ハイロイン

ハイロインofficial

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第六章

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 白洛因バイ・ロインは次の授業が半分ほど過ぎてからやっと戻ってきて、顔の左半分全体を腫らしていた。特に頬骨のあたりは大きく青紫の痣になっている。
 顧海グー・ハイはそれをチラッと見ただけで後悔した。ほんの少し前には、彼に心配する価値はない、もう好きにさせておこう、これからは彼をかまうのはよそうと自分に言い聞かせたばかりだというのに、白洛因の可哀想な様子を見ればコロッと変わってしまう。何もそんなに怒ることはないんじゃないか? あんなケガをすれば誰でも機嫌が悪くなるだろう。もう少し譲ってやってもいいはずだ。見ろ、あの可哀想な様子を。慰めてやるくらいなんだ。このままじゃあまりにも冷たすぎるだろう。
 顧海が悶々としている間に白洛因は引き出しから財布を取り出し、顧海の机に放り投げた。
「お前のだ」
 声は硬く冷たかった。
 顧海にはわかった。白洛因はまだ怒っているのだ!
 顧海の心の温度はまた下がっていく。何を怒ってるんだ? お前の幼馴染をけなしたから? ついさっきまではお前に一歩譲ってやろうと思ってたのに、まだ俺に突っかかって来るのか。いいさ! そっちがその気ならもう俺に話しかけてくるな。どっちが勝つか見物だな。
 白洛因は財布を投げたものの、気分がよくなるどころかさらに苛立ちが増した。先生の話も耳に入ってこなかったが、背後からの物音にはすぐ反応する。顧海が咳をしたり机を動かしただけで神経が逆立って緊張し、落ち着くまでに時間がかかった。
 早く時間をやり過ごすために、白洛因は寝ることにした。
 だが、机に伏せた途端に息を飲む。
 机は硬い。白洛因は自分の左頬に傷があるのを忘れてそのまま机に触れてしまい、あまりの痛みに息を詰めた。急いで姿勢を変えたが、今度は腕の骨に右の唇が当たり、息をしても痛む。
 それでも彼は顔色ひとつ変えず、無理やり堪えた。
 その一挙手一投足は当然顧海の目に入る。
 白洛因が動くたびに顧海はハラハラした。だがこんなことで負けてはいけない。以前父親が彼を窓辺に押さえつけても屈服しなかったことを思えば、これくらいたいしたことではない。白洛因だって痛みをこらえて伏せているんだ。自分だって平然とした顔で後ろに座っていられないはずはない。



 放課後、白洛因はすぐに教室を出ていった。いつものように顧海を待つことはなく、まるでそんな人間はいなかったようにサッと階段を駆け下り、振り返ることさえしなかった。
 顧海は自転車に乗り、後ろからゆっくり付いて行く。
 道を掃除しているおばさんは白洛因を見ると笑いながら手を止めた。
「最近ずっと自転車で登下校してたじゃない。今日はどうしたの?」
 白洛因は無理に笑顔を作る。
「自転車が壊れたから、体を鍛えようと思って」
 このおばさんは記憶力がいいだけでなく、目も良いようで、白洛因の後ろを指さして言う。
「どこが壊れたんだい? あの子は乗ってるじゃないの」
 白洛因は振り返らず、傷ついた左頬はさらに強張りついた。
「見間違えでしょう。あの自転車じゃないですよ」
「間違えないわよ」
 おばさんは明るく笑う。
「自転車は変えても人は変えられないでしょう。間違いなくあの子よ。毎日あんたを乗せて登下校してるのを見てるもの」
 白洛因はようやく顧海を見た。
 顧海はわざと目を逸らし、簡単には許さないという空気を醸し出す。
「あらまあ、この顔はいったいどうしたんだい?」
 白洛因が振り返ったときに左頬を見られ、おばさんはケガに気づいた。
「大丈夫です。どうぞお仕事を続けてください。さようなら」



