26 / 33
第5章
接触
しおりを挟む
二人で雑談をしつつ歩いていると、数分で目的のケーキ屋に着くことができた。
ここのイートインスペースはそこそこ広いのだが、人気店なのか割とテーブルが埋まっていた。
何とか席につき、顔を寄せ合ってメニューを覗き込む。ずらりと並んだ可愛らしいケーキの写真に胸が高鳴った。
注文を終え、楽しそうに話し出す萌愛に相槌を打ちながら裕璃は彼女の背後を気にしていた。
(あの人…ちょっと怪しいな……)
裕璃の視線の先には、マスクをした中肉中背の一見どこにでもいそうな男性が店外の出入り口付近に立っていた。
しかし、彼はスマホを眺めており全く店内に入りそうな気配がない。それだけなら誰かを待っているという可能性もあるのだが、たまにこちらを凝視しているように感じるのだ。
訝しげに思いつつ、男の方に注意を払いながら裕璃はティータイムを楽しんだ。
ケーキを食べている間、やはり男はしばらくこちらの様子を伺っていたのだが、食べ終える頃にはもう見かけなくなっていた。
ストーカーらしき人物を見かけたからには迎えを呼ぶべきかとも思ったが、萌愛が行きしなの電車内で「久し振りに大人の付き添いなしでお出かけするのよ。ワクワクするわ!」と話していたのを思い出し逡巡する。せっかく楽しみにしていたのだから、できる限り大人の助けを求めたくはない。
この話題が周囲に聞こえてはまずいので、スマホを取り出し「ストーカーに家バレしてるんだよね?」と打ってメッセージを送ると、彼女は驚いた顔でこちらを一瞥した後、返事を打って送ってきた。内容は、「以前追われたときに慌てて家に逃げ込んでしまったから、恐らくばれているわ」とのことだった。
それならば今更道順を誤魔化しても無意味である。駅からはそこまで遠くないので、行きしなと同じく電車で帰ることにした。
電車は密閉空間であり、ある程度の危険性が伴う。ただ人目が多いため、ストーカー犯であった場合は逆に手出ししづらいという利点があった。
裕璃がずっと周囲を警戒をしていると、駅の構内で男の姿を視認することはなかったものの、電車内では隣の車両に先程ケーキ屋の前で見た人物が乗り込んでいることが分かった。やはりあの男は萌愛のストーカーだったのだ。
(さぁてっと…どうしよっかな)
このまま萌愛を送り届けた後、どうすべきなのかを考えあぐねていた。
話を聞く限りでは、おそらく今日も付き纏うだけで向こうから接触してくることはないだろう。
萌愛はケーキ屋でこそ男の寄越す視線に気づいていたようだが、電車で隣の車両に乗っていることは知らなそうだった。
(取り敢えず、今日は送ったら一旦帰ろう。情報があまりにも少なすぎる)
彼女とはスマホで連絡をすれば良い。
裕璃は考えをまとめ、そのまま真っすぐに萌愛を自宅の玄関まで送り届けると別れを告げた。
「今日は本当にありがとう。とても楽しかったわ」
「それなら良かった!じゃあまた明日ね」
「ええ、裕璃さんもお気をつけて」
手を振りつつ神林邸を出ると、黒城の屋敷に向かおうとした。
(あ、やばい…いる方じゃん…)
家へ帰るためにはどう頑張っても神林邸を出て右に曲がらなくてはならない。
しかし、その道にある電柱の傍らに人影が隠れていた。そして、駅からつけられていることには気づいていたのでそれが萌愛のストーカーであるということは確実であった。
(まだ接触するつもりなかったんだけどなぁ…しょうがないか、前通るだけなら大丈夫でしょ)
そう思い、何食わぬ顔で前を素通りした。
…否、しようとした。
「!?」
道の幅目一杯離れて通ろうとした裕璃だったが、男が素早く近づき左腕を掴もうとしたので反射的に身体を捻り、その手から逃れた。
「…何か用ですか」
