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「ありがとう、明日の時間と場所決めて連絡くれ」
晴也は低く言い、ドアに手をかけたが、右手首を掴まれた。キッと晶に目を向ける。
「そんな怖い顔しないで、楽しく考えようよ」
晶の言い草がカチンと来た。
「プレッシャーかけといてどの口がそんなこと」
腕を引かれて身体が運転席側に傾いた。左の肩を掴まれて晶と真向かい合わせになり、晴也はどきりとして身を縮ませる。踊る時はコンタクトになる晶の瞳が、ダイレクトに自分を見据えて来るので、晴也の心臓がばくばくいい始めた。すると彼の顔がいきなり近づき、熱いものが唇を包んだ。
「……っっ!」
晴也はびくりとなって目を閉じ、息を止めた。唇に前触れなくくっついてきた軟体動物は、この間と違ってむにゅりと動いて晴也の唇に食い込んできた。晶の冷たい鼻先が、熱くなった顔に触れる。ちゅ、と微かな音がして、離れるのかと思いきや、熱くて湿った柔らかいものは、再度晴也の唇を蹂躙する。
あれ、ちょい待って、何かこれ……晴也はやりたい放題されながら、自分の中に未知の感覚が芽生えたことに気づく。唇から何かが伝わって、背筋が緩くざわざわして、胸が甘ったるく苦しくて。……キモチイイ。
その感覚が言語化された瞬間、晴也は晶の肩に手を置き思いきり押し返した。唇が自由になり、晴也は酸素を求めて肩で息をする。
「過呼吸になりそうだ、鼻で息したらいいんだけど」
晶に言われて、晴也はうるさい! と返した。顔の毛穴から吹き出す熱で、化粧が全て落ちてしまいそうだ。何でもないように晶は続ける。
「ハルさんありがとう、今日は楽しんで貰えたみたいで嬉しかった」
「えっ? あ、まあ、それは……」
晶は蕩けた顔になる。顔が近くて、晴也のほうがどぎまぎしてしまう。
「今日不安が無かったと言えば嘘だった、でもあそこからハルさんがずっと観ていてくれると思うと心強くて」
あ、そう、と晴也は少し目を逸らした。少し胸が痛い。舞台の上で輝いている人から、そんな風に言って貰える価値は自分には無い。
「あのさ、明日うちに泊まってよ」
晶の言葉に晴也は目を上げる。
「ショウさんとはセックスしないって言ってるだろ」
「キスはいいのに?」
晴也はぶすったれた。それを見て晶が笑う。
「俺ハルさんともっと話したい、店飲みで足りなかったら家飲みしよう、お菓子とお酒広げて」
その提案は晴也の琴線に触れた。学生時代、自宅から長い時間をかけて通学していた晴也は、友人ともそういう遊びをしたことがなかった。下宿生が羨ましくて、サークルの皆と今ひとつ打ち解けられないのは、自分が自宅生だからだと思おうとしていた。
「……前向きに検討しとく」
晶は嬉しそうな顔になった。そんな顔をされると、……何だか可愛らしく思えるからやめろ。
「ハルさん、今日頑張ったご褒美ちょうだい」
「……チューさせてやっただろ」
「あれは俺からの感謝の気持ち、頭撫でて」
何故あのキスがそうなるのか、晶の価値基準がさっぱりわからないが、晴也は仕方なく左手を伸ばす。自分のよりも硬い髪をわしわしと撫でてやる。犬かよ、まったく。
「こないだこれされたのが忘れられなくて……」
晶は言いながら、うっとりと目を細めた。ベニー・グッドマンのクラリネットの喘ぐような高音が聴こえた気がして、晴也は手を引っ込めた。
「はい、おしまい」
「ハルさんの手気持ちいい、もっといろんなところに触れて欲しい」
「調子に乗るな」
晴也は今度こそ車のドアを開けた。晶は身を乗り出して、言った。
「明日はできたらハルさんの手でちんこを」
晴也は最後まで聞かずに思いきりドアを閉めた。何言ってやがる、エロイタ電かよ! ちらっと振り返ると、助手席の窓に手を振る晶が見えた。ちっともめげない男だ。晴也は溜め息をつきながらマンションのエントランスに入る。白い軽自動車は、ストーカーらしく晴也を見守ってくれているらしかった。
