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第七章
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朝食を食べ終えた後、彼らはどちらが清算をするのか目を合わせた。
「俺の番だ」
白洛因はズボンのポケットを探る。
「あれ? 昨日ここに金を入れたはずなのに、なんでないんだ?」
「払いたくないならそう言えよ」
顧海は白洛因をけなし、立ち上がって金を払いに行く。
実は昨晩こっそり白洛因のズボンから金を取りだしたのは顧海だった。
鄒おばさんは油条を揚げていたが、顧海が紙の箱に金を入れているのに気づいてあわてる。
「えっ、あなたたちはお金を払わなくていいわよ」
「おばさん、俺たちに気を使わないで」
二人が立ち去ろうとしたとき、突然一台の車が止まり、中から四、五人の男が出てきた。都市管理執行組織の車だった。全員手に武器を持ち、陰険な顔で朝食の屋台に向かってくる。
「まだ行くな!」
白洛因は顧海の自転車を止める。
五人の執行官たちは何も言わずにコンロやまな板、鍋や茶碗、皿やお盆などを叩き壊し始めた。それまで座っていた客らは朝食を持ってサッとその場を離れる。それは一瞬の出来事で、あっという間にあたりはめちゃくちゃになった。
坊主頭で八の字眉毛の執行官はまるでチンピラのようだった。まだ油の入っている鍋に気づくと人がいるにもかかわらず蹴り倒し、熱い油が鄒おばさんに向かってこぼれる。
「おばさん!」
白洛因は大声で叫び、駆け寄って鍋を抑えようとしたが、顧海に止められた。その結果、煮えたぎった油は鄒おばさんの足にかかる。
鄒おばさんは両目を見開いて睨みながら口元を震わせていたが、油がかかると足を抱えて蹲り、大声で泣き叫んだ。
「何するんだ!」
白洛因は声を上げて吠える。坊主頭の執行官はふんと鼻を鳴らす。
「何をしてるかって? 行政執行だよ!」
「執行は執行だろ。なんで壊すんだよ!」
白洛因の顔は怒りで真っ赤になった。
執行官は強面のやり手が選出され、彼らは普段から暴れ慣れている。だから尻の青い若造が吠えても歯牙にもかけない。
「なぜ壊すかって?」
坊主頭の執行官は砕けた魔法瓶を足で踏みつけながら答える。
「俺が壊さなきゃこのクソ婆たちはどかないだろう?」
鄒おばさんは地面に座ったまま胸も張り裂けんばかりに泣いていた。白洛因はぶるぶると拳を震わせ続け、執行官の体の皮を剥ぐように鋭い視線を向ける。我慢できず大股で飛び出そうとしたが、またも顧海に引き戻された。
白洛因は真っ赤な目で顧海を睨みつける。
「離せよ!」
顧海はひどく冷静な様子で白洛因の手を掴み、ゆっくり言い聞かせた。
「おばさんを助け起こしてやれ。俺を信じろ。お前は奴らの顔をしっかり覚えておけばいい」
鄒おばさんは泣きすぎて声が枯れていた。右足は痛みに痙攣し続けている。野次馬はたくさんいたが、誰も助けようとはしなかった。
執行官は店舗を壊し続け、古いテーブルはバラバラにされ、椅子も足を折られた。紙の箱に入った金はあたりに散らばり、鄒おばさんは焦りと恐怖で自分の周りに落ちた小銭をかき集めたが、札はすべて執行官が持ち去った。
これで数か月の血と汗と涙の結晶はすべて無駄になった。これらの設備は高いものではないが、そもそも小さな商売なので稼ぎも少ない。それに鄒おばさんは実直な人でたいした貯えもないため、店の必需品をふたたび揃えるのはとても無理だった。
鄒おばさんは地面に落ちて粉々になったものと空っぽの紙の箱を眺めた。骨を刺すような痛みはすでに麻痺し、声もなくただ涙を流し続けている。
顧海は鄒おばさんを背負う。白洛因は家に白漢旗を呼びに行った後、おばさんを病院に連れて行こうとした。
「お前たちは学校へ行け。俺一人で大丈夫だ」
白漢旗は白洛因と顧海を促す。
「大丈夫だ。心配いらない。早く行きなさい。授業をおろそかにしてはダメだ」
「父さん、俺も行くよ」
白洛因は焦燥感に駆られる。
「言うことを聞け!」
白漢旗は険しい顔になった。
鄒おばさんは顔面蒼白のまま、しゃがれた声で白洛因に言い聞かせる。
「おばさんは大丈夫だから早く学校に行きなさい」
白洛因はその場を一歩も動かず、白漢旗が電動三輪車に憔悴した鄒おばさんを乗せて去るのをじっと見ていた。
長い沈黙の後、白洛因は突然顧海の腹に重い拳を埋め込む。
「俺は納得できない!」
顧海は背筋を伸ばしたままその一発を受け止めた。
白洛因は顧海が痛みをこらえ、文句も言わず怒りもせず慰めるように自分を見る姿を目にし、わずかに気持ちが落ち着く。そして瞳に宿した怒りも徐々に鎮まっていった。
白洛因の様子に、顧海はこれまでにないほどの胸の痛みに襲われる。白洛因のこんな姿を見るくらいなら、彼に蹴られたり騙されたり罵られたりするほうがマシだった。
「お前が義憤に駆られているのはわかるけど、相手を見て手段を考えないと」
白洛因は音がするほど拳を握りしめる。
「俺は納得がいかないんだ」
「わかったよ。わかったから」
顧海は語気を緩めた。
「あいつらの顔を覚えただろう? 安心しろ。ひとりも逃がしたりしない」
白洛因は冷たく鼻を鳴らす。
「奴らは明らかに虐めに来たんだ。ここは路地の奥だ。誰の邪魔になる? いつもは執行官なんか影も見えないのに、今日はいきなりやってきてめちゃくちゃに壊していきやがった……」
顧海は白洛因の肩に腕を回し、背中を叩いて宥める。
「あんな奴らは相手にするな」
白洛因は顧海を押しのけ、微妙に表情を変える。
「誰がやったのかわかったぞ」
「彼女に会いに行くのはやめろ」
顧海は白洛因の手を強く掴んで止める。
「俺の言うことを聞け。彼女には会いに行くな!」
「俺の番だ」
白洛因はズボンのポケットを探る。
「あれ? 昨日ここに金を入れたはずなのに、なんでないんだ?」
「払いたくないならそう言えよ」
顧海は白洛因をけなし、立ち上がって金を払いに行く。
実は昨晩こっそり白洛因のズボンから金を取りだしたのは顧海だった。
鄒おばさんは油条を揚げていたが、顧海が紙の箱に金を入れているのに気づいてあわてる。
「えっ、あなたたちはお金を払わなくていいわよ」
「おばさん、俺たちに気を使わないで」
二人が立ち去ろうとしたとき、突然一台の車が止まり、中から四、五人の男が出てきた。都市管理執行組織の車だった。全員手に武器を持ち、陰険な顔で朝食の屋台に向かってくる。
「まだ行くな!」
白洛因は顧海の自転車を止める。
五人の執行官たちは何も言わずにコンロやまな板、鍋や茶碗、皿やお盆などを叩き壊し始めた。それまで座っていた客らは朝食を持ってサッとその場を離れる。それは一瞬の出来事で、あっという間にあたりはめちゃくちゃになった。
坊主頭で八の字眉毛の執行官はまるでチンピラのようだった。まだ油の入っている鍋に気づくと人がいるにもかかわらず蹴り倒し、熱い油が鄒おばさんに向かってこぼれる。
「おばさん!」
白洛因は大声で叫び、駆け寄って鍋を抑えようとしたが、顧海に止められた。その結果、煮えたぎった油は鄒おばさんの足にかかる。
鄒おばさんは両目を見開いて睨みながら口元を震わせていたが、油がかかると足を抱えて蹲り、大声で泣き叫んだ。
「何するんだ!」
白洛因は声を上げて吠える。坊主頭の執行官はふんと鼻を鳴らす。
「何をしてるかって? 行政執行だよ!」
「執行は執行だろ。なんで壊すんだよ!」
白洛因の顔は怒りで真っ赤になった。
執行官は強面のやり手が選出され、彼らは普段から暴れ慣れている。だから尻の青い若造が吠えても歯牙にもかけない。
「なぜ壊すかって?」
坊主頭の執行官は砕けた魔法瓶を足で踏みつけながら答える。
「俺が壊さなきゃこのクソ婆たちはどかないだろう?」
鄒おばさんは地面に座ったまま胸も張り裂けんばかりに泣いていた。白洛因はぶるぶると拳を震わせ続け、執行官の体の皮を剥ぐように鋭い視線を向ける。我慢できず大股で飛び出そうとしたが、またも顧海に引き戻された。
白洛因は真っ赤な目で顧海を睨みつける。
「離せよ!」
顧海はひどく冷静な様子で白洛因の手を掴み、ゆっくり言い聞かせた。
「おばさんを助け起こしてやれ。俺を信じろ。お前は奴らの顔をしっかり覚えておけばいい」
鄒おばさんは泣きすぎて声が枯れていた。右足は痛みに痙攣し続けている。野次馬はたくさんいたが、誰も助けようとはしなかった。
執行官は店舗を壊し続け、古いテーブルはバラバラにされ、椅子も足を折られた。紙の箱に入った金はあたりに散らばり、鄒おばさんは焦りと恐怖で自分の周りに落ちた小銭をかき集めたが、札はすべて執行官が持ち去った。
これで数か月の血と汗と涙の結晶はすべて無駄になった。これらの設備は高いものではないが、そもそも小さな商売なので稼ぎも少ない。それに鄒おばさんは実直な人でたいした貯えもないため、店の必需品をふたたび揃えるのはとても無理だった。
鄒おばさんは地面に落ちて粉々になったものと空っぽの紙の箱を眺めた。骨を刺すような痛みはすでに麻痺し、声もなくただ涙を流し続けている。
顧海は鄒おばさんを背負う。白洛因は家に白漢旗を呼びに行った後、おばさんを病院に連れて行こうとした。
「お前たちは学校へ行け。俺一人で大丈夫だ」
白漢旗は白洛因と顧海を促す。
「大丈夫だ。心配いらない。早く行きなさい。授業をおろそかにしてはダメだ」
「父さん、俺も行くよ」
白洛因は焦燥感に駆られる。
「言うことを聞け!」
白漢旗は険しい顔になった。
鄒おばさんは顔面蒼白のまま、しゃがれた声で白洛因に言い聞かせる。
「おばさんは大丈夫だから早く学校に行きなさい」
白洛因はその場を一歩も動かず、白漢旗が電動三輪車に憔悴した鄒おばさんを乗せて去るのをじっと見ていた。
長い沈黙の後、白洛因は突然顧海の腹に重い拳を埋め込む。
「俺は納得できない!」
顧海は背筋を伸ばしたままその一発を受け止めた。
白洛因は顧海が痛みをこらえ、文句も言わず怒りもせず慰めるように自分を見る姿を目にし、わずかに気持ちが落ち着く。そして瞳に宿した怒りも徐々に鎮まっていった。
白洛因の様子に、顧海はこれまでにないほどの胸の痛みに襲われる。白洛因のこんな姿を見るくらいなら、彼に蹴られたり騙されたり罵られたりするほうがマシだった。
「お前が義憤に駆られているのはわかるけど、相手を見て手段を考えないと」
白洛因は音がするほど拳を握りしめる。
「俺は納得がいかないんだ」
「わかったよ。わかったから」
顧海は語気を緩めた。
「あいつらの顔を覚えただろう? 安心しろ。ひとりも逃がしたりしない」
白洛因は冷たく鼻を鳴らす。
「奴らは明らかに虐めに来たんだ。ここは路地の奥だ。誰の邪魔になる? いつもは執行官なんか影も見えないのに、今日はいきなりやってきてめちゃくちゃに壊していきやがった……」
顧海は白洛因の肩に腕を回し、背中を叩いて宥める。
「あんな奴らは相手にするな」
白洛因は顧海を押しのけ、微妙に表情を変える。
「誰がやったのかわかったぞ」
「彼女に会いに行くのはやめろ」
顧海は白洛因の手を強く掴んで止める。
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