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旅路
矛と過去3
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スリハナイデ妃は、真っ青な顔のまま私を見詰めた。そして叫ばれた。
「そ…そんな訳はない!早く治してっ…私の体が腹が悪くて子が出来な…」
不敬だけど、私はスリハナイデ妃の言葉を遮った。これは同じ女として声を大にして言いたい。女性ばかりが悪い訳じゃないんだからっ!
「スリハナイデ妃はご健康体です。どこも悪い所は御座いません」
「な…何を申すかっ!じゃあ何故子が出来ん?!げ、現に…おいっ!側妃を連れて参れ!」
ガリューシダ殿下が叫んで侍従に指示した。
そくひ?側妃のこと?もしかしてシーダの兄弟(確定)の愛人をここに呼ぶの?
うわ………っ引くわ。本妻の前に愛人連れて来るの?人間性疑うわ。思わず酸っぱい目でスィーダレン殿下とシーダをチラチラと見てしまった。見られた2人は私から目を逸らした。
やがてゾロゾロと派手な女性達がやって来てそれぞれに子供を数人連れている。
「見ろっ!私は側妃とは子を成している!だからスリハナイデの腹が悪いのだ!」
側妃って3人もいるんだ…。私はブルブル震える体に何とか力を入れると、息を吸い込んだ。
私の横でシーダが腰を強く支えてくれた。
「大丈夫だ」
シーダの方が大丈夫じゃないくらい魔質がグルグルしているのに、表面上はいつも通りの顔色のシーダだった。
私の肩をスィーダレン殿下が叩いてくれた。
怖くない!
「健康体でなく、ご病気なのはガリューシダ殿下です」
貴賓室の中は一瞬静かになったが、すぐに側妃の女性達の甲高い笑い声に包まれた。
「ああ、おかしい!現に私達はこのように子を成しているじゃないの!?」
「本当よっ!スリハナイデ妃のお体が…ねぇ?」
側妃の1人はスリハナイデ妃のお腹の辺りをチラッと見て嘲笑っている。
同じ女性なのにっ!
「貴女方の連れているお子さんはガリューシダ殿下のお子さんではありません」
側妃の3人は一斉に真顔になった。
そう…誰1人として今、連れている子供達からガリューシダ殿下やシーダに似た魔質は感じない。
私は部屋の隅に立っている侍従っぽい男性を見た。その男性と目が合ったがすぐ逸らされた。
子供の1人の種はあそこにいるよ。
喉から声が出そうになったが何とか堪えた。
「な、何を言う……娘っ!貴様っ不敬だぞ!」
ガリューシダ殿下がそう言って一歩踏み込んだら、廊下にいた近衛の方々が扉の中から雪崩れ込んで来た。
ああ、嫌だよ。この中に子供の父親がいるじゃん。私は父親の近衛達を1人1人じっくりと睨んでやった。
父親達はことごとく視線を逸らした。ああ、これあれだ。
ガリューシダ殿下が病気なのは皆は知っているんだ。恐らく無精子病とか、その辺りの男性の生殖機能不全だ。
だけど、ガリューシダ殿下が病気だとは皆言えないんだ。だけど子供が出来ないと、ガリューシダ殿下が不審がるとマズイと思い、適当……か どうかは分からないが近衛や侍従との間に子供を作ったんだ。
こんなの間違っている。
「ガリューシダ殿下は生殖機能不全のご病気を患っておいでです。それにもう一度言いますとそこの子供達と殿下は一切血の繋がりはございません。父親は誰だと聞かれたら、すぐにお答え出来ます」
私がそう言うと、顔色を変えて後退りしている男達が数名、目の端に見えた。
シーダが鋭くその男達に目をやっている。
「私が病気だと……?何を戯言を!我が国には奇跡の使い手が3名おるのだ。皆が口を揃えてスリハナイデが病気だ、自分達の手に負えん。協会から使い手を呼べと言いおったのだ」
ちっ……この国にいる奇跡の使い手も腐っているのかな。私に何もかも擦り付けるつもりか?
