10 / 10
■十 夢乃
しおりを挟む
ちょっと待って。今、林蘭丸って言った?
リビングでの首脳会議が行われている途中で、私の心臓は一つ跳ね上がりました。なにかが心に引っかかった感触があり、そのことに気付くと周囲にある情報を巻き込んで脳が勝手に処理を始めます。次の瞬間には、一つアイデアが浮かんでいました。
もしその蘭丸が私の知っている蘭丸なら、これは絶好のチャンスになるかもしれません。林蘭丸。海外向け大手ECサイトフジヤマの創業者。随分前に持ち株を売却して、現在経営には関わっていないが、伝説の起業家として経済誌に載っていたのを見たことがある。もちろん名前だけ。他の創業者と同じでどうも変人らしく、表に出てくることを好まない。偏屈な性格なのでしょう。
ペインティング便座を売るために私が登録したフリマサイトでは、ほとんど閲覧がありません。多分、売れるとしても時間がかかるでしょう。SNSを駆使して個人販売に乗り出すことも考えたけれど、きっと難しい。私のフォロワーは、同世代の女子に比べてもかなり少ない方だし、夏鈴のだって同じです。交友関係が広い分、夏鈴のフォロワーは私よりは多いけど、インフルエンサーにはほど遠い。しかも、ほとんど現実の知り合いがフォローをしているという状況ですから、私達の商品を購入する意思なんて微塵もないでしょう。ペインティング便座を売るために新しいアカウントを作るにしても、現代アートに飽きた目立ちたがりなインフルエンサーに発見してもらうような幸運がなければ上手くはいかないでしょう。つまり、ない。
私達は早急な結果を求めていました。趣味でやるならフリマサイトもSNS戦略も悪くはないでしょう。一年かけてパリ在住のキモいオタクに一台売れました。それで十分。多分、利益と同額のパーティを開催して大騒ぎする。だけど、これは仕事なんです。しかも、一年かけて一台では確実に破綻してしまう仕事。おばさんと若き日の蘭丸に友情があったなら。いや、それよりも蘭丸が篤郎のファンだったという方が関連性が強いかもしれませんね。怒張のボーカルだっただなんて今の篤郎の姿からは、にわかに信じられません。だから彼の言葉が真実だったとしたら、ですけど。
だってカセットテープを聞いた時、私は本当に衝撃を受けました。これまで夏鈴に勧められて聞いてきた音楽にはない音のうねり、そして荒波のような勢いの中に心地の良いメロディーも存在していた。ドブ川に浮かぶ金塊みたいな美しさが、激しいボーカルに合っていた。そのボーカルが篤郎のものだったなんて。だけど感傷に浸っている暇はありません。自分の目利きにがっかりしている暇もない。この現実を千載一遇のチャンスだと思わないと。
フジヤマは海外の日本マニアにめっぽう強いECサイトです。顧客にはストレートに文化を象徴した日本画や骨董品のコレクターがいるだけではなく、サブカルチャーのオタクも多い。以前、あるアニメ制作会社が潰れた時に放出した昔の原画が高額で取引され、債権を整理した後でさえ逆に儲かってしまったっていう噂があるほどです。特に特集ページでピックアップされると強い。田舎のお婆ちゃんが趣味で作った手拭いでも、飛ぶように売れる。
ただでさえフジヤマに登録するには厳しい審査が必要なのに、ピックアップしてもらうには運も必要だと聞いたことがある。モデレーターと呼ばれる数人のスタッフが世界中で商品を物色し、そのお眼鏡にかなった物だけがピックアップされる。モデレーターは完全に匿名で、社員なのか外部委託のスタッフなのかも分からない。本当はそんな人達いなくて、大金を払った者だけがピックアップの恩恵に預かれる仕組みなのかもしれないし。
私達にはそんな資金も、どうにか審査を潜り抜ける信用さえもありはしないのです。だけど、もしかしたらコネならあるかもしれませんね。伝説の創業者、林蘭丸と知り合いなんだから。前に読んだ記事によると、既に蘭丸とフジヤマの関係は薄いものになっているはずです。だけど上手く立ち回れば、フジヤマの現在の経営陣に紹介くらいはしてもらえるんじゃないでしょうか。ピックアップとは言いません、審査を緩くしてもらうくらいなら。なにも持たない私達にとっては当然プラス。これは良い流れになってきましたよ。
「林蘭丸を紹介して下さい」
思考実験に耽っている間に、G4首脳会議は別の議題に移っていたようだけど、私は思い切り割って入った。今、拝島水道関係者に取ってこれ以上大事な話はない。篤郎は言葉の意味が分からないみたいに棒立ちを続けるだけだった。夏鈴は私を心配そうに見つめた。ありがと。で、おばさんは「どうしてそんなこと?」って聞いてきた。
「ちょっと私に考えがあるんです」
このアイデアをサプライズとして使いたかったわけではありません。ただ、本当に上手くいくかが分からなくて、全てを説明する気にはなれませんでした。私っていつもこうなんです。小さく始めて、結果が出てからふんぞり返る。そっちの方が賢く見えるはずですし。
おばさんは随分と蘭丸には会っていない、と言った。連絡先も分からないって。多分、携帯電話普及以前の友情だったんでしょう。彼女を責めることは出来ませんね。でも、実家の住所なら知っているって。当時蘭丸は十代の少年だったから、実家に住んでいたんですって。今の私達と同年代で商売に成功していたんだから、やっぱり才能があるんでしょう。アダルトビデオのダビング業を商売って言っていいのか分かりませんけど。でも、彼の成功に勇気が湧いたことは確かです。聞き出した実家の場所も、それほど遠くない。これは成功への第一歩を踏み出すしかありませんね。
準備は入念に。相手はフジヤマの創業者。しかも変人。まあ、創業者っていうのは大体変人だと思いますけど。私は放課後に一人で蘭丸の実家を訪ねるつもりだった。
蘭丸とタイマンで対峙するのは緊張するけど、これは私の仕事。夏鈴は拝島水道のために全てを賭けて戦おうとしている。結果的に、様々な要因に首を突っ込んでは停滞している始末だけれど、彼女なりに一生懸命になっている。彼女がこの計画の心臓だ。夏鈴なしに私達は一歩だって進まない。
そして、篤郎は雑用。仕事には雑用が付き物です。誰もやりたくなんてないですけど。だけどたまにいるんです。雑用こそが我が仕事、と言わんばかりに没頭する人間が。そう、篤郎みたいなタイプです。彼は究極の指示待ち人間。一見デメリットばかりが目立ちますが、こういうタイプを上手く使えてこそ経営者としての才覚が花開くというものではないでしょうか。
篤郎はいつだってマグネットを作っていた。マグネットとシールを貼り付ける作業に没頭していた。何枚かたまると年寄特有のよぼよぼした足取りでポスティングに向かった。ここで重要なのが、最早誰もそれを求めていないことです。拝島水道のミッションは新たなフェーズに遷移した。つまり、在庫のウォシュレットをさばかないと未来はないっていう段階にです。あの場に篤郎だっていたんだから、当然そのことには気付いているはず。それでもなお、自分の仕事はマグネットを作って配ることだけって思えるんだからこれは才能だと思うんです。一つ指令を与えたら、死ぬまで尽くすロボット。怒張のボーカルがどうしてこうなってしまったのかは分からないし、もしかしたらあの頃からこんな性格だったのかもしれないけど、とにかく利用しない手はないと思うんです。というわけで、篤郎には雑用を。死ぬまで指示を与え続けて、殺してやろうと思います。
じゃあ私は? 拝島水道の仕事を手伝い始めてから時々思うんです。じゃあ私はどんな役に立てるんでしょうって。そりゃあ、私は夏鈴より金勘定や繊細な仕事が得意だし、篤郎よりは全てにおいて秀でている。でも、安全地帯から汗をかかずに指示だけを出している感じは否めない。私は拝島水道の司令塔なのだから、きっとそれでいいんだと思う。だけど物足りない。というか、コンプレックスにも感じている。蘭丸のような起業家になるには、自ら汗をかいてこそなのではないかって思い始めているんです。
なので蘭丸を説得するのは私のタスクだと位置付けました。この厄介な仕事を片付けてこそ、胸を張って会社に貢献したと言えるようになると思うんです。前の晩からみっちりとプレゼンの準備をして当日を迎えた。放課後、一人でおばさんから教えてもらった住所に急ぐ。別に急ぐ必要はありませんでしたけど。だって私ときたら、夏鈴以外に一緒に帰る友達なんていませんから。その夏鈴には午前中の休み時間に、今日の帰りは行く所があるから先に帰ってって伝えておきましたし。ところが学校を出て、少し経ったところで誰かに背後からリアネイキッドチョークをかけられた。突然息が止まって、咄嗟に顎の下に差し込まれた腕をタップする。
「おい、どこ行くんだよ。蘭丸のところだろ? あたしも連れてけよ」
