ハイロイン

ハイロインofficial

文字の大きさ
57 / 111
第七章

2

しおりを挟む
 朝食を食べ終えた後、彼らはどちらが清算をするのか目を合わせた。
「俺の番だ」
 白洛因バイ・ロインはズボンのポケットを探る。
「あれ? 昨日ここに金を入れたはずなのに、なんでないんだ?」
「払いたくないならそう言えよ」
 顧海グー・ハイは白洛因をけなし、立ち上がって金を払いに行く。
 実は昨晩こっそり白洛因のズボンから金を取りだしたのは顧海だった。
 ゾウおばさんは油条を揚げていたが、顧海が紙の箱に金を入れているのに気づいてあわてる。
「えっ、あなたたちはお金を払わなくていいわよ」
「おばさん、俺たちに気を使わないで」
 二人が立ち去ろうとしたとき、突然一台の車が止まり、中から四、五人の男が出てきた。都市管理執行組織の車だった。全員手に武器を持ち、陰険な顔で朝食の屋台に向かってくる。
「まだ行くな!」
 白洛因は顧海の自転車を止める。
 五人の執行官たちは何も言わずにコンロやまな板、鍋や茶碗、皿やお盆などを叩き壊し始めた。それまで座っていた客らは朝食を持ってサッとその場を離れる。それは一瞬の出来事で、あっという間にあたりはめちゃくちゃになった。
坊主頭で八の字眉毛の執行官はまるでチンピラのようだった。まだ油の入っている鍋に気づくと人がいるにもかかわらず蹴り倒し、熱い油が鄒おばさんに向かってこぼれる。
「おばさん!」
 白洛因は大声で叫び、駆け寄って鍋を抑えようとしたが、顧海に止められた。その結果、煮えたぎった油は鄒おばさんの足にかかる。
 鄒おばさんは両目を見開いて睨みながら口元を震わせていたが、油がかかると足を抱えて蹲り、大声で泣き叫んだ。
「何するんだ!」
 白洛因は声を上げて吠える。坊主頭の執行官はふんと鼻を鳴らす。
「何をしてるかって? 行政執行だよ!」
「執行は執行だろ。なんで壊すんだよ!」
 白洛因の顔は怒りで真っ赤になった。
 執行官は強面のやり手が選出され、彼らは普段から暴れ慣れている。だから尻の青い若造が吠えても歯牙にもかけない。
「なぜ壊すかって?」
 坊主頭の執行官は砕けた魔法瓶を足で踏みつけながら答える。
「俺が壊さなきゃこのクソ婆たちはどかないだろう?」
 鄒おばさんは地面に座ったまま胸も張り裂けんばかりに泣いていた。白洛因はぶるぶると拳を震わせ続け、執行官の体の皮を剥ぐように鋭い視線を向ける。我慢できず大股で飛び出そうとしたが、またも顧海に引き戻された。
 白洛因は真っ赤な目で顧海を睨みつける。
「離せよ!」
 顧海はひどく冷静な様子で白洛因の手を掴み、ゆっくり言い聞かせた。
「おばさんを助け起こしてやれ。俺を信じろ。お前は奴らの顔をしっかり覚えておけばいい」
 鄒おばさんは泣きすぎて声が枯れていた。右足は痛みに痙攣し続けている。野次馬はたくさんいたが、誰も助けようとはしなかった。
執行官は店舗を壊し続け、古いテーブルはバラバラにされ、椅子も足を折られた。紙の箱に入った金はあたりに散らばり、鄒おばさんは焦りと恐怖で自分の周りに落ちた小銭をかき集めたが、札はすべて執行官が持ち去った。
 これで数か月の血と汗と涙の結晶はすべて無駄になった。これらの設備は高いものではないが、そもそも小さな商売なので稼ぎも少ない。それに鄒おばさんは実直な人でたいした貯えもないため、店の必需品をふたたび揃えるのはとても無理だった。
 鄒おばさんは地面に落ちて粉々になったものと空っぽの紙の箱を眺めた。骨を刺すような痛みはすでに麻痺し、声もなくただ涙を流し続けている。
 顧海は鄒おばさんを背負う。白洛因は家に白漢旗バイ・ハンチーを呼びに行った後、おばさんを病院に連れて行こうとした。
「お前たちは学校へ行け。俺一人で大丈夫だ」
 白漢旗は白洛因と顧海を促す。
「大丈夫だ。心配いらない。早く行きなさい。授業をおろそかにしてはダメだ」
「父さん、俺も行くよ」
 白洛因は焦燥感に駆られる。
「言うことを聞け!」
 白漢旗は険しい顔になった。
 鄒おばさんは顔面蒼白のまま、しゃがれた声で白洛因に言い聞かせる。
「おばさんは大丈夫だから早く学校に行きなさい」
 白洛因はその場を一歩も動かず、白漢旗が電動三輪車に憔悴した鄒おばさんを乗せて去るのをじっと見ていた。
 長い沈黙の後、白洛因は突然顧海の腹に重い拳を埋め込む。
「俺は納得できない!」
 顧海は背筋を伸ばしたままその一発を受け止めた。
 白洛因は顧海が痛みをこらえ、文句も言わず怒りもせず慰めるように自分を見る姿を目にし、わずかに気持ちが落ち着く。そして瞳に宿した怒りも徐々に鎮まっていった。
 白洛因の様子に、顧海はこれまでにないほどの胸の痛みに襲われる。白洛因のこんな姿を見るくらいなら、彼に蹴られたり騙されたり罵られたりするほうがマシだった。
「お前が義憤に駆られているのはわかるけど、相手を見て手段を考えないと」
 白洛因は音がするほど拳を握りしめる。
「俺は納得がいかないんだ」
「わかったよ。わかったから」
 顧海は語気を緩めた。
「あいつらの顔を覚えただろう? 安心しろ。ひとりも逃がしたりしない」
 白洛因は冷たく鼻を鳴らす。
「奴らは明らかに虐めに来たんだ。ここは路地の奥だ。誰の邪魔になる? いつもは執行官なんか影も見えないのに、今日はいきなりやってきてめちゃくちゃに壊していきやがった……」
 顧海は白洛因の肩に腕を回し、背中を叩いて宥める。
「あんな奴らは相手にするな」
 白洛因は顧海を押しのけ、微妙に表情を変える。
「誰がやったのかわかったぞ」
「彼女に会いに行くのはやめろ」
 顧海は白洛因の手を強く掴んで止める。
「俺の言うことを聞け。彼女には会いに行くな!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

バスケ部のイケメン先輩に誘惑されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 他にも書きたいのがいっぱいある。

先輩たちの心の声に翻弄されています!

七瀬
BL
人と関わるのが少し苦手な高校1年生・綾瀬遙真(あやせとうま)。 ある日、食堂へ向かう人混みの中で先輩にぶつかった瞬間──彼は「触れた相手の心の声」が聞こえるようになった。 最初に声を拾ってしまったのは、対照的な二人の先輩。 乱暴そうな俺様ヤンキー・不破春樹(ふわはるき)と、爽やかで優しい王子様・橘司(たちばなつかさ)。 見せる顔と心の声の落差に戸惑う遙真。けれど、彼らはなぜか遙真に強い関心を示しはじめる。 **** 三作目の投稿になります。三角関係の学園BLですが、なるべくみんなを幸せにして終わりますのでご安心ください。 ご感想・ご指摘など気軽にコメントいただけると嬉しいです‼️

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

地味な俺は、メイクしてくるあいつから逃げたい!!

むいあ
BL
___「メイクするなー!帰らせろー!!」___ 俺、七瀬唯斗はお父さんとお母さん、先生の推薦によって風上高校に入ることになった高校一年生だ。 風上高校には普通科もあるが、珍しいことに、芸能科とマネージメント科、そしてスタイリスト科もあった。 俺は絶対目立ちたくないため、もちろん普通科だ。 そして入学式、俺の隣は早川茜というスタイ履修科の生徒だった。 まあ、あまり関わらないだろうと思っていた。 しかし、この学校は科が交わる「交流会」があって、早川茜のモデルに選ばれてしまって!? メイクのことになると少し強引な執着攻め(美形)×トラウマ持ちの逃げたい受け(地味な格好してる美形)

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

処理中です...