ハイロイン

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第八章

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 顧海グー・ハイ金璐璐ジン・ルールーに会いに来るのはいつも授業が終わる頃だった。金璐璐の周りにいる女子たちは顧海を見ると毎回目を輝かせる。彼女たちの粘ついた視線とつまらない質問が煩わしいので、顧海はいつも車を校門の東にある槐の老木の脇に止めていた。携帯電話がないときには金璐璐は直接この場所に顧海に会いにやってきた。それ以来金璐璐は校門を出るといつもこの槐の老木に目をやるのが習慣になった。
 顧海が校舎に入ると、ちょうど授業が終わったのか学生の群れがあちこちで楽しくおしゃべりしていた。ここは普通の高校のように皆が懸命に勉強するような雰囲気はない。多くの生徒がもう将来の落ち着き先を確保しているからだろう。
 顧海が金璐璐のクラスまで来ると、顔見知りの女生徒が出てきて顧海の姿に驚いた。
「な……なんで来たの?」
 顧海は無表情に尋ねる。
「金璐璐は?」
「教室にはいないわ。出て行ったもの」
 顧海は踵を返した。女生徒は隣の女子をつつく。
「どういうこと? 別れたんじゃなかったの?」
「私だってわからないわよ!」
 顧海は学校内のカフェで金璐璐を見つけた。彼女はほかの男と笑いながら店から出てくる。男は彼女の鞄を持ってやり、彼女は男の財布を弄っている。二人はどう見ても深い関係のようだった。
 金璐璐は男と話すために横を向いた瞬間、顧海と目が合った。顧海は冷たい目で二人を眺める。金璐璐はサッと目を逸らし、何事もなかったかのように、顧海が見ている前を堂々と男と腕を組んで歩いて行った。
 顧海は怒って二人を呼び止めることも男の襟元を掴んで殴ることもしなかった。なぜなら金璐璐が見たいのはその場面だろうと思ったからだ。彼はまた槐の老木の下に戻り、車の中に座って無言で煙草を吸う。そして自分がこの恋愛を続けたいのかどうか冷静に考えてみた。
 午後の授業が終わると金璐璐は男と一緒に出てきた。そして校門の周りをうろついた後、二人して同じ車に乗り込んだ。顧海は車を運転し、彼らの後をつける。車はすぐ近くにあるホテルの前に止まった。
 顧海は冷たい目で彼らが中に入って行く姿を眺めた。二時間が過ぎ、空が暗くなった頃、顧海は車から出る。
「すみません。金璐璐という人がここに滞在しているか調べてもらえますか?」
 フロントサービス係は慣れたようにパソコンで顧客名簿を調べ、顧海に向かって頷きながら微笑む。
「ええ、金璐璐さんは確かにいらっしゃいます」
 心の準備はできていたが、現実となるとやはり殴られたような衝撃が走り、思考や情緒が制御不能になる。フロントの女性は金璐璐の部屋に電話をかけ続けたが、つながらない。顧海は彼女の部屋番号を聞いて直接行くことにした。エレベーターの中で何度も自分に言い聞かせる。衝動的になるな。怒るな。別れる理由を確かめるだけだ。確認したらすぐ立ち去ればいい!
 だが部屋の扉の前に立つとすべての暗示は無駄になった。
 バンと音を立て、建物全体が震える。顧海はノックもせず、鍵のかかったドアを蹴破った。
 男はパンツ一枚の姿で部屋の中をうろつき、金璐璐はベッドに横たわって布団で体を覆っていた。彼女は顧海が来ることを予想していたようで、焦る男に比べて落ち着いていた。
 顧海の声は恐ろしく冷たかった。
「金璐璐、俺たちはまだ別れていないだろう」
 金璐璐は鼻で笑い、指に細長い煙草を挟んで悠々と吸った。
「私たちまだ付き合ってたっけ? なんで私はそう思えないのかしら」
 顧海は答えず、部屋の中は恐ろしく静まり返る。男子は腰を屈めて床に落ちた服を探していたが、顧海は彼の前に行き、男の首の後ろを蹴り倒した。男の顔は真っ青になり、床に倒れて痙攣している。この成り行きに金璐璐は満足し、痛快だった。顧海が彼女の頬を打っても甘んじて受け止める。顧海も気にするでしょう? 嫉妬するでしょう? 誰かに優越感を奪われるのはつらいでしょう?
「俺はお前が好きじゃなくなっただけなのに、なんでわざわざキモいと思わせるんだ」
 金璐璐の顔はサッと青ざめた。
「私がキモい? そうよ!……私はキモいわ……言っておくけど、私がやったキモいことはクソみたいに多いわよ! 私はとっくに彼と寝てたわ! あんた自分はラッキーだったと思っていたんだろうけど、あんたと付き合う前に私はもう処女じゃなかったのよ!」
 ヒステリックな叫びの後には長い沈黙が訪れた。顧海の顔には何の感情も浮かんでいない。
「俺たちは終わりだ」
 そう言い捨て、顧海は背を向けてその場を離れようとする。
 俺たちは終わりだ……その言葉は鉄槌となって金璐璐の心を打ち砕いた。金璐璐はわかった。来るべきときが本当にやって来ると、これまでの大言壮語は全部消え失せる。彼女はこんな結果が欲しかったわけではない。むしろこうなることを恐れていたのだ。別れは恐ろしく残酷だ。
 金璐璐はほぼ床に倒れ伏し、布団もシーツも全部引っ張り落としながら猛然と顧海の足に抱きつき、大声で泣き叫ぶ。さっきまでの尊大な顔とは別人のようだった。
「大海、嘘よ。男はクズだから手に入らないものを追いかけるって皆が言うの。私はあなたに嫉妬してほしかった。危機感を持って私を大事にしてほしかったのよ。この男子とは演技をしただけで、彼も私を好きじゃないし、私もこの人を好きなわけじゃない。私たちはあなたに見せるために浮気のふりをしただけなの……」
 顧海は最後に金璐璐を一瞥した。
「ベッドに戻れよ。それじゃあ冷えるぞ」
 金璐璐は自分がブラジャーとパンツしか身に着けていないことに気づく。
「大……海……」
 名前を呼び終える前に音がしてドアは閉まった。
 


