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PART5
尽くす人間は大概見返りを求める
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆
またあの夢を見た。
今度は私が夢の中にいるという自覚をもって見る夢だった。こういうのを明晰夢というらしい。
私は25歳くらいの若くてピチピチの男子の首筋を無我夢中で嚙り付いて、顔面血みどろになって吸血していた。
首元の筋繊維ごと歯を食い込ませて、とめどなく溢れてくる血を飲み続ける。
背後からまた誰かがその秘め事を覗いていた。
それはこの間、私が血液を飲み干して絶えてしまったはずの桜庭くんだった事に気付き、慌てて服の裾で口元の生臭い真っ赤な血を拭った。
桜庭くんは私を壁に押し付けると悪意のこもった眼差しで睨んできたので、殺された恨みでも晴らしにきたのだろうか?なんて考えていたら、『何で他の男の生き血を吸うの?最低』と、なじってきた。
確かに、人の血液を吸う行為なんて、ともすれば精液を吸う行為となんら変わらない事なのかもしれない。それは同じ体液なのだから。
妙な納得をすると、私は桜庭くんに顎クイからのキスをされて、お腹に包丁らしき刃物をズブリと刺された。夢の中だから不思議と痛みは無いが、私は苦痛にもがき倒れた。
嗚呼、人は報復だけで人を恨むわけじゃないんだな。
夢の中で殺されて、目を見開いて床に横たわりながら考えた。
人はその人が自分の思い通りにならない時にも理不尽な恨みを孕みだす。
私にはその感情が理解できない。
他人は所詮、他人であって、自分ではないのだから。コントロール出来るわけがないのに。
どうして皆、人を支配したがるのだろう。
どうして自分の物にならないからって束縛したり、嫉妬してイジメたりするのだろう。
桜庭くんが私から離れると、いつの間にか彼の背がうんと低くなっていて、顔に丸みを帯びて化粧をしている事に気が付いた。
彼はたちまち新田アユカになっていた。
『黙ってても男が寄ってくるアンタには分からないだろうね。このビッチ!』
新田アユカはそう叫ぶと私の身体中をめった刺しにしてきて、最後に顔に向かって刃を振り下ろしてきた……。
◆◆◆
「いやあーっ!!!!」
現実の自分が発した叫びで覚醒した。
そうだ、これは夢だった。
バクバクと鳴り止まない心臓に手を当てて、夢で良かったと撫で下ろしていると、私の声に起こされたであろう桜庭くんが横から手を差し伸べてきた。
「どうしたの?大丈夫?」
そう言って私の頭をぎゅうっと抱きしめてきた桜庭くんは、シーツに半身が隠れているものの全裸であり、その大変エロくあらせられる御身を見て私は一気に現実へと帰還したのであった。
「怖い夢でも見た?」
彼の裸体に包まれ、よしよしと頭を撫でられると、脳内からセロトニンが放出されて先程の悪夢は綺麗さっぱりフェードアウトしていった。
「うん。殺される夢見ちゃって……」
このセリフだけを聞くといかにもか弱い乙女のようだが、実際には私が最初に人を吸血しているのだから、微塵もか弱くない。
そう自嘲していると、桜庭くんは私の唇にちゅっとキスをしてきて、胸をやわやわと揉み、お尻と太腿を撫でた。
「少しは落ち着いてきた?」
「うん、大丈夫。夢で良かった」
「逆夢って知ってる?殺される夢は自分が新しく生まれ変わる前兆だって聞いた事あるよ。
だから、きっと大丈夫。怖かったね?」
「そうなんだ……何だか最近夢見が悪くて」
「そうだ。俺、朝食作るね。里帆はシャワー浴びてきて。あと歯ブラシの買い替えあったと思うから、それ使っていいよ。また泊まりに来た時にそれ使ってよ。タオルも洗面台の横のストックから好きなの取って使って?」
◆◆◆
桜庭くんに促されるまま至れり尽くせりの待遇を受けて、私はとりあえずバスルームへと足を運ばせた。
