ハイロイン

ハイロインofficial

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第四章

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 次の日の朝早く、顧海グー・ハイはいつものように白洛因バイ・ロインを後ろに乗せて自転車で学校へ向かった。白洛因はこれまで顧海に背中を向けて座っていたのに、今日は前を向き、ハブステップに立って顧海の肩に手を置く。こうすれば前を見渡せ、顧海がわざとでこぼこ道を走るのを止められる。
 だが今日は風が強い。北京に吹く風はとても強く、砂どころか地面の埃をすべて巻き上げる。
 白洛因は背も高く風を真っ向から浴びるため、息をするだけで大量の砂が口に入って来た。
「なんで座らないんだ? お前の風避けになってやるのに」
 白洛因は顧海の肩を苦々しくつねり、何も答えなかった。
 顧海は白洛因の考えを見抜いていたので、すぐに言い添える。
「俺は絶対に小石の上を通ったりしない。安心しろ!」
「明日の土曜日、遊びに行かないか?」
「え?」
 耳元に吹き付ける風の音に車のクラクションが加わり、顧海は白洛因の声がはっきり聞こえなかった。
 白洛因はわずかに頭を下げ、できるだけ顧海の耳元に口を近づける。
「土曜日、一緒に釣りに行かないか?」
 顧海が握るハンドルはふらついたが、視線は前方を見たまま、とても難しい決定を迫られているようだった。
「用事があって行けない」
 白洛因の瞳はわずかに暗くなる。
「じゃあ仕方ないな」
 声は小さかったが、顧海にはとてもはっきり聞こえた。
「わかった。土曜日、お前のところに行く!」
 白洛因がわずかに俯くと、顧海の高い鼻梁が見える。
「たったいま行かないって言わなかったか?」
 顧海がちらりと振り返ると、白洛因のしっかりとした顎が目に入った。
「風が強かったし、お前の聞き間違いじゃないか」
 


 早朝、空は少し曇っていた。自転車をこぐと腕がひんやり寒く感じる。顧海が白洛因の家に到着したとき、彼はすでに準備を整えて戸口で待っていた。
 顧海は初めて白洛因の私服姿を見た。これまではいつも学校の制服、それも夏服を着ていたからだ。他の学生はジャージの上着を着始めているのに、白洛因はいまだにランニングだ。だからクラスメートらは白洛因の熱量がとても高いのだと思っている。だが今日は珍しく長袖を着ているので顧海はからかおうと思った。
「お前も俺たち人間みたいに暑さ寒さを知っていたんだな」
 白洛因はとても含みのある笑顔を浮かべ、釣竿を勢いよく顧海の体と足に振り下ろした。顧海のふくらはぎは火がついたように熱くなり、深く息を吸い込む。それから白洛因は顧海の自転車を家の中庭に運び込んだ。今日は徒歩で行くらしい。
 


 道中、顧海はわざと歩みを緩めて後ろから白洛因をじっくりと眺めた。街角でよく見るごく普通の服も、白洛因が着るととてもセンスがあるように思える。白洛因の顔はあどけないが、この服を着た途端に男性特有のフェロモンを感じる。
「なかなかいい服じゃないか。どこで買ったんだ?」
「父さんのだよ」
 なるほど、どうりで大人っぽいわけだ……。
「父親の服を着るのか?」
 白洛因は淡々と答えた。
「俺たち親子は服を共有するからな。俺はショッピングが嫌いだし、父さんが買ってきた服は選好みせずに着る」
 顧海は笑う。
「まさか長袖は二人で一着しかないとか言うなよ。お前が着て出かけたらお前の父さんは裸で仕事に行かなきゃならないだろう……」
 顧海の突っ込みに白洛因はとてもおおらかな冗談で返した。
「俺たちを買いかぶりすぎだ。俺たち四人家族は冬に一枚しか綿入れがないから、一人が着て行ったら残りの三人は地面の穴に埋まって暖を取るしかないんだ」
「じゃあ家には太ったお婆さんと痩せたお婆さんがいるんだな?」
 それを聞いて、白洛因はようやく楽しそうに笑う。
「お前も郭徳綱(中国伝統芸の相声で有名なコメディアン)のネタを知ってたか」
 二人は歩きながら話した。白洛因は実はとてもしゃべりがうまい。油断すると巧みな話術にうっかり嵌められてしまうので、常に頭を働かせなければならない。軽い話に聞こえても、後から深い意味が込められていることに気づくのだ。
「ついたぞ」
 白洛因は地べたに座り、さっと釣り糸の端を出し、瓶のふたを開けて餌を釣り針につけた。それから比較的平らな場所を探して浮きを投げて座る。顧海も白洛因のいるほうへ歩いていく。
 ここは天然の池で、小さいが水質は悪くない。養殖ではないので魚も大きいものはいない。だいたい十センチ以下の小魚だ。肉は少ないが歯ごたえがある。
「釣り終えたら魚の重さで金を払うのか?」
 白洛因は呆れたように顧海を一瞥する。
「ここが釣り堀だと思うか? この近くに家なんてないぞ。どこに払いに行くんだ?」
 顧海は白洛因の頬をつねり、怒った素振りをした。
「もう少し態度をよくしろよ。口を開く前にもう不機嫌な顔になってるじゃないか」
 白洛因はつねられた頬を動かし、ゆっくり振り返った。
「言っておくが俺は誰かに頬をつねられるのが一番嫌なんだ」
 顧海はまたつねる。白洛因は苛立ち、容赦なく言い捨てた。
「お前は変態か?」
 顧海は服を開け八つに割れた腹筋を見せつけると、片頬を持ち上げ傲慢な笑みを浮かべた。
「そう見えるか?」
 白洛因は白い眼を向ける。
「筋肉自慢以外できることはないのか?」
「お前の頬をつねることだよ」
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