夏鈴の仕業でした。私の嘘はバレバレだったってことです。「分かったから」激しく咳き込みながら、なんとか返事をしました。実際、一人で立ち向かうのは怖かったし、なにより私の耳には少し問題があります。少しだけね。昨夜寝る前に、目がギンギンになるほど想定問答を繰り返した後に思いました。もし蘭丸がぼそぼそと喋る人で、やり取りの中に「え?」「もう一度お願いします」とか、そういう言葉が繰り返されるようなことがあったらどうしよう? って。その可能性は十分にあった。だって成功者って、なにを伝えるかよりも誰が伝えるかに価値を見い出しているような人が多いし。この蘭丸様が話すんだから、耳をかっぽじってよく聞き取りやがれって態度で臨まれたら、私だって容易に聞き返せない。あやふやなまま会合が進んでしまえば必ず失敗するだろう。そのことに気付いた後はもう眠れなくなりましたよね。でも今更後には引けません。自分一人でやるしかないんだと言い聞かせて、唇を噛み締めながら眠りにつきました。
なので、夏鈴の強引なチョークスリーパーは有り難くもありました。私が弱音を吐いて、同行を依頼したわけではありませんから。どうしても、って言われたら、仕方がないですよね。二人で遠足みたいにしてバスを乗り継ぎ、蘭丸の実家までやって来ました。
そこは古いお屋敷のような建物で、住宅街に建っていました。普通の民家、蘭丸の実家、普通の駐車場みたいな並びで、平気な顔をして存在していましたが周囲の土地に比べると何倍もの広さがあるように思えます。外から中は見えない作りで、立派な壁が四方を取り囲んでいました。私達は門壁の前で立ち尽くしました。もしかしたらって思って、怖くなったんです。立派な門壁に恐れをなしたわけではありません。もしかしたら、林蘭丸ってただの御曹司? って思ったんです。こっちで勝手に、才覚と先見性でお金を稼いだ実業家って思っていたけど、実は実家が太かっただけなのかもしれない。だとしたら。期待外れも良いところです。
「だけど、それならそれで、別に構わないよね。お金を貯め込んでいることに代わりはないんだし」
夏鈴が独り言みたいにして呟きました。確かにそれはそうかもしれません。才能でも実家が太くても、私達に協力してくれるなら別にどっちでもいいわけですから。もしかしたら私は、ただこの場から逃げ出す言い訳を探していただけなのかもしれないですね。敢えて夏鈴の言葉に、大きく頷きました。自分に活を入れた次第です。
「行こう」
固く閉ざされた門は格子状にはなっておらず、中の様子は伺えない。『林』と手書きで書かれた名札が貼ってある古い郵便受けは見つけたが、インターホンのようなものはそこになかった。門の脇に通用口があるのことに気付き、何気なく手で押してみる。開いた。私達はおっかなびっくり敷地の中へ頭を差し込みました。
立派な佇まいからは想像が出来ないほど、庭は荒れ果てた様子でした。木々や草花は全く手入れされておらず、どこから拾ってきたのか粗大ごみのような物まで積まれているエリアがあります。変な匂いまでするし。緊張感が更にギアを上げて私達を襲います。
「すみませーん」
正面に見える建物の玄関に向けて蚊の泣くような声を上げます。だけど当然返事はなし。仕方がないので夏鈴を先頭に庭を正面突破しようと試みます。二人でそこに落とし穴が仕掛けられているかのように、一歩一歩確実に歩みを進めました。傍らに緑色に濁った大きな水溜りがあることに気付き、足を止める。昔は池だったのでしょう。今では世界で一番飲んだらいけない水が張られた穴に、新たな生態系が作られている過程といった佇まいがあります。
「うわあ」思わず声に出します。「なんか汚いね」
夏鈴も顔を顰めることで、私に返事をくれました。
その時、正面の建物の引き戸が突然開き、小柄な男性が姿を見せました。俯き加減で数歩歩き、私達に気付いて顔を上げます。カーキ色のハーフパンツに白いソックスを膝の下まで伸ばして履いています。靴はナイキのコルテッツ。大きめの黒いフーディーを着て、頭には目深に被ったキャップが乗っていました。まるでチカーノのようなファッションで、この世紀末の日本庭園には全く似合っていません。
「え?」と言ったまま、男は固まり闖入者を警戒した体勢を取ります。声が意外に高いことに気付きました。よく見ると顔も童顔で、少年のような佇まいがあります。それでも老けて見えるのは顔の下半分に長い髭を蓄えているからでしょうか。しかも長く伸ばした顎髭を三つ編みにしているせいで、異様さを助長しています。おばさんによると、当時は十代って話だったから現在三十代のはず。それにしては年齢不詳過ぎますね。妙な年齢の重ね方をしていて、ちょっと気持ちが悪くなりました。
「あんたが林蘭丸?」
夏鈴が不躾に指を指します。私は銃口を向けられたみたいに素早く動き、その指を払いました。
「そうだけど、なに?」
蘭丸が髭の三つ編みを撫でながら、私達を値踏みしました。髭のせいで口元の動きがよく見えない。声が高いおかげで、なんとか言っていることを判別出来るが、聞き取りにくいタイプであることは間違いがありませんでした。
「そうだけど、なに? って言ってる」私の困惑顔に気付いたのか、咄嗟に夏鈴が通訳をしてくれました。こういう想定外のことがあるから、夏鈴の同行を許したんです。自分の選択に自信が持てる瞬間でした。
「私のお母さんがあんたと友達だったんだって。だからちょっと頼み事をしに来たわけ」
「この子のお母さんは、拝島実花って言います。昔蘭丸さんと一緒に怒張っていうバンドのファンをやってたらしくて。それで」
「怒張? 懐かしいね。きみらよく知ってるじゃない。大昔のバンドだよ。でも拝島実花なんて知らない。俺、人の名前は忘れないから」
「そっか、おばさんはまだ結婚してなかったから、えっと、旧姓は」
「藤田」
夏鈴が間髪入れずに答えた。私にはっきりと伝わるようにこちらに顔を向けて、しっかりと発音してくれたのが印象的でした。
「藤田、藤田実花」蘭丸は三つ編みから手を離し、今度は唇を覆うようにして口ひげを撫でた。どうやら髭を触りながら話すのが癖みたいだ。私からすれば忌々しい癖でした。「ああ、実花さんの子どもか。きみが? それでこっちの子は友達? 懐かしいなあ」
「なんか思い出したみたい。懐かしいって言ってる」夏鈴は私に通訳をすると、蘭丸に向かって「ねえ、口に手をやって悪巧みするサッカー選手みたいに話すの止めてもらえます? この子、ちょっと耳が悪いんで口元隠されると面倒なんですけど」
「え? ああ、ごめん」
蘭丸は咄嗟に口から手を離して両手まで上げた。
「うん。ただでさえ髭で口元が見にくいんだから、もうやらないでね。それでね、今日私達はお願いに来たってわけ。あんたフジヤマの創業者なんでしょ?」
「それは、まあ、そうだな。っていうか、俺これから出掛けるんだけど。話ならまた今度聞くからさ、その時はちゃんとアポ取って来てよ」
そう言われて改めて蘭丸が何者か思い出す。まさかまだ実家に住んでいるとは思わなかった。だって、男って大体大人になると実家を出ていくものだと思っていたから。蘭丸のような成功者なら、タワーマンションみたいな所に当たり前に住んでいると思っていた。今日は、もし実家に両親とか関係者が住んでいれば現在の蘭丸の所在を尋ねて、それからその場所に向かおうと考えていたんです。コンプライアンスの時代ですけど、制服を来た女子高校生になら口を滑らす可能性があるって思いましたし。なんなら、無害な学生を演出するために、松葉杖でもついて行こうかって閃いたくらい。持ってないから止めたけど。
それとも、やっぱりこの建物には誰も住んでいないのだろうか。蘭丸はタワマンに住んでいて、時折実家の様子を確認しに来るだけとか。ご両親は既に他界していて、荒れ果てるままの実家を心配し、こうして整理のために通っている。それならまだ納得が出来るというものです。いや、この家は汚い。とても誰かが整理しているとは思えない。住んでいるとも思えない。じゃあ、蘭丸はここでなにをしているのだろうか。
「どうにか話だけでも聞いてもらえませんしょうか?」
私は敷地内にあるゴミ集積場のような一角に目を奪われた後、思い出したかのように頭を下げた。蘭丸が私の視線を追う。
「汚いでしょ? 客なんて来ないから汚し放題。俺、掃除なんてしないことに決めてるからさ。だって無駄じゃん。どうせまた汚れるんだから」
「なんか汚さについて開き直ってる」
夏鈴が蘭丸の言葉を要約する。両方とも聞こえていたけど、確かに蘭丸は開き直っていた。これは変人の理論ですよ。ただ、他人の家に勝手に入って、じろじろとやるのは行儀が悪い。それを指摘されたような気分になってバツが悪くなった。
「なんかすみません。こちらにお住まいなんですか?」
