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第十章
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次の朝、白洛因が机にリュックを置くとすぐに副学級委員が頭を掻きながらやってきた。
「白洛因、ちょっと話があるんだ。外に来てくれないか」
白洛因の後ろから顧海もついて来た。
副学級委員は顧海に怯え、白洛因に目配せをする。
彼を先にクラスに帰してくれないか? そうじゃないと俺は話が続けられないよ!
白洛因はそもそも顧海に聞かせるつもりはなかった。特に副学級委員の暗く沈んでいる顔色を見て不安になり、自分がショックを受けて狼狽する様子を顧海に見せたくなかった。
「先に戻ってろよ」
顧海は首を捻る。
「俺はここで話を聞きたい」
この胡散臭い奴がどれだけ適当な話をするのか聞いてやる。
白洛因はため息をつき、副学級委員に告げた。
「もうはっきり言ってくれよ。心の準備はできてるから」
副学級委員は大きく息を吸い込むと、わははと笑った。
「実はね、昨日は俺もよく状況がわかってなかったんだ。お前はこの五項目の中でひとつだけ陽性になってる。それはつまり体内に抗体があるという証拠なんだ。俺たちのクラスで抗体があるのはお前と毛亮、郝娟だけでそれ以外の奴は全員抗体がないから、ワクチンを打ち続けなきゃならないってことなんだ」
「……」
顧海は口を開く。
「つまりこの三人の結果が一番良かったってことか?」
「うん、そういうことだね」
副学級委員は爪先立ちになって白洛因の肩を叩く。
「俺に感謝しろよ。大きなサプライズだっただろう」
白洛因は歯噛みをし、恩着せがましい副学級委員を睨んだ。
「本当に感謝しなきゃならないな!」
そう言い捨て、顧海に視線で指示を出すと、先に教室に戻る。ほどなくして副学級委員の泣き叫ぶ声が外から聞こえて
きた。あの細く小さい身体で顧海の硬い拳に耐えられるはずがない。顧海が軽く何発か食らわせただけで副学級委員は壁に背をつけて崩れ落ち、両手を上に向けて降参する。
顧海も腹を立てていた。
「なんでこんなに早くバラすんだ」
「え?」
副学級委員はぽかんと顧海を眺めた。顧海は心の中で吠える。
俺の大きなお楽しみを奪いやがって! 本来ならこのままうまいこと慰めるという口実で腕の中で可愛がりまくって好き放題できたのに、お前が邪魔をしたせいで俺の春は台無しだ。
とはいえ白洛因の晴れ晴れとした顔を見ればやはり嬉しくなる。自分の大切な相手が毎日悶々としているのは忍びない。愛情はゆっくり育てればいい。つらいときに受け入れてくれたなら、嬉しいときにだって自然と受け入れてくれるようになるはずだ。
「だから言っただろう?」
顧海は自転車を押しながら得意げになる。
「最初から大丈夫だって言ったじゃないか。それなのにお前ときたら一晩中悩みやがって。もし昨日お前の機嫌がもう少しよかったら、俺たちはもっと気持ちよかったと思わないか?」
最初のうちは笑って聞いていた白洛因だが、話の後半を聞いて顔をしかめる。
「もう過ぎたことは忘れろ。いつまでもあれこれ言うな」
「こいつ、手のひら返しか?」
顧海は憤慨する。俺様が夕べあんなにご奉仕してお前を気持ちよくさせてやったっていうのに、いまになって何事もなかったように澄ましやがって、俺の顔もまともに見ようとしない!
