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第八章
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寝室に行くと二台のベッドが小さな部屋に並び、上には同じ柄のシーツと掛け布団が掛けられていた。まるで寮の二人部屋のようだった。
「見ろよ、元々狭い部屋なのにベッドが増えて足の踏み場もないじゃないか!」
顧海は浮かない顔で自分のベッドに座り、正面にいる白洛因をまっすぐに見る。
「足の踏み場もないならどうやってこの部屋に入ったんだ? 飛んできたのか?」
白洛因は不満たらたらな顧海を無視し、嬉しそうに自分の布団に潜り込み、わざと気持ちよさそうにあくびをした。
「一人で寝るのは気持ちよくて最高だな!」
顧海は憤慨しながら自分のベッドに上がり、捨て台詞を吐く。
「見てろよ、明日には絶対風邪引くから!」
俺の腕枕なしに気持ちよく寝れると思うか?
「風邪を引くのも悪くない」
白洛因は颯爽と寝返りを打ち、冷たい背中という武器で顧海のか弱き心臓を貫いた。顧海はふんと鼻を鳴らして裸足のまま木のサンダルを履いて灯りを消す。戻って来ると腹立ちまぎれに冷えた足を白洛因の布団に潜り込ませ、白洛因の温かい背中にぴたっとつけた。
白洛因はびくっと体を揺らし、振り返って顧海の下腹めがけて足を伸ばし、向こうのベッドへ蹴り飛ばす。
「失せろ!」
はっきりとそう言い捨てた。
「そんな冷たいこと言うなよ。毎日お前を抱っこして寝てたんだ。お前だって気持ちよさそうだったじゃないか。俺が手を放しても自分から抱きついてきたくせに……うっ」
顧海の言葉を遮り、臭い靴下が飛んでくる。
「今夜俺のベッドにもぐりこんで来たら、俺は父さんと部屋を取り換えるからな」
顧海はニヤリと笑い、自分のベッドに横臥して肘で頭を支え、闇の中で黒い瞳を爛々と光らせた。白洛因が完全に静かになるのを待ち、手拍子をしながらテレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」を小声で歌い始める。
(歌詞の部分は権利の関係上掲載できません。有名な歌なので心の中で補完してください……)
こんなに顧海の心情にぴったりの歌はほかにない。しかし白洛因は聞いていられなかった。いい歌には違いないが、顧海の口から出るとまったく別物に聞こえる。奴の声は体格に見合って野太いのに、あえて甘いラブソングを選んでやがる。しかも声が合わないだけでなく完全に音も外していた。だがこいつはそのことも気づかず、全身全霊を歌に注ぎ込み陶酔している。聞けば聞くほど気分が悪くなった。
ついに我慢できなくなり、白洛因は顧海のほうへ向き直る。
「歌うのをやめてくれ」
「もし俺が歌うのが嫌なら、お前が歌えよ」
「なんでだよ」
「嫌なら俺が歌い続ける」
顧海はまたごね始める。白洛因は少し逡巡したが、仕方なく歌い始めた。
三分と経たないうちに軽い鼾が聞こえてきた。白洛因は歌うのをやめて疑惑の目を向ける。マジか! こいつめ、本当に寝てやがる! 俺は子守唄でこいつを寝かしつけてやったのか? 白洛因は皆が顧海を評する様々な言葉を思い出す。二十七組で一番魅力的な男子、もっとも男性的魅力のある成熟した美男子、健康美王子……ふざけるな! どう見ても乳臭く尻の青い小僧じゃないか!
白洛因は深く息を吸い、どうにか冷静さを取り戻す。それから寝返りを打ち、しっかり布団にくるまって目を閉じた。
顧海はその後長い間待ち続けた。永遠とも思える時間が過ぎてからやっと白洛因の呼吸が規則正しく穏やかなものに変わる。顧海は口角を上げて邪悪な微笑みを浮かべると、そっと掛け布団をまくって地面に足をつけ、一歩ずつ白洛因に近づいていった。
白洛因はピクリとも動かない。
顧海は白洛因の駆け布団を剥がし、まず片方の足を入れ、それからもう一方の足を入れ、最後に背中をベッドにつけ……。
「うわっ!」
顧海は叫びながら弾かれたように飛び起きた。
隣から誰かの笑い声が聞こえてくる。最初は押さえ気味だったがだんだん大きくなり、最後には笑いすぎて床板が揺れるほどになった。顧海は眦を吊り上げる。
「お前、ベッドになにを置いたんだ?」
白洛因は黒い塊を持ち上げて笑った。
「中庭で枯れたサボテンだよ」
顧海は目を閉じて必死で怒りをこらえる。
「この野郎、自分の体に刺さるとは思わなかったのか?」
白洛因は手の中のサボテンをゆらゆら揺らす。
「俺が寝返りを打つ前に絶対お前がテストしてくれると信じてたんだ」
顧海は恨みがましい声を響かせた。
「ひどいじゃないか!」
白洛因はにっこり笑う。
「自業自得だろう」
顧海はがっくり肩を落とし、哀れな様子を見せる。
「棘を抜いてくれよ。背中に何本も刺さってる。これじゃ寝れないよ」
白洛因は少し躊躇したが、結局ベッドを下りて灯りをつけた。
灯りがついたとたん、顧海は鼻血を吹きそうになる。
白洛因はパンツしか履いていない!!