「そうだよ。ずっとここ。うちさ、小さい頃に両親死んでっから。子どもの頃からここで爺ちゃん婆ちゃんと住んでる。ま、その二人もここ数年で死んじゃって今は一人だけど」
「なんか、天涯孤独ぶってる。こんなでかい家に一人なら、そりゃ汚れるよね」
夏鈴がまたも通訳を買って出てくれた。もし蘭丸の言葉が聞こえていなかったら有り難いと思うだろうけど、流石に省略し過ぎだと思いました。蘭丸はこの大きな家に一人寂しく住んでいるのか。イメージとは違うが、深く考えるのは止めましょう。変人の精神分析をして、深淵に引きずり込まれるのは得策ではないでしょうから。
「少しだけお時間をいただけないでしょうか。なんなら歩きながらでも構いませんから」
「うーん、面倒だけど実花さんの子どもなんだもんな。なんかきみたち面白いし。いいよ、聞いてあげる」蘭丸はそう言って、傍らに置いてあった、土に還る直前と言った自転車を立ててサドルに座った。私達に、むき出しの大きな石が二つ並んだ場所を勧める。そこに座れってことですか? 夏鈴とアイコンタクトをしてから私達は林家のスツールに腰掛けた。「で、俺に何を頼みたいのさ? 言っとくけど俺、金はないよ」
「嘘つけ、あんた伝説の起業家なんでしょ。今でも悠々自適の生活じゃないの? こんなボロ家に住んでるのも世を忍ぶ仮の姿なんでしょ。それか、変人を気取ってわざとそうしてるか」
夏鈴は多分、お金持ちにからかわれたと思ったのだろう。食って掛かった。
「馬鹿言わないでくれよ。俺のことを知ってるなら多少は調べてから来いよ。いいか?」
と言って、蘭丸は自らの失敗を語り始めた。多分、虚しかったと思います。でも、お金は持っていないと私達に証明するためには、一から説明するしかないと思ったのでしょう。大の大人を無駄に辱めてしまったことをここに反省します。
家庭環境が悪かった蘭丸は、高校には進学せず自分で商売を始めた。アダルト作品のダビング工場を持っていたらしい。昔は今みたいにネットにエロが溢れているわけではなく、テープだとかディスクで男性の脳を破壊していたんですって。そう考えると、昔の方がまだ敷居が高くて、青少年の目に触れにくい環境だったと思えます。多分この頃に怒張と出会ったんでしょうね。
昔から音楽を仕事にしたいと思っていたらしいんですけど、自分には音楽の才能がないことを知っていた。その代わり、商売の才能があることも分かっていた。結構クレバーな少年ですよね。エロ仕事を続けていると、海外にコネクションが出来た。ジャパニーズポルノは有名ですからね。日本産のポルノを欲しがる海外のHENTAI相手に通信販売みたいなことを始めて、やがてアニメのグッズとか主題歌の音源とかを扱うようになる。それがフジヤマってわけですね。
会社を設立して社長に。でも蘭丸には他にやりたいことがあった。自分がミュージシャンになれるわけではないけど、日本のバンドを海外へ紹介することなら出来る。そういう音楽レーベルを設立するのが夢だったのです。ちょうど大手企業にフジヤマが買収されるという話があったため、迷わず株を売却。大金を手に入れて、いざレーベルを設立したところ、一緒に仕事を始めたコンサルタントに有り金全部持ち逃げされて終了。それで現在は無一文。私は知らなかったけれど、経済界では有名な失敗になっているんですって。
「それからはもう、バイト一本よ。レーベル立ち上げる時に借金こさえたんだけど、それも持ち逃げされちゃってね。金持ちの知り合いもすっと離れていって、誰も手を貸してくれないし。多分、俺って若くして成功したからさ、相当やっかまれてたんじゃないかな。借金はあるけど学歴はないってことで、就職もままならしさ。ま、今は雌伏の時ってことで」
随分と壮絶な過去を、軽い調子で話す人だった。この軽さが災いして失敗をしたと確信したくなる。
「お金、ないんですか?」
「ないよ。俺がほしいくらい。じゃあ、もういいかな? 俺、これからバイトだし。稼がなくちゃここに怖い人達来ちゃうからさ」
なんだかがっかりした。私の中で蘭丸は最新のロールモデルだったから。若くして成功した有名人。ちょっと変人だけど、もう一生お金には困らない人。私が目指すべき人物はこれだって思えたのに。人生一寸先は闇ってことを教わるために会いに来たわけではないのに。
「でもさ」と夏鈴に耳打ちをされる。「別にお金をもらいに来たわけじゃないよね。フジヤマの人を紹介してもらいに来たわけだから」
そうだ。お金じゃない。コネを紹介してもらえればそれでいい。
「お金じゃないんです」
「じゃ、なにしに来たの?」
「フジヤマの偉い人に私達を紹介してもらいたくて」
「なんで? 社会科見学かなにか?」
「違います。私達の商品をフジヤマで扱ってもらいたくて」言って、鞄からタブレットを取り出した。そこには私達のペインティング便座のプレゼン資料が映し出されている。「それ、私達が作っている便座です。海外で売りたくて。でもフリマサイトに登録しても、全然閲覧されなくて。ちょっと画像を見てください」
パワーポイントで作った資料には、ペインティング便座の画像が何枚も挿入されている。私はタブレットを操作し、画像のページを表示させた。蘭丸はそんなやり方がまどろっこしかったのか、タブレットを受け取って真剣な表情を画面に向けた。時折「ふーん」なんて言いながら画面をスライドさせる。
「どうですか?」
「なかなか良いと思うよ」
蘭丸の視線はまだタブレットにあった。右手を口元にやろうとするが、途中で軌道修正をして無理矢理後頭部をかいていた。余計な質問はしてきません。流石です。ペインティング便座の良い面も、そして私達が気付いていない悪い面も瞬時に資料から読み取ったのでしょう。
「で、フジヤマで扱ってもらえる?」
夏鈴はただ待っていることに飽きたのか、池を覗き込んで「おえっ」とえずきながら言う。
「資料には三万円で売るって書いてるけど、利益は出るわけ? 原価はどれくらい? もし大量に注文が入ったら対応出来る? 制作期間は?」
一転して、今度は矢継ぎ早の質問でした。そこら辺の情報はできる限り資料に記載してあります。ということは、数字よりも私達の能力に疑問を持っているのかもしれませんね。それとやる気も。昨夜想定した通りのことを答えれば良いだけでした。
「なんか色々聞いてる。原価とか利益とか、制作期間とか」
夏鈴が耳打ちをしてくる。ここから先は、拝島水道の中で、夏鈴やおじさんおばさんに企画説明をするというものとは話が違ってくる。他人に、しかも実績のある人物に説明をするのです。もしかしたらこれは、ビジネスマンとしての記念すべき第一歩になるかもしれませんね。そう考えると妙な緊張感が走った。今から発する言葉には、今までと違う意味や価値、そして解釈が生まれてしまいそうで怖かった。だってここで失敗してしまったら拝島水道はもう終わりだってことが分かっていたから。そしたら夏鈴の生活が一変してしまうのです。親友の人生がかかっていると思ったら不用意な発言など出来るわけがありません。
真剣に考えすぎた結果、私の言葉は喉に詰まったまま出てこなかった。資料に書いた通りのことが、本当に私達に実現可能なのか? という疑問が湧いた。だって私に仕事の経験なんてなかったから。ただ机上の空論を楽しんでいただけなんじゃないかって今更感じました。
「えっと、あの、それは」
質問に関する答えは準備していた。頭の中にそれはあった。でも言葉にはならなかった。意味のない空気が、間を埋めるために空中を舞うばかりだった。こんな自信のない態度、絶対にしてはダメだって分かってたけど、焦って制御不能になった自律神経を止められなかった。蘭丸はふと顔を上げ、私の心を見透かすような涼しい視線を寄越した。
「そんなこと全部資料に書いてあるんじゃないの? わざわざやる気を試すようなことしないでくんない? 時間の無駄だから。こういうことするからビジネスかぶれの奴らは嫌なんだよね。夢乃の計画は完璧。あんたはフジヤマの関係者を紹介してくれればそれでいんだから」
「そっか」蘭丸はゆっくり私と夏鈴の顔を見比べた。ような気がした。「だけど俺はもう、フジヤマの現運営陣とはほとんど関係性がないんだよ。今でも関わってたら、こんなに苦労してないでしょ。給料安くてもいいから、フジヤマで雇ってもらう。それが出来ないくらい、絆は薄いってことだね」
「そんなあ」
露骨にがっかりした夏鈴が、庭の乾いた土を足で蹴り上げた。砂利が飛び、ドブみたいな池に緑色の水滴が舞った。私としては、少し情けない思いだった。肝心な時に尻込みして、大切なことを夏鈴の口から言わせるなんて。しかも、蘭丸から返ってきたのは拒絶の反応。もし私が答えることが出来ていたら、夏鈴に直接ショックを与えることはなかったかもしれない。いや、それは考えすぎなのかも。私はただ自分の代わりに夏鈴が発言してくれて、それで安心したことが情けなかったんだ。
