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第九章
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「父さんの自転車で学校に行けばいい。俺は会社の車が迎えに来るから」
その言葉と共に古い自転車が白洛因と尤其の前に置かれた。白洛因はハンドルを掴み、尤其に呼びかける。
「乗れよ」
「俺がこぐよ。長いこと自転車に乗ってないから試してみたい」
「大丈夫か?」
白洛因が疑惑の眼差しを向けると、尤其は自信ありげに自分の胸を叩いた。
「問題ない」
白洛因は半信半疑で後ろに乗ったが、いざ尤其がこぎだすと自転車は激しくふらつく。白洛因の体も尤其につられて左右に揺さぶられた。そしてすぐ前に排水溝があることに気づくと、白洛因はパッと飛び降り自転車の後ろを掴もうとした。しかし間に合わず、尤其はそのまま溝に突っ込む。幸い排水溝は幅が狭く自転車は落ちなかったものの、堅牢なハンドルが尤其の股間にガツンとぶつかった。白洛因が駆け寄ると尤其は両足を閉じて地面にしゃがみこみ、苦痛に顔を歪めていた。
「俺がこぐって言ったのにお前が意地を張るからだぞ。大丈夫か?」
尤其は手を振る。
「いまは話しかけないでくれ」
白洛因は苦笑いをするしかない。そして結局白洛因は股間を痛めた尤其を乗せて行くことになった。
顧海はこの二日間母方の従姉である房菲のところにいたが、学校からは少し遠いので近々引っ越そうと思っていた。国貿にある部屋の内装はどうなったんだろう。気に入れば引っ越して一人で住んでもいい。
タクシーは順調に走り、車窓から見える景色はどんどん後ろに流れて行った。
すぐにまたいつもの通学路に差し掛かる。もう丸二日間白洛因の顔を見ていない。顧海は胸の中にふつふつと湧いてくる彼への抑えきれない思念を押し殺し、何事もなかったように学校へ通い、何事もなかったかのように従姉の家に戻った。事実とはまるで違っていたが、これまでの生活と何一つ変わらない素振りだった。
タクシーは交差点で止まる。車窓から見えるのは鄒おばさんの店で、いつものように客で賑わっていた。鄒おばさんの姿はカーテンの隙間からわずかに見える。たった二日しかたっていないのに、顧海は鄒おばさんの味が懐かしくなった。車内にまでいい匂いが漂ってくるようだ。
「もう着きますよ」
運転手が顧海に金の準備を促した。顧海は素早く小銭を用意して運転手に渡そうとし、たまたま車外の二人が目に入る。
白洛因が尤其を連れ、笑いながら自転車を押して一緒に校門をくぐっていくところだった。
顧海の心に言いようのない炎が燃え上がり、憤怒と嫉妬がないまぜになる。彼は白洛因の背中を穴が開くほど見つめ、さらにいつもと何も変わらない顔を凝視し、ふたたびやるせない鬱屈に陥る。結局つらいのは俺だけで、気にしているのも俺一人か。俺はただのツレで、代わりはいくらでもいるのか。
車を止め、運転手は手を伸ばして顧海が渡す金を掴もうとしたが、それは叶わなかった。
「どうしました?」
運転手は困惑した。彼は何故急に顔色を変えたのだろう。
「なんでもない。行きたくなくなったので戻ってください」
「来た道を戻るんですか?」
運転手は質問を投げかける。
「教科書を家に忘れたんですか?」
顧海は答えず、冷たい顔がバックミラーにひどく恐ろしく映った。運転手は悟ったようにそれ以上何も聞かず、Uターンして来た道を戻った。
家で二日間気持ちを整え、白洛因はもう完全に普通の状態で顧海に向き合えると思っていたが、教室に入るとそれがいかに難しいか思い知らされた。
後ろの席は朝からその日の授業がすべて終わるまで空っぽのままだった。後ろには誰もいないのに、白洛因は背後の動向にひどく敏感になった。授業の終わりに誰かが机を動かしたり、授業の開始時に誰かが後ろのドアを開けるたびに胸がぎゅっと締め付けられ、落ち着くまでにずいぶん時間がかかった。
顧海がいないときでこの状態なら、彼が戻ってきたら一体自分はどうなってしまうのだろう。彼はいままでこんなにも感情の制御を失ったことはなかった。激しく強い言葉を吐き出したというのに、気持ちを鎮めることができない。
「これは顧海の作文ノートだけど、彼が来ないからあなたのところに置いておく」
