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第十三章
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「大海たちも冬休みだよな?」
李爍は周似虎に聞く。
「とっくに冬休みだろう。今日はもう何日だよ」
李爍は旧暦のカレンダーを見て驚いた。
「もう旧暦の十二月二十二日だ。明日は小年(祭竈節)じゃないか」
「だよな。絶対もう休みに入ってるはずだ」
「それなら俺たちに声をかけて集まるべきだろう。会わなくても普通なら電話の一本もくれるよな」
周似虎はため息をつき、面倒くさげに答える。
「どうせ忙しくて俺たち仲間のことも忘れてるんだろう」
李爍は突然悪い笑みを浮かべて周似虎の肘を突いた。
「なあ、あいつまさか一日中家で例の兄さんとこっそり遊んでるんじゃないだろうな」
「そんなバカなことあるわけないだろう!」
周似虎は李爍の頭を叩く。
「男二人で何をして一緒に遊ぶんだ」
李爍は叩き返す。
「この間奴らの家に行ったとき、あの二人すごく楽しそうだったじゃないか!」
それを聞き、周似虎も笑った。前回の食事の風景を思い出して顎を撫でる。
「確かにその可能性はあるな」
「ははははは」
李爍は身を起こして周虎似を手招きした。
「よし、行ってみようぜ」
周虎似はウキウキとついて行き、二人は車を運転しながらしゃべり合う。
「俺、大海が因子と一緒にいるのを見るのがめちゃくちゃ好きなんだ。二人でいると面白いよな」
「うんうん、俺は大海があんなに誰かに尽くしてるのを初めて見たよ」
そんなことを話しながら顧海のマンションに辿り着いたが、インターホンを押してもノックをしても誰も出てこない。顧海に電話をかけてもつながらない……マンションの管理事務所に聞くと、彼らは何日も戻ってきていないようだった。
「旅行に行ったんじゃないか?」
李爍は周似虎を見た。周似虎は眉をひそめる。
「旅行に行ってたとしても電話は通じるだろう」
そのとき、顧海から電話がかかってきた。
「軍の駐屯地にいるけど、どうした」
「それはこっちのセリフだよ。休みに入ってずいぶん経つのに挨拶もないじゃないか。誰かに攫われたのかと思ったぜ」
「わかった。こっちに来いよ」
そこで二人は車で彼のいる場所へ向かった。
顧威霆はダムの岸辺に立ち、冷徹な眼差しで水面に浮かぶ人影を見つめていた。それは徐々に遠ざかっていき、あっという間に彼の視界から消え、一本の水紋だけが残された。
孫警護官は隣からさっと望遠鏡を顧威霆に渡そうとしたが、手を伸ばして遮られる。
「必要ない」
孫警護官はためらいながらも提案した。
「船を出して顧海を迎えに行かせましょうか。こんな寒い日に泳いで、万が一のことがあったら大変ですよ」
「べつにあいつだけが泳いでいるわけじゃないだろう。こんなに多くの兵士が訓練しているのに、あいつにだけ何かが起きるというのか?」
「ほかの兵士とはわけが違うでしょう!」
彼はあなたの息子、それもたった一人の可愛い息子ですよ。そんなに残酷なことを言わないでください……だがもちろんこの言葉は孫警護官の口から出ては行かなかった。
顧威霆は孫警護官の顔を睨み、声にも威厳が滲む。
「お前はいつからそんな甘いことを言うようになった? 気になるなら自分で行けばいい」
孫警護官は浅瀬に張った薄氷を見て思わず身震いをする。
「私はここに立っているだけで精一杯です。それにもうずいぶん長い間冬には泳いでいません。若い頃は十キロ泳ぐのも軽々だったのに」
孫警護官が過去の輝かしい時代を思い出しているうちに顧威霆はすでに踵を返して立ち去っていた。彼は急いで周りの将校に目配せをする。
「すぐに何人か手配してついて行かせろ。首長がいらないと言えば放っておいていいと思うか? 万が一のことがあれば俺たちの命はないぞ!」
部屋に戻り、顧威霆はお茶を飲みながら尋ねた。
「あいつがここに来てどれくらいになる?」
「老劉によれば、一週間は経っているでしょう。昼間は兵士たちと訓練を受け、夜もここに泊まっています。彼には3LDKの部屋を用意しています。条件はあまりよくないですが、兵舎よりはマシでしょう。食事も個別に出していますし、部屋も掃除させているのでなんとかやっていけると思います」