「ただ、それでも古い知り合いはいるんだ。俺自身は嫌われていても、彼らだって可能性のある商品は欲しいはず。だから紹介くらいは出来ると思うな」
「よっしゃあ」
今度ははっきりとガッツポーズをする夏鈴を見て、蘭丸は少し笑っていた。
「今思い出したけど、赤ん坊の君を見たことがあるよ。そうだ。実花さんが訪ねてきて、その時に君が一緒だったんだ。あの小さな生物が成長して今ここにいると思うと感慨深いね」
「んなこたどうでもよろしいっつうの。それじゃ早速紹介してもらおうかしら」
「いくら出せる?」
あまりにも当たり前のことのように言うものだから、最初はなにを言っているのか分かりませんでした。夏鈴も同じだったようで、それまで活発に動いていた体を一瞬止めた。ゆっくりと私の方を振り返る。私はどんな反応も見せられなかった。不安で体が固まり、ただじっと夏鈴の揺れ動く視線を受け止めるのがやっとだった。
「お金、取るの?」
夏鈴は悩ましげに蘭丸を見つめる。
「そりゃそうだよ。だってビジネスだろ?」
「それにしてもさ、赤ちゃんの頃のかわいいあたしを見て感慨深いって言ってたじゃん。そこに情とかないわけ?」
「それとこれとは話が別でしょ。君らは仕事の話をしに来たのに、俺にはタダで動けって言うのかい? いいか? 俺は金に困ってるんだ。喉から手が出るほど金が欲しい。もうこんな生活嫌なんだよ。下手したら、今の君らより金持ってないんじゃないかな。早く借金返して、レーベル設立の夢に再挑戦したいんだ」
泣きそうになっていました。大人が年下に見せることが出来る最大級の情けない態度で蘭丸は言いました。考えてみえば、彼の要求は当たり前のことなのかもしれません。コネだってその人の大切な資産だ。それを使用するというのに、無料で通せるわけがない。私達は甘かった。簡単なことなのに、想定はしていなかった。まだ若いからとか、学生が頑張っているからとか、そんな努力の押し売りで全てをクリアしようとしていたのだから浅はかだったと言わざるを得ないでしょう。経験の少なさが露呈した瞬間でした。
「どうする?」
夏鈴が耳元で呟く。それでも私は大した反応を見せることが出来なかった。
「それにさあ、なんだか君からは自信のなさが伺えるんだよね」
蘭丸の視線は確実に私を捉えていた。
「それは」
「多分だけど、君がハートで、君がブレインって感じのコンビなんだよね」ハートは夏鈴、ブレインは私という役割を、蘭丸は既に見抜いていたようだ。「良いと思うよ。少ししか話してないけど逆はありえない。自分たちのことをよく分かってるね。普通十代の頃って自分の特徴を客観的に判断できなかったりするけど最低限君らにはその能力がある。アニメの絵をペイントしたウォシュレット便座っていうアイデアも中々だ。海外の人はその二つに興味津々だから。でもね、経験上自信のない人は必ず失敗する。これはもうどうしようもないんだ。そういう風に出来てる。例えば、これから先もビジネスを続けていくなら君らは色んな人に出会う。俺みたいに優しい人ばかりじゃない。強面の人にパワハラみたいにして詰められることだってあるだろう。相手だって損はしたくないからね。皆本気だ。そんな時、今みたいにビビって黙ってたんじゃ話にならない。ある程度はこっちの子の勢いで誤魔化せるかもしれないけど、数字の話には弱そうだしね。君が説得しないと」
「そうですよね」
これまでの態度に、至極当然な指摘をされて私は一気に落ち込んだ。益々自信がなくなる。鼻の奥がつんとして、何故か母親の顔が思い浮かんだ。多分、べそをかく寸前だったと思います。
「ってことは、こんな手間のかかる商品を三万円で売ろうとしているのも君ってことになる。ちょっと弱気過ぎないか? もっと吹っ掛けるくらいの気持ちがないと。覚悟のない人から利益は生まれないよ」
「ちょっと言い過ぎじゃない? もういいよ、夢乃。こいつ若者をイジメて日頃の鬱憤を晴らそうとしてるだけだよ。行こ」
と言って、夏鈴が私の腕を引っ張った。実は誰かの責任で私をこの場から連れ出して欲しいと思っていた。やはり夏鈴は私のことを分かっている。それにしても急に引っ張られたことでバランスを崩した。よろめいた体を支えるために一歩足を踏ん張る。図らずも、進行方向とは逆に体重が移動した。ふと、このまま全てを投げ出して帰宅する未来を想像した。ウォシュレットの在庫は売れず、拝島水道は潰れる。夏鈴はどうなるのだろうか? このまま一緒の学校には通える? それともどこかに引っ越すことになるのだろうか? 今まで夏鈴が私にしてくれたたくさんのことを思い出した。私の学生生活が最悪なものにならなかったのは全部夏鈴のおかげだった。それなのに私は夏鈴へなんの恩返しも出来ていない。ましてや音大進学という夏鈴の希望も裏切ろうとしている。私はなにがしたかったんだろう。拝島水道を手伝って夏鈴と肩を並べたかったんじゃないのか。自分に問いかける。そうして、胸を張って音大には進学しないって言いたかったんじゃないのか。
このままじゃダメだ。はっきりとそう思った。すっかり気持ちは折れてたし、心が挫けてもいた。だけど気付くと私は夏鈴の腕を振りほどいていた。
「じゃあ三万円じゃなくて五万円にします。それとこれ」鞄から指揮棒を取り出した。「紹介料は支払えないけど、これを担保にさせてください」
この指揮棒には世界的に有名な指揮者であるベルトル・クライスラーのサインが入っている。夏鈴からのプレゼントでした。前に清掃のバイトをしていたホテルで、来日公演をするクライスラーに貰ったって言ってました。私の所持品の中では間違いなく一番高価な物だと思います。もちろん、こんな展開になることは想像していませんでした。だけど、財布に入った六千円だけで伝説の起業家に挑むのは心許なかったんです。ハッタリにも使えるだろうし、高価な物を持っていることで蘭丸に怯むこともなくなると思いました。なにより、夏鈴からのプレゼントは私に心の平穏をもたらしますし。そんな大切な物を思いつきみたいに蘭丸へ差し出すなんて。自分でも自身の行動に驚いてしまう。
「へえ、クライスラーのサイン付きかあ」蘭丸が私の手から指揮棒を取り上げる。代わりにプレゼンに使っていたタブレットを渡された。「最近死んじゃったんだよね。あんまりサインとか好きじゃなかった人らしいし、これは価値があるかもしれないな」
「ちょっと夢乃、これ私のプレゼントじゃん」
夏鈴は蘭丸から指揮棒を取り上げようとするが、ひらりとかわされてしまう。こうなったら後には引けません。私は覚悟を決めました。
「亡くなった時期とサイン嫌いの性格を考えると、もしかしたら最後のサインかもしれません」
「ちょっとちょっと」夏鈴が頭を抱えた。「それは私があげた物なのにい」
「サインは本物っぽいな」
蘭丸はスマホを取り出し、画面と指揮棒を見比べていた。ベルトル・クライスラーのサインを検索したのでしょう。近くで夏鈴が暴れるため、忙しない体の動きになっている。
「本物に決まってるでしょ」
夏鈴が騒いだ。
「でもそれはあくまで担保です。もしフジヤマで便座が売れたら、売上額に応じてコミッションを支払います。価格は上げることに決めたので、十分な額が支払えると思います。一台につき一万円。ウォシュレットの在庫は三百ありますから全部売れたら三百万。紹介料としては妥当な額だと思います。こちらも十分な利益が出ますしね。そして、もしも全額お支払い出来たら、指揮棒は返して下さい。お金以上に大切な物なので。これでどうです? お金は持っていないけど、私が見せられる最大の覚悟です」
もう迷いはなかった。本人の前でプレゼントを担保にしたことで、後ろめたさもそれほど感じていなかった。弱気な自分を変えたかった。夏鈴と肩を並べて歩けるくらいに。宝物を質に入れてでも、手に入れたかった。失敗すれば、夏鈴は実家の店が潰れる。私にリスクはない。そんな甘えが私を怖気づかせた。それなら、私だってリスクを背負う。もし失敗したら、きっと夏鈴に絶交されるでしょう。絶対に成功させなくてはならない。その思いが、ようやく私に覚悟を決めさせた。
「俺はそれが見たかったの。いいよ、フジヤマの専務に紹介してあげる。三百万のためなら俺だって最大限頑張れるよ」
指揮棒を小脇に挟みながら蘭丸は言った。やった。まずは重い石を動かした。後は坂道を転がすだけだ。まだなにも手に入れていないのに、私は有頂天になった。その後で蘭丸が口元を手で覆って髭を触りながら、しばらく夏鈴となにかを話していた。それほど気にはならなかった。なにしろ私は起業家としての第一歩をここに刻んだんですから。
