夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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15 昼に舞う蝶とダンサー

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「ショウさんってそんなムキムキじゃないように思うんだけど」

 グラス片手にナツミは、何故か晴也を見ながら言う。晴也ははい? と声を高くした。

「あ、そだね、5人の中ではムキムキじゃないほうなのかな」

 上手くごまかせたと晴也は思った。近くで見ると割としっかり筋肉ついてて、きれいだけどな。晴也は表情筋が緩まないように注意する。

「でも毎日プロテイン飲んでるみたいだし、たまにリストウェイトつけてるよ」

 ナツミが顔の前で手を合わせて、楽しそうに言った。

「へぇ、そうなんだ、鍛えてるとこ想像したら何だか萌える」
「羨ましい、俺も筋肉を愛でながら眠りたい……」

 美智生が心底羨ましげに言うので、ナツミが笑った。晴也は俺もって何なんだと思ったが、全否定するのも逆に不自然なので、黙っておく。

「ミチルさんってネコなんですよね?」

 ナツミがさらりと言うので、隣のテーブルの男性がちらっとこちらを見た。美智生も何でもないように返す。

「そうだよ、初対面タチだと思われるんだよね、高校生の頃から筋肉に包まれたい男子なのに……」

 ふと、美智生はどれくらいの気持ちを優弥に対し抱いているのだろうと晴也は思う。優弥はノンケで、結婚はしていないが、決まった女性がいる。望みの無い恋とわかっていても、誰か別の人が現れない限り、美智生の片想いは続くのだろうか。
 時間が来て、ほぼ満席の客席の明かりがすっと落ちた。小さな舞台に照明が入ると同時に、トランペットの前奏が鳴り響き、1970年代の女性ヴォーカルのディスコ曲が始まった。
 5人のダンサーは、全員が濃いグレーのスーツに身を包み、笑顔で上手と下手の両方から登場した。ジャケットの前を開け、裏の紅い色をちらつかせながら、足でリズムをはっきりと刻む。ハンドクラップがずっと流れる音楽に良く合う振りだ。

「わ、すてき」

 思わずといった風にナツミが言った。美智生はいつも通り、真ん中のユウヤに熱い視線を送っている。

「ダブルのベストとかめちゃカッコよく見えてたまらん……」
「ミチルさんはどんな恰好でも大体オッケーなんじゃないですか?」

 晴也は小さく突っ込んだが、そんなことはない、と美智生は否定した。

「堅い目の衣装が好きだ」
「あ、そうですか」

 晴也は久しぶりにショウのスーツ姿を見た気がして、ちょっとときめいた。彼がターンする度にジャケットの裾がはためくが、その形がきれいなのだ。裏地の紅が客席にしっかり見えるように、ターンのタイミングや速さを測っているのではないかと思うくらいだ。

「ショウさん色っぽぉい、おかずにしていい?」

 ナツミに袖を引かれて、晴也はええっ? と思わず言った。いや、俺の許可など得なくとも、好きにしてください……。
 5人は一度引っ込んで、同じメロディが始まると、ジャケットを脱いで出てきた。シャツの袖を少し折っているのが何気にセクシーだ。同じことをナツミが感じていたようで、両手で拳を作って小さく振った。

「手首っ、萌えるっ」
「ナツミはほんとに女子だなあ」
「いや、袖折りは萌えると思います」

 ダンサーたちは、ベストを脱ぎネクタイを緩めた。誰も声を立てなくても、客席の期待の熱量が上がるのを、晴也は肌で感じる。
 曲が盛り上がって客席から自然と手拍子が起こる頃には、5人は上半身裸になりスラックスだけで踊っていた。美智生とナツミが2人してきゃあきゃあ言うので、ショウとユウヤがやたらとこちらに目線を送ってきて、晴也のほうが気恥ずかしくなってしまう。
 音楽の終わりの和音と共に、5人が一糸乱れず同じポーズをぴたりと決めると、客席が一斉に大きな拍手を贈る。ナツミは高い声になって言った。

「あーんもう素敵ぃ、どうしてもっと早くに来なかったのかしら」

 2曲目はがらりと雰囲気が変わり、フルートとチェンバロの古風な音楽だった。ショウと2人の若手が、透け感のある薄い生地の衣装を纏い、バレエに近い柔らかな踊りを見せる。片肌を脱ぎ、足はサンダルといういでたちも相まって、神話に登場するニンフか何かのようだった。3人が手足を伸ばして身体をしならせると、ジョーゼットのような生地の衣装がさらりと揺れて、背中や太腿が露わになるのがなまめかしい。
 ショウの踊りが優雅なのは予想に違わなかったが、両横の2人が意外にも、無駄な動きを抑えた美しい踊りを見せていた。サトルとマキの振りは、ショウを数拍遅れて追いかけている。まるで師匠と彼を慕う若い弟子たちのような関係性や、互いの手が触れそうな距離感に、同性愛的なニュアンスが匂う。

「……そこはかとなくエロくない?」

 美智生がこそっと呟いた。晴也は自分だけがそう感じていたのではないと知り、ほっとする。

「エロいと思います」
「たぶんショウの振り付けだ、ほんとほのエロ好きだよな」

 音楽が静かに終わり、3人が捌けると、すぐに同じ編成のテンポの速い曲が始まった。やはり薄く柔らかな衣装を纏ったユウヤとタケルが登場し、ジャズダンスを展開した。こういう音楽にこういう踊りも合うのだなと、晴也は感心する。
 2人の振りは完全にシンメトリーで、鏡を合わせたようだった。手足を上げる高さや首の角度まで完璧に対照なのが見事だ。元々ドルフィン・ファイブはこの2人が立ち上げたと、晴也は晶から聞いていた。長く一緒に踊っているからこそできることなのかも知れない。
 ユウヤとタケルが衣装の裾を蹴り上げて、シンメトリーでポーズを決めると、大きな拍手が会場に満ちた。先に踊った3人が出て来て、5人で客席に向かい頭を下げる。晴也も大きな拍手を贈った。
 客席が明るくなり、休憩時間ということらしかった。水曜は全くアナウンスが入らないので、晴也はやや戸惑ってしまうが、周りは皆慣れたもので、食べ物や飲み物のオーダーを始めた。

「ああ楽しい、金曜は雰囲気違うんですか?」

 ナツミはとろんとした目になり、水割りを飲む。美智生はカシューナッツをつまみながら、そうだねぇ、と笑った。

「金曜は根っから明るいよな、演出も女子ウケに寄ってるかな?」
「基本的に脱がないですよね」

 晴也の言葉に、ナツミはそうなの? と応じた。

「でも水曜日は男性オンリーだし……」

 ナツミは悩ましげに呟いた。中身が女性であるという自覚を持つ彼にとって、男として水曜にルーチェに来店するのは、本当は精神的苦痛を伴う行動なのだ。

「金曜ももっと脱げばいいんだ、リクエストは多い筈なんだけど」

 美智生は意気揚々と言う。彼の頼んだハイボールと、晴也の頼んだジントニックがやって来た。
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