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晴也は二人から水割りを作らせたことを詫びられながら、他のテーブルの空き皿などを回収し、カウンターに戻った。ママが余市でハイボールを作ってくれていた。
「はいハルちゃん、ショウさんにゆっくりつき合ってあげなさい」
晴也は仕方なくショウの隣に腰を下ろす。彼はご機嫌らしく、楽しげに晴也の顔を見てくる。イケメンが相手だと、男でもどきどきするものと知り、晴也は自分の気持ちを持て余していた。それを知ってか知らずか、ショウは何気に上半身をこちらに傾けてくる。
「あの会社はどれだけ勤めてるの?」
「……新卒からだよ、来年の春で7年」
晴也のややぶっきらぼうな返事に、ショウは目を見開く。
「ハルさん、浪人とか留年とかしてないなら俺よりふたつ上なんだ」
年下だと思い接していたということか。どちらかと言うと子供っぽく見えるという自覚はあるので、腹を立てることでもなかった。
「ショウさんはずっと営業? 昨日今日見てると任されてるよね、管理職?」
「管理職がいるほど社員がいないんだ、営業は俺とあと1人で、アガタが最近は営業事務みたいになってる」
「新しい会社なんだ」
「うん、社長と副社長が大学の先輩後輩で、二人で立ち上げて8年……だったかな」
ふうん、と言いながら、晴也はハイボールを口にする。余市でハイボールとはなかなか贅沢で、それだけに美味だった。
「美味そうに飲むなぁ、眼福」
ショウは僅かに目を細めて言う。何を言ってる、意味が分からない。晴也は彼を睨みつけた。
「俺がおぼこい新人だと思ってからかうのはやめろ、ムカつく」
「からかってもいないし昼間も冗談を言った訳じゃない、俺は福原さんと」
「福原って呼ぶな」
「……ごめんなさい、ハルちゃんと」
「ちゃんづけするな」
ショウは口を噤んだ。流石に怒ったかと晴也は彼の眼鏡の奥の目を観察したが、2秒後に彼は、想定外に表情を緩めた。
「ヤバいだろ、ハルさん可愛過ぎて倒れそう」
晴也はあ然となった。ここが会社の給湯室なら、殴っているところである。
「だからそういう……」
「だからからかってないって言ってる」
ショウは笑いを顔から消していた。そんな表情になると、彼はすこぶる美形で、晴也はどきりとしてしまう。しかし彼と交際するというのが、どうしてもイメージが湧かない。
「俺とつき合って何のいいことがあるんだよ、俺はノンケだからショウさんとは……セックスしない」
ショウは晴也の言葉に目を丸くした。
「ハルさんエロいんだな、もうそこまで考えるんだ」
「な……っ、だってそうだろ? 交際するって、一緒に茶飲んでメシ食って映画館や遊園地や水族館行くだけじゃないだろ?」
晴也がむきになり畳み掛けることさえ、ショウには面白いらしい。
「うんうん、ハルさんはそういうことがしたいんだ、覚えておきます」
「は? あんたとするなんて言ってない、一般論だし」
「セックス抜きならつき合っていいって昼間言わなかった?」
にこにこしながら言われて、晴也の頭に血が昇る。
「そんなの言葉のあやだ」
本当にムカつく。こいつ切り返し早いな、手強い。
男性客が一人、店を出た。晴也は椅子から降りて入口に向かい頭を下げる。彼を外まで見送ったミチルがカウンターに戻って来て、ショウと晴也を見比べた。
「何か楽しくおしゃべりしてる雰囲気じゃないな、大丈夫か?」
「みちお……じゃなくてミチルさん、ハルさんが気を許してくれないから苦戦してる」
ショウの言葉に、ミチルは何だぁ? とやや声を高くした。
「ショウくんはノンケが好きなのか? ハルちゃんは童貞処女だぞ、ハードル高いだろ」
「うあっ、ミチルさん、やめてっ」
叫び半ばになった晴也は、赤面したのを自覚した。そんな情報、公開しなくていい。
ショウはさっきまで見せていなかった粘っこい光を、眼鏡の奥の目に浮かべていた。晴也は腕がざわざわして、思わず腰を浮かせる。
「逃げるなよ、だからそんなに拒絶モードなのか、攻略し甲斐があるな」
「おいおいマジかよショウくん、ハルちゃんが嫌だと言ったらおまえこの店出禁だぞ」
ミチルの口調は心なしか楽しげである。晴也は同僚が100パーセント自分の味方でないことを悟る。喉がカラカラになってきて、ハイボールを流し込んだ。ショウがそれを見て、ミチルに言う。
「俺ハルさんのためにボトル入れたから、彼にお願いして好きな時に飲んで」
「男前だねぇ、ご馳走になるわ」
「昨夜は大人しげにちょこんと座ってたのにこんな飲みっぷりいいのとか、いちいち俺の琴線に触れるんだけど」
ショウがうっとりと言い、ミチルがわははと笑った。
「おまえが本気ならハルちゃんに大人の階段を登らせてやれよ、俺が許す」