中をパラパラめくると、顧海が授業で覚えた古典詩詞が書かれている。一瞬自分が書いたのかと思ったが、よく見れば違う。すべての文字が一画一画丁寧に辛抱強く真面目に意固地に書かれている。もし白洛因が自分の書いた内容を覚えていなければ、彼自身が書いた文字だと勘違いするほどそっくりだった。
ある種の感情は生活の細かい部分に深く密接に入り込んでいて、切り離すことができない。顧海は字体だけでなく、白洛因の生活習慣からも多くの影響を受けていた。彼らは街角でお互いに良く知る光景を目にしては暗黙の了解で笑い合い、食事のときにも相手が嫌いなものを自分の茶碗に乗せ、自分が嫌いなものを相手の茶碗に投げ入れた。いつもお互いのスリッパやタオルを間違えて使い、起き抜けにうっかり服を間違えて着てしまったときには、一日中相手の匂いを感じ続けた。
ノートを最後までめくると、三枚にわたってびっしりと文字が書かれている。一枚目は白、二枚目は洛、三枚目は因の文字だ。人は文字を練習するとき、往々にして無意識に心の中にあるものを書く。ある歌を聞いたら一日中その歌を口ずさんでしまうように。白洛因は顧海がこれらの字を練習するとき何を考えていたのかあえて想像することを避けた。たとえこの三枚分の名前にどれだけ深い愛情がこめられていたとしても。
授業が終わると、単暁璇は白洛因に尋ねた。
「顧海はどこに行ったの?」
「知らないよ」
「あなたも知らないの?」
単暁璇は大げさに驚き、そんなときにも色気を醸そうとする。
「あなたたち、交代して授業を聞いてるんじゃないでしょうね。今日はあなたが、明日は彼が来て、どちらかが授業を聞けば帰ってから教え合えるし……」
「顧海は昨日来たのか?」
単暁璇は頷いた。
「そうよ。あなたが来なかった二日間、彼は来ていたわ!」
白洛因は顔色を変えて黙り込んだ。
二時間目が終わると学級委員が白洛因の元へやってきた。
「これは顧海の校内安全責任書だ。彼がいないから代わりにサインしてくれ」
白洛因は少しためらったがサインをした。
昼休みには生活委員が白洛因の元へやってきて、顧海宛の速達が何故か学校へ送られてきたので、代わりに受け取ってくれと言われた。
李爍と周似虎がプライベートラウンジにやって来ると、顧海はひとり悶々と酒を飲んでいた。
彼らは顧海を両側から挟んで座り、気心の知れた兄弟としてバカ話を始める。
「大海、別れたら別れたでいいじゃないか。付き合ってた時は言わなかったけど、いったい金璐璐のどこがよかったんだ? 顔もスタイルも街を歩けばそこら中にいるレベルだろう?お前に釣り合わないって」
「そうだよ。さらに威張り散らして人を虐めるし、せ……性格だって悪い。俺は彼女が話しているところがすごく嫌いだったんだ。お前の彼女じゃなきゃとっくにケンカになってたさ!」
「大海、もっと早く別れるべきだったよ。ここで働くお姉ちゃんたちを見ろよ、どの子も彼女よりきれいだぞ?」
「そうだそうだ。お前みたいにイケてる男なら、どんな女だって抱かれたがるぞ!」
二人は代わる代わる慰め、顧海は何杯目かわからないほど酒を煽り、赤い目でのろのろと動く二人の唇を眺めていた。壁の金色が眩しく感じられ、手に持ったグラスもどんどんぼやけていく。目が回って自分の心のありかがわからなくなり、嫉妬と思慕が酔いと共に喉元にせり上がってきた。
李爍が従業員を呼びに行こうとすると、突然顧海に押さえつけられ、猛烈にソファーに押し倒される。
「大海、どうしたんだ?」
李爍は驚いて固まった。顧海は何も聞こえないように両手で李爍の顔を挟み、しゃがれた声でつらそうに問う。
「俺はお前に優しくなかったか? この顧海が誰にそこまでしてやった?」
「優しかった、優しかった」
李爍は話を合わせた。
「お前は誰よりも俺によくしてくれたよ」
「じゃあなんであんな冷たいことを言うんだ」
李爍は金璐璐になりきって言葉を絞り出す。
「それは私がクズだから。ありえないほどクズなの!」
「誰がクズだって?」
顧海は李爍の前髪を撫でつけ、猛然と彼の頭に噛みついた。
「誰がお前に自分をクズだって言わせたんだ?」
「わあ、大海! なんで噛みついたりするんだよ!」
李爍は泣いて訴える。周似虎は隣で大爆笑した。
顧海の心は相変わらず苦しみと悲憤がない混ぜになり、独り言をつぶやいたり大声で叫んだりしていたが、内容は同じことの繰り返しだった。
なんでそんなに残酷なんだ? 俺を嫌いになったのか?
