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第三章
105話 待ち合わせ
店のショーウィンドウに映った自分の姿を見ながら、少し乱れていた前髪を直す。
「うー、緊張するなぁ」
昔は会えることが嬉しいし楽しみだった。それは今も変わらないけれど、最近ではそこに緊張が混ざるようになった。
原因は分かっている。
相手を意識しているからだ。
落ち着けと、とんとんっと自分の胸を叩き、もう一度身だしなみをチェックしてから、再び歩き出した。
店が立ち並ぶ通りだからか、夏で暑い時期だというのに、人通りは多い。
たまに視線を感じて、どこか変なところがあるのだろうかと不安になった。
今日はやたらと人に見られる。
男なのに、髪を編み込みにしてるのがおかしいのだろうか。
いやでも右側だけだし。
『今日は少し挑戦してみました』
綺麗にヘアアレンジしてくれたのはトリスタンだ。
今日着る服も選んでくれた。
上は、ベージュのサマージャケットを羽織り、中は涼しげな水色のシャツで、下は真っ白な細身のズボンだった。イヤリングなどのアクセサリーも付けられ、足元はローファーのような靴を履いている。
『うん。我ながら素晴らしい出来です』
『フィン様。とても可愛いですよ。今日は楽しんできてくださいね』
トリスタンとエリクに太鼓判を押され、送り出された。
相変わらず二人は仲が良い。
その姿を見て、たまに堪らない気持ちになる時がある。
トリスタンを失うかもしれないと思った時は、目の前が真っ暗になり、助けることができた時は、心の底から安堵した。
トリスタンは、あの時のことをあまり覚えていないらしい。
俺の実家を訪ねようとしていたことは覚えているが、その後の記憶が曖昧で、気がついた時にはベッドに寝かされ、自分の体が弱っていて驚いたと言っていた。
本当かどうか分からないが、怖い思いをしなかったのなら良かった。
心に傷が残ることも心配していたのだ。
あれから三年以上が経つ。
あの時、事件に巻き込まれた人たちは皆、無事に回復し、日常生活を送れるようになっていた。
俺は、元気になった父さまと話をすることができ、お互いの思いを伝え合えた。
そして、バルバラとも。
父さまとバルバラは今は一緒に暮らしている。
引き取り手のないバルバラの現状を知った父さまが、一緒に暮らさないかと提案したそうだ。
『貧乏で苦労すると思うが、それでもいいなら私と暮らさないか?』
バルバラは、迷った末にそれを受けた。
たまに様子を見に行くが、上手くやっているようだった。
そんなことを考えているうちに、目的の場所が見えてきた。
そこにはすでに幼馴染である二人が立っていて、注目を浴びていた。
双子だからではない。
その容姿の良さにみんなが見惚れていると思うのは、惚れた欲目ではないと思う。
だって本当に格好良く成長していってるんだ。
ゴットフリートとラインハルトは、ゲームで登場していた年齢くらいになっていた。
今年の秋から高等部三年生に進級する。
実は、二人の高等部制服姿を見たくて見たくて見たくて、こっそり覗きに行ったことがあった。
目にした瞬間、鼻血が出るかと思うほど興奮した。
完全に変態さんである。
だって仕方ないだろ。
前世のオタク魂が震えるくらい、あの素晴らしいキャラクターを生で見れて嬉しかったんだから!
