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日付けが変わってだいぶ経つのに、新宿駅は賑やかだった。美智生はやや酔いながら、たぶん終電無理だから何処かからタクシーに乗ると笑って言い、山手線の反対回りのホームに上がって行った。晴也は自分もエスカレーターに向かったが、バッグの中でスマートフォンが震えたのに気づく。
「電車乗った? まだなら駅で拾います」
くそダンサーからのLINEである。晴也は少し迷ったが、今どうも電車が出たところのようなので、駅員に頼んでICカードの入場履歴を消してもらった。
晶の白い軽自動車は、すぐにタクシー乗り場の近くにやって来た。少し酔っている晴也は、厚かましいだろとか、それはヤバいなどと囁いてくるもう一人の自分を黙殺し、ありがとうとにこやかに言いながら、助手席に乗り込んだ。後ろの席には大きなバッグが鎮座している。今日の衣装だろうか。車内が暖かくてほっとする。
「お疲れさま、すげー楽しかったしかっこよかった」
晴也の口がやけに滑らかなので、晶は酔ってるのか、と呟き小さく笑った。
「打ち上げしないんだ」
「来週の水曜にする予定、土曜はみんな割といろいろ忙しいからね」
晴也はぼんやりと、流れていく外の風景を眺める。晶は微かに流れる音楽に乗せるように訊いてきた。
「うちに泊まる?」
「泊まらねぇよ馬鹿」
条件反射的に晴也は即答した。
「酔っててもガード固いなぁ」
「着替えもクレンジングも持ってない」
「コンビニ寄ろうか?」
晴也は晶の横顔を睨みつけた。
「い、ら、ね、え、よっ」
晶はこちらをちらっと見て笑う。余裕ぶっこいてんなよ、このエロ野郎。
「じゃあ明日デートしようよ、映画観よう」
「……今観たいもの無い」
「そう言うと思ったのでハルさんのためにリサーチしておりますよ」
晶は渋谷にあるリバイバル専門の映画館で、年末年始に古いミュージカル映画を特集していると話した。
「今何やってんの?」
「『雨に唄えば』」
晴也は少し考える。悪くない、ジーン・ケリーを映画館でなんか観たことない。
「わかった、良しとする」
「有り難き幸せ」
「それで俺は何を着て行けばいい?」
赤信号で車が静かに止まると、晶はきょとんとした顔で晴也を見た。
「男と女とどっちで行きゃいいんだよ」
「いや、ハルさんのお好きなほうで」
晶は半笑いで答えた。真面目に訊いているのに、何となくムカついた。
「俺今どんだけ世の中を騙せるかキャンペーン実施中なんだ、今日は家からルーチェまでたぶん男だとバレなかった」
「じゃあ明日渋谷で半日トライしろよ」
こいつマジで言ってんのか? 晴也はアクセルを踏む彼を挑発する。
「分かって言ってる? おまえが恥をかくリスクがあるんだぞ、女装のオカマを連れて歩いてるってな!」
「じゃあバレないように命懸けでやれ」
「命懸けって……」
晴也は逆に言われてあ然とした。晶は前を見たまま続ける。
「明日はハルさんの一人芝居の上演日にしよう、観客は俺と渋谷に遊びに来ている人全員だ」
「はぁっ⁉」
「めぎつねと一緒で女言葉は基本無しでいい、容姿と振る舞いで観客の全てを騙し抜け」
何でそうなる! 晴也は酔いが醒めるのを感じた。
「半日過ごすのに無理がなくて、なおかつ渋谷の映画デートに相応しいコーディネイトを考えてこい、俺もそのつもりで準備する」
「待てよ、それデートじゃねぇだろ!」
晶はにやりと笑い、オーディションかな、と言った。
「その代わりこの吉岡、総力を上げてお嬢様が喜んでくれそうな喫茶店やレストランをお探しいたします」
「何処の執事だよ!」
「興味がおありの店などございますか?」
晴也は奥歯を噛みしめる。売られた喧嘩は買わねばなるまい。