周似虎はしみじみとつぶやいた。
「金璐璐のつけた傷は深いな!」
「因子」
顧海は突然きつく李爍を抱きしめる。
「お前に会いたい」
因子? 李爍と周似虎は凍りついた。すごく耳に馴染んだ名前だぞ?
顧海は二人がぼんやりしている間に李爍の服を裂き、乳首に噛みついた。李爍は大きな叫び声を上げる。
「俺のことはどうでもいいのか? こいつ、本気にしてないんだろう? 今日はお前をやってやる。気骨があるなら黙ってろ! 今日はお前が従順になるまでやり続けてやる。絶対にやってやるぞ!」
「俺は気骨なんてないよ!!!」
李爍は天を仰いで懇願した。
「虎子!!虎子!!早く助けてくれ!!」
顧海はもう五日も学校に来ていない。
白洛因の机には顧海のものが山積みになっていた。新しく配られたノート、プリント、体育用品、保護者へのお知らせなど……午後の二時間目に単暁璇は白洛因にメモを回してきた。
「顧海が転校するって聞いたけど本当?」
白洛因はメモを見ながらしばらく茫然とする。そして初めて誰かから回って来たメモに返事を返した。これまでは読んだらすべて丸めて放っておいたのだ。
「なぜわかったんだ?」
単暁璇はさらに返事を寄越す。
「今日職員室に行ったら、担任がほかの先生とその話をしていたから」
白洛因はそれ以上返事を書かず、その後の授業が耳に入らなくなった。
その言葉と共に古い自転車が白洛因と尤其の前に置かれた。白洛因はハンドルを掴み、尤其に呼びかける。
「乗れよ」
「俺がこぐよ。長いこと自転車に乗ってないから試してみたい」
「大丈夫か?」
白洛因が疑惑の眼差しを向けると、尤其は自信ありげに自分の胸を叩いた。
「問題ない」
白洛因は半信半疑で後ろに乗ったが、いざ尤其がこぎだすと自転車は激しくふらつく。白洛因の体も尤其につられて左右に揺さぶられた。そしてすぐ前に排水溝があることに気づくと、白洛因はパッと飛び降り自転車の後ろを掴もうとした。しかし間に合わず、尤其はそのまま溝に突っ込む。幸い排水溝は幅が狭く自転車は落ちなかったものの、堅牢なハンドルが尤其の股間にガツンとぶつかった。白洛因が駆け寄ると尤其は両足を閉じて地面にしゃがみこみ、苦痛に顔を歪めていた。
「俺がこぐって言ったのにお前が意地を張るからだぞ。大丈夫か?」
尤其は手を振る。
「いまは話しかけないでくれ」
白洛因は苦笑いをするしかない。そして結局白洛因は股間を痛めた尤其を乗せて行くことになった。
顧海はこの二日間母方の従姉である房菲のところにいたが、学校からは少し遠いので近々引っ越そうと思っていた。国貿にある部屋の内装はどうなったんだろう。気に入れば引っ越して一人で住んでもいい。
タクシーは順調に走り、車窓から見える景色はどんどん後ろに流れて行った。
すぐにまたいつもの通学路に差し掛かる。もう丸二日間白洛因の顔を見ていない。顧海は胸の中にふつふつと湧いてくる彼への抑えきれない思念を押し殺し、何事もなかったように学校へ通い、何事もなかったかのように従姉の家に戻った。事実とはまるで違っていたが、これまでの生活と何一つ変わらない素振りだった。
タクシーは交差点で止まる。車窓から見えるのは鄒おばさんの店で、いつものように客で賑わっていた。鄒おばさんの姿はカーテンの隙間からわずかに見える。たった二日しかたっていないのに、顧海は鄒おばさんの味が懐かしくなった。車内にまでいい匂いが漂ってくるようだ。
「もう着きますよ」
運転手が顧海に金の準備を促した。顧海は素早く小銭を用意して運転手に渡そうとし、たまたま車外の二人が目に入る。
白洛因が尤其を連れ、笑いながら自転車を押して一緒に校門をくぐっていくところだった。