今日は私服姿だけど、それもまた良い。
尊い。
「はぁ。またドキドキしてきちゃった」
留学を終えて帰国後、俺は魔法士として就職した。その仕事が想像以上に忙しく、二人に会えるのは、実は二ヶ月ぶりだった。
久しぶりに会うせいか、高鳴る鼓動を抑えるのに苦労する。
苦しくなってきた胸を押さえて、落ち着けと再度自分に言い聞かせ、俯いて呼吸を整えようと努めた。
「大丈夫ですか?」
「え?」
突然声をかけられ顔を上げると、優しそうな青年が横に立っていた。短髪で背が高く、どこかで見覚えがあるような気がした。
だが、どこで見たのかは、すぐには思い出せなかった。
その青年は、心配そうにこちらを見下ろしている。
「胸が苦しいんですか?」
俺が胸に手を当てて俯いていたので、具合が悪いと勘違いされたらしい。
「ち、違います!大丈夫です!」
慌てて手を胸から外し、手のひらを相手に向けて、否定するように左右に振った。
恥ずかしくて、顔が瞬時に赤くなる。
恋人に会えるのが嬉しくて恥ずかしくて、その二人の格好良さを噛み締めていましたなどと、とてもじゃないが言えない。
俺の元気いっぱいな反応に、自分の勘違いだと気づいた青年も赤くなった。
「あっ、すみません。具合が悪いのかなって思ってしまって」
恥ずかしそうに頬をかく青年は、とても人が良さそうだった。
「いいえ。僕こそ、道の真ん中で立ち止まって紛らわしかったですよね。すみません。心配してくださり、ありがとうございます」
お互いに謝り合っていたら、可笑しくなってしまい、一緒に笑ってしまった。
青年も連れがいたようで、早く来いと呼ばれていて、すぐに手を振り合い青年とは別れた。
そして、今のやり取りで気持ちが落ち着いた俺は、待っている二人の元へ向かうため、急いで駆け出した。
オスカーに呼ばれたアルフレートは、まだ熱をもった頬をぐいぐい擦りつつ、走り寄った。
「悪い」
「アルフレート。まだ本番じゃない。個人的にナンパするなら違う日にしろ。すぐそこにラインハルトたちがいるんだぞ。見つかるんじゃないかとヒヤヒヤしただろ」
そりゃ、ちょっと見ないくらい可愛い子だったけどさ、と言ったオスカーの言葉に、アルフレートは再び顔を真っ赤にした。
「違う!具合が悪そうに見えたから声をかけただけだ!」
「しーっ!静かに!声でバレるだろ!ほら、早く行くぞ」
ぐいぐいと引っ張られ、アルフレートは渋々ついていくが、あまり乗り気ではなかった。
「なぁ、本当にするのか?」
「エルマーたちに押し切られたんだから仕方ないだろ」
「エルマーって中等部からラインハルトを追いかけ回してる子だったっけ?」
「そう。脈なしなんだから、早く諦めればいいのにな」
オスカーはそう言うが、恋愛感情の好きを簡単に諦めることは難しいのではないかと、アルフレートは思った。
「しかし、どうやってラインハルトたちがデートするなんて情報を掴んだんだ?」
「年季の入ったストーカーだからな。雰囲気で分かるんじゃないか?中等部の頃も、自然公園でラインハルトがデートしている現場に乱入したって聞いたぞ」
乱入した後どうなったのか非常に気になったが、エルマーたちの姿が見えて、それ以上は聞くことができなかった。
「はぁ、ゴットフリートにまた睨まれる」
「大丈夫大丈夫。今回は、なかなか紹介しないアイツらが悪いって大義名分があるから」
オスカーの適当な慰めにアルフレートは頷きつつも、今から与えられた役目を考えると憂鬱になり、溜息を吐いたのだった。
「うー、緊張するなぁ」
昔は会えることが嬉しいし楽しみだった。それは今も変わらないけれど、最近ではそこに緊張が混ざるようになった。
原因は分かっている。
相手を意識しているからだ。
落ち着けと、とんとんっと自分の胸を叩き、もう一度身だしなみをチェックしてから、再び歩き出した。
店が立ち並ぶ通りだからか、夏で暑い時期だというのに、人通りは多い。
たまに視線を感じて、どこか変なところがあるのだろうかと不安になった。
今日はやたらと人に見られる。
男なのに、髪を編み込みにしてるのがおかしいのだろうか。
いやでも右側だけだし。
『今日は少し挑戦してみました』
綺麗にヘアアレンジしてくれたのはトリスタンだ。
今日着る服も選んでくれた。
上は、ベージュのサマージャケットを羽織り、中は涼しげな水色のシャツで、下は真っ白な細身のズボンだった。イヤリングなどのアクセサリーも付けられ、足元はローファーのような靴を履いている。
『うん。我ながら素晴らしい出来です』
『フィン様。とても可愛いですよ。今日は楽しんできてくださいね』
トリスタンとエリクに太鼓判を押され、送り出された。
相変わらず二人は仲が良い。
その姿を見て、たまに堪らない気持ちになる時がある。
トリスタンを失うかもしれないと思った時は、目の前が真っ暗になり、助けることができた時は、心の底から安堵した。
トリスタンは、あの時のことをあまり覚えていないらしい。
俺の実家を訪ねようとしていたことは覚えているが、その後の記憶が曖昧で、気がついた時にはベッドに寝かされ、自分の体が弱っていて驚いたと言っていた。
本当かどうか分からないが、怖い思いをしなかったのなら良かった。
心に傷が残ることも心配していたのだ。
あれから三年以上が経つ。
あの時、事件に巻き込まれた人たちは皆、無事に回復し、日常生活を送れるようになっていた。
俺は、元気になった父さまと話をすることができ、お互いの思いを伝え合えた。
そして、バルバラとも。
父さまとバルバラは今は一緒に暮らしている。
引き取り手のないバルバラの現状を知った父さまが、一緒に暮らさないかと提案したそうだ。
『貧乏で苦労すると思うが、それでもいいなら私と暮らさないか?』
バルバラは、迷った末にそれを受けた。
たまに様子を見に行くが、上手くやっているようだった。
そんなことを考えているうちに、目的の場所が見えてきた。
そこにはすでに幼馴染である二人が立っていて、注目を浴びていた。
双子だからではない。
その容姿の良さにみんなが見惚れていると思うのは、惚れた欲目ではないと思う。
だって本当に格好良く成長していってるんだ。
ゴットフリートとラインハルトは、ゲームで登場していた年齢くらいになっていた。
今年の秋から高等部三年生に進級する。
実は、二人の高等部制服姿を見たくて見たくて見たくて、こっそり覗きに行ったことがあった。
目にした瞬間、鼻血が出るかと思うほど興奮した。
完全に変態さんである。
だって仕方ないだろ。
前世のオタク魂が震えるくらい、あの素晴らしいキャラクターを生で見れて嬉しかったんだから!
