王子様になりたくて 造花な王子系女子はいかがですか?

小回りオオマワリ

文字の大きさ
3 / 4

2話『白日前に知る独白』

しおりを挟む
「決めた!」

 リビングで姉妹がくつろいでいた中、突如姉が声をあげる。

「突然どうしたの?」

 携帯電話を横にし、ゲームに熱中していた妹、蕾が姉に問いかける。

「ホワイトデーのお返しだよ」

「ああそのこと。でっ何にしたの?」

「白い薔薇とメッセージカードにしようと思う。下手にお菓子で返すよりも女の子は嬉しいかもしれないからね」

「体重気にしてる人にも優しいし、いいんじゃない」

「だろう。その気遣いができるのも王子たる所以なのさ」

 と外向けの声を出し、決めポーズで自賛する姉、麗華。しかし、

「でもさぁ……」

と蕾から切り返しが。

「あの量の薔薇を用意する予算あるの?」

 ポーズと声を所定の位置に戻し、

「……ないね」

 の一言。

「お母さんもチョコレートいただいちゃったし、お金出すわよ」

 リビングに入ってきた母、花子から提案される。

「気持ちは嬉しい。でも自分がもらった物だから、自分の力でお返しをするよ!」

「アルバイトでもするの」

「そうだね。短期で手っ取り早く稼げるバイトにしよう」

「ガールズバーとか」

「未成年じゃできないだろ!」

 蕾の案に、冷静なツッコミを入れる麗華。   


 そこからインターネットで求人を探し、短期で給与がある程度見込める、引っ越し屋に行き着く。
 季節的にも引っ越しシーズンであり、時給も通常時より高めに設定されている。
 案の定花子には心配されるが、じっとしていられない麗華にとっては、力仕事の選択が好ましかった。
 応募から面接、就業までスムーズに進み、実際現場に入っても、特に問題なく作業をこなせ、むしろ向いているとさえ思った麗華。


 そしてあっという間に最終日。
 いつもの作業着と帽子を身につけ、トラックに乗り込む。
 現場への移動中に、ベテラン男性作業員の佐藤と麗華は談笑していた。

「榊部君は、今日が最後か。早いな」

「はい。本当にお世話になりました」

「新人なのに積極的に動いてくれて助かったよ。このまま続けてくれてもいいのに」

「勉強とか疎かにしたくないので、また機会があったらお願いします」

「真面目だね。榊部君は」

 話していると現場に到着し、依頼者のもとへ赴く。
 佐藤がその依頼者の前に出て、話し出した。

斉木香苗さいきかなえさんでよろしいでしょうか」

「はい、斉木です。本日よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 佐藤と共に挨拶をするが、麗華は引っ掛かりを感じていた。
 依頼者の顔に見覚えがあったのだ。
 それとなく依頼者に近づき、横目で観察した。

(間違えない! 3年の斉木先輩だ)

 依頼者は、同じ学校の先輩だったのだ。
 それに気がつき、焦って帽子を深く被り直す麗華。
  麗華的には引っ越し屋のバイトをしているのは、自分の王子様像では解釈が違うので、なるべくバレたくなかったのだ。
 しかしその様子が斉木の目にとまり、

「あなた……」

 と声を掛けられてしまう。
 麗華は不自然に思われないように、

「なんでしょうか」

 と声のトーンをさらに下げ、最小限の返事をする。

「いえ、知人とちょっと似ていて」

 その言葉で麗華は視線を下げ、動揺を隠すように下唇を噛む。

「あの? お荷物の方、拝見させていただいてもよろしいですか?」

「あっええ。こっちです」


 佐藤の一言で、事態は有耶無耶になり、安堵した麗華。
 すると佐藤は小声で、

「もしかして知り合いかい?」

と尋ねる。

「はい。学校の3年生の先輩で」

「なるほど卒業生か。この時期なら引っ越しもあり得るね。ちなみにあんまりバレたくない感じ?」

 それに頷く麗華。

「よし、わかった。俺が基本話すから、口つぐんでおきな!」

 ベテラン佐藤の察しの良さと気遣いに、深く頷き心から感謝をする麗華だった。


 佐藤のアシストで作業はスムーズに進み、麗華は荷物を運ぶだけに専念できた。
 荷物を運び終え、トラックの方で最終確認をする佐藤。
 その間だけ斉木と麗華は2人きりになってしまう。
 麗華は不審に思われないギリギリの距離まで離れ、視線を合わせずに待っていた。
 だが、斉木の苦しそうな声に反応して、視線を向けてしまう。
 斉木は段ボールを持とうとしていたが、重くて運ぶのに苦労していた。
その姿に、