リビングでの首脳会議が行われている途中で、私の心臓は一つ跳ね上がりました。なにかが心に引っかかった感触があり、そのことに気付くと周囲にある情報を巻き込んで脳が勝手に処理を始めます。次の瞬間には、一つアイデアが浮かんでいました。
もしその蘭丸が私の知っている蘭丸なら、これは絶好のチャンスになるかもしれません。林蘭丸。海外向け大手ECサイトフジヤマの創業者。随分前に持ち株を売却して、現在経営には関わっていないが、伝説の起業家として経済誌に載っていたのを見たことがある。もちろん名前だけ。他の創業者と同じでどうも変人らしく、表に出てくることを好まない。偏屈な性格なのでしょう。
ペインティング便座を売るために私が登録したフリマサイトでは、ほとんど閲覧がありません。多分、売れるとしても時間がかかるでしょう。SNSを駆使して個人販売に乗り出すことも考えたけれど、きっと難しい。私のフォロワーは、同世代の女子に比べてもかなり少ない方だし、夏鈴のだって同じです。交友関係が広い分、夏鈴のフォロワーは私よりは多いけど、インフルエンサーにはほど遠い。しかも、ほとんど現実の知り合いがフォローをしているという状況ですから、私達の商品を購入する意思なんて微塵もないでしょう。ペインティング便座を売るために新しいアカウントを作るにしても、現代アートに飽きた目立ちたがりなインフルエンサーに発見してもらうような幸運がなければ上手くはいかないでしょう。つまり、ない。
私達は早急な結果を求めていました。趣味でやるならフリマサイトもSNS戦略も悪くはないでしょう。一年かけてパリ在住のキモいオタクに一台売れました。それで十分。多分、利益と同額のパーティを開催して大騒ぎする。だけど、これは仕事なんです。しかも、一年かけて一台では確実に破綻してしまう仕事。おばさんと若き日の蘭丸に友情があったなら。いや、それよりも蘭丸が篤郎のファンだったという方が関連性が強いかもしれませんね。怒張のボーカルだっただなんて今の篤郎の姿からは、にわかに信じられません。だから彼の言葉が真実だったとしたら、ですけど。
だってカセットテープを聞いた時、私は本当に衝撃を受けました。これまで夏鈴に勧められて聞いてきた音楽にはない音のうねり、そして荒波のような勢いの中に心地の良いメロディーも存在していた。ドブ川に浮かぶ金塊みたいな美しさが、激しいボーカルに合っていた。そのボーカルが篤郎のものだったなんて。だけど感傷に浸っている暇はありません。自分の目利きにがっかりしている暇もない。この現実を千載一遇のチャンスだと思わないと。
フジヤマは海外の日本マニアにめっぽう強いECサイトです。顧客にはストレートに文化を象徴した日本画や骨董品のコレクターがいるだけではなく、サブカルチャーのオタクも多い。以前、あるアニメ制作会社が潰れた時に放出した昔の原画が高額で取引され、債権を整理した後でさえ逆に儲かってしまったっていう噂があるほどです。特に特集ページでピックアップされると強い。田舎のお婆ちゃんが趣味で作った手拭いでも、飛ぶように売れる。
ただでさえフジヤマに登録するには厳しい審査が必要なのに、ピックアップしてもらうには運も必要だと聞いたことがある。モデレーターと呼ばれる数人のスタッフが世界中で商品を物色し、そのお眼鏡にかなった物だけがピックアップされる。モデレーターは完全に匿名で、社員なのか外部委託のスタッフなのかも分からない。本当はそんな人達いなくて、大金を払った者だけがピックアップの恩恵に預かれる仕組みなのかもしれないし。
私達にはそんな資金も、どうにか審査を潜り抜ける信用さえもありはしないのです。だけど、もしかしたらコネならあるかもしれませんね。伝説の創業者、林蘭丸と知り合いなんだから。前に読んだ記事によると、既に蘭丸とフジヤマの関係は薄いものになっているはずです。だけど上手く立ち回れば、フジヤマの現在の経営陣に紹介くらいはしてもらえるんじゃないでしょうか。ピックアップとは言いません、審査を緩くしてもらうくらいなら。なにも持たない私達にとっては当然プラス。これは良い流れになってきましたよ。
「林蘭丸を紹介して下さい」
思考実験に耽っている間に、G4首脳会議は別の議題に移っていたようだけど、私は思い切り割って入った。今、拝島水道関係者に取ってこれ以上大事な話はない。篤郎は言葉の意味が分からないみたいに棒立ちを続けるだけだった。夏鈴は私を心配そうに見つめた。ありがと。で、おばさんは「どうしてそんなこと?」って聞いてきた。
「ちょっと私に考えがあるんです」
このアイデアをサプライズとして使いたかったわけではありません。ただ、本当に上手くいくかが分からなくて、全てを説明する気にはなれませんでした。私っていつもこうなんです。小さく始めて、結果が出てからふんぞり返る。そっちの方が賢く見えるはずですし。
おばさんは随分と蘭丸には会っていない、と言った。連絡先も分からないって。多分、携帯電話普及以前の友情だったんでしょう。彼女を責めることは出来ませんね。でも、実家の住所なら知っているって。当時蘭丸は十代の少年だったから、実家に住んでいたんですって。今の私達と同年代で商売に成功していたんだから、やっぱり才能があるんでしょう。アダルトビデオのダビング業を商売って言っていいのか分かりませんけど。でも、彼の成功に勇気が湧いたことは確かです。聞き出した実家の場所も、それほど遠くない。これは成功への第一歩を踏み出すしかありませんね。
準備は入念に。相手はフジヤマの創業者。しかも変人。まあ、創業者っていうのは大体変人だと思いますけど。私は放課後に一人で蘭丸の実家を訪ねるつもりだった。
蘭丸とタイマンで対峙するのは緊張するけど、これは私の仕事。夏鈴は拝島水道のために全てを賭けて戦おうとしている。結果的に、様々な要因に首を突っ込んでは停滞している始末だけれど、彼女なりに一生懸命になっている。彼女がこの計画の心臓だ。夏鈴なしに私達は一歩だって進まない。
そして、篤郎は雑用。仕事には雑用が付き物です。誰もやりたくなんてないですけど。だけどたまにいるんです。雑用こそが我が仕事、と言わんばかりに没頭する人間が。そう、篤郎みたいなタイプです。彼は究極の指示待ち人間。一見デメリットばかりが目立ちますが、こういうタイプを上手く使えてこそ経営者としての才覚が花開くというものではないでしょうか。
篤郎はいつだってマグネットを作っていた。マグネットとシールを貼り付ける作業に没頭していた。何枚かたまると年寄特有のよぼよぼした足取りでポスティングに向かった。ここで重要なのが、最早誰もそれを求めていないことです。拝島水道のミッションは新たなフェーズに遷移した。つまり、在庫のウォシュレットをさばかないと未来はないっていう段階にです。あの場に篤郎だっていたんだから、当然そのことには気付いているはず。それでもなお、自分の仕事はマグネットを作って配ることだけって思えるんだからこれは才能だと思うんです。一つ指令を与えたら、死ぬまで尽くすロボット。怒張のボーカルがどうしてこうなってしまったのかは分からないし、もしかしたらあの頃からこんな性格だったのかもしれないけど、とにかく利用しない手はないと思うんです。というわけで、篤郎には雑用を。死ぬまで指示を与え続けて、殺してやろうと思います。
じゃあ私は? 拝島水道の仕事を手伝い始めてから時々思うんです。じゃあ私はどんな役に立てるんでしょうって。そりゃあ、私は夏鈴より金勘定や繊細な仕事が得意だし、篤郎よりは全てにおいて秀でている。でも、安全地帯から汗をかかずに指示だけを出している感じは否めない。私は拝島水道の司令塔なのだから、きっとそれでいいんだと思う。だけど物足りない。というか、コンプレックスにも感じている。蘭丸のような起業家になるには、自ら汗をかいてこそなのではないかって思い始めているんです。
なので蘭丸を説得するのは私のタスクだと位置付けました。この厄介な仕事を片付けてこそ、胸を張って会社に貢献したと言えるようになると思うんです。前の晩からみっちりとプレゼンの準備をして当日を迎えた。放課後、一人でおばさんから教えてもらった住所に急ぐ。別に急ぐ必要はありませんでしたけど。だって私ときたら、夏鈴以外に一緒に帰る友達なんていませんから。その夏鈴には午前中の休み時間に、今日の帰りは行く所があるから先に帰ってって伝えておきましたし。ところが学校を出て、少し経ったところで誰かに背後からリアネイキッドチョークをかけられた。突然息が止まって、咄嗟に顎の下に差し込まれた腕をタップする。
「おい、どこ行くんだよ。蘭丸のところだろ? あたしも連れてけよ」
