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第十二章
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二人はまるで間抜けな熊のように着ぶくれ、走ることもできずにゆっくり歩くしかなった。遅刻してもかまわない。この機会にじっくり街の雪景色を堪能しよう。
顧海は気づいた。街角の花屋やギフトショップがずいぶん早くから開き、店先には綺麗に飾られたリンゴが並んでいる。
「今日はクリスマスイブか?」
顧海が尋ねたが、白洛因もよくわからない。
「そうみたいだな」
顧海が携帯電話を見て確認すると、確かにそうだった。身近に女性がいないと本当にこういうことに疎くなる。男たちはそんなことはまったく気にしない。
学校には本当に遅刻したが、教室には誰もいなかった。運動場には人がたくさんいたので、皆下りて雪かきに行ったのだろう。白洛因が机の上にリュックを置くと、そこにはたくさんのリンゴがあった。引き出しの中にもぎっしり入っている。顧海も同じ状況で、尤其はさらにすごかった。この三人の机は壮観だった。白洛因と顧海は自分たちのクラスが担当する雪かきの場所を見つけ、そこに加わる。
「顧海、俺と箒を取り換えてくれ」
顧海が振り返ると、冷たい雪の玉が顔に飛んできて、鼻のところで砕け散る。思わず目を閉じ、ふたたび開いたときには白洛因はもう遠くに逃げ去っていた。
「やる気だな?」
顧海は箒を投げ捨て、追いかける。二人が激しく雪を投げ合うと周辺の学生も巻き込まれて攻撃を始め、最後には大きな雪合戦となった。高校生たちの心の中に眠る童心が呼び覚まされ、遊び始めれば本気になった。終わる頃にはみんなの服はびしょぬれだったが、このとき白洛因は顧海の賢さを思い知った。他のみんなは寒さに震えるだけだが、彼らには綿入れだけでなくダウンがある。
尤其は白洛因に林檎型のライターを送り、白洛因は黙ってこっそりそれを受け取った。
だが顧海はまったく悪びれることなく白洛因の肩を叩く。
「ある女子が俺に手編みのマフラーをくれたぞ。どういう意味だと思う?」
白洛因は冷たく鼻を鳴らした。
「お前が好きなんだろう」
顧海は白洛因の反応に満足したが、もっと焼餅を味わいたくてさらに聞く。
「これって返すべきかな。好意で編んでくれたのに俺が突き返したら傷つくと思わないか?」
「じゃあもらっておけよ」
顧海がまだ何か言いかけると、白洛因はそれを手で遮った。
「自分のことだろう。俺に聞くな」
言外に「勝手にしろ!」と伝えているのだ。顧海は少し間を置く。
「じゃあ、せっかくだから使ってみるか」
白洛因の背中は凍りついた。顧海はまた白洛因の背中を叩く。
「振り返ってカッコいいかどうか見てくれよ」
白洛因は顧海を無視したが、顔は引きつり目からは冷気を発していた。顧海は笑ってつぶやく。
「いいや。やっぱり返そう。好きじゃないのに相手に望みを持たせちゃうもんな」
実際は包みを開けてもいなかった。白洛因は強張っていた体からホッと力を抜く。自分でも気づいていなかったが、すべて表に出ていた。顧海が虐めればさらに妬いただろう。だが顧海は白洛因が可哀想でとてもできなかった。自分が少し優位に立てるとしても、白洛因に嫌な思いをさせたくなかったのだ。
今日は金曜日で、本来なら家に帰る日だったが、二人は街をぶらついた。賑やかな街を見てみたくなったのだ。そこら中に若いカップルが溢れ、花やぬいぐるみ、チョコレートなどを抱えている。どの店も店先に様々なプレゼントを並べていた。顧海は手をこすり合わせる。いまの気温の中で外をぶらつけば、やはり少し寒い。白洛因はとある小さな店で足を止め、上に掛けられた手袋を指さした。
「これいくら?」
「四十五元だよ」
白洛因は金を出して買い、顧海に渡そうとしたが、彼は忽然と姿を消していた。振り返って探すと、別の店でまったく同じ手袋を買っている。
顧海はまず自分が買ったものを白洛因の手に被せ、白洛因のセリフを奪った。
「いいプレゼントじゃないけど、これで手打ちにしてくれ」
白洛因は苦笑し、自分が持っていた手袋を顧海に被せた。俺もお前も朴訥とした男だから、相手に何を買えばいいかわからない。だから一番経済的で実用的なものにしようぜ!
