのか?」
「寒いですけど、私にはこれがあります!」
私はスカートのポケットから掌サイズの巾着を取り出して掲げた。
「それ、何だ?火魔法がかかってるのか?」
「フフフ…中には火魔法を入れた小粒の魔石が入ってます。そして袋の外側には私の絶妙な防御魔法かけて火力を調節しております!ほら、触って下さい!」
私はシーダの掌に巾着を乗せた。
「あったかい!?」
「でしょ~?」
これは改良に改良を重ねた…『マッカイロ』だ!魔力で温かくなるカイロ…うふふ。
「寒い時には温かく、暑い時の氷魔法は…まだ試していませんがいいでしょう?これを服の中に忍ばせているのですよ」
とは言ったもののリコイーダ君が防寒着が欲しいと騒ぐので、皆で衣料店に行き…私もオレンジ色のマフラーを買ってもらった。マフラーの先を折り返すとね、白いモコモコの飾りがついてるんだよね~
「ありがとうございます!大切にしますね」
私が首に巻いてシーダにお礼を言うと、シーダは嬉しそうに微笑んで何度も頷いている。
「シーダ兄ぃ!ありがとうございます!大切にしますね」
私の横に走り込んで来て、何故だか私と同じ台詞を言って微笑んだリコイーダ君。リコイーダ君は本魔獣皮のお高いコートを買ってもらったようだ。
リコイーダ君も可愛い系イケメンさんなので、本魔獣皮の深緑色のレザーコートをビシィィと格好良く着こなしてはいるけれど…。そんなにお高いコート必要か?
シーダはそんなリコイーダ君を鋭い目で見ている。
「お前に礼を言われてもなぁ…だってその防寒着の代金、お前のギルド口座から引き落としにしたけど?」
「ひえぇ嘘だっ!?」
リコイーダ君…お気の毒、それ一番高いコートだよね?わざわざ高い方を選んでなかった?
リコイーダ君はシーダに泣きついて…シーダが7割コート代を払ってあげていた。なんだかんだ言ってリコイーダ君に甘いよね。
「さぁて~じゃあシーダ兄ぃの家に行こうか!」
…………ん?
リコイーダ君の言葉に耳を疑った。今、何て言った?
「シーダの家?」
リコイーダ君はキョトンとした顔で私を見ていた。ギアラクさんもだ。
ん?
「北ホグレイッツ王国は、ギルドの本部もあるし魔獣がよく出るから、宿屋は冒険者でいっぱいなんだ。おまけに宿代が相場よりちょっと高いんだよ。だからシーダ兄ぃの所に泊まるんだよ」
いや、リコイーダ君…何故宿屋を使わないかを聞いているのではなくてだね…
「シーダの家がこの国にあるの?」
「?!」
リコイーダ君が何故だか慌てたように私を見てシーダを見て…最終的にギアラクさんの背後に逃げ込んだ。何しているの?
「ごごごごごめんっ!もしかしてシーダ兄ぃは内緒にしてたの?ララーナに内緒で~ここでコソコソするつもり…げふぅ…」
目の前を突風が吹いて…気が付いたらリコイーダ君が地面に倒れてた。何だか前もこんな光景見たことあるな…
「ララーナ」
「はい」
シーダに呼ばれたので振り向くと、シーダは困ったような顔をしていた。
「いや…何だ。うっかり言うの忘れてた。俺…北ホグレイッツ王国に家、持ってるんだ」
そう言って自分の頭を掻いているシーダに嘘や偽りの魔質は視えない。
「そうですか…ここから遠いのですか?」
シーダは明らかにホッとしたような顔をした。私が怒るとでも思っていたのだろうか?良く分からない…
「いや…そこの商店街の奥」
そこ…と言って指差したのは、先程買い物を終えて出て来た衣料店の斜め前の路地だった。
「あ~えっと当たり前だが台所もあるし…ララーナ、モスビートで包丁買ってただろう?俺の家なら料理出来るぞ、使いたくないか?」
包丁!そうだった…モスビートで切れ味抜群、ドラゴンの硬い皮もスパッと切れちゃう優れもの!とか言う謳い文句のお高い包丁をシーダに買って貰ったんだった。
私はシーダにグイッと近づいて大きく頷いた。
「はいっ是非お料理させて下さい!」
シーダは嬉しそうに微笑むと私の頭を撫でた。
「じゃあ、商店街で食材買って帰るか~」
「はい!」
「……新婚さんの所にお邪魔しちゃってすみませんねぇ…」
「何か言ったか?ギアラク」
シーダが問いかけるたので、私も何かを呟いたギアラクさんを見たが、ギアラクさんはまたリコイーダ君を肩に担ぎ上げると
「いえいえ~じゃあ行こうか」
と笑顔で答えた。う~ん?まあいいか…よっしゃーー久々の料理だっ腕が鳴るぜ!