まるで、課長が私の家に泊まりに来た時に、自分が発したものと似たセリフを言われてしまった。
私も元々好きな男性にはあれこれ世話を焼くのが好きな方だけど、桜庭くんのそれは私のを上回っている。
これはこれで悪くないなんて思える自分が少し好きだった。
尽くす喜びも尽くされる幸せも知っていた方が、絶対に人生が楽しいに決まってる。
人生そう甘くないなんて言うけれど、甘い出来事もある日突然起きるわけで。
それに嚙り付いて幸せに浸る権利は、誰にでもあると思うのだ。
もう二度と来ないかもしれない甘い出来事を、どうして人は真面目ぶって受取拒否をするのだろう。私は両手を広げてその奇跡的な甘い出来事を有難く享受したい。
目を瞑り、シャワーを頭から被って、蒸せ返る湯気に全身が包まれた。
◆◆◆
浴室から上がると、明らかに桜庭くんの物であろうスウェット上下がカゴの中に綺麗に置かれていた。
するとガラッとドアが開いて、顔を覗かせた桜庭くんに声を掛けられる。
「あ、そのスウェット俺のだけど着ていいからね?多分めっちゃ大きいと思うんだけど」
笑いながら彼は言って、私が身に纏ったびしょ濡れの使用済みのバスタオルを剥ぎ取り、それを物干しに掛けると、明らかにオーバーサイズのスウェットを体に押し当ててきた。
「ちょ、桜庭くん!いいよ、自分で着れるから!ありがとね」
危うく着替えまで手取り足取りしてくれるところだったのを阻止すると、彼はドアの向こうへ踵を返して言った。
「もうすぐ朝食できるから髪乾かしたら食べよっ」
ドアが閉まると、セックス中なんかよりも顔が赤面した気がした。
ハイスペ男子って、ここまでハイスペ機能を持ち合わせてるのか……。いそいそと着替えて、髪を乾かしながら感心してしまった。
ドライヤーのスイッチをオフして用意されたスウェットを着ると、まるで子どもが親の服を着せられたかの如くのダボダボ具合で、とても彼氏のパジャマ着ちゃってエロいです!感は出ていなかった。
桜庭くんの身長と、スウェットから香る柔軟剤の香りに性懲りも無く下腹部がキュンとした。
◆◆◆
アンティークの食卓テーブルにはワンプレートのお皿がそれぞれ並び、フレンチトーストといちごとバナナのカットされた物が綺麗に乗せられていた。
「ちょ、ちょっと写真撮っていい?」
思わず記念に残しておきたいほどの朝食の風景に、私はスマホをかざした。
「そんな撮るほどのものじゃないよ。食べちゃって食べちゃって!」
照れ笑いする桜庭くんが可愛すぎて、嫁にもらおうと思わず決心してしまうところだった。
「うわー!可愛いー!おいしそー!いただきまーす!」
牛乳と、蜂蜜の風味が鼻腔を満たし、私はお洒落な朝食に舌鼓を打った。
「良かった喜んでもらえて。里帆、今日の予定は?この後どこか行く?」
「あー今日?今日は……」
課長こと孝司と夜、会う事は覚えている。さすがに昨日の今日で、こういった約束を忘却するほどにはボケていない。
具体的な時間は決めていないけど、夜に課長と会うので、大体夕方までは桜庭くんと遊べるだろうか。
呑気なスケジューリングにデジャヴを覚えながらも、私は話し続けた。
「まあ、夕方くらいまでだったら大丈夫かな。
掃除とか洗濯とか買い出しとか、やらなきゃいけない事が溜まってるからさぁ。さすがに明日から仕事だし、夜にやっとかないとね」
「そうだよね、じゃあこれから買い物でも行っちゃう?」
「あ、でも私、メイク用品とか全然ないし、服も……」
「すっぴんも十分可愛いと思うけど。それに買い物行くんだったら化粧品と服くらい俺が買ってあげるよ」
「ええ!そんな悪いよ!化粧品って言ってもそんなに安くないのよそれが」
自分がいかに金のかかる顔面をしているか遠回しに暴露してみたところ、彼は微動だにせず返答してきた。
「分かってるよ。それに、女の子って大変だよね。朝時間かけてメイクするのに、寝る前に眠い目を擦ってそれを落とすんでしょ?