「大丈夫ですか?」

 と声を掛けてしまった。

(しまった)

 と思ったものの、目前の困っている人を無視はできず、腹を括った。

「もしよければ持ちましょうか?」

「大丈夫ですよ。これは持っていく荷物じゃなくて捨てる書類で、今から捨てにいくんです」

「まだ時間あるんで、自分が捨てに行きますよ」

「いいんですか? 重いですよ」

「大丈夫。力仕事してるんで!」

「じゃあお願いしちゃおうかな。あっちの方に、ゴミ捨て場があるので」

「わかりました。まかせてください」

 段ボールを持ち上げ、ごみ捨て場に向かった。


ゴミ捨て場に向かう道中、斉木のことを思い返す麗華。

(斉木先輩は、入学してわりとすぐに話しかけたっけ)

(ノリがよくて、当初はよく会話したな……)

(でも、受験シーズンに入ってからは話す回数が減って、私も受験生には気を遣って自分からあまり行けなかったな)

(せっかく引っ越し前に会えたんだから、正体明かして話してもいいかも)

 思いにふけていると、ゴミ捨て場に到着していた。
 段ボールを下ろすと、詰め込まれ過ぎていたせいか、その衝撃で上部を止めていたガムテープが剥がれてしまい、中の紙類が散らばる。

「ヤバい、ヤバい」

書類をかき集め、中に戻していく。

 あらかた片付け終わるが、最後に手にしたノートで手が止まる。
 そこには日記と書かれており、プライベートを書き記したと思われる。
 気になりはするも、すぐに段ボールに戻そうとしたが、そのノートから1枚の写真が落ちる。
 落ちた写真が目に入り、言葉を失う麗華。
 その写真に写っていたのは、自分だったのだ。
 数秒固まり、気を取り直して写真を手にした。
 まだ信じきれずに写真を見直しても、写っているのは間違いなく麗華そのもの。

「どうして私の写真を斉木先輩が……」

 とにかく気になった。その答えが日記にあるだろう。
 好奇心が抑えきれず、麗華は日記を開いてしまった。


 4月16日。朝、登校中あの子に出会った。
 目がたまたま合っただけなのに、ずいぶんと気さくに話しかけてきた。
 新入生にもかかわらず、特に面識のない3年生の私に物怖じせずに話しかけて来るなんて、ずいぶんと度胸がある。
 天気とか学校のこととか他愛もない話だったけど、なんだか楽しかったな。
 後から知ったけど、あの子は入学直後から学校で人気者の女子、榊部麗華という生徒らしい。
 麗華様と呼んでる生徒もいるらしいけど、オーバーだな。
 言いたくなる気持ちもわからなくもないけど


 5月10日。あの子と面識ができてしばらく経ち、会うたびに他愛もない話に付き合ってくれた。
 正直榊部さんと話すのが楽しい。
 榊部さんが、聞き上手なのもあるけど見た目と立ち振る舞いがどストライク。
 見た目と振る舞いは王子様だけど、中身は女性だから本当に話しやすい。
 仮に彼氏できても、 榊部より話しやすい関係になれる気がしないな。


 6月2日。麗華王子に会うたびに思う。
 なぜあなたは榊部麗華なのって?
 今日は勇気を出して肩をタッチして、振り返ってもらった。
 あの横顔に唇を近づけたいと何度思ったか。
 最近麗華王子への想いに歯止めが効かない。
 正直、肉体関係まで発展したいと思ってしまっている。
 駄目よ香苗! 皆から愛される学校の王子にそんな邪な感情を抱いては……。


 7月8日。私は決意した。
 榊部さんから離れよう。私は受験生でその大事な夏休み前。
 榊部さんに出会ってから、頭は日々榊部さん一色になっている。
 このまま彼女と一緒にいると、彼女以外どうでも良くなってしまう。
 親や先生、友達の期待を簡単に裏切ってしまうかもしれない……。
 だから、決めた。
 私は、榊部さんをここで卒業する。
 私にひとときの憧れをくれてありがとう。


 2月14日。私は見てしまった。たまたま通りかかった教室に出来ている長蛇の列を。
 その教室を覗いて目にした顔が、榊部さんだった。
 内に秘めていた想いが、溢れ出しそうになる。
 私もチョコレートを渡したい! それを笑顔で受け取る顔が見たい!
 でもそれを実行したら、何をするかわからない。
 チョコレートに何か仕込むかもしれない。
 すぐにその場を立ち去った。
 絶対もう会わないと改めてこの日記に書いて表明する。
 本当にさようなら。麗華王子。


 日記に目を通し、しばらく放心状態の麗華。

「あの? どうしました?」

 斉木の声に体をビクつかせながら、段ボールを持ち直す。

「ガムテープが剥がれちゃって、今直してたところで」

「すいません。段ボールに詰めすぎて、剥がれちゃったみたいでお手数かけました」

「いえいえ、こんなの手数のうちには入りませんよ」

 段ボールをゴミ捨て場に置いて、2人で家の前まで戻る。
 その後の作業中、麗華は日記のことを考えないようにしたが、どうしても頭から離れない。
 あわてふためいたバイト最終日となった。


「ありがとうございました。良かったらこれどうぞ!」

 引っ越しが完了し、帰社する際に斉木は差し入れのお茶と市販のチョコレートを佐藤と麗華に手渡した。

「これはご丁寧に。本日はご利用ありがとうございました」

 佐藤の礼に遅れて、

「……ありがとうございました」

 と麗華も礼をする。
 2人はトラックに乗り込み、現場を後にする。
 麗華はサイドミラーで手を振る斉木を眺めていると、

「たぶん榊部君とはバレてないはずだよ。よかったね」

「ええ、本当にバレなくて良かったと思います」
 人生初のバイト生活が、幕を閉じた。


 帰宅し、着替えなどを済ませてから、麗華は自室の机でホワイトデーに贈るためのメッセージカードを一つ一つ手書きしていた。
 全てを書き終え、休憩しようと椅子の背もたれに体重をかける。
 その際、机の上の斉木から受け取った、差し入れのチョコレートが目に入る。
 やはり、日記のことがどうしても頭から離れないでいたのだ。

(斉木先輩が、あんなに私のことを想っていたなんて考えもしなかった。でも、先輩は私に会わない決心をしたんだから、私がどうこうすることじゃないよね)

 チョコレートを手にとり包みを剥がし、一口かじる。
 しかし、その行為で何もできることはないと、考えてたことを思い直す。

(いや、会えなくてもチョコレート頂いたからには、するしかないよね!)

 と予備のメッセージカードを取り出し、ペンを走らせた。


 斉木の新居に宅配が届く。
 身に覚えない荷物に困惑するが、その差出人を見てさらに驚く。
 受け取った荷物は、装飾された白い薔薇とメッセージカード。
 カードには、

「香苗先輩。チョコレート美味しかったです。新生活応援してます」

 と手書きされていた。
 斉木は笑みを浮かべ、口を開く。

「やっぱりそうだったんだ。ありがとう麗華王子。がんばるね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました

九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」 悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。 公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。 「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」 ――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

毒姫の婚約騒動

SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。 「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」 「分かりました。」 そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に? あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は? 毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。

婚約破棄されたので、隠していた聖女の力で聖樹を咲かせてみました

Megumi
恋愛
偽聖女と蔑まれ、婚約破棄されたイザベラ。 「お前は地味で、暗くて、何の取り柄もない」 元婚約者である王子はそう言い放った。 十年間、寡黙な令嬢を演じ続けた彼女。 その沈黙には、理由があった。 その夜、王都を照らす奇跡の光。 枯れた聖樹が満開に咲き誇り、人々は囁いた。 「真の聖女が目覚めた」と——

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...