ここのイートインスペースはそこそこ広いのだが、人気店なのか割とテーブルが埋まっていた。
何とか席につき、顔を寄せ合ってメニューを覗き込む。ずらりと並んだ可愛らしいケーキの写真に胸が高鳴った。
注文を終え、楽しそうに話し出す萌愛に相槌を打ちながら裕璃は彼女の背後を気にしていた。
(あの人…ちょっと怪しいな……)
裕璃の視線の先には、マスクをした中肉中背の一見どこにでもいそうな男性が店外の出入り口付近に立っていた。
しかし、彼はスマホを眺めており全く店内に入りそうな気配がない。それだけなら誰かを待っているという可能性もあるのだが、たまにこちらを凝視しているように感じるのだ。
訝しげに思いつつ、男の方に注意を払いながら裕璃はティータイムを楽しんだ。
ケーキを食べている間、やはり男はしばらくこちらの様子を伺っていたのだが、食べ終える頃にはもう見かけなくなっていた。
ストーカーらしき人物を見かけたからには迎えを呼ぶべきかとも思ったが、萌愛が行きしなの電車内で「久し振りに大人の付き添いなしでお出かけするのよ。ワクワクするわ!」と話していたのを思い出し逡巡する。せっかく楽しみにしていたのだから、できる限り大人の助けを求めたくはない。
この話題が周囲に聞こえてはまずいので、スマホを取り出し「ストーカーに家バレしてるんだよね?」と打ってメッセージを送ると、彼女は驚いた顔でこちらを一瞥した後、返事を打って送ってきた。内容は、「以前追われたときに慌てて家に逃げ込んでしまったから、恐らくばれているわ」とのことだった。
それならば今更道順を誤魔化しても無意味である。駅からはそこまで遠くないので、行きしなと同じく電車で帰ることにした。
電車は密閉空間であり、ある程度の危険性が伴う。ただ人目が多いため、ストーカー犯であった場合は逆に手出ししづらいという利点があった。
裕璃がずっと周囲を警戒をしていると、駅の構内で男の姿を視認することはなかったものの、電車内では隣の車両に先程ケーキ屋の前で見た人物が乗り込んでいることが分かった。やはりあの男は萌愛のストーカーだったのだ。
(さぁてっと…どうしよっかな)
このまま萌愛を送り届けた後、どうすべきなのかを考えあぐねていた。
話を聞く限りでは、おそらく今日も付き纏うだけで向こうから接触してくることはないだろう。
萌愛はケーキ屋でこそ男の寄越す視線に気づいていたようだが、電車で隣の車両に乗っていることは知らなそうだった。
(取り敢えず、今日は送ったら一旦帰ろう。情報があまりにも少なすぎる)
彼女とはスマホで連絡をすれば良い。
裕璃は考えをまとめ、そのまま真っすぐに萌愛を自宅の玄関まで送り届けると別れを告げた。
「今日は本当にありがとう。とても楽しかったわ」
「それなら良かった!じゃあまた明日ね」
「ええ、裕璃さんもお気をつけて」
手を振りつつ神林邸を出ると、黒城の屋敷に向かおうとした。
(あ、やばい…いる方じゃん…)
家へ帰るためにはどう頑張っても神林邸を出て右に曲がらなくてはならない。
しかし、その道にある電柱の傍らに人影が隠れていた。そして、駅からつけられていることには気づいていたのでそれが萌愛のストーカーであるということは確実であった。
(まだ接触するつもりなかったんだけどなぁ…しょうがないか、前通るだけなら大丈夫でしょ)
そう思い、何食わぬ顔で前を素通りした。
…否、しようとした。
「!?」
道の幅目一杯離れて通ろうとした裕璃だったが、男が素早く近づき左腕を掴もうとしたので反射的に身体を捻り、その手から逃れた。
「…何か用ですか」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる