夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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11 風雪

11-2

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 晴也はこんなことという早川の言い方に不快感を覚えた。心臓のどきどきは治まらないが、やけくそになり答える。

「9ヶ月くらい前からですかね?」
「仕事が終わって誰ともつき合わず帰っていたのはこのためだったのか」
「飲み会につき合わないのは別問題です、行きたくないだけなんで」
「金に困ってるのか」
「困ってはいませんよ、お金目的でやってるんじゃありません」

 晴也の無機質な声と返事に、美智生が思わずといった風情で早川を制した。

「あのね、ハルちゃんは実益を兼ねた趣味で女装してるだけなんだよ、昼間の仕事で兼業が禁じられてるとかでないなら、あなたが職質することじゃない」

 早川は言葉に詰まったが、納得いかないと言わんばかりだった。今度は美智生に言う。

「あなたも男性なんですね、福原と一緒に……こんなことを」

 美智生は小さく笑い、ボブの髪を揺らす。

「そんないかがわしいことしてるような言い方はやめようよ、あなた俺たちが女装してここで男を漁ってるとでも思ってる訳?」

 早川は顔をひきつらせた。店員が不審げに3人を見て、出口に向かう。晴也が彼を目で追うと、客を見送り手を振るユウヤとショウに言葉をかけた。晴也は万事休すだと視線を落として溜め息をつく。
 ショウが軽やかにこちらに向かって小走りでやって来た。整備士のような恰好もよく似合っている。彼は晴也と美智生の間に座る早川を見て、ふてぶてしくもああ、こんばんは、と明るく言った。

「こんな日にお越しくださってありがとうございます、お楽しみいただけましたか?」
「よっ……吉岡さん、あんたって人は」

 怒りを含んだ早川の声に、美智生が目を丸くした。何故この男がショウとも知り合いなのか、疑問になったのだろう。

「あんたがこんなとこで踊ろうが何をしようが勝手だ、けど福原を夜の世界に引きずり込むな! あんたのせいで福原は」

 ショウ……晶は、早川の言葉に対してはぁ? と言った。眼鏡を外し前髪を半分上げた、昼間と全く別人のような空気をまとう「吉岡さん」を見るのが初めての早川が、戸惑っているのが晴也にも伝わってきた。

「何をおっしゃってるのかわかりません、福原さんは俺と知り合う前から女装男子でしたよ」
「でもあんたみたいな人間と何でこんな場所でつるんでるんだよ!」

 早川は顔を赤くしてまくしたてた。客はほぼけていたが、ドルフィン・ファイブのメンバーと店員たちが一斉にこちらを見た。

「随分な言い方ですね、福原さんは俺たちの大切なファンのおひとりです……まあ俺ゲイで福原さんタイプだから、早川さんのお見立て通り迫ってますけどね」

 顎を上げて目を細める晶の態度や物言いは、やや挑発的だった。早川はふざけるな! と叫び半ばに言った。

「おまえのせいで福原がおかしくなったんだろうが! 真面目で大人しくて人見知りする彼が……女の恰好をして夜中の新宿をうろつくなんて、挙句に得体の知れないダンサーと、男と恋愛だって⁉︎」

 おいおい、と美智生が間に入った。そして早川に言う。

「あんたが自分の知らないハルちゃんを見て驚いたのはわかるけどさ、何かいろいろあんたがおかしい」

 晴也は自分がこんな事態を招いたにもかかわらず、顔が熱くなるばかりで、誰に対しても言葉が見つからなかった。
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