夏鈴の仕業でした。私の嘘はバレバレだったってことです。「分かったから」激しく咳き込みながら、なんとか返事をしました。実際、一人で立ち向かうのは怖かったし、なにより私の耳には少し問題があります。少しだけね。昨夜寝る前に、目がギンギンになるほど想定問答を繰り返した後に思いました。もし蘭丸がぼそぼそと喋る人で、やり取りの中に「え?」「もう一度お願いします」とか、そういう言葉が繰り返されるようなことがあったらどうしよう? って。その可能性は十分にあった。だって成功者って、なにを伝えるかよりも誰が伝えるかに価値を見い出しているような人が多いし。この蘭丸様が話すんだから、耳をかっぽじってよく聞き取りやがれって態度で臨まれたら、私だって容易に聞き返せない。あやふやなまま会合が進んでしまえば必ず失敗するだろう。そのことに気付いた後はもう眠れなくなりましたよね。でも今更後には引けません。自分一人でやるしかないんだと言い聞かせて、唇を噛み締めながら眠りにつきました。
なので、夏鈴の強引なチョークスリーパーは有り難くもありました。私が弱音を吐いて、同行を依頼したわけではありませんから。どうしても、って言われたら、仕方がないですよね。二人で遠足みたいにしてバスを乗り継ぎ、蘭丸の実家までやって来ました。
そこは古いお屋敷のような建物で、住宅街に建っていました。普通の民家、蘭丸の実家、普通の駐車場みたいな並びで、平気な顔をして存在していましたが周囲の土地に比べると何倍もの広さがあるように思えます。外から中は見えない作りで、立派な壁が四方を取り囲んでいました。私達は門壁の前で立ち尽くしました。もしかしたらって思って、怖くなったんです。立派な門壁に恐れをなしたわけではありません。もしかしたら、林蘭丸ってただの御曹司? って思ったんです。こっちで勝手に、才覚と先見性でお金を稼いだ実業家って思っていたけど、実は実家が太かっただけなのかもしれない。だとしたら。期待外れも良いところです。
「だけど、それならそれで、別に構わないよね。お金を貯め込んでいることに代わりはないんだし」
夏鈴が独り言みたいにして呟きました。確かにそれはそうかもしれません。才能でも実家が太くても、私達に協力してくれるなら別にどっちでもいいわけですから。もしかしたら私は、ただこの場から逃げ出す言い訳を探していただけなのかもしれないですね。敢えて夏鈴の言葉に、大きく頷きました。自分に活を入れた次第です。
「行こう」
固く閉ざされた門は格子状にはなっておらず、中の様子は伺えない。『林』と手書きで書かれた名札が貼ってある古い郵便受けは見つけたが、インターホンのようなものはそこになかった。門の脇に通用口があるのことに気付き、何気なく手で押してみる。開いた。私達はおっかなびっくり敷地の中へ頭を差し込みました。
立派な佇まいからは想像が出来ないほど、庭は荒れ果てた様子でした。木々や草花は全く手入れされておらず、どこから拾ってきたのか粗大ごみのような物まで積まれているエリアがあります。変な匂いまでするし。緊張感が更にギアを上げて私達を襲います。
「すみませーん」
正面に見える建物の玄関に向けて蚊の泣くような声を上げます。だけど当然返事はなし。仕方がないので夏鈴を先頭に庭を正面突破しようと試みます。二人でそこに落とし穴が仕掛けられているかのように、一歩一歩確実に歩みを進めました。傍らに緑色に濁った大きな水溜りがあることに気付き、足を止める。昔は池だったのでしょう。今では世界で一番飲んだらいけない水が張られた穴に、新たな生態系が作られている過程といった佇まいがあります。
「うわあ」思わず声に出します。「なんか汚いね」
夏鈴も顔を顰めることで、私に返事をくれました。
その時、正面の建物の引き戸が突然開き、小柄な男性が姿を見せました。俯き加減で数歩歩き、私達に気付いて顔を上げます。カーキ色のハーフパンツに白いソックスを膝の下まで伸ばして履いています。靴はナイキのコルテッツ。大きめの黒いフーディーを着て、頭には目深に被ったキャップが乗っていました。まるでチカーノのようなファッションで、この世紀末の日本庭園には全く似合っていません。
「え?」と言ったまま、男は固まり闖入者を警戒した体勢を取ります。声が意外に高いことに気付きました。よく見ると顔も童顔で、少年のような佇まいがあります。それでも老けて見えるのは顔の下半分に長い髭を蓄えているからでしょうか。しかも長く伸ばした顎髭を三つ編みにしているせいで、異様さを助長しています。おばさんによると、当時は十代って話だったから現在三十代のはず。それにしては年齢不詳過ぎますね。妙な年齢の重ね方をしていて、ちょっと気持ちが悪くなりました。
「あんたが林蘭丸?」
夏鈴が不躾に指を指します。私は銃口を向けられたみたいに素早く動き、その指を払いました。
「そうだけど、なに?」
蘭丸が髭の三つ編みを撫でながら、私達を値踏みしました。髭のせいで口元の動きがよく見えない。声が高いおかげで、なんとか言っていることを判別出来るが、聞き取りにくいタイプであることは間違いがありませんでした。
「そうだけど、なに? って言ってる」私の困惑顔に気付いたのか、咄嗟に夏鈴が通訳をしてくれました。こういう想定外のことがあるから、夏鈴の同行を許したんです。自分の選択に自信が持てる瞬間でした。
「私のお母さんがあんたと友達だったんだって。だからちょっと頼み事をしに来たわけ」
「この子のお母さんは、拝島実花って言います。昔蘭丸さんと一緒に怒張っていうバンドのファンをやってたらしくて。それで」
「怒張? 懐かしいね。きみらよく知ってるじゃない。大昔のバンドだよ。でも拝島実花なんて知らない。俺、人の名前は忘れないから」
「そっか、おばさんはまだ結婚してなかったから、えっと、旧姓は」
「藤田」
夏鈴が間髪入れずに答えた。私にはっきりと伝わるようにこちらに顔を向けて、しっかりと発音してくれたのが印象的でした。
「藤田、藤田実花」蘭丸は三つ編みから手を離し、今度は唇を覆うようにして口ひげを撫でた。どうやら髭を触りながら話すのが癖みたいだ。私からすれば忌々しい癖でした。「ああ、実花さんの子どもか。きみが? それでこっちの子は友達? 懐かしいなあ」
「なんか思い出したみたい。懐かしいって言ってる」夏鈴は私に通訳をすると、蘭丸に向かって「ねえ、口に手をやって悪巧みするサッカー選手みたいに話すの止めてもらえます? この子、ちょっと耳が悪いんで口元隠されると面倒なんですけど」
「え? ああ、ごめん」
蘭丸は咄嗟に口から手を離して両手まで上げた。
「うん。ただでさえ髭で口元が見にくいんだから、もうやらないでね。それでね、今日私達はお願いに来たってわけ。あんたフジヤマの創業者なんでしょ?」
「それは、まあ、そうだな。っていうか、俺これから出掛けるんだけど。話ならまた今度聞くからさ、その時はちゃんとアポ取って来てよ」
そう言われて改めて蘭丸が何者か思い出す。まさかまだ実家に住んでいるとは思わなかった。だって、男って大体大人になると実家を出ていくものだと思っていたから。蘭丸のような成功者なら、タワーマンションみたいな所に当たり前に住んでいると思っていた。今日は、もし実家に両親とか関係者が住んでいれば現在の蘭丸の所在を尋ねて、それからその場所に向かおうと考えていたんです。コンプライアンスの時代ですけど、制服を来た女子高校生になら口を滑らす可能性があるって思いましたし。なんなら、無害な学生を演出するために、松葉杖でもついて行こうかって閃いたくらい。持ってないから止めたけど。
それとも、やっぱりこの建物には誰も住んでいないのだろうか。蘭丸はタワマンに住んでいて、時折実家の様子を確認しに来るだけとか。ご両親は既に他界していて、荒れ果てるままの実家を心配し、こうして整理のために通っている。それならまだ納得が出来るというものです。いや、この家は汚い。とても誰かが整理しているとは思えない。住んでいるとも思えない。じゃあ、蘭丸はここでなにをしているのだろうか。
「どうにか話だけでも聞いてもらえませんしょうか?」
私は敷地内にあるゴミ集積場のような一角に目を奪われた後、思い出したかのように頭を下げた。蘭丸が私の視線を追う。
「汚いでしょ? 客なんて来ないから汚し放題。俺、掃除なんてしないことに決めてるからさ。だって無駄じゃん。どうせまた汚れるんだから」
「なんか汚さについて開き直ってる」
夏鈴が蘭丸の言葉を要約する。両方とも聞こえていたけど、確かに蘭丸は開き直っていた。これは変人の理論ですよ。ただ、他人の家に勝手に入って、じろじろとやるのは行儀が悪い。それを指摘されたような気分になってバツが悪くなった。
「なんかすみません。こちらにお住まいなんですか?」
