ハイロイン

ハイロインofficial

文字の大きさ
16 / 111
第二章

7

しおりを挟む
 校内で男子学生が裸でうろつくことはそう珍しくない。特に体育の授業の後はよくある。だが百パーセントの人間が振り返るのは顧海だけだろう。彼の筋肉美はファッションショーのランウェイを歩けるレベルだ。男なら誰でも嫉妬する。
 教室に戻ってからも顧海グー・ハイは話題の的だった。周囲からの視線を浴びて、顧海はあわててランニングを着ようとする。わざと裸を見せびらかしていると思われそうだったからだ。
 ランニングに腕を通した後に頭を入れようとしたが……
 頭が入らない。ちっとも入らない!
 あれ? 何故入らないんだ? 頭を入れる場所を間違えたのか?
 脱いで腿の上に広げてみると、重大な問題が発覚した。
 俺のランニングにはどうして二つしか穴がないんだ?
 襟は? 襟口はどこにいった?
 顧海はあわてて探したが、彼の目に映ったのはびっしりと黒糸で縫い付けられた襟口で、その様子はまるで雨が降る前の蟻の群れのようだった。見ているだけで背筋がぞわっとする。
 襟口が縫い付けられたら一体どうやって首を通せばいいんだ?
 顧海はしばらくぼんやりしていたが、ハッと気づいて引き出しの中を探った。
 黒い糸と針が無くなっている。
 白洛因バイ・ロインがいるはずの場所を見たが、誰もいない。振り返ると、後ろの扉に笑いをこらえているような顔が見えた。彼がいつからそこに立っていたのかはわからないが表情から察するに、彼がもがく姿を一部始終楽しんでいたのだろう。
 白洛因は顧海の視線をまったく気にせず悠々と自分の席に戻り、黙り込んだ。そしてしばらく沈黙を保っていたが、突然……
「はははははははは」
 こらえきれなくなったのか、笑いながら机の上に倒れ伏した。
 前にいる尤其ヨウ・チーは面食らった。これまで白洛因のこんな痛快な笑い声は聞いたことがない。振り返ると白洛因は笑いすぎて涙を流しながら机を叩いている。もはや自分の感情を抑えることができなくなっているようだった。
「一体何があったんだ?」
 尤其の質問にも一切反応せず、白洛因はただひたすら笑っている。
 やってくれるじゃないか。
 これまでの顧海ならとっくに白洛因を殴り飛ばしていただろう。だがなぜか白洛因がここまで楽しそうにしている姿を見て、突然泣くに泣けず、笑うに笑えない気分に襲われた。
 誰が責められる?
 針と糸は自分が持ってきたものだし、彼の服も自分が切り裂いた。相手が反撃したからといって文句は言えない。
 とにかく急いで糸を解こう。こんなことになると知っていたら、ここまでしっかりとした糸を買わなかったのに。顧海はあちこちにカッターを貸せと言って回った。



 授業開始のチャイムが鳴り、起立礼を終えて座っても、顧海グー・ハイはずっと服と格闘していた。縫い目は細かく、長い時間をかけてやっと小さな隙間が生まれた。
 授業は化学の時間だった。化学の教師は五十過ぎの女性で、厳格な上に頭も固い。教壇に立って教室を見回した後、顧海にぴたりと照準を合わせた。
「一番後ろのそこの男子、裸で授業は受けさせませんよ!」
 その場にいる全員の視線が顧海に注がれたが、そこには別の含みもあることを顧海は感じ取っていた。体育の授業で自分をひけらかしただけでなく、教室でもカッコつけるなんて恥ずかしくないのか?
「先生、ちょっと服に問題があるんですが、すぐに直します」
 そう言って顧海は糸を切ることに専念した。だが縫い目はめちゃくちゃであらゆるところが縫い留められていたため、糸を切るのはとにかく大変だった。
十分が過ぎても半分ほどしかほどけない。
「そこの学生、裸でいるのが好きなら教室の外に出なさい。あなたが人からどう見られようがかまわないけど、私の教室では許しません。私が授業を行う重大な妨げになります」
 力任せに糸を千切ったとき、顧海は白洛因バイ・ロインが肩を震わせていることに気づいた。
「おまえ一体どれだけ縫ったんだよ」
「おまえが懸垂をした回数分だよ」
「くそったれ!」
 顧海は死にたい気分になった。なんでこんなにたくさん縫った? 全身汗だくになって教室に戻ったうえに、さらに一杯食わされるなんて!
 白洛因は腹をさすった。残しておいた体力は笑いすぎてなくなった。午前の授業が終わっても家に帰れる体力が残っているかどうかわからない。
 顧海はついに教室を出て、廊下に立って授業が終わるまで糸を切り続け、なんとか首が入るくらいの隙間を開けた。
 しかしランニングはひどい有様だった。自分が買った針は太すぎたうえに、大急ぎで糸を切ったのでやり方は粗く、襟口が穴だらけになっている!
 終了のチャイムと同時に教室に戻ると、白洛因は机の上の荷物を片付けているところだったが、顧海を見てこっそりほくそえんでいる。
 顧海は白洛因の首を荒々しく掴み、凶悪な目で顔を覗き込んだ。
「お前、ついに笑ったな」
「これまでもずっと笑ってたぞ!」
 そう答えた途端、彼の惨状が目に入り、またこらえきれず大笑いする。
 顧海は白洛因を突き飛ばした。
「笑いたければ好きなだけ笑え!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

バスケ部のイケメン先輩に誘惑されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 他にも書きたいのがいっぱいある。

先輩たちの心の声に翻弄されています!

七瀬
BL
人と関わるのが少し苦手な高校1年生・綾瀬遙真(あやせとうま)。 ある日、食堂へ向かう人混みの中で先輩にぶつかった瞬間──彼は「触れた相手の心の声」が聞こえるようになった。 最初に声を拾ってしまったのは、対照的な二人の先輩。 乱暴そうな俺様ヤンキー・不破春樹(ふわはるき)と、爽やかで優しい王子様・橘司(たちばなつかさ)。 見せる顔と心の声の落差に戸惑う遙真。けれど、彼らはなぜか遙真に強い関心を示しはじめる。 **** 三作目の投稿になります。三角関係の学園BLですが、なるべくみんなを幸せにして終わりますのでご安心ください。 ご感想・ご指摘など気軽にコメントいただけると嬉しいです‼️

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

地味な俺は、メイクしてくるあいつから逃げたい!!

むいあ
BL
___「メイクするなー!帰らせろー!!」___ 俺、七瀬唯斗はお父さんとお母さん、先生の推薦によって風上高校に入ることになった高校一年生だ。 風上高校には普通科もあるが、珍しいことに、芸能科とマネージメント科、そしてスタイリスト科もあった。 俺は絶対目立ちたくないため、もちろん普通科だ。 そして入学式、俺の隣は早川茜というスタイ履修科の生徒だった。 まあ、あまり関わらないだろうと思っていた。 しかし、この学校は科が交わる「交流会」があって、早川茜のモデルに選ばれてしまって!? メイクのことになると少し強引な執着攻め(美形)×トラウマ持ちの逃げたい受け(地味な格好してる美形)

溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。 想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。 悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。 ※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。 二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

処理中です...