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車を止め、運転手は手を伸ばして顧海が渡す金を掴もうとしたが、それは叶わなかった。
「どうしました?」
運転手は困惑した。彼は何故急に顔色を変えたのだろう。
「なんでもない。行きたくなくなったので戻ってください」
「来た道を戻るんですか?」
運転手は質問を投げかける。
「教科書を家に忘れたんですか?」
顧海は答えず、冷たい顔がバックミラーにひどく恐ろしく映った。運転手は悟ったようにそれ以上何も聞かず、Uターンして来た道を戻った。
家で二日間気持ちを整え、白洛因はもう完全に普通の状態で顧海に向き合えると思っていたが、教室に入るとそれがいかに難しいか思い知らされた。
後ろの席は朝からその日の授業がすべて終わるまで空っぽのままだった。後ろには誰もいないのに、白洛因は背後の動向にひどく敏感になった。授業の終わりに誰かが机を動かしたり、授業の開始時に誰かが後ろのドアを開けるたびに胸がぎゅっと締め付けられ、落ち着くまでにずいぶん時間がかかった。
顧海がいないときでこの状態なら、彼が戻ってきたら一体自分はどうなってしまうのだろう。彼はいままでこんなにも感情の制御を失ったことはなかった。激しく強い言葉を吐き出したというのに、気持ちを鎮めることができない。
「これは顧海の作文ノートだけど、彼が来ないからあなたのところに置いておく」
中をパラパラめくると、顧海が授業で覚えた古典詩詞が書かれている。一瞬自分が書いたのかと思ったが、よく見れば違う。すべての文字が一画一画丁寧に辛抱強く真面目に意固地に書かれている。もし白洛因が自分の書いた内容を覚えていなければ、彼自身が書いた文字だと勘違いするほどそっくりだった。
ある種の感情は生活の細かい部分に深く密接に入り込んでいて、切り離すことができない。顧海は字体だけでなく、白洛因の生活習慣からも多くの影響を受けていた。彼らは街角でお互いに良く知る光景を目にしては暗黙の了解で笑い合い、食事のときにも相手が嫌いなものを自分の茶碗に乗せ、自分が嫌いなものを相手の茶碗に投げ入れた。いつもお互いのスリッパやタオルを間違えて使い、起き抜けにうっかり服を間違えて着てしまったときには、一日中相手の匂いを感じ続けた。
ノートを最後までめくると、三枚にわたってびっしりと文字が書かれている。一枚目は白、二枚目は洛、三枚目は因の文字だ。人は文字を練習するとき、往々にして無意識に心の中にあるものを書く。ある歌を聞いたら一日中その歌を口ずさんでしまうように。白洛因は顧海がこれらの字を練習するとき何を考えていたのかあえて想像することを避けた。たとえこの三枚分の名前にどれだけ深い愛情がこめられていたとしても。
授業が終わると、単暁璇は白洛因に尋ねた。
「顧海はどこに行ったの?」
「知らないよ」
「あなたも知らないの?」
単暁璇は大げさに驚き、そんなときにも色気を醸そうとする。
「あなたたち、交代して授業を聞いてるんじゃないでしょうね。今日はあなたが、明日は彼が来て、どちらかが授業を聞けば帰ってから教え合えるし……」
「顧海は昨日来たのか?」
単暁璇は頷いた。
「そうよ。あなたが来なかった二日間、彼は来ていたわ!」
白洛因は顔色を変えて黙り込んだ。
二時間目が終わると学級委員が白洛因の元へやってきた。
「これは顧海の校内安全責任書だ。彼がいないから代わりにサインしてくれ」
白洛因は少しためらったがサインをした。
