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5.光と闇
鳥も翔ぶ
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ジタバタッ、ジタバタッ
(いやだーっ、はなせーっ)
「もー、奈緒ってば。あまり暴れないでくれる?」
手足で蹴ってもがいても、空中を掻くだけで擦りもしない。
今の俺には爪があるから、引っ掛けるとケガしちゃうかもしれない。
だけど、今の俺にはそんなことに構ってる余裕はない。
今、選択を誤ると乙女ゲームのバッドエンドのように悲惨な未来が待っている事だろう。
え、なぜ乙女ゲームの事に詳しいかって?
そりゃ、友達の家に遊びに行ったときに、友達の姉ちゃんが「推しがーっ」ってリビングで叫んでいるのをよく聞いてたからね……。
あれは本当に悲しそうだったなー。
「ねえ、余所見しちゃって、何考えてるの?」
(ぎゃーっ、ばれてるっ)
うわーっ、そんな顔を近くに寄せないでっ!!
ひゃあ、くすぐったい!!
スン、スン
「はあーっ、奈緒、おひさまの香りだね。
良い香りになっちゃったね。」
いや、いやそんな美声で爽やかに囁かれてもっ!!
そして、嗅ぐなしっ!!
地味に恥ずかしいじゃねーかっ。
「それにしても、随分と港近くに降りてきたんだね。
帰りは坂になるから、しんどいよー。」
そりゃ、俺を抱っこしてるからな。
ん?ってことは、俺が重いってことか?
馬鹿にしてムカつく!俺を置いてけー、ドロボー!
俺の必死の反撃にビクともせずに歩き出す総。
港が近いこともあって海鳥の鳴き声がこの通りまで響いている。
俺たちの頭上を何かの鳥の影が通り過ぎていった。
「すみません、そこのお兄さん。」
「ん?はい?」
総は誰かに後ろから話しかけられたようで、その歩みを止める。
ナイス、通行人!そのまま俺から総の意識を惹きつけておいてくれ。
上手くいけば、この腕から逃れられるぞっ!!
俺はもぞもぞと動きながら巻きつけられた腕からの脱出を試みる。
にしても、通行人の声……。
聞き覚えがあるようなー、ないようなー。
「すみません、実はうちの猫が迷子になってしまいまして。
そちらの猫ちゃんとそっくりなので見せて頂けませんか?」
「えっと……。」
「少し抱かせて頂ければ、分かりますので。
お願いします。」
どうやら、周囲の目も多く、総は無理に断れないようだ。
俺の身体はその人の方へと向けられた。
俺もさっきまでの抵抗をやめた。
というか、驚きで辞めざるを得なかった。
だって、そこには――。
日よけで被っている布から覗く金色に輝く髪と碧の瞳。
俺が待ちに望んだ助けと言えるような言えないような……?
いや、今は完全に救世主だと考えよう。
ヒデト!!よく来てくれたっ!!
ヒデトとセットで付いてくるあの忌まわしい男の事は今は忘れよう。
だから、お願い助けてくださいーっ!!
そして、総は一瞬だけならと思ったのだろう。
俺をヒデトへと手渡した。
俺はもう待ちきれなくて、ヒデトの肩へとぎゅっと抱き着く。
「ああ、やはり、奈緒様でしたか。
御無事で何よりです。」
ああー、ヒデトーっ!!
良く気づいてくれたっ、俺だよー!!
おーおーあーたーりーっ!!
なんて、感激している場合じゃない!!
はやく逃げてーっ!!
―――ヒーローは眩しく輝く―――
ヒデトの手記
猫に変身した奈緒様は
興奮なさると、瞳孔が開き
とても可愛いお顔をされるので
誰かにお持ち帰りされないように
注意が必要である。
(いやだーっ、はなせーっ)
「もー、奈緒ってば。あまり暴れないでくれる?」
手足で蹴ってもがいても、空中を掻くだけで擦りもしない。
今の俺には爪があるから、引っ掛けるとケガしちゃうかもしれない。
だけど、今の俺にはそんなことに構ってる余裕はない。
今、選択を誤ると乙女ゲームのバッドエンドのように悲惨な未来が待っている事だろう。
え、なぜ乙女ゲームの事に詳しいかって?
そりゃ、友達の家に遊びに行ったときに、友達の姉ちゃんが「推しがーっ」ってリビングで叫んでいるのをよく聞いてたからね……。
あれは本当に悲しそうだったなー。
「ねえ、余所見しちゃって、何考えてるの?」
(ぎゃーっ、ばれてるっ)
うわーっ、そんな顔を近くに寄せないでっ!!
ひゃあ、くすぐったい!!
スン、スン
「はあーっ、奈緒、おひさまの香りだね。
良い香りになっちゃったね。」
いや、いやそんな美声で爽やかに囁かれてもっ!!
そして、嗅ぐなしっ!!
地味に恥ずかしいじゃねーかっ。
「それにしても、随分と港近くに降りてきたんだね。
帰りは坂になるから、しんどいよー。」
そりゃ、俺を抱っこしてるからな。
ん?ってことは、俺が重いってことか?
馬鹿にしてムカつく!俺を置いてけー、ドロボー!
俺の必死の反撃にビクともせずに歩き出す総。
港が近いこともあって海鳥の鳴き声がこの通りまで響いている。
俺たちの頭上を何かの鳥の影が通り過ぎていった。
「すみません、そこのお兄さん。」
「ん?はい?」
総は誰かに後ろから話しかけられたようで、その歩みを止める。
ナイス、通行人!そのまま俺から総の意識を惹きつけておいてくれ。
上手くいけば、この腕から逃れられるぞっ!!
俺はもぞもぞと動きながら巻きつけられた腕からの脱出を試みる。
にしても、通行人の声……。
聞き覚えがあるようなー、ないようなー。
「すみません、実はうちの猫が迷子になってしまいまして。
そちらの猫ちゃんとそっくりなので見せて頂けませんか?」
「えっと……。」
「少し抱かせて頂ければ、分かりますので。
お願いします。」
どうやら、周囲の目も多く、総は無理に断れないようだ。
俺の身体はその人の方へと向けられた。
俺もさっきまでの抵抗をやめた。
というか、驚きで辞めざるを得なかった。
だって、そこには――。
日よけで被っている布から覗く金色に輝く髪と碧の瞳。
俺が待ちに望んだ助けと言えるような言えないような……?
いや、今は完全に救世主だと考えよう。
ヒデト!!よく来てくれたっ!!
ヒデトとセットで付いてくるあの忌まわしい男の事は今は忘れよう。
だから、お願い助けてくださいーっ!!
そして、総は一瞬だけならと思ったのだろう。
俺をヒデトへと手渡した。
俺はもう待ちきれなくて、ヒデトの肩へとぎゅっと抱き着く。
「ああ、やはり、奈緒様でしたか。
御無事で何よりです。」
ああー、ヒデトーっ!!
良く気づいてくれたっ、俺だよー!!
おーおーあーたーりーっ!!
なんて、感激している場合じゃない!!
はやく逃げてーっ!!
―――ヒーローは眩しく輝く―――
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誰かにお持ち帰りされないように
注意が必要である。
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