帰る道すがらワンダ・シネマを通りかかる。電光掲示板にはクリスマスイブのオールナイト上映リストが表示されていた。顧海は足を止め、白洛因に言った。
「映画でも見るか?」
白洛因は少し驚いた。彼はずいぶん長い間この手の場所に来ていなかった。前回映画館に来たときは石慧と一緒だった。映画のタイトルも記憶にない。石慧が号泣し、隣でティッシュを渡し続けたので映画の内容すら覚えていない。少しためらったが、それでも顧海について映画館の中に入った。
クリスマスイブのオールナイト上映はたくさんあり、各シアターではラブストーリーや最新映画などがジャンル別に上映されていた。顧海と白洛因はじっくり選び、八番シアターの映画が一番自分たちに合っていると判断した。すべてガンアクションとホラーバイオレンス映画だ。
中に入るとほぼ空席で、観客はまばらだった。
「ガラガラじゃないか!」
「バカだな。誰がクリスマスイブにホラーバイオレンス映画を見るんだ」
カップルは手をつないでカップル専用シアターに行くか、肩を並べてラブストーリーが上映されているシアターへ入って行く。疲れたら相手の肩に頭を乗せて眠るのだ。だが彼らがそんなことをするわけがない。疲れるどころか見れば見るほど興奮し、三つ目の映画が始まる頃にはシアターには彼らしかいなくなっていた。だから興奮すれば誰憚ることなく大声で騒ぎ、腹が立ったら前の座席を蹴って罵り、眠くなると映画館の中を走り回る。最後の映画のエンドロールが流れると、彼らは何も言わずお互いの肩に頭を乗せた。二人とも目の下に真っ黒な隈を作っていたが、瞳は変わらず輝いていた。
「この三百元は本当に価値があったな!」
顧海の言葉に白洛因は頷いた。
「これまでで一番満足した映画だった」
二人はしばらく黙り込んだ後、顔を見合わせて笑い、疲れた体を引きずって映画館を出た。
昼頃実家に帰って昼食を食べ、阿郎とひとしきりイチャイチャした後、午後いっぱい爆睡し、夕方にはまた急いで家に戻った。李爍や周似虎と一緒にクリスマスパーティーをするからだ。元々外で食べるつもりだったのに、顧海が料理の腕前をおおげさに自慢したばかりに、ぜひとも食べさせろと二人は家に来ることになってしまった。帰り道、顧海は頭を悩ませる。
「夜飯は何を食べたい?」
「火鍋にしようぜ。羊のしゃぶしゃぶに」
「食べたいのか?」
白洛因は鼻で笑う。
「それだったら料理の腕は要らないだろう」
顧海は面子を潰され、表情を曇らせた。
「つまり、俺の飯は不味いってことか?」
「美味いかどうか、自分でもわかってるだろう?」
顧海は言葉を詰まらせ、大きな手で白洛因の首根っこを掴む。
「俺が茹でた卵は不味いか?」
「なんで俺が沸かしたお湯は不味いかって聞かないんだ?」
「この野郎……」
顧海は恨めしげに白洛因の首から手を放し、怒りの表情を浮かべて一メートル離れた。
おっと、怒ったのか?
白洛因が軽く咳払いをしても顧海は反応がなく、さらに顔をしかめ、口を一文字に引き結んで前方を直視する。暗い眼差しは底が見えず、一切の感情がわからなかった。
「本当に怒ったのか?」
白洛因は思わず口を滑らせる。
「気が短すぎるだろう」
顧海は怒りが消える前にさらに気が短いと言われ、男の尊厳が大きく傷ついた。一メートルどころか大股でどんどん前に進み、冷たい背中が白洛因の視界からますます遠ざかる。
こいつめ……白洛因は仕方なく足を速めて追いかけた。
「わかったよ。お前の飯はそう不味くもない。まだ向上の余地がある」
顧海はそれでも黙ったままだ。
「いい加減にしろよ。俺が意見を言うのは、お前が上達するためだろう!」
顧海は怒ったまま前に進む。白洛因は顧海の尻を蹴った。
「やられたいのか?」
顧海の顔はピクリと引き攣る。白洛因は脅し続けた。
「いつまでも拗ねてると、お前が考案した鍋肉味の鶏巴のネタを李爍たちに話すぞ?」
顧海は口角を上げ、白洛因を猛然と抱き込んで鼻に指を突き付けると、笑いながら罵った。
「悪い奴め」
やはりこの手の人間はスケベな言葉を使わないと自分を取り戻せないようだ。
二人はスーパーへ行き、羊肉の薄切りや鍋の素、青菜などをたくさん買い込み、手にぶら下げて帰った。
李爍と周似虎が来た時、鍋の中の湯は沸き立ち、いい香りがダイニングからすべての部屋に広がっていた。李爍と周似虎もお坊ちゃまなので、料理どころかキッチンの道具にすら触れたことがない。李爍は部屋に入った途端いい匂いを嗅ぎつけ、顧海の肩を叩いて大絶賛した。
「大海、すごいじゃないか。本当に何でもできるんだな。お前への尊敬がまたレベルアップしたぞ」
周似虎も追随する。
「そうだ。二年前には大海が料理を作れるようになるなんて、誰も思ってなかったぞ」
「そうそう。びっくりだよ。俺は朝も昼も抜いて、今日はこの一食に懸けて来たんだ!」
「俺なんてビデオカメラを持ってきたぞ」
李爍や周似虎の賞賛やお世辞を聞いていると、白洛因は恥ずかしくなってきた。どうりで顧海が二人に大きな顔で自慢をしたわけだ。ここにいる人間は誰も料理などできないからだ。
四人は食べながら飲み続ける。冬にビールは合わないからと李爍は家からマオタイ酒を二本持ってきた。一本飲み終えると四人の顔は真っ赤になり、おしゃべりも盛り上がる。
「嘘だろ! お前があの……なんだっけ姜…姜なんとかいう……あれの息子?」
李爍は勢いよくテーブルを叩き、火鍋のスープがこぼれた。周似虎も信じられないという顔をする。
「あれだけ大騒ぎして、結局お前たちは兄弟だったってことか?」
白洛因は何も語らず、顧海は彼に尋ねた。
「もっとたれを足すか?」
「自分でやるよ」
白洛因が手を動かす前に顧海は素早く彼の鍋小皿を持ってたれを入れ、スープを加えて味を見てから頷いた。
「これでいい」
李爍と周似虎は目を丸くした。一人がもう一人の肩を叩いて冗談を飛ばす。
「まるで本当の兄さんみたいだな」
白洛因はそれを聞いて視線を上げ、ゆっくりと目の前の二人に宣言した。
「俺がこいつの兄さんだ」
「おっと……」
李爍と周似虎は突然大声で笑い始める。顧海は彼らがなぜ笑うのかわかっているので、箸を飛ばして二人の頭に当て、冷たく目を光らせた。
「何がおかしい」
李爍は人の不幸を見て笑う。
「大海よ、お前にもついにこの日が来たか! 誰かに牛耳られるのはつらいだろう?」
「失せろ!」
顧海は李爍を蹴り飛ばす。李爍は冷たく鼻を鳴らした。
「そんなこと言うなら、お前の兄さんを罵ってみせろよ」
「そんなの簡単だ」
顧海が凄んでみせる。李爍は挑戦的な顔つきになった。
「罵れよ!」
周似虎も隣で囃す。
「そうだ。罵ってみろ。悔しかったら罵れ!」
顧海は振り返って白洛因を見た。彼は美味しそうに食べていて、まったく自分には関係ないという顔をしていた。確かに酒の力を借りて一言二言罵ったっていい。いつも冗談交じりに罵り合っている間柄だ。だがなぜか言葉が出てこない。こんなにおとなしく座って美味しく食べているのに、こんなにいい子にしているのに、なぜ突然口汚く罵らなきゃならないんだ? 一度くらいビビりと言われてもいいさ! 顧海は初めて友達の前で偉そうな態度をひっこめ、李爍や周似虎のからかいに堪えた。周似虎は酒を飲みすぎて口元を歪め、白洛因の手を引く。
「お前はすごいよ。顧海を抑え込んだんだから。最初どれだけお前の悪口を言ってたと思う?」
白洛因も少しハイになり、興味深げに周似虎を見た。
「俺のどんな悪口を言ってたんだ?」
顧海は鋭い視線で周似虎を睨みつける。
「お前、言えるものなら言ってみろ」
「言えよ」
白洛因は短い言葉をはっきりと、何の起伏もなく言い切った。
周似虎は白洛因の一撃を食らい、彼をソファーに引っ張って座らせると、当初顧海が何も知らないときにどれだけ白洛因を貶め悪口を言ったか、あることないこと付け加えてすべてしゃべり尽くした。白洛因は笑い話として聞き、まったく気に留めてはいなかったが、聞いているうちに目を開けていられなくなり、その後何もわからなくなった。
顧海は気づいた。街角の花屋やギフトショップがずいぶん早くから開き、店先には綺麗に飾られたリンゴが並んでいる。
「今日はクリスマスイブか?」
顧海が尋ねたが、白洛因もよくわからない。
「そうみたいだな」
顧海が携帯電話を見て確認すると、確かにそうだった。身近に女性がいないと本当にこういうことに疎くなる。男たちはそんなことはまったく気にしない。
学校には本当に遅刻したが、教室には誰もいなかった。運動場には人がたくさんいたので、皆下りて雪かきに行ったのだろう。白洛因が机の上にリュックを置くと、そこにはたくさんのリンゴがあった。引き出しの中にもぎっしり入っている。顧海も同じ状況で、尤其はさらにすごかった。この三人の机は壮観だった。白洛因と顧海は自分たちのクラスが担当する雪かきの場所を見つけ、そこに加わる。
「顧海、俺と箒を取り換えてくれ」
顧海が振り返ると、冷たい雪の玉が顔に飛んできて、鼻のところで砕け散る。思わず目を閉じ、ふたたび開いたときには白洛因はもう遠くに逃げ去っていた。
「やる気だな?」
顧海は箒を投げ捨て、追いかける。二人が激しく雪を投げ合うと周辺の学生も巻き込まれて攻撃を始め、最後には大きな雪合戦となった。高校生たちの心の中に眠る童心が呼び覚まされ、遊び始めれば本気になった。終わる頃にはみんなの服はびしょぬれだったが、このとき白洛因は顧海の賢さを思い知った。他のみんなは寒さに震えるだけだが、彼らには綿入れだけでなくダウンがある。
尤其は白洛因に林檎型のライターを送り、白洛因は黙ってこっそりそれを受け取った。
だが顧海はまったく悪びれることなく白洛因の肩を叩く。
「ある女子が俺に手編みのマフラーをくれたぞ。どういう意味だと思う?」
白洛因は冷たく鼻を鳴らした。
「お前が好きなんだろう」
顧海は白洛因の反応に満足したが、もっと焼餅を味わいたくてさらに聞く。
「これって返すべきかな。好意で編んでくれたのに俺が突き返したら傷つくと思わないか?」
「じゃあもらっておけよ」
顧海がまだ何か言いかけると、白洛因はそれを手で遮った。
「自分のことだろう。俺に聞くな」
言外に「勝手にしろ!」と伝えているのだ。顧海は少し間を置く。
「じゃあ、せっかくだから使ってみるか」
白洛因の背中は凍りついた。顧海はまた白洛因の背中を叩く。
「振り返ってカッコいいかどうか見てくれよ」
白洛因は顧海を無視したが、顔は引きつり目からは冷気を発していた。顧海は笑ってつぶやく。
「いいや。やっぱり返そう。好きじゃないのに相手に望みを持たせちゃうもんな」
実際は包みを開けてもいなかった。白洛因は強張っていた体からホッと力を抜く。自分でも気づいていなかったが、すべて表に出ていた。顧海が虐めればさらに妬いただろう。だが顧海は白洛因が可哀想でとてもできなかった。自分が少し優位に立てるとしても、白洛因に嫌な思いをさせたくなかったのだ。
今日は金曜日で、本来なら家に帰る日だったが、二人は街をぶらついた。賑やかな街を見てみたくなったのだ。そこら中に若いカップルが溢れ、花やぬいぐるみ、チョコレートなどを抱えている。どの店も店先に様々なプレゼントを並べていた。顧海は手をこすり合わせる。いまの気温の中で外をぶらつけば、やはり少し寒い。白洛因はとある小さな店で足を止め、上に掛けられた手袋を指さした。
「これいくら?」
「四十五元だよ」
白洛因は金を出して買い、顧海に渡そうとしたが、彼は忽然と姿を消していた。振り返って探すと、別の店でまったく同じ手袋を買っている。
顧海はまず自分が買ったものを白洛因の手に被せ、白洛因のセリフを奪った。
「いいプレゼントじゃないけど、これで手打ちにしてくれ」
白洛因は苦笑し、自分が持っていた手袋を顧海に被せた。俺もお前も朴訥とした男だから、相手に何を買えばいいかわからない。だから一番経済的で実用的なものにしようぜ!
帰る道すがらワンダ・シネマを通りかかる。電光掲示板にはクリスマスイブのオールナイト上映リストが表示されていた。顧海は足を止め、白洛因に言った。
「映画でも見るか?」
白洛因は少し驚いた。彼はずいぶん長い間この手の場所に来ていなかった。前回映画館に来たときは石慧と一緒だった。映画のタイトルも記憶にない。石慧が号泣し、隣でティッシュを渡し続けたので映画の内容すら覚えていない。少しためらったが、それでも顧海について映画館の中に入った。
クリスマスイブのオールナイト上映はたくさんあり、各シアターではラブストーリーや最新映画などがジャンル別に上映されていた。顧海と白洛因はじっくり選び、八番シアターの映画が一番自分たちに合っていると判断した。すべてガンアクションとホラーバイオレンス映画だ。
中に入るとほぼ空席で、観客はまばらだった。
「ガラガラじゃないか!」
「バカだな。誰がクリスマスイブにホラーバイオレンス映画を見るんだ」
カップルは手をつないでカップル専用シアターに行くか、肩を並べてラブストーリーが上映されているシアターへ入って行く。疲れたら相手の肩に頭を乗せて眠るのだ。だが彼らがそんなことをするわけがない。疲れるどころか見れば見るほど興奮し、三つ目の映画が始まる頃にはシアターには彼らしかいなくなっていた。だから興奮すれば誰憚ることなく大声で騒ぎ、腹が立ったら前の座席を蹴って罵り、眠くなると映画館の中を走り回る。最後の映画のエンドロールが流れると、彼らは何も言わずお互いの肩に頭を乗せた。二人とも目の下に真っ黒な隈を作っていたが、瞳は変わらず輝いていた。
「この三百元は本当に価値があったな!」
顧海の言葉に白洛因は頷いた。
「これまでで一番満足した映画だった」
二人はしばらく黙り込んだ後、顔を見合わせて笑い、疲れた体を引きずって映画館を出た。
昼頃実家に帰って昼食を食べ、阿郎とひとしきりイチャイチャした後、午後いっぱい爆睡し、夕方にはまた急いで家に戻った。李爍や周似虎と一緒にクリスマスパーティーをするからだ。元々外で食べるつもりだったのに、顧海が料理の腕前をおおげさに自慢したばかりに、ぜひとも食べさせろと二人は家に来ることになってしまった。帰り道、顧海は頭を悩ませる。
「夜飯は何を食べたい?」
「火鍋にしようぜ。羊のしゃぶしゃぶに」
「食べたいのか?」
白洛因は鼻で笑う。
「それだったら料理の腕は要らないだろう」
顧海は面子を潰され、表情を曇らせた。
「つまり、俺の飯は不味いってことか?」
「美味いかどうか、自分でもわかってるだろう?」
顧海は言葉を詰まらせ、大きな手で白洛因の首根っこを掴む。
「俺が茹でた卵は不味いか?」
「なんで俺が沸かしたお湯は不味いかって聞かないんだ?」
「この野郎……」
顧海は恨めしげに白洛因の首から手を放し、怒りの表情を浮かべて一メートル離れた。
おっと、怒ったのか?