「奇跡の使い手第4条に、診察における病状判断で虚偽捏造を故意に致した場合、奇跡の使い手の資格剥奪の処罰が下されます。その3名の使い手は本日を持って、使い手ではなく只の治療術師になりました」
スィーダレン殿下が静かに口を開き、そう宣言した。
その時廊下からローブを纏った男性2名と女性1名が飛び込んで来た。
「何を横暴な!」
「そうよっ!あなたに何の権限があって言うのよ!」
「協会に訴えてやるぞ!」
恐らくこれが奇跡の使い手の3人なんだろう。ああ…使い手なのに魔質が歪んで黒くなっている。
スィーダレン殿下はその3人に向き直ると手を振り上げた。
「スィーダレン=シアデ=ホグレイッツ、北ホグレイッツ王国の第二王子だ。冒険者ギルドと世界治療術師協会は業務提携を行い、診療業務の管理、術師の派遣、全ての権限を北ホグレイッツ王国の私が代理で執り行っている!お前達の処遇に関する決定も今は私の手に委ねられている」
奇跡の使い手の3人は、悲鳴を上げて座り込んでしまった。
何も奇跡の使い手の資格剥奪をされて治療行為が出来ない訳じゃない。治療術師の治せる範囲外の治療行為が禁止されているのだ。
つまり、先天性の疾患、不治の病、身体の欠損…これら以外にも重篤な病例の場合、普通の治療術師の資格で診療行為を行ってはいけないのだ。もし行った場合、速やかに協会に申し出て適切な治療だったのか審議が行われる。
勿論、適切な治療で患者が完治しておれば協会からお咎めもないし、奇跡の使い手の資格試験を受ける様に薦められるだけなのだ。
しかし資格を剥奪されるのは訳が違う。
何故剥奪されたのか、就職する際には提示する必要があるし、協会の紹介状が無ければマトモな就職先に就けない。
スィーダレン殿下はそう力強く宣言した後、まだ真っ青な顔のまま涙を流している、スリハナイデ妃に手を差し向けた。
「スリハナイデ=アフィランシテ元王女殿下、あなたは子が成せぬと言われておられるが、それはガリューシダ殿下から離れられる正統な理由にはなりませんか?」
スィーダレン殿下はそう言って女子達を虜にしそうな微笑みをスリハナイデ妃に向けた。案の定、スィーダレン殿下の微笑みの射程距離範囲に居た、側妃達3人は顔を真っ赤にしてきゃあ、なんて叫んじゃっている。
スリハナイデ妃はハッ…として目を見開くと、ゆっくりとガリューシダ殿下の方を見た。
「ガリューシダ殿下…私は子を成せそうにありません。こんな私と…り、離縁して頂けますでしょうか?」
スリハナイデ妃は今までずっと側妃に苛められていたのかもしれない。お1人だけ子供がいない…それは姑息な手段に出ないで、不妊にじっと耐えていたのではないか。
こんな調子でガリューシダ殿下になじられて、怒鳴られて…
ガリューシダ殿下は高笑いをした。
「は…ははっ、そうかっそうだな!子の成せぬ妃など用は無いわ。ああ、離縁しよう!」
スリハナイデ妃は顔を覆って泣き出してしまった。私は耐え切れずにスリハナイデ妃に駆け寄ってしまった。
不敬だとは思うがスリハナイデ妃に抱き付き、背中を擦りながら
「スリハナイデ様はご健康体で御座います。いつでも元気な御子を御産みになれる健勝なお体をお持ちですよ」
そう言って回復魔法と治療魔法を同時にスリハナイデ様にかけた。
スリハナイデ様のやつれて疲れたお顔が、桃色の肌に変わる。スリハナイデ様は小声で、ありがとうありがとう…と呟かれていた。
「お国に帰るのが気鬱なら、北ホグレイッツにお越しになられると宜しいですよ?私もおりますし、そこの使い手のララーナもおります」
スィーダレン殿下も近付いて来られてそう、声をかけられた。
さて問題はまだ残っている。私はキリリとガリューシダ殿下を睨んだ。不敬だけど睨んでやった。
「ガリューシダ殿下、何度も申しますがガリューシダ殿下が不妊症の病にかかっています。早急に治療をお勧めします」
