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PART9
注目を浴びる社員食堂でのランチ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
忌引き明けのデスクの上は、さぞ書類の山積みになっていて、もはや地層まで出来上がっていることだろう。
そう覚悟していたのだが、想像以上にデスクの上は綺麗で、私は2つ3つの仕事を片付けると、昼のランチタイムでいつもの通り逃げるようにして自分の車を目指した。
こんな生活、いつまで続くのかな。
その時、背後から私の名前を呼ぶ男性の低い声がしてきて、思わず背筋を仰け反らせた。
「里帆、待ってよ。いっつも、昼休みになると消えちゃうんだから。今朝から元気ないけど、大丈夫だった?おばあちゃんのこと、気の毒だったね……」
桜庭くんは小走りで駆けつけてきて、軽く肩で息をしながら私の袖を掴んできた。
「うん、平気だよ。3日も休ませてくれたし。
こっちこそ、桜庭くんに休んでる間の仕事を何個かしてもらって……ご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」
「謝らないで?俺、里帆にそんな風に謝られると、なんかその……昔を思い出すから嫌なんだよね」
途端に罪悪感に駆られる。気を落としていると、罪悪感の根源である彼に肩をポンポンと叩かれた。
「ごめん、空気悪くしたね。社食行かない?里帆と2人でランチするの夢だった」
桜庭くんとエレベーターに並んで乗り込んで、2Fの社員食堂へ向かった。
夢だなんてそんな無邪気なことを言われたら、断ることが出来なくなる。
◆◆◆
私達は事もあろうか、広場ど真ん中の1番目立つ席で2人で座った。
私はお弁当を広げて、彼はカウンターで注文した定食を運んできた。
「里帆って家庭的だよね。ちゃんと毎日お弁当作ってきて偉いな。そういうとこ、ほんと好き」
「ちょっと、桜庭くん……!皆に聞こえるからっ」
「いいじゃん別に。隠すような事じゃ無いし」
すました顔して焼き魚に箸を刺してサクサクと小骨を解体する桜庭くんの背後で、いつかエレベーターで一緒になった人事部の女性社員二人組が目を丸くしてこちらを見ていた。
だから言ったじゃないか……!
事もあろうに、その2人は何を思ったのか他に空いている席なんかたくさんあるのに、桜庭くんの真後ろのテーブルに着席した。
ばっちり会話の一言一句を聞かれてしまう距離だ。
「里帆、今日は空いてる?ご飯食べに行かない?ご馳走するよ」
「え!いいよ、そんな、私、そんな……」
こういう時に限って桜庭くんはデートの誘いをしてくる。
私は話を逸らすことも叶わず舌を絡ませるようにして吃った。
「どうしたの?やっぱり今日、様子が変だけど。
それに、なんか痩せた?ちゃんと食べてる?
やっぱり今日ご飯食べに行こうよ。ね。なんか俺、心配になってきた。里帆ってストレス受けると食べなくなるタイプでしょ」
「あ、そうかもね。ちょっと、祖母の葬儀で疲れちゃって……」
「そっか、里帆、繊細だもんね。何かあったら俺に頼ってほしいな」
今日の寝不足の原因は突き詰めると桜庭くんにあった。
昨日、新田アユカに告げられた衝撃的な話が頭をぐるぐると渦巻いて、なかなか寝付くことができなかったからだ。
桜庭くんがこんなにカッコ良く無ければ、女達は醜い争いもしなかったし、私は寝不足の朝を迎えることはなかっただろう。
すると、人事部の二人組どころか、社員食堂にいる人の何人かが私達2人をジロジロと見てきて何やらコソコソと話をされた。
課長の耳に入ったらどうしよう。
お弁当の箸を止めてしまった私に桜庭くんは悪戯っぽく言ってきた。
「ほんとに食欲ないね。可哀想。俺があーんして食べさせてあげよっか?」
ブンブンと首を横に激しく振ると、桜庭くんは楽しげに笑った。
上原さんとのランチタイムが今となっては恋しい……。
こんなに人の目を気にして食事するなんて耐えられないよ……!
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