しかもほぼ毎日?男からしたら苦行だもんそれ」
「笑える、まさにそれ!女でも苦行だもん」
「だからせめて、買ってあげる位しかできないけど、里帆に喜んでもらいたいなって思って」
女の言われたいセリフベスト3にランクインするような言葉を彼は計算するでもなく口にしたものだから、私はまた耳まで赤くなるのを感じた。
「ありがと……ほんと桜庭くんて、どこまで優しいの?」
「里帆だからだよ。会えなかった今までの時間の分まで、俺は里帆の為に色々してあげたいの。優しいとかじゃないよ」
「そっかぁ~。ありがとう……、なんか私、してもらってばかりで何も返せないんだけど」
「いいよ。里帆は笑って俺の傍にいてくれたらそれでいいんだよ」
見返りを持たない人間がその無償の愛とやらを実行する行為は、結局は自己愛の裏返しとして帰着する。他者に対して愛を注ぐのは、自分やその引き継ぐ遺伝子の為他ならない。
桜庭くんは私に植え付けた遺伝子を保守したいから私にうんと優しくするのだ(まあピルを飲んでるからこれも彼の徒労に終わるのだろうけど)。
男が1人の女に尽くす事は生物学的にはちょっと効率が悪いので理解し難いけれど、おそらくはばら撒く事よりも質を重視した戦略なのだろう。
太古の昔よりかは、生まれたばかりの人間の生存率が高くなったから、そこまで必死にばら撒く保険を掛けずに済んでいるのかもしれない。
桜庭くんが私に優しくする理由を以上のように分析してみたのだが、こんなの口が裂けても声に出せない。
「ありがとう、桜庭くん」
そう一言残して伏し目がちにはにかんでみると、桜庭くんはテーブルの向こうから長い腕を伸ばして、私の頬を撫でると無言で柔らかく目を細めた。
私達は朝食を終えると、生活用品を取り揃えるためにショッピングデートへ向かった。
またあの夢を見た。
今度は私が夢の中にいるという自覚をもって見る夢だった。こういうのを明晰夢というらしい。
私は25歳くらいの若くてピチピチの男子の首筋を無我夢中で嚙り付いて、顔面血みどろになって吸血していた。
首元の筋繊維ごと歯を食い込ませて、とめどなく溢れてくる血を飲み続ける。
背後からまた誰かがその秘め事を覗いていた。
それはこの間、私が血液を飲み干して絶えてしまったはずの桜庭くんだった事に気付き、慌てて服の裾で口元の生臭い真っ赤な血を拭った。
桜庭くんは私を壁に押し付けると悪意のこもった眼差しで睨んできたので、殺された恨みでも晴らしにきたのだろうか?なんて考えていたら、『何で他の男の生き血を吸うの?最低』と、なじってきた。
確かに、人の血液を吸う行為なんて、ともすれば精液を吸う行為となんら変わらない事なのかもしれない。それは同じ体液なのだから。
妙な納得をすると、私は桜庭くんに顎クイからのキスをされて、お腹に包丁らしき刃物をズブリと刺された。夢の中だから不思議と痛みは無いが、私は苦痛にもがき倒れた。
嗚呼、人は報復だけで人を恨むわけじゃないんだな。
夢の中で殺されて、目を見開いて床に横たわりながら考えた。
人はその人が自分の思い通りにならない時にも理不尽な恨みを孕みだす。
私にはその感情が理解できない。
他人は所詮、他人であって、自分ではないのだから。コントロール出来るわけがないのに。
どうして皆、人を支配したがるのだろう。
どうして自分の物にならないからって束縛したり、嫉妬してイジメたりするのだろう。
桜庭くんが私から離れると、いつの間にか彼の背がうんと低くなっていて、顔に丸みを帯びて化粧をしている事に気が付いた。
彼はたちまち新田アユカになっていた。
『黙ってても男が寄ってくるアンタには分からないだろうね。このビッチ!』
新田アユカはそう叫ぶと私の身体中をめった刺しにしてきて、最後に顔に向かって刃を振り下ろしてきた……。