勝手に許すなよ! 晴也はミチルに向かって胸の中で叫んだ。
「はいハルちゃん、ショウさんにゆっくりつき合ってあげなさい」
晴也は仕方なくショウの隣に腰を下ろす。彼はご機嫌らしく、楽しげに晴也の顔を見てくる。イケメンが相手だと、男でもどきどきするものと知り、晴也は自分の気持ちを持て余していた。それを知ってか知らずか、ショウは何気に上半身をこちらに傾けてくる。
「あの会社はどれだけ勤めてるの?」
「……新卒からだよ、来年の春で7年」
晴也のややぶっきらぼうな返事に、ショウは目を見開く。
「ハルさん、浪人とか留年とかしてないなら俺よりふたつ上なんだ」
年下だと思い接していたということか。どちらかと言うと子供っぽく見えるという自覚はあるので、腹を立てることでもなかった。
「ショウさんはずっと営業? 昨日今日見てると任されてるよね、管理職?」
「管理職がいるほど社員がいないんだ、営業は俺とあと1人で、アガタが最近は営業事務みたいになってる」
「新しい会社なんだ」
「うん、社長と副社長が大学の先輩後輩で、二人で立ち上げて8年……だったかな」
ふうん、と言いながら、晴也はハイボールを口にする。余市でハイボールとはなかなか贅沢で、それだけに美味だった。
「美味そうに飲むなぁ、眼福」
ショウは僅かに目を細めて言う。何を言ってる、意味が分からない。晴也は彼を睨みつけた。
「俺がおぼこい新人だと思ってからかうのはやめろ、ムカつく」
「からかってもいないし昼間も冗談を言った訳じゃない、俺は福原さんと」
「福原って呼ぶな」
「……ごめんなさい、ハルちゃんと」
「ちゃんづけするな」
ショウは口を噤んだ。流石に怒ったかと晴也は彼の眼鏡の奥の目を観察したが、2秒後に彼は、想定外に表情を緩めた。
「ヤバいだろ、ハルさん可愛過ぎて倒れそう」
晴也はあ然となった。ここが会社の給湯室なら、殴っているところである。
「だからそういう……」
「だからからかってないって言ってる」
ショウは笑いを顔から消していた。そんな表情になると、彼はすこぶる美形で、晴也はどきりとしてしまう。しかし彼と交際するというのが、どうしてもイメージが湧かない。
「俺とつき合って何のいいことがあるんだよ、俺はノンケだからショウさんとは……セックスしない」
ショウは晴也の言葉に目を丸くした。
「ハルさんエロいんだな、もうそこまで考えるんだ」
「な……っ、だってそうだろ? 交際するって、一緒に茶飲んでメシ食って映画館や遊園地や水族館行くだけじゃないだろ?」
晴也がむきになり畳み掛けることさえ、ショウには面白いらしい。
「うんうん、ハルさんはそういうことがしたいんだ、覚えておきます」
「は? あんたとするなんて言ってない、一般論だし」
「セックス抜きならつき合っていいって昼間言わなかった?」
にこにこしながら言われて、晴也の頭に血が昇る。
「そんなの言葉のあやだ」
本当にムカつく。こいつ切り返し早いな、手強い。
男性客が一人、店を出た。晴也は椅子から降りて入口に向かい頭を下げる。彼を外まで見送ったミチルがカウンターに戻って来て、ショウと晴也を見比べた。
「何か楽しくおしゃべりしてる雰囲気じゃないな、大丈夫か?」
「みちお……じゃなくてミチルさん、ハルさんが気を許してくれないから苦戦してる」
ショウの言葉に、ミチルは何だぁ? とやや声を高くした。
「ショウくんはノンケが好きなのか? ハルちゃんは童貞処女だぞ、ハードル高いだろ」
「うあっ、ミチルさん、やめてっ」
叫び半ばになった晴也は、赤面したのを自覚した。そんな情報、公開しなくていい。
ショウはさっきまで見せていなかった粘っこい光を、眼鏡の奥の目に浮かべていた。晴也は腕がざわざわして、思わず腰を浮かせる。
「逃げるなよ、だからそんなに拒絶モードなのか、攻略し甲斐があるな」
「おいおいマジかよショウくん、ハルちゃんが嫌だと言ったらおまえこの店出禁だぞ」
ミチルの口調は心なしか楽しげである。晴也は同僚が100パーセント自分の味方でないことを悟る。喉がカラカラになってきて、ハイボールを流し込んだ。ショウがそれを見て、ミチルに言う。
「俺ハルさんのためにボトル入れたから、彼にお願いして好きな時に飲んで」
「男前だねぇ、ご馳走になるわ」
「昨夜は大人しげにちょこんと座ってたのにこんな飲みっぷりいいのとか、いちいち俺の琴線に触れるんだけど」
ショウがうっとりと言い、ミチルがわははと笑った。
「おまえが本気ならハルちゃんに大人の階段を登らせてやれよ、俺が許す」
勝手に許すなよ! 晴也はミチルに向かって胸の中で叫んだ。
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