 顧海は車で高速道路をひた走る。厳しく冷ややかな顔が仄暗くもの憂げに浮かび上がり、黒々とした樹木や暗い街灯、抜き去る車などが次々と後ろへ流れ去っていく。顧海は自分が何回ギアをチェンジしたか、角を何度曲がったかわからなかったが、大きな夜の帳が心を覆いつくした頃、指先がわずかに冷えを感じ、ようやく窓を閉め忘れていたことに気づいた。
 顧海は見知らぬ道を走り、とある店舗の前に車を止めて頭をハンドルに俯せ、やがて眠りに落ちた。どれだけ眠ったかわからないが、目を開けたときには街角の店はすべて閉まり、ケンタッキーの中にだけ行き場のない人たちが座っていた。
 助手席に置いた携帯電話が鳴り続けている。手に取ってみると見知らぬ番号からだった。
「お前、帰って来る気はあるのか?」
 顧海がうんと答える前に相手は電話を切った。
 携帯画面には二時五十一分と表示されている。顧海は電話から手を放し、車のシートに頭を乗せ、目を閉じてついさっきの言葉を何度も繰り返し味わう。
 失った魂はその瞬間、救い戻された。
顧海は車の向きを変える。心は大きな幸福感に包まれていた。
 


 顧海はベッドに這い上がり、布団ごと彼を抱きしめた。
「俺、失恋した」
「うん」
 顧海はてっきり白洛因バイ・ロインが「俺がいるよ」という類の感傷的な言葉をかけてくれると思っていたが、あっさりと「うん」の一言で済まされてしまった。
「慰めてくれないのかよ。俺はあいつら二人がホテルにいるところに鉢合わせたんだぜ」
「うん」
 顧海は白洛因を抱きしめていた手を解き、隣に転がる。その表情は暗く、怒りで息が荒くなっていた。白洛因はやっと体の向きを変え、顧海の額を指で弾く。
「怒ったのか? 武大(「水滸伝」の登場人物。妻を寝取られた醜男)」
 そんなふうに呼ばれ、顧海は言葉を詰まらせた。武大だと? 俺みたいに背が高く金持ちでイケメンの三拍子揃った武大を見たことがあるか?
 顧海は白洛因に乗り上げ、彼の首を絞める。
「こいつ、俺を慰めるどころか貶める気か?」
「慰める必要があるか? 傷ついてるようにも見えないぞ」
 顧海は体を徐々に倒し、頭を白洛因の肩のくぼみに乗せて傷ついた様子を見せた。
「傷つかないはずないだろう。三年だぞ……」
「時間を言い訳にするなよ!」
 白洛因は顧海の背中を叩く。
「良心に従って答えろ。お前は傷ついてるのか? それとも怒ってるのか?」
 それについては顧海も道中ずっと考えていた。金璐璐とあの男が同じ部屋にいるのを見たとき、彼の心は激しく鬱屈した。だがその鬱屈はどこから来たものなのか。彼女を失いたくなかったか? 心が張り裂けたか? どう考えても少し違う。最も直接的な痛みは間違いなく尊厳を踏みにじられたことだ。どんな男もこんな屈辱には耐えられない。だからあのときは憤怒で我を失ったのだ。
 顧海はもちろんそのまま白洛因に告げたりはしない。
「俺は本当に傷ついたんだよ」
 白洛因は突然顧海を自分の上からどかせて少し距離を取り、それから体を倒して顧海の胸元に頭を近づける。顧海の鼓動は高鳴った。こ、これは何をするつもりだ? 俺を慰めてくれるのか?
 白洛因はサッと顧海から離れ、頭を枕に戻した。
「俺には聞こえた。お前の良心はお前を罵ってる」
「……」
 顧海は気が抜けたように白洛因の上に這い戻り、哀願混じりの物憂げな声を出す。
「慰めてくれよ」
 白洛因はため息をつき、顧海の背中を叩く。
「武大よ! 兄さんの言うことを聞け、くよくよするな……」
 顧海は猛然と白洛因の肩口に噛みついた。白洛因は顧海の首根っこを拳で殴りつける。
「この野郎、お前は戌年生まれか?」
 顧海は笑った。胸のしこりはふざけているうちに消え失せた。男同士は本来こうあるべきなのかもしれない。わざとらしい慰めは要らず、抱き合って涙を流す必要もない。相手が自分をしっかりわかってくれ、自分も相手の気遣いを感じ取れれば、どんなに大きな挫折も肩を叩き合って乗り越えられる。
「明日はゾウおばさんの店が開業するぞ」
 白洛因は腕を枕にして淡々と話す。顧海は感慨深く答えた。
「早いな。店のほうの準備は整ったのか?」
「大体な。明日は俺たちも一緒に行こうぜ」
 顧海は幸せな気分で白洛因の頬を揉んだ。
「明日じゃない。もう今日だろう。すぐに夜が明ける」
 顧海の言葉で白洛因は気づいた。俺はそんなに長いことこいつを待っていたのか……
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