私はシーダ達と一緒に食材選びに市場に突撃した。途中でリコイーダ君も目が覚めて?色々と料理のリクエストをくれた。荷物持ちがいるので魔獣塊肉と、大根とキャベツに似た根野菜を沢山買い込んだ。
そして、商店街から歩いてすぐのシーダの自宅へお邪魔した。
男の人の1人暮らし(今は?)ってこんなもんだろうね。何だかね…飾り気が無いんだよね。よく言えばシンプル内装、悪く言えば家の家具が少なすぎる…これだ。
「お前らはいつも使ってる客間な」
リコイーダ君とギアラクさんがその素っ気無い5LDKもある家に入るなり、移動仕掛けたのを私は手で制した。
「ちょっと待って下さい!お部屋の点検をさせてからにして下さい」
男の1人暮らし=小汚いというイメージが先行して、私はリコイーダ君より先に客間に入ると、「寒いのに開けるな!」と騒ぐリコイーダ君を無視して窓を全開にした。
部屋の掃除に洗浄魔法を使う…これがこの世界の常識ではあるのだが…私は敢えて、バケツと雑巾と箒を持っていた。客間にはベッドと小さめのテーブル、これしか置いてなかったが、ベッドの敷布と掛布団を引っ剥がし、洗浄魔法をかけながら敷き布団と掛毛布を持って裏庭に出ると外で埃をはたいておいた。
汚れていないだろうだろうとは思うが、気持ちの問題だ。そしてベットメイクをした後、手早く部屋の床を箒で掃いた。そしてテーブルと椅子を雑巾で拭き、ギアラクさんの泊る部屋も同様に掃除した。
「水で拭いたり、埃をはらったりって必要なの?」
「…っ!」
異世界じゃ「ギアラクさんって不潔!」と女性から、汚じさん扱いを受けること間違いない台詞を吐くギアラクさんに冷たい目を向ける。
「不潔にして良い訳ないじゃないですか…」
思ったよりどすの効いた低い声が出た。ギアラクさんがビクッと体と魔力を強張らせた。
そしてその勢いのままシーダの部屋も空気の入れ替えを行い、そしてお風呂場とキッチン、リビングダイニングも掃除をして回った。
「ララーナが母ちゃんに見えた」
「今、何か言ったか?リコイーダ君よ?」
私はリコイーダ君にも冷ややかな目を向けた。「リコイーダ君って余計な一言言うよね!」と異世界じゃ女の子に顔だけ男と認定されるであろう、暴言顔だけ男を更に冷ややかに見詰める。
私は何故かリビングに固まって座っている、汚じさん、暴言顔だけ男、彼氏の前に渋茶とクッキーを出して休憩を取るように勧めた。
さて…慣れないキッチンでの料理だ。キッチンに持ち込んでいた私のリュックサックの中から、シーダに買ってもらった切れ味抜群、ドラゴンの硬い皮もスパッと切れちゃう優れものな包丁の三種類セット(特価品)を取り出し…愛用のフライパンとまな板、キッチングッズを取り出す。
奇跡の使い手として色々な国を移動しているので、各国の珍しい香辛料や食材…調味料、実は色々と取り揃えているのだ。その中でも特に和食料理に欠かせない醤油、味噌、鰹節と昆布…勿論これらの類似品も手に入れている。
「フ…フフフフッ」
さてさていつまでも忍び笑いをしていると、不審に思ったのかキッチンを覗き込んだシーダに益々気味悪がられるので、商店街の中の市場で手に入れてきた、白身魚と魔獣肉をメインにした料理を作ろうか。
白身魚は軽く素揚げをして…キャベツに似た葉野菜と鶏がらのスープと干し肉を入れて煮込む。魔獣肉は軟骨を叩いてミンチと混ぜ、肉団子と野菜の黒酢和えにした。
黒酢もどきが手に入ったのは僥倖であったわ…
「アーーッハハハッ!」
「うるせーぞララーナ。あ、果実酒飲んでいいか?つまみある?」
何だか会社の同僚を連れて帰って来て、おつまみ作れよ、酒出せよ、と偉そうにしているサラリーマンの旦那のようだ…とお酒の貯蔵棚から酒瓶を出しているシーダを冷ややかに見詰めてしまう。
あくまで全部イメージだけどさ。
私は魔獣肉の腸詰を焼いたものと、ポテトフライもどきを作ってすでにお酒を飲み始めていたシーダ達の所へおつまみで~すと言って持って行った。
そして調理の続きをしようとキッチンに戻りかけた時に玄関の呼び出し鈴が押された。シャリンシャリン…と音がしたので私は玄関ドアを開けて外を覗いた。
「あ~シーダ帰ってき………どちら様?」
開けた玄関の先には、背が高く恰幅の良い…長めの黒髪で金色?銀色かな?の綺麗な目をしたすごくすごく格好いいお兄さんが立っていた。ついそのお兄様に見惚れてしまっていたのでほぼ無意識に
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と自己紹介をしていた。
するとその黒髪のお兄さんがカッ…と目を見開き、私の鼻先5㎝くらいまでの距離に一瞬で近付いてきた。
「やばーーーっ君が!?めっちゃ可愛い…ぃっちっ!」
私の体が後ろに引っ張られて、視界が暗くなりいつの間にかシーダの腕の中にいた。
ギイィィィン!
「ララーナに触ろうとしてんじゃねーよっ!」
うおっっ?!ちょっと待って?もしかしてシーダと黒髪のお兄さん抜刀してる?!ちょっと待て!ここは室内…
「うわわっ!」
「あぶな…」
そこへリコイーダ君とギアラクさんが廊下に顔を出したので助けを求めた。
「ギアラクさん…止めてっ」
「そーですよー、室内で抜刀はいけませんよ?殿下。」
……ん?
………でんか。殿下?
私はシーダの腕の中から黒髪をサラサラ~と靡かせながら抜刀している綺麗なお兄さんの姿を覗き見た。
「でんかぁ?」
黒髪のお兄さんは抜刀したままにっこりと微笑まれた。
「初めまして、奇跡の使い手ララーナ=レイジアンテ嬢。スィーダレン=シアデ=ホグレイッツと申します」
な、名前に国名が入っている……でんか、このお兄さん、王子様なのぉぉ!?
そう言ってにこやかな笑顔を浮かべたまま、剣を振り回した王子様が私が買ってきて廊下に立てかけておいた箒を真っ二つに切ったのを見て、絶叫した。
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