ガリューシダ殿下はまた魔圧を上げて、私にぶつけようとした。おおっと?私にソレは効かないよ?すぐに魔物理防御障壁をスリハナイデ様ごと張った。
スィーダレン殿下が障壁の外へ弾き飛ばされてしまったけど、殿下なら何とかされるでしょう。
ララーナ酷いよ!と聞こえたけど無視無視…
「病気だっていうんだから、大人しく治療受けとけよ」
今の今まで黙っていたシーダが、ガリューシダ殿下に声をかけた。
「何だと…この私が、そんな女のような病を…」
「病気は貴賤問わず誰にでも起こるものだ。それこそ男女の差もねぇ。なりたくてなる奴なんていねぇ。お前がその病にかかったところで、すぐに治せる手立てがある。それこそ民を見てみろ、お前の様にすぐになんて治せない。もしかすると一生治せないこともある。お前が病から逃げてどうするんだ」
ああっシーダ!格好いい!あれ私の彼氏だよ!……ああ、でもさこの威風堂々とした感じ。ここに来て発覚してしまったけれどシーダって王族なんだ。
でもおかしいよね。そこのガリューシダ殿下と父親も母親も同じ人から産まれた兄弟なのに…
すると、廊下の向こうが騒がしくなって初老のご婦人と男性が入って来た。着ている衣裳の豪華さから察するに国王陛下と国王妃なのだろうか。
あれ?国王陛下ははっきり言ってシーダとガリューシダ殿下の未来の姿…ってなぐらいに似ているおじさんなのだけど…あの人が国王妃?
んん?思わずシーダとガリューシダ殿下の魔質をもう一度確かめてしまう。やっぱりそうだ…
でもシーダに疑問も質問もホグレイッツに帰ってから!と言われているので、黙ることにした。
「あなたっ…何の用なの汚らわしい!卑しい女の子はこの城には入れませんよ…近衛っ早くこの下賤の男を追い出して!」
室内に入って来るなり、そう騒ぐ国王妃?だよね。この人…。思わずシーダの完全にパパだろう人の顔を見てしまう。目が合った…そして逸らされた。
う~んこれも質問疑問として後で纏めて聞くことにしよう。
何だかさっきからシーダに対する当たりが強いのに慣れちゃって、ふーんまたか、と思っている私がいる。
「分かりました、すぐに城を出ますので」
わおっシーダが丁寧な話し方だ!すると、国王陛下がちょっと慌てたようにしてシーダに声をかけた。
「しばし待て…。こちらへ来い」
「陛下っ!」
金切り声を上げる国王妃をチラリと見てから、国王陛下はスィーダレン殿下も見て
「北ホグレイッツ王国、スィーダレン王子殿下。御見苦しい所をお見せして失礼した。どうぞこちらへ」
と言って私達を促した。
まだ後ろで国王妃とガリューシダ殿下が何か言っているけど、スリハナイデ様も慌てて一緒に出て来られた。
「私…すぐにでも離縁の手続きをお願いしたいのですが…」
スリハナイデ様がそう国王陛下に仰ると、国王陛下は泣きそうな顔をされた。
「そうか…すまなかった。本当にすまなかった…」
廊下にはさっきから気になっていた顔に傷のあるおじ様と同じ服の軍人さんのお兄様達が沢山いて、シーダがそのお兄様達に取り囲まれていた。
「ラガシーダ殿下」
「ラガシーダ殿下…お戻りにはならないのですか?」
うわわっ!分かっちゃいたけど、シーダの正式名称?がラガシーダなのね。私と共にリコイーダ君もちょっと慄いている。
「息災か?ラガシーダ」
あのおじ様がシーダに近付いて来て、なるほど…と思った。骨格…似ているな~背の高さもほぼ一緒。
ギアラクさんが気が付いたみたいで、私と目が合うとおじ様とシーダを指差しながら、何だか頷いている。私も頷き返した。
シーダは国王陛下に向き直った。
「あ…兎に角ガリューシダ殿下さ、病気だと思うから早く説得して治療するほうがいいと思う」
国王陛下は私をご覧になった。緊張するよ!シーダのおじ様バージョンだもん。イケオジだよ!