「なんで今日は裸で寝てるんだ」
白洛因は飄々と答えた。
「前からずっとそうだったよ」
「じゃあ俺と一緒に寝るときにはなんであんなにしっかり着こんでたんだよ」
顧海は盛大に悔しがる。
「自分の胸に手を当てて考えてみろ、ほらあっちを向け!」
顧海は怒りながらも背中を向け、白洛因は彼の後ろで胡坐をかいてじっくりと顧海の背中に刺さった棘を探した。一本抜くたびにおかしさがこみ上げてくる。こいつ、なんでそんな勢いよく転がったんだ。
顧海は後ろに向かって手を伸ばし、白洛因の滑らかな太腿を懲りずにそっと撫でる。
「この野郎。ベッドの下に蹴り落とされたいんだな?」
朝、白洛因はとても気持ちよく目を覚ましたが、隣には見慣れた顧海の顔があった。それだけでなく、彼の手は自分の股にある硬いものの上に置かれ、とても不適切な光景だった。
「このクソ坊ちゃんが!」
白洛因は顧海を猛然と蹴り起こす。
「なんで俺のベッドにもぐりこんだ!」
顧海は片目を開け、その声は幾分けだるげだった。
「誰がお前のベッドに寝てるって? よく見ろ、俺は自分のベッドに寝てるぞ!」
白洛因は驚いてベッドを見る。いつの間にか幅が広がり、どう考えてもシングルベッドではなくなっている。言うまでもない。顧海が自分のベッドと白洛因のものとをくっつけてひとつにしたのだ。
「わかっただろう。お前のベッドにはもぐりこんでない」
この悪党が! 白洛因は心の中で罵り、顧海のベッドを押しやろうとしたが、どうやっても動かない。二つのベッドは釘で打ち付けたようにくっついて離れなかった。
「お前いったいなにをしたんだ? なんでベッドが離れないんだよ」
顧海は白洛因が怒り慌てる様子を面白そうに眺める。
「お前の家の痔瘻軟膏で貼り付けたんだ。言っただろう? あの痔瘻軟膏は万能だって」
「……」
授業が始まると、尤其は白洛因に一枚のメモを送って寄越す。そこにはこう書かれていた。
「週末に天津の家に帰ったとき顧海の彼女が他の男と一緒にいるところを見た。すごく親しげな様子だったけど、俺は顧海に言いづらいからお前から言ってくれよ」
白洛因はメモを握りつぶし、指を折って数える。顧海はここ二週間、金璐璐と連絡を取っていない。
顧海は白洛因の背中をちょんちょんとつついて手を伸ばしてきた。
「メモを見せろよ!」
白洛因は低い声を出す。
「なんでお前に見せなきゃならないんだ? これは尤其が俺にくれたんだ」
あいつがお前に渡したからこそ見たいんじゃないか! 顧海は心の中で吠える。お前たち二人には表では言えずこそこそとメモを渡し合うような話があるのか?
白洛因は少しためらい、もう一枚メモを書いて顧海に渡す。
「お前の彼女がよその男に走った」
顧海の顔色が変わった。
授業が終わり、白洛因が振り返ると顧海は携帯で誰かにショートメッセージを送っていた。
「お前はこの二週間金璐璐に連絡してなかっただろう」
うんと答えながらも、顧海の表情は奇妙に落ち着いている。
「俺も彼女と連絡がつかない。だから虎子と李爍に連絡して、何か情報はないか聞いてみた」
やがて携帯が鳴り、顧海は外に出て行った。白洛因にははっきりとわかっていた。金璐璐は顧海にかまってもらうために思わせぶりな行動を取っているのに違いない。
顧海は戻ってきたが、顔色はあまり良くなかった。
「昼休みに天津に向かう。午後の授業には戻ってこれないかもしれない。先生にそう伝えておいてくれ」
白洛因は頷く。
「ああ、わかった」
白洛因が前を向くと、顧海はまた彼の肩を叩いた。
「夜には戻るから待ってろよ!」
白洛因は黙ったまま答えない。顧海はそれ以上返事を強要せず、荷物をまとめ後ろのドアから出て行った。
「見ろよ、元々狭い部屋なのにベッドが増えて足の踏み場もないじゃないか!」
顧海は浮かない顔で自分のベッドに座り、正面にいる白洛因をまっすぐに見る。
「足の踏み場もないならどうやってこの部屋に入ったんだ? 飛んできたのか?」
白洛因は不満たらたらな顧海を無視し、嬉しそうに自分の布団に潜り込み、わざと気持ちよさそうにあくびをした。
「一人で寝るのは気持ちよくて最高だな!」
顧海は憤慨しながら自分のベッドに上がり、捨て台詞を吐く。
「見てろよ、明日には絶対風邪引くから!」
俺の腕枕なしに気持ちよく寝れると思うか?
