ハイロイン

ハイロインofficial

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第十章

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一緒にゾウおばさんの店で朝食を食べながら、楊猛ヤン・モンは自分の五倍は食べる二人の男に驚いて目を丸くした。それから顧海グー・ハイが一人で悠々と自転車に乗り、白洛因バイ・ロインと楊猛は後ろから歩いていく。
「お前たち、ずっと一緒に住んでるのか?」
楊猛が声をひそめて問いかけると、白洛因は鷹揚に認めた。
「もうすぐ二カ月になるかな」
楊猛は驚いた。
「お前、誰かと一緒に寝るのは嫌いだろう?」
顧海はそれを聞いて達成感を覚え、自転車をこぐ速度もさらにゆっくりになった。
白洛因は顧海を一瞥し、淡々と答える。
「あいつは行くところがないからな。仕方なく一緒に暮らしてるんだよ!」
顧海は両足を地面につけ凶悪に眉を逆立てながら、白洛因の顔を何度も睨んで威嚇した。
いい加減にしないといまこの場でお前を媳婦シーフと呼ぶぞ?
学校まで半分ほどの場所まで歩き、白洛因はほぼ顧海と彼の事情を楊猛に説明し終えた。楊猛は本当に驚いたよう
だった。
「え? つまりお前の義理の父親の息子? あの……少将の息子ってことか?」
白洛因は頷く。顧海は彼らの前方で黙って話を聞き、口を挟まなかった。別に体面を失うことでもないし、白洛因が話したいなら言えばいい。李爍リー・シュオ虎子フーズーにもいずれ話さねばならない。
楊猛は話を聞いて混乱し、つい我慢できずに白洛因の話を遮った。
「お前の母親とこいつの父親が結婚したのか? それともこいつの母親とお前の父親か?」
白洛因は楊猛の頭を叩く。
「何言ってるんだ。もちろん俺の母親とこいつの父親だよ」
「じゃあどうしてお前の家で暮らしてるんだ? 理屈が合わないよ」
楊猛は目をパチパチする。白洛因は頭を痛めた。確かに説明が難しい。
「こいつは父親と折り合いが悪くて、俺は母親と合わないから、それでこうなったんだ」
楊猛は半信半疑で頷き、それから両手を擦り合わせ羨ましくてたまらない様子を見せた。
「なんてドラマチックなんだ! でも俺が手配した奴らがその場で逃げ出してよかったよ。もし本当に奴らが結婚式を壊してたら、こんないい兄弟は見つからなかったもんな!」
そのことについては白洛因も言い訳ができなかった。
「そうだ、ちゃんと聞いてなかったけど、あの人たちはいったいどうしたんだ? 金をもらったのにどうして途中で放り出したんだ」
楊猛は申し訳なさそうな顔をする。
「これも偶然なんだけど、あの日どこかから二人の記者が来て、カメラを担いで撮りまくられたんだって。それで四人は新聞沙汰になるのが怖くてカメラを奪おうとしたんだ。まさか記者があんなに腰抜けだとは思わなかったよ! 四人が追いかけたら二人はカメラを放り投げて逃げ出したんだ。俺のおじさんも人を見る目がないよ。あの四人は金に目が眩んだんだな。彼らはそのカメラを売って、なかなかの金になったらしいぞ……」
顧海は急ブレーキをかけた。
楊猛は顧海の後ろを歩いていたので、彼が急に止まって驚く。
「なんだって? お前が結婚式を壊そうと人を雇ったのか?」
楊猛はおそるおそる白洛因に目を向ける。
「白洛因が俺に頼んだんだ」
「それでその四人が誰に会ったって?」
「二人の記者」
楊猛は指を二本立てた。顧海は顔色を変える。
「その後は?」
楊猛はすべて白状した。
「その後は……あいつらは記者のカメラを奪い、白洛因が頼んだことは失敗した」
顧海が三カ月悩んだ案件はこれで解決した。諸悪の根源はここにいたのだ! 二か月以上苦心して探し続けた犯人