顧威霆の覚えている限り、もう長い間顧海と一緒に春節を過ごしていない。かつては毎年この時期には任務を抱えていたので、顧海は母親と共に駐屯地にやってきて年越しをした。ここに泊まり、他の兵士と共に飯を食い……普通の家の子供は両親と共に街に出て買い物をするのに、顧海はたった一人訓練場を駆け回っていた。
息子はあっという間に成長する。
李爍と周似虎が到着したときには、顧海はすでに水泳訓練を終えていた。
「顧坊ちゃん、あちらにお客様がいらっしゃってます」
顧海は額の汗を拭き、裸のまま李爍や周似虎のところへ歩いて行く。彼らは厚手のダウンをしっかり着こんでいるのに、少しの間外に立っていただけで震えていた。顧海が海パン一丁で夏よりもつややかな肌で汗を拭きながらやって来ると、二人は唾を飲みこんで神を崇めるような表情を浮かべた。
顧海は元気に満ち溢れ、一見とても機嫌がよさそうだった。大きな手を李爍の頭に乗せヒヨコを掴むようにくるりと回す。
李爍が体の向きを変えると、顧海は問いかけた。
「どうした。俺が恋しくなったか?」
周似虎は首をすくめ、白い息を吐く。
「お前の家に行ったら管理事務所の人がずいぶん長い間お前を見ていないって言うからさ」
「ああ、そうだな。ずいぶん長い間戻っていない」
顧海はそう言いながらタオルで体の水分を拭った。
「お前、あの兄さんと一緒にいるんじゃなかったのか?」
李爍がからかう。顧海は一瞬凍りついたが、すぐに元に戻る。
「今後一切俺の前でそいつの名前は出すな」
「えっ。ついこの間まで仲良しだったじゃないか。こんなに早く嫌いになったのか?」
顧海は背を伸ばし、厳しい表情で言った。
「俺は本気だ」
李爍はまだ聞きたい素振りを見せたが周似虎は彼を突いて止め、笑いながら顧海に言った。
「気晴らしに出かけようぜ」
「うん」
顧海がそのまま出かけようとすると、周似虎は咳払いする。
「えっと、大海、いくらなんでも服を着てから出かけようぜ!」
顧海はようやく気付いたように笑った。
「待っててくれ」
顧海の姿が消えると、李爍は堪えきれずに肘をさする。
「見てるだけで寒くなるよ。顧海の家に生まれなくて良かった。俺ならとっくに死んでるよ」
「そもそもお前みたいな子供は生まれてこないよ! 俺は悪口を言ってるわけじゃないぞ。自分を触ってみろ。どこもかしこも柔らかくて骨も見つからない。人に同情してる場合かよ」
李爍は周似虎の腹を肘で突く。
「お前だって俺と大差ないだろう。女の子の尻よりも顔がつやつやぷるぷるのくせに」
人と人は縁で結ばれているものだ。たとえば一週間家に籠っていた白洛因が石慧に引っ張り出されて街を歩いた途端、彼に出会ったように。
李爍は車を止め、顧海と周似虎と共に車を降りると、すぐ近くに白洛因がいることに気づいた。正確に言えば、彼はまず石慧に注意を向けた。
「なあ、あれって因子じゃねえか?」
周似虎も気づいて白洛因に向かって口笛を吹く。
白洛因の目は自然と顧海に向かったが、顧海はまったく彼と目を合わさず、視線は他の場所をさまよっていた。彼はいつもと変わらず、むしろいつもよりも元気なように見える。意気揚々として迫力があり、子供じみた駄々をこねる姿など想像もできなかった。
「因子、紹介しろよ。この美女は誰だ?」
李爍はスケベな笑いを浮かべる。石慧はおおらかに答えた。
「私の名前は石慧よ」
「クソッ因子、羨ましいぞ!」
周似虎は白洛因の肩を叩く。
「こっそり隠れて彼女なんて作りやがって。いつ俺たちに飯を奢ってくれるんだ?」
白洛因は適当に言葉を返し、顧海に目を向けると、彼も笑っていた。李爍や周似虎と同じような冗談めかした、からかうようでどうでもいいような笑顔だった。姿が見えなくなるまで白洛因は顧海から何の異常も感じ取れなかった。
李爍らは娯楽施設へ入って行った。周似虎は何度も振り返ってはため息をつく。
「クソ綺麗だな」
李爍も頷いた。
「二人はめちゃくちゃお似合いだったな。大海、そう思わないか?」
顧海は冷たい顔で黙り込む。周似虎は李爍を突いた。彼はようやく顧海の言葉を思い出し、慌てて口を引き結ぶ。