 家まで半分ほど来た頃、顧海は白洛因の左足に異変を感じた。それは速足になればなるほど顕著だった。特に人が多い交差点を急いで渡ろうとして完全に足を引きずっている。
 最後まで意地を張っていた顧海は、この瞬間ついに折れた。
 彼はペダルを踏む足に力を籠めて白洛因を追い越すと、彼の前方で猛然とブレーキを踏み、そのまま道端に自転車を放り投げる。
「なにするんだよ」
 白洛因は眉をひそめた。
 顧海は蹲り、何も言わずに白洛因のズボンの裾をまくり上げる。そこは一面赤紫に変色していた。血は固まっていたものの、中からは柔らかい肉が痛々しく露わになっている。顧海は立ち上がって自転車を起こし、重い口調で命じた。
「乗れ!」
 白洛因は無視し、冷たい顔で顧海の隣を通り過ぎた。顧海は白洛因を力づくで引き戻し、あやうく転ばせそうになる。
「なにするんだよ」
 白洛因は怒った。
「自転車に乗せようとしてるんだ!」
 顧海は怒鳴りつける。二人は黙って数秒間対峙していたが、やがて白洛因の表情は変わっていき、最後には自転車に乗った。
 道中一言も発しないまま家まで辿り着いたが、白洛因が中に入ると顧海はすぐに自転車の向きを変えて去る。白洛因はてっきり自転車を下りたら顧海は無理やり押し入ってくると思っていたのに、彼は本当にそのままどこかへ行ってしまった。



「父さん、ただいま」
 白漢旗バイ・ハンチーは息子の顔を見て茫然とし、手に持った茶碗を落として割りそうになった。
「その顔はどうしたんだ?」
 白洛因は淡々と大丈夫だと答え、浮かない表情で部屋に向かう。白漢旗は後からついていき、すべての事情を聴いてようやく安心した。だがまだ料理を火にかけている最中だったことを思い出し、あわてて部屋の外に飛び出していく。
 白洛因は部屋に一人残されたが、どうにも納得がいかなかった。顧海は本当におかしい。たった一言でそこまで癇癪を起すか? 家に来ないならそれでもいいさ。好きなところに行け。どうせあいつは金持ちなんだ。飢え死にはしないだろう!
「因子、出てきてご飯を食べなさい」
 白漢旗は外に向かって叫ぶ。
「俺は腹減ってないから、先に食べてて!」
 白漢旗は部屋に戻って来る。
「なんで腹が減ってないんだ。大海は? なんで一緒に帰ってこなかったんだ?」
「あいつは死んだから!」
「死んだ?」
 白漢旗は顔色を変えた。
「なんで死んだんだ?」
「いいよ父さん、あいつのことはほっとけよ。いいからご飯を食べてきて……」
 白洛因は父親を外へ追い出す。パソコンを立ち上げ、遊び始めてほどなくすると、外から馴染んだ声が聞こえてきた。
「おじさん、おいしそうなご飯を食べてるね。なんで俺を待っててくれなかったんだよ?」
 白漢旗はそう聞かれ、バカ正直に答える。
「うちの因子がお前は死んだって言ってたぞ」
「……」
 白洛因は大きな足音を立て、足元から火花を撒き散らしながら飛び出していく。
「誰が来ていいって言った? お前は俺にかまわないんじゃなかったのか?」
 顧海の顔にはまた何か企むような悪い笑みが戻っていた。
「俺はお前にかまいに来たわけじゃない。お前がどうしてもそう思いたいだけだろう? 俺はただおじさんやおばあちゃんに会いたかったんだよ。おばあちゃん、そうだろ?」
「うん、うん」
 白ばあちゃんはもはや自分の孫が誰なのかもわからないようだ。
 白洛因は身を翻して部屋に戻ったが、傷ついた唇の上には明らかに隠し切れない笑いが滲み出ていた。顧海はその後から部屋に入ると、持っていた薬を白洛因のベッドに投げる。それがきっと彼がすぐ家に入らなかった理由なのだろう。
「俺は医務室で薬をもらってる。なんでまたわざわざ買いに行ったんだ?」
「医務室の薬は他の人間の分と一緒に仕入れたもので、俺のはわざわざお前のために買ったものだ。同じじゃないだろう」
 そう言いながら白洛因の鞄から薬を取り出し、絆創膏もすべてゴミ箱に捨ててしまった。
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