「奇跡の使い手の娘よ…」
「はぁいぃ!」
「遠路遥々ご苦労だった…。その目で視て色々と気付かれたかと思うが他言無用で頼む」
「勿論です。診療及びそれに準ずる患者様の個人情報は決して口外致しません」
国王陛下はシーダを再び見詰めた。
「ラガシーダ、いつもすまんな」
「いい加減にしろ…とは思うが、あいつだってもう分かってると思うけどな。しかしララーナに何かしたらただじゃおかねえから」
国王陛下は私を見て、少し微笑みを浮かべた。
「好みが似ている…私も目を奪われた」
「触んじゃねぇぞ…」
シーダと国王陛下がボソボソと会話をしているが、何だかそんなに悲壮な感じではない。
ああ、早く色々聞きたいよ!ウズウズするね。
「取り敢えず帰るわ~」
「今は北ホグレイッツ王国に居るのか?」
「暫く居るわ」
国王陛下と顔に傷のあるおじ様とシーダの3人で何かをゴソゴソ喋った後、シーダは私の所に戻って来た。
「全く、くたびれただけで、ただ働きじゃねえか」
シーダが私みたいなことを言っている。
私達は国王陛下や沢山の軍人さんとスリハナイデ様に見送られて転移した。
「そ…そんな訳はない!早く治してっ…私の体が腹が悪くて子が出来な…」
不敬だけど、私はスリハナイデ妃の言葉を遮った。これは同じ女として声を大にして言いたい。女性ばかりが悪い訳じゃないんだからっ!
「スリハナイデ妃はご健康体です。どこも悪い所は御座いません」
「な…何を申すかっ!じゃあ何故子が出来ん?!げ、現に…おいっ!側妃を連れて参れ!」
ガリューシダ殿下が叫んで侍従に指示した。
そくひ?側妃のこと?もしかしてシーダの兄弟(確定)の愛人をここに呼ぶの?
うわ………っ引くわ。本妻の前に愛人連れて来るの?人間性疑うわ。思わず酸っぱい目でスィーダレン殿下とシーダをチラチラと見てしまった。見られた2人は私から目を逸らした。
やがてゾロゾロと派手な女性達がやって来てそれぞれに子供を数人連れている。
「見ろっ!私は側妃とは子を成している!だからスリハナイデの腹が悪いのだ!」
側妃って3人もいるんだ…。私はブルブル震える体に何とか力を入れると、息を吸い込んだ。
私の横でシーダが腰を強く支えてくれた。
「大丈夫だ」
シーダの方が大丈夫じゃないくらい魔質がグルグルしているのに、表面上はいつも通りの顔色のシーダだった。
私の肩をスィーダレン殿下が叩いてくれた。
怖くない!
「健康体でなく、ご病気なのはガリューシダ殿下です」
貴賓室の中は一瞬静かになったが、すぐに側妃の女性達の甲高い笑い声に包まれた。
「ああ、おかしい!現に私達はこのように子を成しているじゃないの!?」
「本当よっ!スリハナイデ妃のお体が…ねぇ?」
側妃の1人はスリハナイデ妃のお腹の辺りをチラッと見て嘲笑っている。
同じ女性なのにっ!