今日は私服姿だけど、それもまた良い。
尊い。
「はぁ。またドキドキしてきちゃった」
留学を終えて帰国後、俺は魔法士として就職した。その仕事が想像以上に忙しく、二人に会えるのは、実は二ヶ月ぶりだった。
久しぶりに会うせいか、高鳴る鼓動を抑えるのに苦労する。
苦しくなってきた胸を押さえて、落ち着けと再度自分に言い聞かせ、俯いて呼吸を整えようと努めた。
「大丈夫ですか?」
「え?」
突然声をかけられ顔を上げると、優しそうな青年が横に立っていた。短髪で背が高く、どこかで見覚えがあるような気がした。
だが、どこで見たのかは、すぐには思い出せなかった。
その青年は、心配そうにこちらを見下ろしている。
「胸が苦しいんですか?」
俺が胸に手を当てて俯いていたので、具合が悪いと勘違いされたらしい。
「ち、違います!大丈夫です!」
慌てて手を胸から外し、手のひらを相手に向けて、否定するように左右に振った。
恥ずかしくて、顔が瞬時に赤くなる。
恋人に会えるのが嬉しくて恥ずかしくて、その二人の格好良さを噛み締めていましたなどと、とてもじゃないが言えない。
俺の元気いっぱいな反応に、自分の勘違いだと気づいた青年も赤くなった。
「あっ、すみません。具合が悪いのかなって思ってしまって」
恥ずかしそうに頬をかく青年は、とても人が良さそうだった。
「いいえ。僕こそ、道の真ん中で立ち止まって紛らわしかったですよね。すみません。心配してくださり、ありがとうございます」
お互いに謝り合っていたら、可笑しくなってしまい、一緒に笑ってしまった。
青年も連れがいたようで、早く来いと呼ばれていて、すぐに手を振り合い青年とは別れた。
そして、今のやり取りで気持ちが落ち着いた俺は、待っている二人の元へ向かうため、急いで駆け出した。
オスカーに呼ばれたアルフレートは、まだ熱をもった頬をぐいぐい擦りつつ、走り寄った。
「悪い」
「アルフレート。まだ本番じゃない。個人的にナンパするなら違う日にしろ。すぐそこにラインハルトたちがいるんだぞ。見つかるんじゃないかとヒヤヒヤしただろ」
そりゃ、ちょっと見ないくらい可愛い子だったけどさ、と言ったオスカーの言葉に、アルフレートは再び顔を真っ赤にした。
「違う!具合が悪そうに見えたから声をかけただけだ!」
「しーっ!静かに!声でバレるだろ!ほら、早く行くぞ」
ぐいぐいと引っ張られ、アルフレートは渋々ついていくが、あまり乗り気ではなかった。
「なぁ、本当にするのか?」
「エルマーたちに押し切られたんだから仕方ないだろ」
「エルマーって中等部からラインハルトを追いかけ回してる子だったっけ?」
「そう。脈なしなんだから、早く諦めればいいのにな」
オスカーはそう言うが、恋愛感情の好きを簡単に諦めることは難しいのではないかと、アルフレートは思った。
「しかし、どうやってラインハルトたちがデートするなんて情報を掴んだんだ?」
「年季の入ったストーカーだからな。雰囲気で分かるんじゃないか?中等部の頃も、自然公園でラインハルトがデートしている現場に乱入したって聞いたぞ」
乱入した後どうなったのか非常に気になったが、エルマーたちの姿が見えて、それ以上は聞くことができなかった。
「はぁ、ゴットフリートにまた睨まれる」
「大丈夫大丈夫。今回は、なかなか紹介しないアイツらが悪いって大義名分があるから」
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