「……渋谷なんか知らないから別に無い、ただ夜はたらふく飲める店にしろ」
「承知しました」
晶は楽しげに笑う。晴也はムカムカしながら、車が自宅の近所の住宅街に入ったことを確認した。やがてマンションの前に、ゆっくりと車が止まる。
「電車乗った? まだなら駅で拾います」
くそダンサーからのLINEである。晴也は少し迷ったが、今どうも電車が出たところのようなので、駅員に頼んでICカードの入場履歴を消してもらった。
晶の白い軽自動車は、すぐにタクシー乗り場の近くにやって来た。少し酔っている晴也は、厚かましいだろとか、それはヤバいなどと囁いてくるもう一人の自分を黙殺し、ありがとうとにこやかに言いながら、助手席に乗り込んだ。後ろの席には大きなバッグが鎮座している。今日の衣装だろうか。車内が暖かくてほっとする。
「お疲れさま、すげー楽しかったしかっこよかった」
晴也の口がやけに滑らかなので、晶は酔ってるのか、と呟き小さく笑った。
「打ち上げしないんだ」
「来週の水曜にする予定、土曜はみんな割といろいろ忙しいからね」
晴也はぼんやりと、流れていく外の風景を眺める。晶は微かに流れる音楽に乗せるように訊いてきた。
「うちに泊まる?」
「泊まらねぇよ馬鹿」
条件反射的に晴也は即答した。
「酔っててもガード固いなぁ」
「着替えもクレンジングも持ってない」
「コンビニ寄ろうか?」
晴也は晶の横顔を睨みつけた。
「い、ら、ね、え、よっ」
晶はこちらをちらっと見て笑う。余裕ぶっこいてんなよ、このエロ野郎。
「じゃあ明日デートしようよ、映画観よう」
「……今観たいもの無い」
「そう言うと思ったのでハルさんのためにリサーチしておりますよ」
晶は渋谷にあるリバイバル専門の映画館で、年末年始に古いミュージカル映画を特集していると話した。
「今何やってんの?」
「『雨に唄えば』」
晴也は少し考える。悪くない、ジーン・ケリーを映画館でなんか観たことない。
「わかった、良しとする」
「有り難き幸せ」
「それで俺は何を着て行けばいい?」
赤信号で車が静かに止まると、晶はきょとんとした顔で晴也を見た。
「男と女とどっちで行きゃいいんだよ」
「いや、ハルさんのお好きなほうで」
晶は半笑いで答えた。真面目に訊いているのに、何となくムカついた。
「俺今どんだけ世の中を騙せるかキャンペーン実施中なんだ、今日は家からルーチェまでたぶん男だとバレなかった」
「じゃあ明日渋谷で半日トライしろよ」
こいつマジで言ってんのか? 晴也はアクセルを踏む彼を挑発する。
「分かって言ってる? おまえが恥をかくリスクがあるんだぞ、女装のオカマを連れて歩いてるってな!」
「じゃあバレないように命懸けでやれ」
「命懸けって……」
晴也は逆に言われてあ然とした。晶は前を見たまま続ける。
「明日はハルさんの一人芝居の上演日にしよう、観客は俺と渋谷に遊びに来ている人全員だ」
「はぁっ⁉」
「めぎつねと一緒で女言葉は基本無しでいい、容姿と振る舞いで観客の全てを騙し抜け」
何でそうなる! 晴也は酔いが醒めるのを感じた。
「半日過ごすのに無理がなくて、なおかつ渋谷の映画デートに相応しいコーディネイトを考えてこい、俺もそのつもりで準備する」
「待てよ、それデートじゃねぇだろ!」
晶はにやりと笑い、オーディションかな、と言った。
「その代わりこの吉岡、総力を上げてお嬢様が喜んでくれそうな喫茶店やレストランをお探しいたします」
「何処の執事だよ!」
「興味がおありの店などございますか?」
晴也は奥歯を噛みしめる。売られた喧嘩は買わねばなるまい。
「……渋谷なんか知らないから別に無い、ただ夜はたらふく飲める店にしろ」
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