全く、黙って踊ってりゃイケメンでカッコいいのに。エレベーターに乗りボタンを押すと、もうひとつ溜め息が出た。胸の中がくすぐったくて、嬉しいような不安なような、いろんな色の糸が複雑に絡まった気持ちになった。
晴也は低く言い、ドアに手をかけたが、右手首を掴まれた。キッと晶に目を向ける。
「そんな怖い顔しないで、楽しく考えようよ」
晶の言い草がカチンと来た。
「プレッシャーかけといてどの口がそんなこと」
腕を引かれて身体が運転席側に傾いた。左の肩を掴まれて晶と真向かい合わせになり、晴也はどきりとして身を縮ませる。踊る時はコンタクトになる晶の瞳が、ダイレクトに自分を見据えて来るので、晴也の心臓がばくばくいい始めた。すると彼の顔がいきなり近づき、熱いものが唇を包んだ。
「……っっ!」
晴也はびくりとなって目を閉じ、息を止めた。唇に前触れなくくっついてきた軟体動物は、この間と違ってむにゅりと動いて晴也の唇に食い込んできた。晶の冷たい鼻先が、熱くなった顔に触れる。ちゅ、と微かな音がして、離れるのかと思いきや、熱くて湿った柔らかいものは、再度晴也の唇を蹂躙する。
あれ、ちょい待って、何かこれ……晴也はやりたい放題されながら、自分の中に未知の感覚が芽生えたことに気づく。唇から何かが伝わって、背筋が緩くざわざわして、胸が甘ったるく苦しくて。……キモチイイ。
その感覚が言語化された瞬間、晴也は晶の肩に手を置き思いきり押し返した。唇が自由になり、晴也は酸素を求めて肩で息をする。
「過呼吸になりそうだ、鼻で息したらいいんだけど」
晶に言われて、晴也はうるさい! と返した。顔の毛穴から吹き出す熱で、化粧が全て落ちてしまいそうだ。何でもないように晶は続ける。
「ハルさんありがとう、今日は楽しんで貰えたみたいで嬉しかった」
「えっ? あ、まあ、それは……」
晶は蕩けた顔になる。顔が近くて、晴也のほうがどぎまぎしてしまう。
「今日不安が無かったと言えば嘘だった、でもあそこからハルさんがずっと観ていてくれると思うと心強くて」
あ、そう、と晴也は少し目を逸らした。少し胸が痛い。舞台の上で輝いている人から、そんな風に言って貰える価値は自分には無い。
「あのさ、明日うちに泊まってよ」
晶の言葉に晴也は目を上げる。
「ショウさんとはセックスしないって言ってるだろ」
「キスはいいのに?」
晴也はぶすったれた。それを見て晶が笑う。
「俺ハルさんともっと話したい、店飲みで足りなかったら家飲みしよう、お菓子とお酒広げて」
その提案は晴也の琴線に触れた。学生時代、自宅から長い時間をかけて通学していた晴也は、友人ともそういう遊びをしたことがなかった。下宿生が羨ましくて、サークルの皆と今ひとつ打ち解けられないのは、自分が自宅生だからだと思おうとしていた。
「……前向きに検討しとく」
晶は嬉しそうな顔になった。そんな顔をされると、……何だか可愛らしく思えるからやめろ。
「ハルさん、今日頑張ったご褒美ちょうだい」
「……チューさせてやっただろ」
「あれは俺からの感謝の気持ち、頭撫でて」
何故あのキスがそうなるのか、晶の価値基準がさっぱりわからないが、晴也は仕方なく左手を伸ばす。自分のよりも硬い髪をわしわしと撫でてやる。犬かよ、まったく。
「こないだこれされたのが忘れられなくて……」
晶は言いながら、うっとりと目を細めた。ベニー・グッドマンのクラリネットの喘ぐような高音が聴こえた気がして、晴也は手を引っ込めた。
「はい、おしまい」
「ハルさんの手気持ちいい、もっといろんなところに触れて欲しい」
「調子に乗るな」
晴也は今度こそ車のドアを開けた。晶は身を乗り出して、言った。
「明日はできたらハルさんの手でちんこを」
晴也は最後まで聞かずに思いきりドアを閉めた。何言ってやがる、エロイタ電かよ! ちらっと振り返ると、助手席の窓に手を振る晶が見えた。ちっともめげない男だ。晴也は溜め息をつきながらマンションのエントランスに入る。白い軽自動車は、ストーカーらしく晴也を見守ってくれているらしかった。
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