は、彼が夢の中まで追いかける愛しい恋女房だったのだ!
顧海は泣くに泣けなかった。
白洛因は顧海の反応を見てドキッとし、思わず尋ねる。
「あの記者はお前が雇ったんじゃないだろうな?」
顧海は口を閉ざして答えなかったが、白洛因はその反応ですべてを察した。
「お前もそいつらに結婚式を壊させようとしたんだな?」
顧海の顔色はさらに悪くなった。楊猛もそれを見てとり、堪えきれずジタバタする。
「なんてこった! 実は二組とも同じ目的だったのに、お互いに邪魔し合ったのか」
白洛因と顧海は顔を見合わせ、気まずい気持ちでそれ以上何も言わなかった。
だが楊猛は彼らの仲を取り持つように二人の肩を叩き、言い聞かせる。
「お前たちは喜ぶべきだよ。これこそご縁だ。考えてもみろ、もしあのとき結婚式が壊れていたらお前も家を出なかったし、この学校にも来なかったし、因子にも会えなかった。お前だってこんなにいい友達に出会えず、楽しく同じ家で暮らすこともなく、心から打ち解けあい、ここまで仲良くなることもなかっただろう。なあ、俺の言うとおりだよな?」
楊猛が訳知り顔でそう言うと、顧海と白洛因は示し合わせたように楊猛を見て声を揃える。
「お前に言われなくても俺たちはわかってるよ」
「……」
毎晩学校から家に帰ると、白洛因は必ず最初にケージを見て、阿郎アランの機嫌の良し悪しと餌や水は足りているかを確かめる。白洛因は阿郎にはとてもきめ細かく世話を焼くし、辛抱強い。学校の行き帰りにはかならず阿郎を可愛がる。そうしないと彼は元気がなくなってしまうからだ。
「そろそろ散歩に行ってやらないと」
白洛因は顧海に言った。顧海はケージを開けて阿郎を出そうとしたが、阿郎は出て来るなり白洛因に飛びつき、あの手この手で甘えまくった。白洛因が好きなようにさせていると、隣にいる顧海は嫉妬の炎を燃やした。
二人は中庭から出てひたすら東へ向かう。そこには河があり、老人たちがいつも集っている。阿郎が見知らぬ人に噛みつこうとするので、通行人は皆彼らを遠巻きにした。川に沿って歩いているとスズメの群れが頭の上を横切っていく。
すっかり寒い季節になり、河には薄い氷が張っていた。河面を吹きすさぶ風に顔が痛くなり、犬のリードを持つ手がかじかむと、顧海が隣からすっとやってきて白洛因の代わりに引く。
そのとき白洛因の目は河の対岸の光景に釘付けになった。
鄒おばさんが赤いウールのコートを着てポケットに手を入れている。時折口を開けて笑うと、素朴な顔が夕日に赤く優しく染まり、まるで二十歳過ぎに戻ったようだった。屋台であくせく働いていた頃のやつれた姿はもはやどこにもない。そして隣に立つ男は、かつて苦労した痕跡を消し去り、きちんとした服に身を包んで優しい笑顔を浮かべている。その挙動にもこれまでの無鉄砲さや迷いは見当たらなかった。
彼らは対岸に二人がいることには気づいておらず、互いに向けられた瞳には憚ることのない愛情が溢れていた。白洛因は複雑な心境だった。嬉しいけれど少し寂しい気持ちになる。
「吉日を選んで早く結婚すればいいさ」
顧海の言葉ですべての雰囲気が壊れた。白洛因は顧海を斜めに見やる。
「そんなに簡単に結婚できると思うか?」
「彼らの立場を考えて急いでるんだぞ?」
白洛因は理解できない。
「なんでお前が急ぐ必要がある?」
「彼らが二人の世界に浸るなら、お前はお邪魔虫になるだろう? 俺たち二人ともお邪魔虫同士がくっついて、俺たちも新しい部屋で過ごせば、それが最高じゃないか!」
白洛因はしばらく黙り込んだ後、阿郎の頭を叩いた。
「よし、いい子だ。あいつに噛みつけ!」
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