「貴女方の連れているお子さんはガリューシダ殿下のお子さんではありません」
側妃の3人は一斉に真顔になった。
そう…誰1人として今、連れている子供達からガリューシダ殿下やシーダに似た魔質は感じない。
私は部屋の隅に立っている侍従っぽい男性を見た。その男性と目が合ったがすぐ逸らされた。
子供の1人の種はあそこにいるよ。
喉から声が出そうになったが何とか堪えた。
「な、何を言う……娘っ!貴様っ不敬だぞ!」
ガリューシダ殿下がそう言って一歩踏み込んだら、廊下にいた近衛の方々が扉の中から雪崩れ込んで来た。
ああ、嫌だよ。この中に子供の父親がいるじゃん。私は父親の近衛達を1人1人じっくりと睨んでやった。
父親達はことごとく視線を逸らした。ああ、これあれだ。
ガリューシダ殿下が病気なのは皆は知っているんだ。恐らく無精子病とか、その辺りの男性の生殖機能不全だ。
だけど、ガリューシダ殿下が病気だとは皆言えないんだ。だけど子供が出来ないと、ガリューシダ殿下が不審がるとマズイと思い、適当……か どうかは分からないが近衛や侍従との間に子供を作ったんだ。
こんなの間違っている。
「ガリューシダ殿下は生殖機能不全のご病気を患っておいでです。それにもう一度言いますとそこの子供達と殿下は一切血の繋がりはございません。父親は誰だと聞かれたら、すぐにお答え出来ます」
私がそう言うと、顔色を変えて後退りしている男達が数名、目の端に見えた。
シーダが鋭くその男達に目をやっている。
「私が病気だと……?何を戯言を!我が国には奇跡の使い手が3名おるのだ。皆が口を揃えてスリハナイデが病気だ、自分達の手に負えん。協会から使い手を呼べと言いおったのだ」
ちっ……この国にいる奇跡の使い手も腐っているのかな。私に何もかも擦り付けるつもりか?
「奇跡の使い手第4条に、診察における病状判断で虚偽捏造を故意に致した場合、奇跡の使い手の資格剥奪の処罰が下されます。その3名の使い手は本日を持って、使い手ではなく只の治療術師になりました」
スィーダレン殿下が静かに口を開き、そう宣言した。
その時廊下からローブを纏った男性2名と女性1名が飛び込んで来た。
「何を横暴な!」
「そうよっ!あなたに何の権限があって言うのよ!」
「協会に訴えてやるぞ!」
恐らくこれが奇跡の使い手の3人なんだろう。ああ…使い手なのに魔質が歪んで黒くなっている。
スィーダレン殿下はその3人に向き直ると手を振り上げた。
「スィーダレン=シアデ=ホグレイッツ、北ホグレイッツ王国の第二王子だ。冒険者ギルドと世界治療術師協会は業務提携を行い、診療業務の管理、術師の派遣、全ての権限を北ホグレイッツ王国の私が代理で執り行っている!お前達の処遇に関する決定も今は私の手に委ねられている」
奇跡の使い手の3人は、悲鳴を上げて座り込んでしまった。
何も奇跡の使い手の資格剥奪をされて治療行為が出来ない訳じゃない。治療術師の治せる範囲外の治療行為が禁止されているのだ。
つまり、先天性の疾患、不治の病、身体の欠損…これら以外にも重篤な病例の場合、普通の治療術師の資格で診療行為を行ってはいけないのだ。もし行った場合、速やかに協会に申し出て適切な治療だったのか審議が行われる。
勿論、適切な治療で患者が完治しておれば協会からお咎めもないし、奇跡の使い手の資格試験を受ける様に薦められるだけなのだ。
しかし資格を剥奪されるのは訳が違う。
何故剥奪されたのか、就職する際には提示する必要があるし、協会の紹介状が無ければマトモな就職先に就けない。
スィーダレン殿下はそう力強く宣言した後、まだ真っ青な顔のまま涙を流している、スリハナイデ妃に手を差し向けた。
「スリハナイデ=アフィランシテ元王女殿下、あなたは子が成せぬと言われておられるが、それはガリューシダ殿下から離れられる正統な理由にはなりませんか?」
スィーダレン殿下はそう言って女子達を虜にしそうな微笑みをスリハナイデ妃に向けた。案の定、スィーダレン殿下の微笑みの射程距離範囲に居た、側妃達3人は顔を真っ赤にしてきゃあ、なんて叫んじゃっている。
スリハナイデ妃はハッ…として目を見開くと、ゆっくりとガリューシダ殿下の方を見た。
「ガリューシダ殿下…私は子を成せそうにありません。こんな私と…り、離縁して頂けますでしょうか?」
スリハナイデ妃は今までずっと側妃に苛められていたのかもしれない。お1人だけ子供がいない…それは姑息な手段に出ないで、不妊にじっと耐えていたのではないか。
こんな調子でガリューシダ殿下になじられて、怒鳴られて…
ガリューシダ殿下は高笑いをした。
「は…ははっ、そうかっそうだな!子の成せぬ妃など用は無いわ。ああ、離縁しよう!」
スリハナイデ妃は顔を覆って泣き出してしまった。私は耐え切れずにスリハナイデ妃に駆け寄ってしまった。
不敬だとは思うがスリハナイデ妃に抱き付き、背中を擦りながら
「スリハナイデ様はご健康体で御座います。いつでも元気な御子を御産みになれる健勝なお体をお持ちですよ」
そう言って回復魔法と治療魔法を同時にスリハナイデ様にかけた。
スリハナイデ様のやつれて疲れたお顔が、桃色の肌に変わる。スリハナイデ様は小声で、ありがとうありがとう…と呟かれていた。
「お国に帰るのが気鬱なら、北ホグレイッツにお越しになられると宜しいですよ?私もおりますし、そこの使い手のララーナもおります」
スィーダレン殿下も近付いて来られてそう、声をかけられた。
さて問題はまだ残っている。私はキリリとガリューシダ殿下を睨んだ。不敬だけど睨んでやった。
「ガリューシダ殿下、何度も申しますがガリューシダ殿下が不妊症の病にかかっています。早急に治療をお勧めします」
ガリューシダ殿下はまた魔圧を上げて、私にぶつけようとした。おおっと?私にソレは効かないよ?すぐに魔物理防御障壁をスリハナイデ様ごと張った。
スィーダレン殿下が障壁の外へ弾き飛ばされてしまったけど、殿下なら何とかされるでしょう。
ララーナ酷いよ!と聞こえたけど無視無視…
「病気だっていうんだから、大人しく治療受けとけよ」
今の今まで黙っていたシーダが、ガリューシダ殿下に声をかけた。
「何だと…この私が、そんな女のような病を…」
「病気は貴賤問わず誰にでも起こるものだ。それこそ男女の差もねぇ。なりたくてなる奴なんていねぇ。お前がその病にかかったところで、すぐに治せる手立てがある。それこそ民を見てみろ、お前の様にすぐになんて治せない。もしかすると一生治せないこともある。お前が病から逃げてどうするんだ」
ああっシーダ!格好いい!あれ私の彼氏だよ!……ああ、でもさこの威風堂々とした感じ。ここに来て発覚してしまったけれどシーダって王族なんだ。
でもおかしいよね。そこのガリューシダ殿下と父親も母親も同じ人から産まれた兄弟なのに…
すると、廊下の向こうが騒がしくなって初老のご婦人と男性が入って来た。着ている衣裳の豪華さから察するに国王陛下と国王妃なのだろうか。
あれ?国王陛下ははっきり言ってシーダとガリューシダ殿下の未来の姿…ってなぐらいに似ているおじさんなのだけど…あの人が国王妃?