白洛因は眉をひそめ、気まずそうに言った。
「誰が手のひら返しだって? 俺はただお前がいつまでもあのときのことをペラペラしゃべるのが鬱陶しいだけだ。自慢するようなことか?」
「俺はしゃべるぞ。しゃべるに決まってる!」
非常識さこそ顧海の大いなる特徴だった。
「昨日どこかの誰かさんはすごく気持ちよかったみたいで俺の背中に何本も爪痕を残し、髪の毛もごっそり抜いてすごくエロい声で叫んでたのに……チェッ……あのときの真似をしてやろうか?」
白洛因は大股で近寄り、避けようとする顧海を捕まえて狂ったように蹴りを入れる。
二人の笑い声が道に響いた。
自習の時間にはクラスは賑やかになる。お互いに問題を出し合ったりおしゃべりをしたり、後ろでこっそりドリブルをする者もいて、教室はまるで生鮮市場のようにうるさかった。
尤其は後ろを向いて小声で白洛因に伝える。
「金曜日、俺と一緒にうちに来いよ!」
「お前と一緒に? 天津に?」
尤其は頷く。
「そうだよ。俺がいつもお前の話をするから、母さんがお前に会いたがってるんだ」
親のことを持ち出されると、ちょっと気が重い。白洛因は自分が大人に好かれる人間ではないと思っていた。一般的に三、四十代の中年は、明るく活発で笑顔を浮かべて話す人付き合いの上手な少年を好むものだ。白洛因はそれがとても苦手で、同級生の家に行っても基本的には無表情で座っているので、彼を知らない人間からは借金取りと間違われる。
「やっぱりやめておくよ。お前の母さんがいないときになら遊びに行ってもいいけど」
「そんなこと言うなよ!」
尤其はハンサムな顔に焦りの色を浮かべる。
「うちの母さんがお前に会いたがってるから連れて行こうとしてるんだぞ」
白洛因は母さんと聞くだけで本当に頭が痛くなった。
「うちの母さんの料理はめっちゃ美味いぞ」
料理と聞いた途端に白洛因の心はちょっと動く。顧海は後ろから白洛因の背中を指で弾き始めた。
「なんだよ」
白洛因が振り向くと顧海は嫉妬まみれの声を出した。
「土曜日は俺と一緒に家具を見に行こうぜ!」
「家具を見てどうするんだ?」
白洛因は怪訝な顔をする。顧海は眉を跳ね上げた。
「俺のあの新しい家はまだ家具が全然揃ってないんだ。お前、気付いてなかったのかよ?」
「お前が自分で買いに行けばいいだろう。俺を呼んでどうする」
それはこれから俺たちが一緒に住むに決まってるからだよ。顧海はあえてその言葉を飲み込んだ。言えば余計に白洛因が来なくなると思ったからだ。
「お前のセンスはいいからさ。一緒に見てもらいたいんだ」
顧海は傲岸不遜な眼差しで強く白洛因に訴える。その内容は言わずもがなだ。
こいつの家に行ったら、たたじゃおかないからな!
実際白洛因も尤其には断ろうと思っていたのだが、こうなると面白くないのは尤其だ。
「先週帰ったときにお前が来るって言っちゃったから、母さんはもう食材を準備してるよ」
白洛因はとても申し訳なくなった。
「じゃあこうしよう。俺はお前のお母さんにお土産を買うから、持って帰ってくれよ。そして冬休みになったら遊びに行くって伝えてくれ」
尤其は黙りこんだ。
授業が終わり、楊猛が引き出しから小浣熊干脆面(ラーメンスナック)の袋を取り出してポリポリ齧っていると、突然後ろのドアが開いて雷のような咆哮が聞こえてきた。楊猛は驚いて袋を落とし、体中にラーメンスナックをぶちまける。
「楊猛、お前を呼んでるんだ。さっさと来いよ!」
クラスはハチの巣を突いたような騒ぎになった。尤其が来るたびに、楊猛は美女軍団から質問責めに遭う。尤其と仲がいいの? 彼は普段何を食べるのが好き? あなたと一緒にいるときもあんなにクールなの?
