矛と盾 ぶらり二人旅

浦 かすみ

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旅路

矛と過去2

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 遺跡調査のメンバーの選出があるから今日はここまで…と眼鏡のおじ様に言われたので、私達はギルド本部を後にした。そうだ、北ホグレイッツ王国の世界治療術師協会にお邪魔した事はないので、ご挨拶しておこうと、シーダ達とスィーダレン殿下も連れて、皆で協会の事務所にお邪魔した。

北ホグレイッツ王国の協会の責任者は白髪のおじいさんだった。

自己紹介をすると、ホホホと笑いながら

「こりゃ珍しい、若い使い手さんだね」

と言われた。一応ギルドの提携の話は協会の本部からも聞いているらしく、おじいさんは何度も頷いている。

「私はホグレイッツ国王陛下の御意向に沿うだけですよ~」

そう言って笑っていた。

今の所、各協会の支部が属する国々からは反対の声は上がっていないらしい。実は協会の運営費は結構な予算を取っている国もあるらしく、自分達の手を離れるならそれでもいい…と内心思っている国も多いとか。

色々と大人の事情もややこしいね。

暫くおじいさんとお話していると、事務所の奥から若い男性職員さんが小走りにこちらにやって来た。

「すみません、至急という案件でララーナ=レイジアンテさんをご指名の治療依頼が来ているのですが…」

「ご指名!?」

ドキドキしながら依頼書を受け取り、依頼人を見て血の気が引いた。一緒に覗き込んでいたシーダの魔質がぐにゃりと歪んだ。

スィーダレン殿下に結構な勢いで依頼書をひったくられて、殿下は依頼内容を確認している。

「急患あり?カッセルヘイザー王国のガリューシダ殿下の正妃、スリハナイデ妃の病状を診察されたし」

で、出たーーー!シーダのトラウマ(疑)だ!どうしよう、今度は正式な依頼なの?

スィーダレン殿下は依頼書を読み上げると魔質をぐるぐるっと動かしている。あ、殿下は何かコレに関してご存知みたいだ。

シーダの方は怖くて見れないから、北ホグレイッツの協会のおじいさんと若い男性職員さんを見ながら何とか声を絞り出した。

「あ…では依頼を受けてくださ……」

「受けなくていい」
 
やっぱりシーダが速攻で断ってきた。どうしよう…スィーダレン殿下を見ると、殿下は依頼書を見て眉間に皺を寄せている。

「あの…えっと、でも協会を通してのご依頼ですし…」

「ララーナが行く必要がない。あの国にはお抱えの奇跡の使い手が3人いるはずだ。そいつらに治して貰えばいい」

「ええっ3人も!?」

私とリコイーダ君の叫び声が重なった。それでなくても奇跡の使い手の絶対数が少ないのに、3人も一国が独占しているなんて…

「3人もいらっしゃるなら、寿命以外の病はほぼ根絶出来るはずです。私が行っても意味がない……」

私がオロオロしながら、顔を見るのは怖いからシーダの胸元を見たり、リコイーダ君と頷き合いながら目線を合わせたりしながら答えていると

「いやよく考えろよ、シーダ」

とスィーダレン殿下がシーダに問いかけた。

ひえぇぇぇ!?シーダの魔力がギュインと上がって私的に危険な範囲を越えているんだけど?!

協会内の窓とかがシーダの魔圧を受けて、ガタガタ音が鳴っている。

ちょっとスィーダレン殿下ーっ言葉に気を付けて下さいぃ!

「いつまでも、無視する訳にはいかない。此処等で受けて立とうじゃないか。じゃないといつまでもララーナに本当のことを言えないままだよ」

ひえぇぇぇ!?何だか怖い。皆の張り詰めた緊張感が魔質に現れて、当てられたみたいで気持ち悪くなってきた。

シーダは私を見たりスィーダレン殿下を見たり…そしてギアラクさんとリコイーダ君を見たりしてから、俯いてしまった。

「で、殿下…私はいいですから、あの、その一人で行ってき…」

「それは駄目だ!」

シーダ、スィーダレン殿下、ギアラクさん、リコイーダ君、皆の声が重なった。皆にダメ出しをされてしまってどうしたらいいんだ…

シーダは顔を上げた。

「分かった…腹括るわ。その代わり、質問はここに帰ってからだ。カッセルヘイザーでは絶対に無駄口を叩かないこと…それと、お前ら何かあったら全力でララーナ連れて逃げろ」

「…っ!」

シーダはそう言ってリコイーダ君とギアラクさんを見詰めた。そんなに怖い所なの?私達無事に帰れるの?

「よし、じゃあ行くか」

「おいっ待てよ。スイも行くのか?危なくないか?」

シーダがそう言うとスィーダレン殿下は鼻で笑った。

「はぁ?私を誰だと思ってるんだよ?SSSだよ?言っとくけど私、シーダより強いし」

ありゃ…言い切ってしまった。確かにスィーダレン殿下は表層魔質の下…奥の魔力は底知れない。体が~とか剣技は~とかは流石に私は分からないけど、魔力ということだけならば、この中で一番魔力量が多い…と思う。

まあ、世界最強のSSSが2人も居るならば危ないことはないかな?

という訳で、もどしそうな緊張感の中…ギルドの転移陣でカッセルヘイザー王国へ転移した。

シーダが移動中ずっと手を繋いでくれていた。

カッセルヘイザーの王都へは寄らずに、一気に転移魔法で城門前に着いた。スィーダレン殿下が衛兵にギルドの紹介書と世界治療術師協会の紹介状を見せていた。

衛兵は私達の一団を見て顔色を変えている。繋いだシーダの手から緊張やら憤怒やら嘆き悲しみ…恐ろしいほどの魔力の揺らぎを感じる。

「シーダ大丈夫ですよ。いざとなったらスィーダレン殿下に暴れてもらって逃げましょう」

「おいおい…まぁいいけどぉ。攪乱役は任せとけ…」

私がそうシーダを励ましているとスィーダレン殿下は苦笑いしながらそう言ってくれた。スィーダレン殿下も緊張しているのが分かる。何が待ち受けているんだろう。

「いいか、無駄口は叩くな。疑問質問はホグレイッツに帰ってからだ」

「了解!」

「はっはいぃ!」

ジロッとシーダに睨まれて、ギアラクさんとリコイーダ君と一緒に私も声をひっくり返して返事をした。ひぃぃぃ…怖い怖い。

そして、城内に案内されて…私でも分かるものすごく物々しい感じだ。そしてシーダを見る衛兵や近衛の多分偉い人達だろう…は何とも言えない魔質を出している。

何だろうこれ…。負の感情じゃない…シーダにだけ対してこう…同情?憐れみ?みたいな魔質だ。近衛の偉い人達、そして今、廊下の角から私達の後を付いて来ている、魔力値の高いマッチョなお兄様達からは…負の感情どころか、温かい感情が流れて来る。

思わず後ろの軍人さん?かなって人達を顧みてしまった。

顔に斜めに傷のある40代くらいのおじ様と目が合って優しく微笑まれてしまった。あのおじ様、全然嫌な感じじゃない…それに気が付いた。気が付いてシーダの方を見たけれど…無駄口を聞いちゃいけないと言われているから口を噤んだ。

でも聞きたい!あの後ろを歩いている顔に傷のあるおじ様のことっ…!早く聞きたい。

「こちらでお待ち下さい」

案内の侍従の方に大きな貴賓室に案内されて、私達はソファに腰かけた。こんな豪華な部屋初めてみた。思わずキョロキョロと見回して…あれ?この部屋……どこかで見たことあるけど?あれれ?

「ガリューシダ殿下と、スリハナイデ妃お入りになられます」

扉が開いて、腰を落としてご挨拶したのだけど…私は驚愕の真実に体が震えていた。

だって…だって…今入って来ているガリューシダ殿下って……

シーダの血族に間違いないから。ほぼ同じ魔質だから、兄弟とか親とかに違いない。顔を上げるのが怖い…

「ララーナ=レイジアンテ…」

こ……声まで似てる。私と同じく隣に居たリコイーダ君も声に気が付いて魔質をビクンとしていた。だよね…まるでシーダに声かけられたのかと思うくらい似てるよね。

私は意を決して顔を上げた。

そして前に立っているガリューシダ殿下を見て、目の前が真っ暗になりそうだった。リコイーダ君とギアラクさんが小さく悲鳴のようなものを上げたの聞いた。

ガリューシダ=カッセルヘイザーは、シーダを少しひ弱にした感じの、ほぼそっくりな外見をしていた。

ああ…ああ、間違いない。こんなの魔質を視なくったって、十中八九皆が口を揃えて言うだろう。

ガリューシダ殿下とシーダは兄弟です…って。

ガリューシダ殿下は私をジィッと見た後、シーダを見て魔質を歪ませている。嫉妬、憎悪…負の感情がいっぱいで気持ち悪い。魔質が似ているってことは魔力量も相当あるわけで、魔圧に当てられそうで、思わずよろめいてしまった。

しかしよろめいた私の腰をシーダが支えてくれた。

「フンッ…冒険者の真似事をして卑しくも生き永らえているようだな…浅ましい」

いきなり口を開いたガリューシダ殿下はそう言ってシーダにものすごい魔圧をぶつけていた。

な…何だぁ?ええっおいっ!?思わず体にググッと力が入ったけど、シーダに腰を抑え込まれたので、ハッとして何とか耐えた。

「ああ、お陰さんで。しぶとく図太く生きてるよ。いい加減弱っちい殺し屋寄越すのやめろや。民の税収の無駄遣いをするな」

「やかましいわっ!」

シーダの言葉にガリューシダ殿下がすぐに怒鳴り返した。

おおぃ!?魔力値の高い者同士は魔圧上げるのは止めて…建物が壊れるよ。さっきから窓とかテーブルがブルブル震えているよ。

「卑しい身分のくせに、国のっ…私に指図するな!目障りだ!」

「だったら、もう関わんな。俺は勝手に生きてるんだ…お前も自由にしたらいい」

ああ、そうか。このやりとりで、今までのクイデ達の夜襲とかの原因がまるっと分かってしまったよ。

このガリューシダ殿下が、え~と国を追い出した?シーダに刺客を差し向けていたんだ。何だろうね…ムカムカしてきたよ。会えばこんな嫌味なこと言うくせに、殺そうとするなんて…

ああっ言いたい!リコイーダ君とギアラクさんも言いたくてうずうずしているみたいだ。さっきから握り拳を作っているリコイーダ君の手をギアラクさんが押さえているのが見えるもん。

「おいっ娘!ララーナ=レイジアンテ!」

「っひ…はぅ…っはい!」

急にガリューシダ殿下が呼びかけられて、おまけにシーダに声が似ているもんだからあわてて返事をして、舌を噛んでしまった。

「このスリハナイデの体を早く治せ、2年も経つのに子が出来ぬのだ!」

え?ええ?スリハナイデ妃はガリューシダ殿下の後ろに静かに立っていたが…ガリューシダ殿下に引っぱり出されるように前に出されて、少したたらを踏んでいた。

「早うせいっ。きっとこの腹が悪いのだ。さっさと治せ」

スリハナイデ妃は真っ青になってブルブル震えている…この腹って…不妊症とか子宮の病気の事を言っているんだよね…何て酷い言い方…好きで病気になるんじゃないし。こんな大勢の人がいる前で罵っていいことじゃないよ。

やっぱりこのシーダの弟だかお兄さんだかは、魔質も歪んでるけど根性もひん曲がってるよ。

私は…真っ青になって震えているスリハナイデ妃を視た。頭の先から爪先まで視て…お腹もじっくりと視た。

そして、ガリューシダ殿下を視た…全ての原因が分かった。一瞬、どう言おうか迷っていたら…私の反応で気が付いたのだろう、シーダが私の耳元で囁いた。

「ララーナ、お前の奇跡の使い手としての矜恃は何だ?相手が何者でも関係ないだろう?」

私はシーダを見て、そしてガリューシダ殿下を見てから、スリハナイデ妃をもう一度視た。

私は息を吸い込んでから、皆に聞こえるように大きな声で叫んだ。

「スリハナイデ妃は、健康体です」
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