◆◆◆
「いやあーっ!!!!」
現実の自分が発した叫びで覚醒した。
そうだ、これは夢だった。
バクバクと鳴り止まない心臓に手を当てて、夢で良かったと撫で下ろしていると、私の声に起こされたであろう桜庭くんが横から手を差し伸べてきた。
「どうしたの?大丈夫?」
そう言って私の頭をぎゅうっと抱きしめてきた桜庭くんは、シーツに半身が隠れているものの全裸であり、その大変エロくあらせられる御身を見て私は一気に現実へと帰還したのであった。
「怖い夢でも見た?」
彼の裸体に包まれ、よしよしと頭を撫でられると、脳内からセロトニンが放出されて先程の悪夢は綺麗さっぱりフェードアウトしていった。
「うん。殺される夢見ちゃって……」
このセリフだけを聞くといかにもか弱い乙女のようだが、実際には私が最初に人を吸血しているのだから、微塵もか弱くない。
そう自嘲していると、桜庭くんは私の唇にちゅっとキスをしてきて、胸をやわやわと揉み、お尻と太腿を撫でた。
「少しは落ち着いてきた?」
「うん、大丈夫。夢で良かった」
「逆夢って知ってる?殺される夢は自分が新しく生まれ変わる前兆だって聞いた事あるよ。
だから、きっと大丈夫。怖かったね?」
「そうなんだ……何だか最近夢見が悪くて」
「そうだ。俺、朝食作るね。里帆はシャワー浴びてきて。あと歯ブラシの買い替えあったと思うから、それ使っていいよ。また泊まりに来た時にそれ使ってよ。タオルも洗面台の横のストックから好きなの取って使って?」
◆◆◆
桜庭くんに促されるまま至れり尽くせりの待遇を受けて、私はとりあえずバスルームへと足を運ばせた。
まるで、課長が私の家に泊まりに来た時に、自分が発したものと似たセリフを言われてしまった。
私も元々好きな男性にはあれこれ世話を焼くのが好きな方だけど、桜庭くんのそれは私のを上回っている。
これはこれで悪くないなんて思える自分が少し好きだった。
尽くす喜びも尽くされる幸せも知っていた方が、絶対に人生が楽しいに決まってる。
人生そう甘くないなんて言うけれど、甘い出来事もある日突然起きるわけで。
それに嚙り付いて幸せに浸る権利は、誰にでもあると思うのだ。
もう二度と来ないかもしれない甘い出来事を、どうして人は真面目ぶって受取拒否をするのだろう。私は両手を広げてその奇跡的な甘い出来事を有難く享受したい。
目を瞑り、シャワーを頭から被って、蒸せ返る湯気に全身が包まれた。
◆◆◆
浴室から上がると、明らかに桜庭くんの物であろうスウェット上下がカゴの中に綺麗に置かれていた。
するとガラッとドアが開いて、顔を覗かせた桜庭くんに声を掛けられる。
「あ、そのスウェット俺のだけど着ていいからね?多分めっちゃ大きいと思うんだけど」
笑いながら彼は言って、私が身に纏ったびしょ濡れの使用済みのバスタオルを剥ぎ取り、それを物干しに掛けると、明らかにオーバーサイズのスウェットを体に押し当ててきた。
「ちょ、桜庭くん!いいよ、自分で着れるから!ありがとね」
危うく着替えまで手取り足取りしてくれるところだったのを阻止すると、彼はドアの向こうへ踵を返して言った。
「もうすぐ朝食できるから髪乾かしたら食べよっ」
ドアが閉まると、セックス中なんかよりも顔が赤面した気がした。
ハイスペ男子って、ここまでハイスペ機能を持ち合わせてるのか……。いそいそと着替えて、髪を乾かしながら感心してしまった。
ドライヤーのスイッチをオフして用意されたスウェットを着ると、まるで子どもが親の服を着せられたかの如くのダボダボ具合で、とても彼氏のパジャマ着ちゃってエロいです!感は出ていなかった。
桜庭くんの身長と、スウェットから香る柔軟剤の香りに性懲りも無く下腹部がキュンとした。