「風邪を引くのも悪くない」
白洛因は颯爽と寝返りを打ち、冷たい背中という武器で顧海のか弱き心臓を貫いた。顧海はふんと鼻を鳴らして裸足のまま木のサンダルを履いて灯りを消す。戻って来ると腹立ちまぎれに冷えた足を白洛因の布団に潜り込ませ、白洛因の温かい背中にぴたっとつけた。
白洛因はびくっと体を揺らし、振り返って顧海の下腹めがけて足を伸ばし、向こうのベッドへ蹴り飛ばす。
「失せろ!」
はっきりとそう言い捨てた。
「そんな冷たいこと言うなよ。毎日お前を抱っこして寝てたんだ。お前だって気持ちよさそうだったじゃないか。俺が手を放しても自分から抱きついてきたくせに……うっ」
顧海の言葉を遮り、臭い靴下が飛んでくる。
「今夜俺のベッドにもぐりこんで来たら、俺は父さんと部屋を取り換えるからな」
顧海はニヤリと笑い、自分のベッドに横臥して肘で頭を支え、闇の中で黒い瞳を爛々と光らせた。白洛因が完全に静かになるのを待ち、手拍子をしながらテレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」を小声で歌い始める。
(歌詞の部分は権利の関係上掲載できません。有名な歌なので心の中で補完してください……)
こんなに顧海の心情にぴったりの歌はほかにない。しかし白洛因は聞いていられなかった。いい歌には違いないが、顧海の口から出るとまったく別物に聞こえる。奴の声は体格に見合って野太いのに、あえて甘いラブソングを選んでやがる。しかも声が合わないだけでなく完全に音も外していた。だがこいつはそのことも気づかず、全身全霊を歌に注ぎ込み陶酔している。聞けば聞くほど気分が悪くなった。
ついに我慢できなくなり、白洛因は顧海のほうへ向き直る。
「歌うのをやめてくれ」
「もし俺が歌うのが嫌なら、お前が歌えよ」
「なんでだよ」
「嫌なら俺が歌い続ける」
顧海はまたごね始める。白洛因は少し逡巡したが、仕方なく歌い始めた。
三分と経たないうちに軽い鼾が聞こえてきた。白洛因は歌うのをやめて疑惑の目を向ける。マジか! こいつめ、本当に寝てやがる! 俺は子守唄でこいつを寝かしつけてやったのか? 白洛因は皆が顧海を評する様々な言葉を思い出す。二十七組で一番魅力的な男子、もっとも男性的魅力のある成熟した美男子、健康美王子……ふざけるな! どう見ても乳臭く尻の青い小僧じゃないか!
白洛因は深く息を吸い、どうにか冷静さを取り戻す。それから寝返りを打ち、しっかり布団にくるまって目を閉じた。
顧海はその後長い間待ち続けた。永遠とも思える時間が過ぎてからやっと白洛因の呼吸が規則正しく穏やかなものに変わる。顧海は口角を上げて邪悪な微笑みを浮かべると、そっと掛け布団をまくって地面に足をつけ、一歩ずつ白洛因に近づいていった。
白洛因はピクリとも動かない。
顧海は白洛因の駆け布団を剥がし、まず片方の足を入れ、それからもう一方の足を入れ、最後に背中をベッドにつけ……。
「うわっ!」
顧海は叫びながら弾かれたように飛び起きた。
隣から誰かの笑い声が聞こえてくる。最初は押さえ気味だったがだんだん大きくなり、最後には笑いすぎて床板が揺れるほどになった。顧海は眦を吊り上げる。
「お前、ベッドになにを置いたんだ?」
白洛因は黒い塊を持ち上げて笑った。
「中庭で枯れたサボテンだよ」
顧海は目を閉じて必死で怒りをこらえる。
「この野郎、自分の体に刺さるとは思わなかったのか?」
白洛因は手の中のサボテンをゆらゆら揺らす。
「俺が寝返りを打つ前に絶対お前がテストしてくれると信じてたんだ」
顧海は恨みがましい声を響かせた。
「ひどいじゃないか!」
白洛因はにっこり笑う。
「自業自得だろう」
顧海はがっくり肩を落とし、哀れな様子を見せる。
「棘を抜いてくれよ。背中に何本も刺さってる。これじゃ寝れないよ」
白洛因は少し躊躇したが、結局ベッドを下りて灯りをつけた。
灯りがついたとたん、顧海は鼻血を吹きそうになる。
白洛因はパンツしか履いていない!!