ふざけんな、全然仲良くなんてないぞ! 楊猛はそう叫びたくてたまらなかった。
今日の尤其はとても機嫌が悪そうだった。いつもなら格好をつけて戸口に立ち、女子に楊猛を呼ばせてから廊下の隅で
話をするのに、今日はイメージなどかまわないように大声で吠え、楊猛が出ていくと顔色を変えて罵った。
「お前、一日中教室に籠ってないで男なら街に出ろよ。いまの自分を見てみろ。まだ襟付きの上着なんて着てんのか!飯食って腹いっぱいなのかよ。口の端にインスタントラーメンのカスなんてつけやがって。インスタントラーメンは油で揚げてあるんだ。不健康だって知ってるか? 目を見ればお前の心の汚れがわかるんだぞ。この野郎、汚いろくでなしだな。何見てるんだ。俺を見てれば自分が清くなれるとでも? お前はゴミ箱の脇にある臭い匂いの木のサンダルだぞ。日がな一日威張り散らすバカ野郎だ。お前のやってる汚いことを知らないとでも思ってるのか。俺にはわかってるんだ、恥ずかしい奴め……」
楊猛は呆然とした。ただおとなしく座っているだけなのに、何でこんなに怒られなきゃならないんだ。尤其は灰色の塗料を塗りつけたようにひどい顔色だ。楊猛は彼の目の前で手を振る。
「おい、兄さん。医務室に連れて行くから薬をもらえよ。このままじゃまずいだろう」
尤其は楊猛の肩を猛然と押さえつけ、彼を実験棟の暗い廊下へ引きずって行った。隣は資料室で、薄暗い廊下には歴代校長の白黒写真が貼られている。強い殺気が楊猛の周囲を覆った。
「何をするつもりだ?」
楊猛の声は震える。尤其は楊猛の襟を掴み、脅かすように言った。
「土曜日にうちに来て飯を食え! お前に拒絶する理由はないだろう!」
尤其は恫喝し、楊猛の頭を強く指で突いた。楊猛は愕然とする。
いったいこいつに何があったんだ?
「わかったか?」
尤其は詰問する。
「断る気か!」
尤其はまた楊猛の頭を突いた。いままで楊猛は一言も発していないのに、尤其は集中砲火を浴びせ続けた。彼の後ろには初代校長の写真が飾られている。清朝末期の秀才(科挙の郷試の受験資格を得た者)だ。目の前で睨み合う二人に、自分が学校を創立したのはお前たちにこんなくだらないことを議論させるためじゃないと訴えているかのようだった。
尤其は心に鬱屈していたものをようやくすべて吐き出した。彼はこの二か月ずっとストレスを溜め込んでいて、やっと発散する相手を見つけた。お前は俺を冷遇し、俺にかまう暇がないんだろう? いいさ。じゃあ俺はお前の友達に毎日ウザ絡みをして、奴が耐え切れなくなってお前に泣きつくまで続ける。それからこいつの手を借りて顧海を攻撃し、報復してやる!
尤其は自分の愚かで情けない思いつきに悦に入っていた。
楊猛は尤其が黙り込んだので、我慢できずに口を開く。
「えっと……因子は学校に来てないのか?」
「来てるさ!」
尤其は襟を立て、いつものような表情に戻った。
「教室で座ってるよ!」
「じゃあなんで俺を邪魔しに来るんだ」
「邪魔だなんて言うなよ」
尤其は外に向かって歩きながら答える。
「俺はお前の考え方に問題があると思ったから来たんだ」
実験棟を出ると、ようやく太陽の光が見えた。
「お前の考え方だって問題あるだろう? なんで下着を裏返しに着てるんだ? 俺にとやかく言える立場か? 俺が襟付きの上着を着てるからなんだっていうんだ。俺は襟を後ろ前に着てないぞ!」
おっと……尤其は俯いて胸の部分から糸が出ていることに気づく。若干気まずい空気が流れたが、またクールな顔に戻る。
「これは個性っていうんだ」
楊猛は口を尖らせ、おおいに不満を表した。
「お前の言う通りに生きたら三十手前で疲れて死んじまうよ」
「……」
楊猛は教室に戻りながら、心の中で罵りまくった。ふざけんな。なんでわけもわからず怒鳴りつけられなきゃならないんだ。
「白洛因、ちょっと話があるんだ。外に来てくれないか」
白洛因の後ろから顧海もついて来た。
副学級委員は顧海に怯え、白洛因に目配せをする。
彼を先にクラスに帰してくれないか? そうじゃないと俺は話が続けられないよ!
白洛因はそもそも顧海に聞かせるつもりはなかった。特に副学級委員の暗く沈んでいる顔色を見て不安になり、自分がショックを受けて狼狽する様子を顧海に見せたくなかった。
「先に戻ってろよ」
顧海は首を捻る。
「俺はここで話を聞きたい」
この胡散臭い奴がどれだけ適当な話をするのか聞いてやる。
白洛因はため息をつき、副学級委員に告げた。
「もうはっきり言ってくれよ。心の準備はできてるから」
副学級委員は大きく息を吸い込むと、わははと笑った。
「実はね、昨日は俺もよく状況がわかってなかったんだ。お前はこの五項目の中でひとつだけ陽性になってる。それはつまり体内に抗体があるという証拠なんだ。俺たちのクラスで抗体があるのはお前と毛亮、郝娟だけでそれ以外の奴は全員抗体がないから、ワクチンを打ち続けなきゃならないってことなんだ」
「……」
顧海は口を開く。
「つまりこの三人の結果が一番良かったってことか?」
「うん、そういうことだね」
副学級委員は爪先立ちになって白洛因の肩を叩く。
「俺に感謝しろよ。大きなサプライズだっただろう」
白洛因は歯噛みをし、恩着せがましい副学級委員を睨んだ。
「本当に感謝しなきゃならないな!」
そう言い捨て、顧海に視線で指示を出すと、先に教室に戻る。ほどなくして副学級委員の泣き叫ぶ声が外から聞こえて
きた。あの細く小さい身体で顧海の硬い拳に耐えられるはずがない。顧海が軽く何発か食らわせただけで副学級委員は壁に背をつけて崩れ落ち、両手を上に向けて降参する。
顧海も腹を立てていた。
「なんでこんなに早くバラすんだ」
「え?」
副学級委員はぽかんと顧海を眺めた。顧海は心の中で吠える。
俺の大きなお楽しみを奪いやがって! 本来ならこのままうまいこと慰めるという口実で腕の中で可愛がりまくって好き放題できたのに、お前が邪魔をしたせいで俺の春は台無しだ。
とはいえ白洛因の晴れ晴れとした顔を見ればやはり嬉しくなる。自分の大切な相手が毎日悶々としているのは忍びない。愛情はゆっくり育てればいい。つらいときに受け入れてくれたなら、嬉しいときにだって自然と受け入れてくれるようになるはずだ。
「だから言っただろう?」
顧海は自転車を押しながら得意げになる。
「最初から大丈夫だって言ったじゃないか。それなのにお前ときたら一晩中悩みやがって。もし昨日お前の機嫌がもう少しよかったら、俺たちはもっと気持ちよかったと思わないか?」
最初のうちは笑って聞いていた白洛因だが、話の後半を聞いて顔をしかめる。
「もう過ぎたことは忘れろ。いつまでもあれこれ言うな」
「こいつ、手のひら返しか?」
顧海は憤慨する。俺様が夕べあんなにご奉仕してお前を気持ちよくさせてやったっていうのに、いまになって何事もなかったように澄ましやがって、俺の顔もまともに見ようとしない!
白洛因は眉をひそめ、気まずそうに言った。
「誰が手のひら返しだって? 俺はただお前がいつまでもあのときのことをペラペラしゃべるのが鬱陶しいだけだ。自慢するようなことか?」
「俺はしゃべるぞ。しゃべるに決まってる!」
非常識さこそ顧海の大いなる特徴だった。
「昨日どこかの誰かさんはすごく気持ちよかったみたいで俺の背中に何本も爪痕を残し、髪の毛もごっそり抜いてすごくエロい声で叫んでたのに……チェッ……あのときの真似をしてやろうか?」
白洛因は大股で近寄り、避けようとする顧海を捕まえて狂ったように蹴りを入れる。
二人の笑い声が道に響いた。
自習の時間にはクラスは賑やかになる。お互いに問題を出し合ったりおしゃべりをしたり、後ろでこっそりドリブルをする者もいて、教室はまるで生鮮市場のようにうるさかった。
尤其は後ろを向いて小声で白洛因に伝える。
「金曜日、俺と一緒にうちに来いよ!」
「お前と一緒に? 天津に?」
尤其は頷く。
「そうだよ。俺がいつもお前の話をするから、母さんがお前に会いたがってるんだ」
親のことを持ち出されると、ちょっと気が重い。白洛因は自分が大人に好かれる人間ではないと思っていた。一般的に三、四十代の中年は、明るく活発で笑顔を浮かべて話す人付き合いの上手な少年を好むものだ。白洛因はそれがとても苦手で、同級生の家に行っても基本的には無表情で座っているので、彼を知らない人間からは借金取りと間違われる。
「やっぱりやめておくよ。お前の母さんがいないときになら遊びに行ってもいいけど」
「そんなこと言うなよ!」
尤其はハンサムな顔に焦りの色を浮かべる。
「うちの母さんがお前に会いたがってるから連れて行こうとしてるんだぞ」
白洛因は母さんと聞くだけで本当に頭が痛くなった。
「うちの母さんの料理はめっちゃ美味いぞ」
料理と聞いた途端に白洛因の心はちょっと動く。顧海は後ろから白洛因の背中を指で弾き始めた。
「なんだよ」
白洛因が振り向くと顧海は嫉妬まみれの声を出した。
「土曜日は俺と一緒に家具を見に行こうぜ!」
「家具を見てどうするんだ?」
白洛因は怪訝な顔をする。顧海は眉を跳ね上げた。
「俺のあの新しい家はまだ家具が全然揃ってないんだ。お前、気付いてなかったのかよ?」
「お前が自分で買いに行けばいいだろう。俺を呼んでどうする」
それはこれから俺たちが一緒に住むに決まってるからだよ。顧海はあえてその言葉を飲み込んだ。言えば余計に白洛因が来なくなると思ったからだ。
「お前のセンスはいいからさ。一緒に見てもらいたいんだ」
顧海は傲岸不遜な眼差しで強く白洛因に訴える。その内容は言わずもがなだ。
こいつの家に行ったら、たたじゃおかないからな!
実際白洛因も尤其には断ろうと思っていたのだが、こうなると面白くないのは尤其だ。
「先週帰ったときにお前が来るって言っちゃったから、母さんはもう食材を準備してるよ」
白洛因はとても申し訳なくなった。
「じゃあこうしよう。俺はお前のお母さんにお土産を買うから、持って帰ってくれよ。そして冬休みになったら遊びに行くって伝えてくれ」
尤其は黙りこんだ。
授業が終わり、楊猛が引き出しから小浣熊干脆面(ラーメンスナック)の袋を取り出してポリポリ齧っていると、突然後ろのドアが開いて雷のような咆哮が聞こえてきた。楊猛は驚いて袋を落とし、体中にラーメンスナックをぶちまける。
「楊猛、お前を呼んでるんだ。さっさと来いよ!」
クラスはハチの巣を突いたような騒ぎになった。尤其が来るたびに、楊猛は美女軍団から質問責めに遭う。尤其と仲がいいの? 彼は普段何を食べるのが好き? あなたと一緒にいるときもあんなにクールなの?