「そうだよ。ずっとここ。うちさ、小さい頃に両親死んでっから。子どもの頃からここで爺ちゃん婆ちゃんと住んでる。ま、その二人もここ数年で死んじゃって今は一人だけど」
「なんか、天涯孤独ぶってる。こんなでかい家に一人なら、そりゃ汚れるよね」
夏鈴がまたも通訳を買って出てくれた。もし蘭丸の言葉が聞こえていなかったら有り難いと思うだろうけど、流石に省略し過ぎだと思いました。蘭丸はこの大きな家に一人寂しく住んでいるのか。イメージとは違うが、深く考えるのは止めましょう。変人の精神分析をして、深淵に引きずり込まれるのは得策ではないでしょうから。
「少しだけお時間をいただけないでしょうか。なんなら歩きながらでも構いませんから」
「うーん、面倒だけど実花さんの子どもなんだもんな。なんかきみたち面白いし。いいよ、聞いてあげる」蘭丸はそう言って、傍らに置いてあった、土に還る直前と言った自転車を立ててサドルに座った。私達に、むき出しの大きな石が二つ並んだ場所を勧める。そこに座れってことですか? 夏鈴とアイコンタクトをしてから私達は林家のスツールに腰掛けた。「で、俺に何を頼みたいのさ? 言っとくけど俺、金はないよ」
「嘘つけ、あんた伝説の起業家なんでしょ。今でも悠々自適の生活じゃないの? こんなボロ家に住んでるのも世を忍ぶ仮の姿なんでしょ。それか、変人を気取ってわざとそうしてるか」
夏鈴は多分、お金持ちにからかわれたと思ったのだろう。食って掛かった。
「馬鹿言わないでくれよ。俺のことを知ってるなら多少は調べてから来いよ。いいか?」
と言って、蘭丸は自らの失敗を語り始めた。多分、虚しかったと思います。でも、お金は持っていないと私達に証明するためには、一から説明するしかないと思ったのでしょう。大の大人を無駄に辱めてしまったことをここに反省します。
家庭環境が悪かった蘭丸は、高校には進学せず自分で商売を始めた。アダルト作品のダビング工場を持っていたらしい。昔は今みたいにネットにエロが溢れているわけではなく、テープだとかディスクで男性の脳を破壊していたんですって。そう考えると、昔の方がまだ敷居が高くて、青少年の目に触れにくい環境だったと思えます。多分この頃に怒張と出会ったんでしょうね。
昔から音楽を仕事にしたいと思っていたらしいんですけど、自分には音楽の才能がないことを知っていた。その代わり、商売の才能があることも分かっていた。結構クレバーな少年ですよね。エロ仕事を続けていると、海外にコネクションが出来た。ジャパニーズポルノは有名ですからね。日本産のポルノを欲しがる海外のHENTAI相手に通信販売みたいなことを始めて、やがてアニメのグッズとか主題歌の音源とかを扱うようになる。それがフジヤマってわけですね。
会社を設立して社長に。でも蘭丸には他にやりたいことがあった。自分がミュージシャンになれるわけではないけど、日本のバンドを海外へ紹介することなら出来る。そういう音楽レーベルを設立するのが夢だったのです。ちょうど大手企業にフジヤマが買収されるという話があったため、迷わず株を売却。大金を手に入れて、いざレーベルを設立したところ、一緒に仕事を始めたコンサルタントに有り金全部持ち逃げされて終了。それで現在は無一文。私は知らなかったけれど、経済界では有名な失敗になっているんですって。
「それからはもう、バイト一本よ。レーベル立ち上げる時に借金こさえたんだけど、それも持ち逃げされちゃってね。金持ちの知り合いもすっと離れていって、誰も手を貸してくれないし。多分、俺って若くして成功したからさ、相当やっかまれてたんじゃないかな。借金はあるけど学歴はないってことで、就職もままならしさ。ま、今は雌伏の時ってことで」
随分と壮絶な過去を、軽い調子で話す人だった。この軽さが災いして失敗をしたと確信したくなる。
「お金、ないんですか?」
「ないよ。俺がほしいくらい。じゃあ、もういいかな? 俺、これからバイトだし。稼がなくちゃここに怖い人達来ちゃうからさ」
なんだかがっかりした。私の中で蘭丸は最新のロールモデルだったから。若くして成功した有名人。ちょっと変人だけど、もう一生お金には困らない人。私が目指すべき人物はこれだって思えたのに。人生一寸先は闇ってことを教わるために会いに来たわけではないのに。
「でもさ」と夏鈴に耳打ちをされる。「別にお金をもらいに来たわけじゃないよね。フジヤマの人を紹介してもらいに来たわけだから」
そうだ。お金じゃない。コネを紹介してもらえればそれでいい。
「お金じゃないんです」
「じゃ、なにしに来たの?」
「フジヤマの偉い人に私達を紹介してもらいたくて」
「なんで? 社会科見学かなにか?」
「違います。私達の商品をフジヤマで扱ってもらいたくて」言って、鞄からタブレットを取り出した。そこには私達のペインティング便座のプレゼン資料が映し出されている。「それ、私達が作っている便座です。海外で売りたくて。でもフリマサイトに登録しても、全然閲覧されなくて。ちょっと画像を見てください」
パワーポイントで作った資料には、ペインティング便座の画像が何枚も挿入されている。私はタブレットを操作し、画像のページを表示させた。蘭丸はそんなやり方がまどろっこしかったのか、タブレットを受け取って真剣な表情を画面に向けた。時折「ふーん」なんて言いながら画面をスライドさせる。
「どうですか?」
「なかなか良いと思うよ」
蘭丸の視線はまだタブレットにあった。右手を口元にやろうとするが、途中で軌道修正をして無理矢理後頭部をかいていた。余計な質問はしてきません。流石です。ペインティング便座の良い面も、そして私達が気付いていない悪い面も瞬時に資料から読み取ったのでしょう。
「で、フジヤマで扱ってもらえる?」
夏鈴はただ待っていることに飽きたのか、池を覗き込んで「おえっ」とえずきながら言う。
「資料には三万円で売るって書いてるけど、利益は出るわけ? 原価はどれくらい? もし大量に注文が入ったら対応出来る? 制作期間は?」
一転して、今度は矢継ぎ早の質問でした。そこら辺の情報はできる限り資料に記載してあります。ということは、数字よりも私達の能力に疑問を持っているのかもしれませんね。それとやる気も。昨夜想定した通りのことを答えれば良いだけでした。
「なんか色々聞いてる。原価とか利益とか、制作期間とか」
夏鈴が耳打ちをしてくる。ここから先は、拝島水道の中で、夏鈴やおじさんおばさんに企画説明をするというものとは話が違ってくる。他人に、しかも実績のある人物に説明をするのです。もしかしたらこれは、ビジネスマンとしての記念すべき第一歩になるかもしれませんね。そう考えると妙な緊張感が走った。今から発する言葉には、今までと違う意味や価値、そして解釈が生まれてしまいそうで怖かった。だってここで失敗してしまったら拝島水道はもう終わりだってことが分かっていたから。そしたら夏鈴の生活が一変してしまうのです。親友の人生がかかっていると思ったら不用意な発言など出来るわけがありません。
真剣に考えすぎた結果、私の言葉は喉に詰まったまま出てこなかった。資料に書いた通りのことが、本当に私達に実現可能なのか? という疑問が湧いた。だって私に仕事の経験なんてなかったから。ただ机上の空論を楽しんでいただけなんじゃないかって今更感じました。
「えっと、あの、それは」
質問に関する答えは準備していた。頭の中にそれはあった。でも言葉にはならなかった。意味のない空気が、間を埋めるために空中を舞うばかりだった。こんな自信のない態度、絶対にしてはダメだって分かってたけど、焦って制御不能になった自律神経を止められなかった。蘭丸はふと顔を上げ、私の心を見透かすような涼しい視線を寄越した。
「そんなこと全部資料に書いてあるんじゃないの? わざわざやる気を試すようなことしないでくんない? 時間の無駄だから。こういうことするからビジネスかぶれの奴らは嫌なんだよね。夢乃の計画は完璧。あんたはフジヤマの関係者を紹介してくれればそれでいんだから」
「そっか」蘭丸はゆっくり私と夏鈴の顔を見比べた。ような気がした。「だけど俺はもう、フジヤマの現運営陣とはほとんど関係性がないんだよ。今でも関わってたら、こんなに苦労してないでしょ。給料安くてもいいから、フジヤマで雇ってもらう。それが出来ないくらい、絆は薄いってことだね」
「そんなあ」
露骨にがっかりした夏鈴が、庭の乾いた土を足で蹴り上げた。砂利が飛び、ドブみたいな池に緑色の水滴が舞った。私としては、少し情けない思いだった。肝心な時に尻込みして、大切なことを夏鈴の口から言わせるなんて。しかも、蘭丸から返ってきたのは拒絶の反応。もし私が答えることが出来ていたら、夏鈴に直接ショックを与えることはなかったかもしれない。いや、それは考えすぎなのかも。私はただ自分の代わりに夏鈴が発言してくれて、それで安心したことが情けなかったんだ。
