夜は異世界で舞う

11 風雪

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「俺のことをいろいろ探ってらしたようですけど、ここに観に来てくださったことには感謝します……これからも贔屓にしていただけると嬉しいです」

　晶は手を胸に当て、早川に向かって優雅にお辞儀をした。早川は椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がった。

「黙れ変態野郎、おまえを贔屓にするくらいなら死んだ方がマシだ、とにかく福原をこれ以上悪い道に引っぱるならこっちにも考えがある」

　早川の暴言に晶は顔から笑いを消し、切れ長の目を険しくして口調を豹変させた。

「そっちこそ黙れクソが、会社に何か言うって脅すつもりなのか？　おまえの軽口のせいでハルさんは会社で嫌な思いをしたらしいじゃないか、おまえが今ハルさんと俺に取った態度を合わせても訴えるのに十分だぞ」

　晶が何もかも話してしまうので、晴也は逃げ場を失くしてしまった。案の定、自分が久保に話した内容が拡散していることに気づいていない早川は、晴也を見た。

「どういう意味だ福原、嫌な思いって何のことだ？」

　晴也は深呼吸した。もう早川を傷つけずに話を収めることはできなくなる。

「早川さんが久保に話したことが広まってます、俺がショウさん……吉岡さんに迫られててまんざらでもない、みたいな」
「それは本当のことじゃないか、こいつも認めた」

　早川の当然のような口調に、晴也は心底失望した。腹立ちがふつふつと沸く。

「……あんたいっつもそうなんだ、事実だとしても拡散して欲しくないこととか、まだ伏せておくべきことってあるだろうが」

　前髪と眼鏡で目を隠していない晴也から鋭い視線を向けられ、しかも敬語抜きで言われて、早川は明らかに動揺した。
　その時ユウヤがこちらにやって来た。

「ショウ、長くなりそうなら場所を移せ、閉店作業ができない」
「いえ、終わります」

　晴也が即答した。言いたいことは言った。早川が納得してくれるとは思えないが、今これ以上言葉を募っても無駄だろう。立ち上がり、あっけに取られる一同をその場に残して、真っ直ぐ前を見て出口に向かう。

「ハルさん、大丈夫？」

　エスコートするかのようについて来るユウヤが、小さく訊いてくれるのが心苦しい。

「大丈夫です、ご迷惑をおかけしました」

　ドルフィン・ファイブのあと3人のメンバーも、心配そうに晴也を見ていた。晴也は彼らと店員たちに、頭を下げる。

「見苦しくして申し訳ありません、失礼しました」

　美智生が追いついてきて、2人してコートを受け取り、手早く会計を済ませる。