昼休みには生活委員が白洛因の元へやってきて、顧海宛の速達が何故か学校へ送られてきたので、代わりに受け取ってくれと言われた。
李爍と周似虎がプライベートラウンジにやって来ると、顧海はひとり悶々と酒を飲んでいた。
彼らは顧海を両側から挟んで座り、気心の知れた兄弟としてバカ話を始める。
「大海、別れたら別れたでいいじゃないか。付き合ってた時は言わなかったけど、いったい金璐璐のどこがよかったんだ? 顔もスタイルも街を歩けばそこら中にいるレベルだろう?お前に釣り合わないって」
「そうだよ。さらに威張り散らして人を虐めるし、せ……性格だって悪い。俺は彼女が話しているところがすごく嫌いだったんだ。お前の彼女じゃなきゃとっくにケンカになってたさ!」
「大海、もっと早く別れるべきだったよ。ここで働くお姉ちゃんたちを見ろよ、どの子も彼女よりきれいだぞ?」
「そうだそうだ。お前みたいにイケてる男なら、どんな女だって抱かれたがるぞ!」
二人は代わる代わる慰め、顧海は何杯目かわからないほど酒を煽り、赤い目でのろのろと動く二人の唇を眺めていた。壁の金色が眩しく感じられ、手に持ったグラスもどんどんぼやけていく。目が回って自分の心のありかがわからなくなり、嫉妬と思慕が酔いと共に喉元にせり上がってきた。
李爍が従業員を呼びに行こうとすると、突然顧海に押さえつけられ、猛烈にソファーに押し倒される。
「大海、どうしたんだ?」
李爍は驚いて固まった。顧海は何も聞こえないように両手で李爍の顔を挟み、しゃがれた声でつらそうに問う。
「俺はお前に優しくなかったか? この顧海が誰にそこまでしてやった?」
「優しかった、優しかった」
李爍は話を合わせた。
「お前は誰よりも俺によくしてくれたよ」
「じゃあなんであんな冷たいことを言うんだ」
李爍は金璐璐になりきって言葉を絞り出す。
「それは私がクズだから。ありえないほどクズなの!」
「誰がクズだって?」
顧海は李爍の前髪を撫でつけ、猛然と彼の頭に噛みついた。
「誰がお前に自分をクズだって言わせたんだ?」
「わあ、大海! なんで噛みついたりするんだよ!」
李爍は泣いて訴える。周似虎は隣で大爆笑した。
顧海の心は相変わらず苦しみと悲憤がない混ぜになり、独り言をつぶやいたり大声で叫んだりしていたが、内容は同じことの繰り返しだった。
なんでそんなに残酷なんだ? 俺を嫌いになったのか?
周似虎はしみじみとつぶやいた。
「金璐璐のつけた傷は深いな!」
「因子」
顧海は突然きつく李爍を抱きしめる。
「お前に会いたい」
因子? 李爍と周似虎は凍りついた。すごく耳に馴染んだ名前だぞ?
顧海は二人がぼんやりしている間に李爍の服を裂き、乳首に噛みついた。李爍は大きな叫び声を上げる。
「俺のことはどうでもいいのか? こいつ、本気にしてないんだろう? 今日はお前をやってやる。気骨があるなら黙ってろ! 今日はお前が従順になるまでやり続けてやる。絶対にやってやるぞ!」
「俺は気骨なんてないよ!!!」
李爍は天を仰いで懇願した。
「虎子!!虎子!!早く助けてくれ!!」
顧海はもう五日も学校に来ていない。
白洛因の机には顧海のものが山積みになっていた。新しく配られたノート、プリント、体育用品、保護者へのお知らせなど……午後の二時間目に単暁璇は白洛因にメモを回してきた。
「顧海が転校するって聞いたけど本当?」
白洛因はメモを見ながらしばらく茫然とする。そして初めて誰かから回って来たメモに返事を返した。これまでは読んだらすべて丸めて放っておいたのだ。
「なぜわかったんだ?」
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