白洛因が軽く咳払いをしても顧海は反応がなく、さらに顔をしかめ、口を一文字に引き結んで前方を直視する。暗い眼差しは底が見えず、一切の感情がわからなかった。
「本当に怒ったのか?」
白洛因は思わず口を滑らせる。
「気が短すぎるだろう」
顧海は怒りが消える前にさらに気が短いと言われ、男の尊厳が大きく傷ついた。一メートルどころか大股でどんどん前に進み、冷たい背中が白洛因の視界からますます遠ざかる。
こいつめ……白洛因は仕方なく足を速めて追いかけた。
「わかったよ。お前の飯はそう不味くもない。まだ向上の余地がある」
顧海はそれでも黙ったままだ。
「いい加減にしろよ。俺が意見を言うのは、お前が上達するためだろう!」
顧海は怒ったまま前に進む。白洛因は顧海の尻を蹴った。
「やられたいのか?」
顧海の顔はピクリと引き攣る。白洛因は脅し続けた。
「いつまでも拗ねてると、お前が考案した鍋肉味の鶏巴のネタを李爍たちに話すぞ?」
顧海は口角を上げ、白洛因を猛然と抱き込んで鼻に指を突き付けると、笑いながら罵った。
「悪い奴め」
やはりこの手の人間はスケベな言葉を使わないと自分を取り戻せないようだ。
二人はスーパーへ行き、羊肉の薄切りや鍋の素、青菜などをたくさん買い込み、手にぶら下げて帰った。
李爍と周似虎が来た時、鍋の中の湯は沸き立ち、いい香りがダイニングからすべての部屋に広がっていた。李爍と周似虎もお坊ちゃまなので、料理どころかキッチンの道具にすら触れたことがない。李爍は部屋に入った途端いい匂いを嗅ぎつけ、顧海の肩を叩いて大絶賛した。
「大海、すごいじゃないか。本当に何でもできるんだな。お前への尊敬がまたレベルアップしたぞ」
周似虎も追随する。
「そうだ。二年前には大海が料理を作れるようになるなんて、誰も思ってなかったぞ」
「そうそう。びっくりだよ。俺は朝も昼も抜いて、今日はこの一食に懸けて来たんだ!」
「俺なんてビデオカメラを持ってきたぞ」
李爍や周似虎の賞賛やお世辞を聞いていると、白洛因は恥ずかしくなってきた。どうりで顧海が二人に大きな顔で自慢をしたわけだ。ここにいる人間は誰も料理などできないからだ。
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「あれだけ大騒ぎして、結局お前たちは兄弟だったってことか?」
白洛因は何も語らず、顧海は彼に尋ねた。
「もっとたれを足すか?」
「自分でやるよ」
白洛因が手を動かす前に顧海は素早く彼の鍋小皿を持ってたれを入れ、スープを加えて味を見てから頷いた。
「これでいい」
李爍と周似虎は目を丸くした。一人がもう一人の肩を叩いて冗談を飛ばす。
「まるで本当の兄さんみたいだな」
白洛因はそれを聞いて視線を上げ、ゆっくりと目の前の二人に宣言した。
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「おっと……」
李爍と周似虎は突然大声で笑い始める。顧海は彼らがなぜ笑うのかわかっているので、箸を飛ばして二人の頭に当て、冷たく目を光らせた。
「何がおかしい」
李爍は人の不幸を見て笑う。
「大海よ、お前にもついにこの日が来たか! 誰かに牛耳られるのはつらいだろう?」
「失せろ!」
顧海は李爍を蹴り飛ばす。李爍は冷たく鼻を鳴らした。
「そんなこと言うなら、お前の兄さんを罵ってみせろよ」
「そんなの簡単だ」
顧海が凄んでみせる。李爍は挑戦的な顔つきになった。
「罵れよ!」
周似虎も隣で囃す。
「そうだ。罵ってみろ。悔しかったら罵れ!」
顧海は振り返って白洛因を見た。彼は美味しそうに食べていて、まったく自分には関係ないという顔をしていた。確かに酒の力を借りて一言二言罵ったっていい。いつも冗談交じりに罵り合っている間柄だ。だがなぜか言葉が出てこない。こんなにおとなしく座って美味しく食べているのに、こんなにいい子にしているのに、なぜ突然口汚く罵らなきゃならないんだ? 一度くらいビビりと言われてもいいさ! 顧海は初めて友達の前で偉そうな態度をひっこめ、李爍や周似虎のからかいに堪えた。周似虎は酒を飲みすぎて口元を歪め、白洛因の手を引く。
「お前はすごいよ。顧海を抑え込んだんだから。最初どれだけお前の悪口を言ってたと思う?」
白洛因も少しハイになり、興味深げに周似虎を見た。
「俺のどんな悪口を言ってたんだ?」
顧海は鋭い視線で周似虎を睨みつける。
「お前、言えるものなら言ってみろ」
「言えよ」
白洛因は短い言葉をはっきりと、何の起伏もなく言い切った。
周似虎は白洛因の一撃を食らい、彼をソファーに引っ張って座らせると、当初顧海が何も知らないときにどれだけ白洛因を貶め悪口を言ったか、あることないこと付け加えてすべてしゃべり尽くした。白洛因は笑い話として聞き、まったく気に留めてはいなかったが、聞いているうちに目を開けていられなくなり、その後何もわからなくなった。
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