「ただ、それでも古い知り合いはいるんだ。俺自身は嫌われていても、彼らだって可能性のある商品は欲しいはず。だから紹介くらいは出来ると思うな」
「よっしゃあ」
今度ははっきりとガッツポーズをする夏鈴を見て、蘭丸は少し笑っていた。
「今思い出したけど、赤ん坊の君を見たことがあるよ。そうだ。実花さんが訪ねてきて、その時に君が一緒だったんだ。あの小さな生物が成長して今ここにいると思うと感慨深いね」
「んなこたどうでもよろしいっつうの。それじゃ早速紹介してもらおうかしら」
「いくら出せる?」
あまりにも当たり前のことのように言うものだから、最初はなにを言っているのか分かりませんでした。夏鈴も同じだったようで、それまで活発に動いていた体を一瞬止めた。ゆっくりと私の方を振り返る。私はどんな反応も見せられなかった。不安で体が固まり、ただじっと夏鈴の揺れ動く視線を受け止めるのがやっとだった。
「お金、取るの?」
夏鈴は悩ましげに蘭丸を見つめる。
「そりゃそうだよ。だってビジネスだろ?」
「それにしてもさ、赤ちゃんの頃のかわいいあたしを見て感慨深いって言ってたじゃん。そこに情とかないわけ?」
「それとこれとは話が別でしょ。君らは仕事の話をしに来たのに、俺にはタダで動けって言うのかい? いいか? 俺は金に困ってるんだ。喉から手が出るほど金が欲しい。もうこんな生活嫌なんだよ。下手したら、今の君らより金持ってないんじゃないかな。早く借金返して、レーベル設立の夢に再挑戦したいんだ」
泣きそうになっていました。大人が年下に見せることが出来る最大級の情けない態度で蘭丸は言いました。考えてみえば、彼の要求は当たり前のことなのかもしれません。コネだってその人の大切な資産だ。それを使用するというのに、無料で通せるわけがない。私達は甘かった。簡単なことなのに、想定はしていなかった。まだ若いからとか、学生が頑張っているからとか、そんな努力の押し売りで全てをクリアしようとしていたのだから浅はかだったと言わざるを得ないでしょう。経験の少なさが露呈した瞬間でした。
「どうする?」
夏鈴が耳元で呟く。それでも私は大した反応を見せることが出来なかった。
「それにさあ、なんだか君からは自信のなさが伺えるんだよね」
蘭丸の視線は確実に私を捉えていた。
「それは」
「多分だけど、君がハートで、君がブレインって感じのコンビなんだよね」ハートは夏鈴、ブレインは私という役割を、蘭丸は既に見抜いていたようだ。「良いと思うよ。少ししか話してないけど逆はありえない。自分たちのことをよく分かってるね。普通十代の頃って自分の特徴を客観的に判断できなかったりするけど最低限君らにはその能力がある。アニメの絵をペイントしたウォシュレット便座っていうアイデアも中々だ。海外の人はその二つに興味津々だから。でもね、経験上自信のない人は必ず失敗する。これはもうどうしようもないんだ。そういう風に出来てる。例えば、これから先もビジネスを続けていくなら君らは色んな人に出会う。俺みたいに優しい人ばかりじゃない。強面の人にパワハラみたいにして詰められることだってあるだろう。相手だって損はしたくないからね。皆本気だ。そんな時、今みたいにビビって黙ってたんじゃ話にならない。ある程度はこっちの子の勢いで誤魔化せるかもしれないけど、数字の話には弱そうだしね。君が説得しないと」
「そうですよね」
これまでの態度に、至極当然な指摘をされて私は一気に落ち込んだ。益々自信がなくなる。鼻の奥がつんとして、何故か母親の顔が思い浮かんだ。多分、べそをかく寸前だったと思います。
「ってことは、こんな手間のかかる商品を三万円で売ろうとしているのも君ってことになる。ちょっと弱気過ぎないか? もっと吹っ掛けるくらいの気持ちがないと。覚悟のない人から利益は生まれないよ」
「ちょっと言い過ぎじゃない? もういいよ、夢乃。こいつ若者をイジメて日頃の鬱憤を晴らそうとしてるだけだよ。行こ」
と言って、夏鈴が私の腕を引っ張った。実は誰かの責任で私をこの場から連れ出して欲しいと思っていた。やはり夏鈴は私のことを分かっている。それにしても急に引っ張られたことでバランスを崩した。よろめいた体を支えるために一歩足を踏ん張る。図らずも、進行方向とは逆に体重が移動した。ふと、このまま全てを投げ出して帰宅する未来を想像した。ウォシュレットの在庫は売れず、拝島水道は潰れる。夏鈴はどうなるのだろうか? このまま一緒の学校には通える? それともどこかに引っ越すことになるのだろうか? 今まで夏鈴が私にしてくれたたくさんのことを思い出した。私の学生生活が最悪なものにならなかったのは全部夏鈴のおかげだった。それなのに私は夏鈴へなんの恩返しも出来ていない。ましてや音大進学という夏鈴の希望も裏切ろうとしている。私はなにがしたかったんだろう。拝島水道を手伝って夏鈴と肩を並べたかったんじゃないのか。自分に問いかける。そうして、胸を張って音大には進学しないって言いたかったんじゃないのか。
このままじゃダメだ。はっきりとそう思った。すっかり気持ちは折れてたし、心が挫けてもいた。だけど気付くと私は夏鈴の腕を振りほどいていた。
「じゃあ三万円じゃなくて五万円にします。それとこれ」鞄から指揮棒を取り出した。「紹介料は支払えないけど、これを担保にさせてください」
この指揮棒には世界的に有名な指揮者であるベルトル・クライスラーのサインが入っている。夏鈴からのプレゼントでした。前に清掃のバイトをしていたホテルで、来日公演をするクライスラーに貰ったって言ってました。私の所持品の中では間違いなく一番高価な物だと思います。もちろん、こんな展開になることは想像していませんでした。だけど、財布に入った六千円だけで伝説の起業家に挑むのは心許なかったんです。ハッタリにも使えるだろうし、高価な物を持っていることで蘭丸に怯むこともなくなると思いました。なにより、夏鈴からのプレゼントは私に心の平穏をもたらしますし。そんな大切な物を思いつきみたいに蘭丸へ差し出すなんて。自分でも自身の行動に驚いてしまう。
「へえ、クライスラーのサイン付きかあ」蘭丸が私の手から指揮棒を取り上げる。代わりにプレゼンに使っていたタブレットを渡された。「最近死んじゃったんだよね。あんまりサインとか好きじゃなかった人らしいし、これは価値があるかもしれないな」
「ちょっと夢乃、これ私のプレゼントじゃん」
夏鈴は蘭丸から指揮棒を取り上げようとするが、ひらりとかわされてしまう。こうなったら後には引けません。私は覚悟を決めました。
「亡くなった時期とサイン嫌いの性格を考えると、もしかしたら最後のサインかもしれません」
「ちょっとちょっと」夏鈴が頭を抱えた。「それは私があげた物なのにい」
「サインは本物っぽいな」
蘭丸はスマホを取り出し、画面と指揮棒を見比べていた。ベルトル・クライスラーのサインを検索したのでしょう。近くで夏鈴が暴れるため、忙しない体の動きになっている。
「本物に決まってるでしょ」
夏鈴が騒いだ。
「でもそれはあくまで担保です。もしフジヤマで便座が売れたら、売上額に応じてコミッションを支払います。価格は上げることに決めたので、十分な額が支払えると思います。一台につき一万円。ウォシュレットの在庫は三百ありますから全部売れたら三百万。紹介料としては妥当な額だと思います。こちらも十分な利益が出ますしね。そして、もしも全額お支払い出来たら、指揮棒は返して下さい。お金以上に大切な物なので。これでどうです? お金は持っていないけど、私が見せられる最大の覚悟です」
もう迷いはなかった。本人の前でプレゼントを担保にしたことで、後ろめたさもそれほど感じていなかった。弱気な自分を変えたかった。夏鈴と肩を並べて歩けるくらいに。宝物を質に入れてでも、手に入れたかった。失敗すれば、夏鈴は実家の店が潰れる。私にリスクはない。そんな甘えが私を怖気づかせた。それなら、私だってリスクを背負う。もし失敗したら、きっと夏鈴に絶交されるでしょう。絶対に成功させなくてはならない。その思いが、ようやく私に覚悟を決めさせた。
「俺はそれが見たかったの。いいよ、フジヤマの専務に紹介してあげる。三百万のためなら俺だって最大限頑張れるよ」
指揮棒を小脇に挟みながら蘭丸は言った。やった。まずは重い石を動かした。後は坂道を転がすだけだ。まだなにも手に入れていないのに、私は有頂天になった。その後で蘭丸が口元を手で覆って髭を触りながら、しばらく夏鈴となにかを話していた。それほど気にはならなかった。なにしろ私は起業家としての第一歩をここに刻んだんですから。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる