あの日咲かせた緋色の花は

棺ノア

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第5章

接触

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二人で雑談をしつつ歩いていると、数分で目的のケーキ屋に着くことができた。
ここのイートインスペースはそこそこ広いのだが、人気店なのか割とテーブルが埋まっていた。

何とか席につき、顔を寄せ合ってメニューを覗き込む。ずらりと並んだ可愛らしいケーキの写真に胸が高鳴った。
注文を終え、楽しそうに話し出す萌愛に相槌を打ちながら裕璃は彼女の背後を気にしていた。

(あの人…ちょっと怪しいな……)

裕璃の視線の先には、マスクをした中肉中背の一見どこにでもいそうな男性が店外の出入り口付近に立っていた。
しかし、彼はスマホを眺めており全く店内に入りそうな気配がない。それだけなら誰かを待っているという可能性もあるのだが、たまにこちらを凝視しているように感じるのだ。

訝しげに思いつつ、男の方に注意を払いながら裕璃はティータイムを楽しんだ。
ケーキを食べている間、やはり男はしばらくこちらの様子を伺っていたのだが、食べ終える頃にはもう見かけなくなっていた。

ストーカーらしき人物を見かけたからには迎えを呼ぶべきかとも思ったが、萌愛が行きしなの電車内で「久し振りに大人の付き添いなしでお出かけするのよ。ワクワクするわ!」と話していたのを思い出し逡巡する。せっかく楽しみにしていたのだから、できる限り大人の助けを求めたくはない。

この話題が周囲に聞こえてはまずいので、スマホを取り出し「ストーカーに家バレしてるんだよね?」と打ってメッセージを送ると、彼女は驚いた顔でこちらを一瞥した後、返事を打って送ってきた。内容は、「以前追われたときに慌てて家に逃げ込んでしまったから、恐らくばれているわ」とのことだった。

それならば今更道順を誤魔化しても無意味である。駅からはそこまで遠くないので、行きしなと同じく電車で帰ることにした。

電車は密閉空間であり、ある程度の危険性が伴う。ただ人目が多いため、ストーカー犯であった場合は逆に手出ししづらいという利点があった。

裕璃がずっと周囲を警戒をしていると、駅の構内で男の姿を視認することはなかったものの、電車内では隣の車両に先程ケーキ屋の前で見た人物が乗り込んでいることが分かった。やはりあの男は萌愛のストーカーだったのだ。

(さぁてっと…どうしよっかな)

このまま萌愛を送り届けた後、どうすべきなのかを考えあぐねていた。
話を聞く限りでは、おそらく今日も付き纏うだけで向こうから接触してくることはないだろう。

萌愛はケーキ屋でこそ男の寄越す視線に気づいていたようだが、電車で隣の車両に乗っていることは知らなそうだった。

(取り敢えず、今日は送ったら一旦帰ろう。情報があまりにも少なすぎる)

彼女とはスマホで連絡をすれば良い。
裕璃は考えをまとめ、そのまま真っすぐに萌愛を自宅の玄関まで送り届けると別れを告げた。

「今日は本当にありがとう。とても楽しかったわ」

「それなら良かった!じゃあまた明日ね」

「ええ、裕璃さんもお気をつけて」

手を振りつつ神林邸を出ると、黒城の屋敷に向かおうとした。

(あ、やばい…いる方じゃん…)

家へ帰るためにはどう頑張っても神林邸を出て右に曲がらなくてはならない。
しかし、その道にある電柱の傍らに人影が隠れていた。そして、駅からつけられていることには気づいていたのでそれが萌愛のストーカーであるということは確実であった。

(まだ接触するつもりなかったんだけどなぁ…しょうがないか、前通るだけなら大丈夫でしょ)

そう思い、何食わぬ顔で前を素通りした。
…否、しようとした。

「!?」

道の幅目一杯離れて通ろうとした裕璃だったが、男が素早く近づき左腕を掴もうとしたので反射的に身体を捻り、その手から逃れた。

「…何か用ですか」
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