ハイロイン

ハイロインofficial

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第十二章

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 再び目を開けると、すでに夜中の三時を回っていた。白洛因バイ・ロインは携帯電話が鳴る音で目を覚まし、そのときようやく自分がソファーで寝ていたことに気づいた。顧海グー・ハイに至っては床の絨毯にそのまま横たわっている。李爍リー・シュオ周似虎ジョウ・スーフーはいつの間にか帰ったようで、リビングもダイニングもめちゃくちゃだった。携帯はずっと鳴り続けている。白洛因は少し眩暈を覚え、壁に手を付きながら寝室へ辿りつき、鳴り続ける携帯電話を見つけた。
 知らない番号だ。こんな時間に誰からだ? 白洛因は電話を受け、気だるく「もしもし」と声を出した。相手からは何の返事もない。息の音さえ聞こえない。
「もしもし?」
 白洛因は眉をひそめる。
「白洛因」
 名を呼ぶ声が巨大な石のように重く白洛因の心にのしかかり、瞬時に目が覚める。
石慧シー・ホェ?」
 携帯電話の向こうからかすかにすすり泣く声が聞こえてきたが、すぐに押し殺したようだ。その後長い沈黙が続く。白洛因の心は千々に乱れた。
「俺の携帯番号をどうやって知ったんだ?」
 相手はまるで白洛因の問いかけが聞こえないように独り言をつぶやく。
「去年のクリスマス、私たちは一緒に過ごしたじゃない。今年は私一人。知ってる? 街はとても賑やかで、皆誰かと一緒にいるのに、私だけが一人。私だけが一人ぼっちで知らない街角に立ってあなたを思っているの。私の言葉は間違ってないでしょう? あなたは私に会いたいと思ってないでしょう。もしかしたらもうそばに誰かいるのかもね、ふふ……」
 白洛因は気を取り直し、淡々と告げる。
「石慧、もうやめろよ。俺たちはもう終わったんだ」
「わかってる。もうその現実は受け止めた。ただ今日は特別な日で、ここはあまりにも賑やかすぎるから、自分の感情を抑えきれなくて。あなたともう一度やり直せるとは思ってないわ。私はただ……伝えたかったの。すごく会いたい。本当にとてもとてもあなたに会いたい。思い出の中から抜け出せないの」
 白洛因はベランダに出て、氷のように冷たい壁に寄りかかり、無理やり自分の心を落ち着かせようとした。
「そんなふうにすればするほど抜け出せないだろう。もう俺の情報を聞くのはやめて、俺の番号も消してみろよ。俺に関するすべてを消して、俺を消せ」
「できないわ」
 石慧の声は詰まる。
「知ってる? 私が今まで我慢できたのは、いつかあなたとやりなおせるって幻想を抱いていたからよ」
 白洛因の指先はかすかに寒さを感じ、夜風が彼の呼吸を乱す。
「ありえない」
 そう言い切って深く息を吸い、電話を切った。
 


 白洛因はベランダに長い時間立っていたので全身が冷え切り、心の温度も正常値にまで下がったので、ようやく疲れた足を引きずりリビングへ戻った。
 顧海は相変わらず床に横たわり、ぐっすり眠っているようだった。いつもは白洛因に少しでも動きがあればすぐに察するのに、今日はあんなに長い間携帯電話が鳴って、白洛因も長い間電話をかけていたのに、まるで泰山のように穏やかだ。夕べたくさん飲んだせいかもしれない。白洛因は静かに顧海を眺めた。どうやってベッドに戻そう。彼を見ながら物思いに耽る。顧海がこんなに静かでおとなしいのは珍しい。今の彼は眠る豹のようだ。薄いシャツにズボンを履いた体を悠々と横たえ、がっしりした手と長い足はリラックスしても力を蓄えている。まるで次の瞬間飛び起き、相手に牙と爪を向け襲い掛かりそうだ。
 顧海は多面的で、彼の状態を正確に掴むのは難しい。冷たい怒りを発するときは、目線ひとつで相手に鳥肌を立てさせる。優しいときはいつでも握りつぶせる柔らかい柿のようになり、厳しいときは全身が一丁の銃のように硬くなり、どんなに情に訴えても聞き入れてくれない。下品なときは骨の髄まで軽薄になり、一瞬で肌が粟立つ……。
 一見複雑だが、これ以上ないほど単純でもある。
 白洛因も同じで直情的な性格だ。一見落ち着いているようだが、実は心の中はひどく揺れている。いま顧海を死ぬほど軽蔑していても、次の瞬間には彼の長所に目を止める。昨日は顧海にビンタを食らわせようと思っていても、今日は彼をやさしく守りたくなる。
 いまもそうだ。白洛因は長い間顧海を眺めていても、彼を起こす気にはなれない。最終的に白洛因は顧海を寝室まで抱いて運ぶことに決めた。荒唐無稽なように聞こえるが、白洛因は実際にそうした。顧海の腰を抱き上げて起き上がる。確かに少し重かったが、許容範囲内だ。一歩ずつゆっくりと寝室に向かい、ベッドに辿り着くとそっとおろし、靴や服を脱がせ始める。顧海が呻き声を上げたので白洛因は手を止め、顧海の顔を眺める。目は閉じ、まつ毛は短いながらも密に生え、鼻梁は高く、顔全体が立体的に見える。唇のラインはまっすぐで、色は少し暗めの赤。一目で男のものだとわかる薄い唇だった。
 白洛因の指は突然顧海の濃密な髪の毛に差し込まれ、下を向いて唇で顧海の呼吸を塞いだ。薄い唇を合わせたとき、白洛因は自分でもなぜそんな衝動に駆られたか理解できず、ただ自分の気持ちがとても乱れているからだと思った。顧海の歯をこじ開けると、強い酒の匂いが鼻を突く。その瞬間、白洛因は酔ったように舌を差し込み、荒々しく顧海の口の中を蹂躙した。歯と舌の区別もつかないほど粗暴に動いたため、血の匂いが鼻を突く。唾液に血が混じり、唇の端から流れていく。
 顧海は目を覚まし、腕をあげて白洛因の首を掴んだ。白洛因は動きを止めず、顧海と目が合っても恥ずかしさもためらいもなかった。荒々しく顧海の薄いシャツを開き、顧海のベルトを引き抜こうとする。まるで切迫した豺狼のように堪え性がなく、ズボンを引き下ろした瞬間、顧海の寛骨はベルトにぶつかり痛みを覚えた。顧海の目には赤い炎が燃え、白洛因の手が彼の体に刺激と電流をもたらしたとき、嗜虐心は頂点に達した。
 白洛因を自分の体の下に押し倒し、荒々しく股を開かせ、野獣のように膨れ上がったものを狭い場所に猛然と押し付ける。白洛因は体を捻ろうとしたが、顧海は体で押さえつけ、それを許さなかった。
「やらせろよ」
 顧海は低俗な言葉を白洛因の耳に吹き込む。白洛因は拳を握りしめ、顔をシーツに埋め込みながら苦しげな声を出した。
「いやだ」
 顧海がさっきよりも獰猛に腰を押し付けると、白洛因の体は激しく震える。
「なんでやらせないんだ?」
 顧海は威圧的に尋ねる。心もその瞬間、白洛因につられて力がみなぎった。なぜなら今日の白洛因は普通じゃない。身体をがっちり自分に押さえつけられていても心は千々に乱れている。顧海ははっきりと彼の焦りと不安を感じ取った。
 携帯電話が突然鳴り響き、白洛因の体はびくっと震えた。
「こんな時間に誰からの電話だ?」
 顧海はぼやいて携帯電話に手を伸ばしたが、白洛因が先に奪い、そのまま電源を切った。
「いたずら電話だろう」
 白洛因の答えを気に掛けず、顧海はそのまま体を下に素早くずらす。白洛因が察知できないうちに尻が誰かに甘噛み攻撃を受け始めた。足を上げようとしても押さえつけられ、腕を後ろに伸ばしても再度押さえつけられ、まるで縄でぐるぐる巻きにされた蟹のように完全に動けなくなり、愛の凌辱を受けることになった。
 顧海は歯で尻の穴の周りにひとしきり噛みついた後、突然中に向かって移動し始める。白洛因は死に物狂いで体に力を入れ、顧海や自分自身と戦う。顧海は白洛因が口にできない部位を舌で舐め始めた。彼は猛然と上を向き、顎をシーツにぶつけ、叫び声を上げる。
「顧海、このクソ野郎!」
「クソ野郎?」
 顧海は狂ったように笑った。
「もっとクソ野郎なことをしてやる」
「大海……大海……」
 白洛因は突然叫ぶ。声には哀願の色が混ざり、顧海がこれまで聞いたことのないものだった。彼の心は熱い灼熱の鉄のように硬かったが、その瞬間柔らかく溶けだす。
 顧海は白洛因を抱きしめ、胸をぴったり彼の背中につけると、顎を首筋に当てた。
「因子、何を怖がってるんだ?」
 白洛因は脱力したように目を閉じ、必死に自分の動悸を抑えようとする。顧海の手は神経が張り巡らされ、襞が交差している場所を容赦なく、後先も考えず突いては刺し、迫り続けた。
「なんでやらせてくれないんだ?」
 白洛因は悶絶しながら答える。
「痛いのが怖いんだ」
 実際、この理由は白洛因の心を占める割合で一番低いものだったが、顧海への効果は絶大だった。白洛因は本当の理由を伝えることはできたのに、突然理由もなく怖くなり、パニックに血も凍りそうになった。藁にも縋る思いだった。弱虫と思われてもいい。ただ彼の心の最後の防波堤を守りたかった。顧海は突然納得がいったように笑い、白洛因の尻を掌で叩く。
「お前にも怖いものがあったのか」
 白洛因は感情を上手に隠し、怒った様子を見せる。
「それなら俺が代わりにお前をやってみるか?」
 顧海はわざと白洛因を試した。
「いいぞ。やってみろよ」
 白洛因は死んだ魚のようにベッドに俯せになり、ぴくりとも動かない。
 顧海は笑った。とても複雑な笑いだった。それから白洛因の耳元に向かって小声でささやく。
「ベイビー、ちょっとだけつらいかもしれないけど、我慢しろ」
 白洛因は体を固くする。てっきり顧海が無理強いをすると思ったのだ。だが顧海は彼の腿を押さえつけ、鉄のように熱く太く硬いものを彼の股の間に差し入れた。足の付け根の最も敏感で弱い皮膚が強烈な摩擦を受け、白洛因の神経を一本ずつ焼き切っていく。実弾で打たれずとも十分恥辱的だ。何度も足を緩めようとしたが顧海は決してそれを許さず、白洛因はただ奥歯を噛んで耐えるしかなかった。
 背後から荒い呼吸が波のように襲ってくると白洛因も徐々に影響を受け、自分の手で自慰を始める。だがそれでは物足りなくなり、意を決して顧海を押し倒し、同じやり方で彼の体から快楽を得た。顧海は身を任せ、彼に進んで刺激すら与えた。自分の尊厳に抵触はしたが、白洛因が気持ちよくなれるなら何でも試せばいい。
 真夜中、ついに二人は体を震わせその喧噪を終わらせた。
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