◆◆◆
アンティークの食卓テーブルにはワンプレートのお皿がそれぞれ並び、フレンチトーストといちごとバナナのカットされた物が綺麗に乗せられていた。
「ちょ、ちょっと写真撮っていい?」
思わず記念に残しておきたいほどの朝食の風景に、私はスマホをかざした。
「そんな撮るほどのものじゃないよ。食べちゃって食べちゃって!」
照れ笑いする桜庭くんが可愛すぎて、嫁にもらおうと思わず決心してしまうところだった。
「うわー!可愛いー!おいしそー!いただきまーす!」
牛乳と、蜂蜜の風味が鼻腔を満たし、私はお洒落な朝食に舌鼓を打った。
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「あー今日?今日は……」
課長こと孝司と夜、会う事は覚えている。さすがに昨日の今日で、こういった約束を忘却するほどにはボケていない。
具体的な時間は決めていないけど、夜に課長と会うので、大体夕方までは桜庭くんと遊べるだろうか。
呑気なスケジューリングにデジャヴを覚えながらも、私は話し続けた。
「まあ、夕方くらいまでだったら大丈夫かな。
掃除とか洗濯とか買い出しとか、やらなきゃいけない事が溜まってるからさぁ。さすがに明日から仕事だし、夜にやっとかないとね」
「そうだよね、じゃあこれから買い物でも行っちゃう?」
「あ、でも私、メイク用品とか全然ないし、服も……」
「すっぴんも十分可愛いと思うけど。それに買い物行くんだったら化粧品と服くらい俺が買ってあげるよ」
「ええ!そんな悪いよ!化粧品って言ってもそんなに安くないのよそれが」
自分がいかに金のかかる顔面をしているか遠回しに暴露してみたところ、彼は微動だにせず返答してきた。
「分かってるよ。それに、女の子って大変だよね。朝時間かけてメイクするのに、寝る前に眠い目を擦ってそれを落とすんでしょ?
しかもほぼ毎日?男からしたら苦行だもんそれ」
「笑える、まさにそれ!女でも苦行だもん」
「だからせめて、買ってあげる位しかできないけど、里帆に喜んでもらいたいなって思って」
女の言われたいセリフベスト3にランクインするような言葉を彼は計算するでもなく口にしたものだから、私はまた耳まで赤くなるのを感じた。
「ありがと……ほんと桜庭くんて、どこまで優しいの?」
「里帆だからだよ。会えなかった今までの時間の分まで、俺は里帆の為に色々してあげたいの。優しいとかじゃないよ」
「そっかぁ~。ありがとう……、なんか私、してもらってばかりで何も返せないんだけど」
「いいよ。里帆は笑って俺の傍にいてくれたらそれでいいんだよ」
見返りを持たない人間がその無償の愛とやらを実行する行為は、結局は自己愛の裏返しとして帰着する。他者に対して愛を注ぐのは、自分やその引き継ぐ遺伝子の為他ならない。
桜庭くんは私に植え付けた遺伝子を保守したいから私にうんと優しくするのだ(まあピルを飲んでるからこれも彼の徒労に終わるのだろうけど)。
男が1人の女に尽くす事は生物学的にはちょっと効率が悪いので理解し難いけれど、おそらくはばら撒く事よりも質を重視した戦略なのだろう。
太古の昔よりかは、生まれたばかりの人間の生存率が高くなったから、そこまで必死にばら撒く保険を掛けずに済んでいるのかもしれない。
桜庭くんが私に優しくする理由を以上のように分析してみたのだが、こんなの口が裂けても声に出せない。
「ありがとう、桜庭くん」
そう一言残して伏し目がちにはにかんでみると、桜庭くんはテーブルの向こうから長い腕を伸ばして、私の頬を撫でると無言で柔らかく目を細めた。
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