「なんで今日は裸で寝てるんだ」
白洛因は飄々と答えた。
「前からずっとそうだったよ」
「じゃあ俺と一緒に寝るときにはなんであんなにしっかり着こんでたんだよ」
顧海は盛大に悔しがる。
「自分の胸に手を当てて考えてみろ、ほらあっちを向け!」
顧海は怒りながらも背中を向け、白洛因は彼の後ろで胡坐をかいてじっくりと顧海の背中に刺さった棘を探した。一本抜くたびにおかしさがこみ上げてくる。こいつ、なんでそんな勢いよく転がったんだ。
顧海は後ろに向かって手を伸ばし、白洛因の滑らかな太腿を懲りずにそっと撫でる。
「この野郎。ベッドの下に蹴り落とされたいんだな?」
朝、白洛因はとても気持ちよく目を覚ましたが、隣には見慣れた顧海の顔があった。それだけでなく、彼の手は自分の股にある硬いものの上に置かれ、とても不適切な光景だった。
「このクソ坊ちゃんが!」
白洛因は顧海を猛然と蹴り起こす。
「なんで俺のベッドにもぐりこんだ!」
顧海は片目を開け、その声は幾分けだるげだった。
「誰がお前のベッドに寝てるって? よく見ろ、俺は自分のベッドに寝てるぞ!」
白洛因は驚いてベッドを見る。いつの間にか幅が広がり、どう考えてもシングルベッドではなくなっている。言うまでもない。顧海が自分のベッドと白洛因のものとをくっつけてひとつにしたのだ。
「わかっただろう。お前のベッドにはもぐりこんでない」
この悪党が! 白洛因は心の中で罵り、顧海のベッドを押しやろうとしたが、どうやっても動かない。二つのベッドは釘で打ち付けたようにくっついて離れなかった。
「お前いったいなにをしたんだ? なんでベッドが離れないんだよ」
顧海は白洛因が怒り慌てる様子を面白そうに眺める。
「お前の家の痔瘻軟膏で貼り付けたんだ。言っただろう? あの痔瘻軟膏は万能だって」
「……」
授業が始まると、尤其は白洛因に一枚のメモを送って寄越す。そこにはこう書かれていた。
「週末に天津の家に帰ったとき顧海の彼女が他の男と一緒にいるところを見た。すごく親しげな様子だったけど、俺は顧海に言いづらいからお前から言ってくれよ」
白洛因はメモを握りつぶし、指を折って数える。顧海はここ二週間、金璐璐と連絡を取っていない。
顧海は白洛因の背中をちょんちょんとつついて手を伸ばしてきた。
「メモを見せろよ!」
白洛因は低い声を出す。
「なんでお前に見せなきゃならないんだ? これは尤其が俺にくれたんだ」
あいつがお前に渡したからこそ見たいんじゃないか! 顧海は心の中で吠える。お前たち二人には表では言えずこそこそとメモを渡し合うような話があるのか?
白洛因は少しためらい、もう一枚メモを書いて顧海に渡す。
「お前の彼女がよその男に走った」
顧海の顔色が変わった。
授業が終わり、白洛因が振り返ると顧海は携帯で誰かにショートメッセージを送っていた。
「お前はこの二週間金璐璐に連絡してなかっただろう」
うんと答えながらも、顧海の表情は奇妙に落ち着いている。
「俺も彼女と連絡がつかない。だから虎子と李爍に連絡して、何か情報はないか聞いてみた」
やがて携帯が鳴り、顧海は外に出て行った。白洛因にははっきりとわかっていた。金璐璐は顧海にかまってもらうために思わせぶりな行動を取っているのに違いない。
顧海は戻ってきたが、顔色はあまり良くなかった。
「昼休みに天津に向かう。午後の授業には戻ってこれないかもしれない。先生にそう伝えておいてくれ」
白洛因は頷く。
「ああ、わかった」
白洛因が前を向くと、顧海はまた彼の肩を叩いた。
「夜には戻るから待ってろよ!」
白洛因は黙ったまま答えない。顧海はそれ以上返事を強要せず、荷物をまとめ後ろのドアから出て行った。
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