んん?思わずシーダとガリューシダ殿下の魔質をもう一度確かめてしまう。やっぱりそうだ…
でもシーダに疑問も質問もホグレイッツに帰ってから!と言われているので、黙ることにした。
「あなたっ…何の用なの汚らわしい!卑しい女の子はこの城には入れませんよ…近衛っ早くこの下賤の男を追い出して!」
室内に入って来るなり、そう騒ぐ国王妃?だよね。この人…。思わずシーダの完全にパパだろう人の顔を見てしまう。目が合った…そして逸らされた。
う~んこれも質問疑問として後で纏めて聞くことにしよう。
何だかさっきからシーダに対する当たりが強いのに慣れちゃって、ふーんまたか、と思っている私がいる。
「分かりました、すぐに城を出ますので」
わおっシーダが丁寧な話し方だ!すると、国王陛下がちょっと慌てたようにしてシーダに声をかけた。
「しばし待て…。こちらへ来い」
「陛下っ!」
金切り声を上げる国王妃をチラリと見てから、国王陛下はスィーダレン殿下も見て
「北ホグレイッツ王国、スィーダレン王子殿下。御見苦しい所をお見せして失礼した。どうぞこちらへ」
と言って私達を促した。
まだ後ろで国王妃とガリューシダ殿下が何か言っているけど、スリハナイデ様も慌てて一緒に出て来られた。
「私…すぐにでも離縁の手続きをお願いしたいのですが…」
スリハナイデ様がそう国王陛下に仰ると、国王陛下は泣きそうな顔をされた。
「そうか…すまなかった。本当にすまなかった…」
廊下にはさっきから気になっていた顔に傷のあるおじ様と同じ服の軍人さんのお兄様達が沢山いて、シーダがそのお兄様達に取り囲まれていた。
「ラガシーダ殿下」
「ラガシーダ殿下…お戻りにはならないのですか?」
うわわっ!分かっちゃいたけど、シーダの正式名称?がラガシーダなのね。私と共にリコイーダ君もちょっと慄いている。
「息災か?ラガシーダ」
あのおじ様がシーダに近付いて来て、なるほど…と思った。骨格…似ているな~背の高さもほぼ一緒。
ギアラクさんが気が付いたみたいで、私と目が合うとおじ様とシーダを指差しながら、何だか頷いている。私も頷き返した。
シーダは国王陛下に向き直った。
「あ…兎に角ガリューシダ殿下さ、病気だと思うから早く説得して治療するほうがいいと思う」
国王陛下は私をご覧になった。緊張するよ!シーダのおじ様バージョンだもん。イケオジだよ!
「奇跡の使い手の娘よ…」
「はぁいぃ!」
「遠路遥々ご苦労だった…。その目で視て色々と気付かれたかと思うが他言無用で頼む」
「勿論です。診療及びそれに準ずる患者様の個人情報は決して口外致しません」
国王陛下はシーダを再び見詰めた。
「ラガシーダ、いつもすまんな」
「いい加減にしろ…とは思うが、あいつだってもう分かってると思うけどな。しかしララーナに何かしたらただじゃおかねえから」
国王陛下は私を見て、少し微笑みを浮かべた。
「好みが似ている…私も目を奪われた」
「触んじゃねぇぞ…」
シーダと国王陛下がボソボソと会話をしているが、何だかそんなに悲壮な感じではない。
ああ、早く色々聞きたいよ!ウズウズするね。
「取り敢えず帰るわ~」
「今は北ホグレイッツ王国に居るのか?」
「暫く居るわ」
国王陛下と顔に傷のあるおじ様とシーダの3人で何かをゴソゴソ喋った後、シーダは私の所に戻って来た。
「全く、くたびれただけで、ただ働きじゃねえか」
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以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
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毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
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