三人がいなくなっても白洛因はその場から動かなかった。石慧は探りを入れるように白洛因の袖を引っ張り、ささやく。
「ちょっと寒くなっちゃった。どこかに座りましょう」
白洛因はようやく我に返った。
「こちらがお客様のシェイクです」
石慧はきちんと従業員に礼を伝える。それから静かに黙ったまま正面に座る白洛因を眺めた。白洛因の視線はずっとさまよったままだ。街を歩いていても彼はずっと上の空だったが、いまはそれがより顕著になっているだけだ。
石慧はゆっくり自分の飲み物を引き寄せ、やや不満げに一口飲んだ。顔を上げても白洛因はまだ自分のことを見ない。
「白洛因」
我慢できず、石慧は声をかけた。白洛因はやっと彼女に目を向ける。
「おぼえてる? 付き合っていた頃、私がシェイクを頼むとあなたはいつもまず代わりに一口飲んでくれたの。だって最初の一口はなかなか吸いづらいから」
石慧の話を聞いても白洛因の記憶は呼び覚まされず、代わりに家の食事風景が思い出された。鍋のつけだれを作るときには顧海が最初に味を見てくれるのだが、十中八九は味が合わずに彼が犠牲になり、スープやお湯を足して調節してから白洛因の前に出してくれる。水餃子を茹でるときにも火が通ったどうか顧海が確認するので、かじりかけの生の餃子がいくつもゴミ箱に捨てられていた……。
「つまり、俺の飯は不味いってことか?」
「美味いかどうか、自分でもわかってるだろう?」
「俺が茹でた卵は不味いか?」
「なんで俺が沸かしたお湯は不味いかって聞かないんだ?」
「この野郎……」
ここ数日、白漢旗と鄒おばさんは年越しの準備でずっと大忙しだった。これまでの正月は適当に済ませていたが、今年はそうはいかない。家族が二人増えてにぎやかになれば自然とお祝いムードも盛り上がる。鄒おばさんは早々に店を閉め、家でずっと年越しのごちそうを作り続けていた。白漢旗は隣で手伝い、たまに白洛因も手伝ったが、鄒おばさんは白洛因が手伝うのを良しとせず、自分の息子を呼んだ。
白洛因以外の家族は和気藹々と過ごしていた。だがいくら鈍感な白漢旗でも息子の様子がおかしいことには気づいていた。
この日は鄒おばさんが厨房で咯吱盒(北京の伝統料理。緑豆粉と小麦粉の皮で餡を包んで揚げたもの)を揚げていた。白漢旗は食用油を二本持って来て置き、鄒おばさんの隣に立つと外を窺いながら小声で言う。
「俺の息子の様子がどうもおかしいんだ」
「誰があなたの息子ですって?」
鄒おばさんは白漢旗を睨んだ。白漢旗は決まり悪げに笑う。
「違う、俺たちの息子だな」
「ちょっと離れてちょうだい。油がかかるから」
鄒おばさんは白漢旗を押し返しながら尋ねた。
「どうおかしいの?」
「このところ元気がないから様子を見てたんだ。そしたらいつもネックレスの箱を見てぼんやりしているんだよ。あいつが出かけたときにこっそり見たら、本物の金とダイヤでできたネックレスだったんだ。なあ、俺の息子……いや俺たちの息子はどこからそんなものを買う金を手に入れたんだ? 盗んできたわけじゃないよな?」
鄒おばさんは白漢旗をジロリと見る。
「つまりあなたは、因子が宝飾店からネックレスを盗んだから、ぼんやりしてると思ってるの?」
白漢旗は沈んだ面持ちになった。
「そうだとしたら、自首するにしても年を越してからだよなあ」
鄒おばさんは腰に手を当て、怒りながら白漢旗を睨みつけた。
「バカなことを考えないで。私たちの息子はこんなに長い間苦しい生活をしてきても人からものを奪うなんて思いつきもしなかった子よ。もう生活には困らなくなったのに、いまさら盗む? あなたって本当に……言葉にならないわ。ほら、端に寄って! 邪魔しないで。向こうに行って、ほら……」
白漢旗は戸口に立ち、虐げられた夫特有の顔をする。
「お前ときたら、すぐに変わっちまったな。女はいくつになってもそうだ。結婚してまだ何日も経たないのにすぐにこんなふうになるなんて。前は俺を叱るときだってニコニコしてたのになあ。見ろ、いまの様子を……」
「あなただって前はこんなくだらない話をしなかったわよ」
白漢旗が頭を掻きながらため息をついて背中を向けると、鄒おばさんは呼び止める。
「ちょっと来て。話があるの」
「俺を追い払おうとしただろう」
鄒おばさんは少し焦っているようだった。
「本当に話があるのよ。さっきは忘れてたの。因子のことよ」
そう聞くと、白漢旗は急いでやって来る。鄒おばさんはこっそりと言った。
「私が思うに、私たちの因子は早すぎる恋をしているんじゃないかしら」
「もう十七歳だぞ。早すぎることはないだろう」
白漢旗は物分かりのいい顔をする。
「俺が十七歳の頃なんて、もう因子の母親とできてたぞ」
「あなたの頃とは違うのよ。いまの子は受験戦争のプレッシャーも大きいでしょう! 因子はちょうど高校二年生じゃない。聞いた話だけど、いまが一番大事な時期なんですって。ちょっと気を抜いただけでも大変なことになるらしいわ」
白漢旗は笑った。
「俺は息子を信じてるからな」
「脅しじゃないのよ」
鄒おばさんは白漢旗の肩を叩いた。
「数日前、女の子が因子を訪ねて来てたわ。二人で一緒に歩いているのを見たもの」
「綺麗だったか?」
白漢旗は思わず尋ねる。
「そりゃ綺麗だったけど……なんでそんなことを聞くの?」
李爍は周似虎に聞く。
「とっくに冬休みだろう。今日はもう何日だよ」
李爍は旧暦のカレンダーを見て驚いた。
「もう旧暦の十二月二十二日だ。明日は小年(祭竈節)じゃないか」
「だよな。絶対もう休みに入ってるはずだ」
「それなら俺たちに声をかけて集まるべきだろう。会わなくても普通なら電話の一本もくれるよな」
周似虎はため息をつき、面倒くさげに答える。
「どうせ忙しくて俺たち仲間のことも忘れてるんだろう」
李爍は突然悪い笑みを浮かべて周似虎の肘を突いた。
「なあ、あいつまさか一日中家で例の兄さんとこっそり遊んでるんじゃないだろうな」
「そんなバカなことあるわけないだろう!」
周似虎は李爍の頭を叩く。
「男二人で何をして一緒に遊ぶんだ」
李爍は叩き返す。
「この間奴らの家に行ったとき、あの二人すごく楽しそうだったじゃないか!」
それを聞き、周似虎も笑った。前回の食事の風景を思い出して顎を撫でる。
「確かにその可能性はあるな」
「ははははは」
李爍は身を起こして周虎似を手招きした。
「よし、行ってみようぜ」
周虎似はウキウキとついて行き、二人は車を運転しながらしゃべり合う。
「俺、大海が因子と一緒にいるのを見るのがめちゃくちゃ好きなんだ。二人でいると面白いよな」
「うんうん、俺は大海があんなに誰かに尽くしてるのを初めて見たよ」
そんなことを話しながら顧海のマンションに辿り着いたが、インターホンを押してもノックをしても誰も出てこない。顧海に電話をかけてもつながらない……マンションの管理事務所に聞くと、彼らは何日も戻ってきていないようだった。
「旅行に行ったんじゃないか?」
李爍は周似虎を見た。周似虎は眉をひそめる。
「旅行に行ってたとしても電話は通じるだろう」
そのとき、顧海から電話がかかってきた。
「軍の駐屯地にいるけど、どうした」
「それはこっちのセリフだよ。休みに入ってずいぶん経つのに挨拶もないじゃないか。誰かに攫われたのかと思ったぜ」
「わかった。こっちに来いよ」
そこで二人は車で彼のいる場所へ向かった。
顧威霆はダムの岸辺に立ち、冷徹な眼差しで水面に浮かぶ人影を見つめていた。それは徐々に遠ざかっていき、あっという間に彼の視界から消え、一本の水紋だけが残された。
孫警護官は隣からさっと望遠鏡を顧威霆に渡そうとしたが、手を伸ばして遮られる。
「必要ない」
孫警護官はためらいながらも提案した。
「船を出して顧海を迎えに行かせましょうか。こんな寒い日に泳いで、万が一のことがあったら大変ですよ」
「べつにあいつだけが泳いでいるわけじゃないだろう。こんなに多くの兵士が訓練しているのに、あいつにだけ何かが起きるというのか?」
「ほかの兵士とはわけが違うでしょう!」
彼はあなたの息子、それもたった一人の可愛い息子ですよ。そんなに残酷なことを言わないでください……だがもちろんこの言葉は孫警護官の口から出ては行かなかった。
顧威霆は孫警護官の顔を睨み、声にも威厳が滲む。
「お前はいつからそんな甘いことを言うようになった? 気になるなら自分で行けばいい」
孫警護官は浅瀬に張った薄氷を見て思わず身震いをする。
「私はここに立っているだけで精一杯です。それにもうずいぶん長い間冬には泳いでいません。若い頃は十キロ泳ぐのも軽々だったのに」
孫警護官が過去の輝かしい時代を思い出しているうちに顧威霆はすでに踵を返して立ち去っていた。彼は急いで周りの将校に目配せをする。
「すぐに何人か手配してついて行かせろ。首長がいらないと言えば放っておいていいと思うか? 万が一のことがあれば俺たちの命はないぞ!」
部屋に戻り、顧威霆はお茶を飲みながら尋ねた。
「あいつがここに来てどれくらいになる?」
「老劉によれば、一週間は経っているでしょう。昼間は兵士たちと訓練を受け、夜もここに泊まっています。彼には3LDKの部屋を用意しています。条件はあまりよくないですが、兵舎よりはマシでしょう。食事も個別に出していますし、部屋も掃除させているのでなんとかやっていけると思います」
顧威霆の覚えている限り、もう長い間顧海と一緒に春節を過ごしていない。かつては毎年この時期には任務を抱えていたので、顧海は母親と共に駐屯地にやってきて年越しをした。ここに泊まり、他の兵士と共に飯を食い……普通の家の子供は両親と共に街に出て買い物をするのに、顧海はたった一人訓練場を駆け回っていた。
息子はあっという間に成長する。
李爍と周似虎が到着したときには、顧海はすでに水泳訓練を終えていた。
「顧坊ちゃん、あちらにお客様がいらっしゃってます」
顧海は額の汗を拭き、裸のまま李爍や周似虎のところへ歩いて行く。彼らは厚手のダウンをしっかり着こんでいるのに、少しの間外に立っていただけで震えていた。顧海が海パン一丁で夏よりもつややかな肌で汗を拭きながらやって来ると、二人は唾を飲みこんで神を崇めるような表情を浮かべた。
顧海は元気に満ち溢れ、一見とても機嫌がよさそうだった。大きな手を李爍の頭に乗せヒヨコを掴むようにくるりと回す。
李爍が体の向きを変えると、顧海は問いかけた。
「どうした。俺が恋しくなったか?」
周似虎は首をすくめ、白い息を吐く。
「お前の家に行ったら管理事務所の人がずいぶん長い間お前を見ていないって言うからさ」
「ああ、そうだな。ずいぶん長い間戻っていない」
顧海はそう言いながらタオルで体の水分を拭った。
「お前、あの兄さんと一緒にいるんじゃなかったのか?」
李爍がからかう。顧海は一瞬凍りついたが、すぐに元に戻る。
「今後一切俺の前でそいつの名前は出すな」
「えっ。ついこの間まで仲良しだったじゃないか。こんなに早く嫌いになったのか?」
顧海は背を伸ばし、厳しい表情で言った。
「俺は本気だ」
李爍はまだ聞きたい素振りを見せたが周似虎は彼を突いて止め、笑いながら顧海に言った。
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「うん」
顧海がそのまま出かけようとすると、周似虎は咳払いする。
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顧海はようやく気付いたように笑った。
「待っててくれ」
顧海の姿が消えると、李爍は堪えきれずに肘をさする。
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「なあ、あれって因子じゃねえか?」
周似虎も気づいて白洛因に向かって口笛を吹く。
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「因子、紹介しろよ。この美女は誰だ?」
李爍はスケベな笑いを浮かべる。石慧はおおらかに答えた。
「私の名前は石慧よ」
「クソッ因子、羨ましいぞ!」
周似虎は白洛因の肩を叩く。
「こっそり隠れて彼女なんて作りやがって。いつ俺たちに飯を奢ってくれるんだ?」
白洛因は適当に言葉を返し、顧海に目を向けると、彼も笑っていた。李爍や周似虎と同じような冗談めかした、からかうようでどうでもいいような笑顔だった。姿が見えなくなるまで白洛因は顧海から何の異常も感じ取れなかった。
李爍らは娯楽施設へ入って行った。周似虎は何度も振り返ってはため息をつく。
「クソ綺麗だな」
李爍も頷いた。
「二人はめちゃくちゃお似合いだったな。大海、そう思わないか?」
顧海は冷たい顔で黙り込む。周似虎は李爍を突いた。彼はようやく顧海の言葉を思い出し、慌てて口を引き結ぶ。
三人がいなくなっても白洛因はその場から動かなかった。石慧は探りを入れるように白洛因の袖を引っ張り、ささやく。
「ちょっと寒くなっちゃった。どこかに座りましょう」
白洛因はようやく我に返った。
「こちらがお客様のシェイクです」
石慧はきちんと従業員に礼を伝える。それから静かに黙ったまま正面に座る白洛因を眺めた。白洛因の視線はずっとさまよったままだ。街を歩いていても彼はずっと上の空だったが、いまはそれがより顕著になっているだけだ。
石慧はゆっくり自分の飲み物を引き寄せ、やや不満げに一口飲んだ。顔を上げても白洛因はまだ自分のことを見ない。
「白洛因」
我慢できず、石慧は声をかけた。白洛因はやっと彼女に目を向ける。
「おぼえてる? 付き合っていた頃、私がシェイクを頼むとあなたはいつもまず代わりに一口飲んでくれたの。だって最初の一口はなかなか吸いづらいから」
石慧の話を聞いても白洛因の記憶は呼び覚まされず、代わりに家の食事風景が思い出された。鍋のつけだれを作るときには顧海が最初に味を見てくれるのだが、十中八九は味が合わずに彼が犠牲になり、スープやお湯を足して調節してから白洛因の前に出してくれる。水餃子を茹でるときにも火が通ったどうか顧海が確認するので、かじりかけの生の餃子がいくつもゴミ箱に捨てられていた……。
「つまり、俺の飯は不味いってことか?」
「美味いかどうか、自分でもわかってるだろう?」
「俺が茹でた卵は不味いか?」
「なんで俺が沸かしたお湯は不味いかって聞かないんだ?」
「この野郎……」
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この日は鄒おばさんが厨房で咯吱盒(北京の伝統料理。緑豆粉と小麦粉の皮で餡を包んで揚げたもの)を揚げていた。白漢旗は食用油を二本持って来て置き、鄒おばさんの隣に立つと外を窺いながら小声で言う。
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「誰があなたの息子ですって?」
鄒おばさんは白漢旗を睨んだ。白漢旗は決まり悪げに笑う。
「違う、俺たちの息子だな」
「ちょっと離れてちょうだい。油がかかるから」
鄒おばさんは白漢旗を押し返しながら尋ねた。
「どうおかしいの?」
「このところ元気がないから様子を見てたんだ。そしたらいつもネックレスの箱を見てぼんやりしているんだよ。あいつが出かけたときにこっそり見たら、本物の金とダイヤでできたネックレスだったんだ。なあ、俺の息子……いや俺たちの息子はどこからそんなものを買う金を手に入れたんだ? 盗んできたわけじゃないよな?」
鄒おばさんは白漢旗をジロリと見る。
「つまりあなたは、因子が宝飾店からネックレスを盗んだから、ぼんやりしてると思ってるの?」
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「あなただって前はこんなくだらない話をしなかったわよ」
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「ちょっと来て。話があるの」
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メイクのことになると少し強引な執着攻め(美形)×トラウマ持ちの逃げたい受け(地味な格好してる美形)
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
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素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
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