ふざけんな、全然仲良くなんてないぞ! 楊猛はそう叫びたくてたまらなかった。
今日の尤其はとても機嫌が悪そうだった。いつもなら格好をつけて戸口に立ち、女子に楊猛を呼ばせてから廊下の隅で
話をするのに、今日はイメージなどかまわないように大声で吠え、楊猛が出ていくと顔色を変えて罵った。
「お前、一日中教室に籠ってないで男なら街に出ろよ。いまの自分を見てみろ。まだ襟付きの上着なんて着てんのか!飯食って腹いっぱいなのかよ。口の端にインスタントラーメンのカスなんてつけやがって。インスタントラーメンは油で揚げてあるんだ。不健康だって知ってるか? 目を見ればお前の心の汚れがわかるんだぞ。この野郎、汚いろくでなしだな。何見てるんだ。俺を見てれば自分が清くなれるとでも? お前はゴミ箱の脇にある臭い匂いの木のサンダルだぞ。日がな一日威張り散らすバカ野郎だ。お前のやってる汚いことを知らないとでも思ってるのか。俺にはわかってるんだ、恥ずかしい奴め……」
楊猛は呆然とした。ただおとなしく座っているだけなのに、何でこんなに怒られなきゃならないんだ。尤其は灰色の塗料を塗りつけたようにひどい顔色だ。楊猛は彼の目の前で手を振る。
「おい、兄さん。医務室に連れて行くから薬をもらえよ。このままじゃまずいだろう」
尤其は楊猛の肩を猛然と押さえつけ、彼を実験棟の暗い廊下へ引きずって行った。隣は資料室で、薄暗い廊下には歴代校長の白黒写真が貼られている。強い殺気が楊猛の周囲を覆った。
「何をするつもりだ?」
楊猛の声は震える。尤其は楊猛の襟を掴み、脅かすように言った。
「土曜日にうちに来て飯を食え! お前に拒絶する理由はないだろう!」
尤其は恫喝し、楊猛の頭を強く指で突いた。楊猛は愕然とする。
いったいこいつに何があったんだ?
「わかったか?」
尤其は詰問する。
「断る気か!」
尤其はまた楊猛の頭を突いた。いままで楊猛は一言も発していないのに、尤其は集中砲火を浴びせ続けた。彼の後ろには初代校長の写真が飾られている。清朝末期の秀才(科挙の郷試の受験資格を得た者)だ。目の前で睨み合う二人に、自分が学校を創立したのはお前たちにこんなくだらないことを議論させるためじゃないと訴えているかのようだった。
尤其は心に鬱屈していたものをようやくすべて吐き出した。彼はこの二か月ずっとストレスを溜め込んでいて、やっと発散する相手を見つけた。お前は俺を冷遇し、俺にかまう暇がないんだろう? いいさ。じゃあ俺はお前の友達に毎日ウザ絡みをして、奴が耐え切れなくなってお前に泣きつくまで続ける。それからこいつの手を借りて顧海を攻撃し、報復してやる!
尤其は自分の愚かで情けない思いつきに悦に入っていた。
楊猛は尤其が黙り込んだので、我慢できずに口を開く。
「えっと……因子は学校に来てないのか?」
「来てるさ!」
尤其は襟を立て、いつものような表情に戻った。
「教室で座ってるよ!」
「じゃあなんで俺を邪魔しに来るんだ」
「邪魔だなんて言うなよ」
尤其は外に向かって歩きながら答える。
「俺はお前の考え方に問題があると思ったから来たんだ」
実験棟を出ると、ようやく太陽の光が見えた。
「お前の考え方だって問題あるだろう? なんで下着を裏返しに着てるんだ? 俺にとやかく言える立場か? 俺が襟付きの上着を着てるからなんだっていうんだ。俺は襟を後ろ前に着てないぞ!」
おっと……尤其は俯いて胸の部分から糸が出ていることに気づく。若干気まずい空気が流れたが、またクールな顔に戻る。
「これは個性っていうんだ」
楊猛は口を尖らせ、おおいに不満を表した。
「お前の言う通りに生きたら三十手前で疲れて死んじまうよ」
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