【完結】フェンリルと勇者と魔王と王子

turarin

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王都にて

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 ミミはポーション作りに慣れ、強力な助っ人として頼りにされるようになった。自信を失っていた彼女には大きな力となった。
回復したウィルに調べて貰ったが、属性はわからなかった。元々神聖力だったものの名残らしい。量も少なく、使えるのは生活魔法位だった。それでもミミは、ポーションが作れるならと、大満足である。魔王城内の雰囲気も良くなり、暫し平穏な日々が続いた。

いよいよ、王国へ出立である。と言っても王都の城門まで、ソラかアオの魔法で転移するだけだ。そして、王宮までフェンリルの姿のソラと正装した4人で、通りを歩いて進む。 

突然、姿を現した4人と一頭に、当然のように、門番は腰を抜かした。
しかし正装した4人と、神々しいフェンリルを目にすると、一瞬固まり、すぐに姿勢をただし敬礼した。大したものだ。 伝説の神獣フェンリルへの賞賛は人々にとって、かなり根深い。

「おかえりなさいませ。そちらはもしかしてフェンリル様ですか?我らをお助けくださるのでしょうか。」
門番とて、最近は税も厳しく、日々辛い暮らしを強いられている。誰もが救済を望んでいる。 

「民の声が聞こえたのだ。我に任せよ。」
重々しくアオが言う。
「ありがとうございます。」
涙に暮れる門番。気づくと周囲に、同じような人垣が出来ている。アオは周囲を見渡し、低い声で言う。
「全て、分かっている。我に任せよ。」
涙にむせぶ人々。

4人と一頭は厳かに進む。アオの表情は渋い。フェンリルの姿なのでわかりにくいのだが4人には手に取るように分かる。
アキラが、ぷるぷる震えながら言う。
「アオ、よく頑張ったね。その調子で頼むよ。」
そして、耐えきれずに、声を殺して爆笑する。
「黙れ…」
小声で、アオが言う。
「アキラ、顔を引き締めろ!」
ウィルがそう言いながら、やはりぷるぷるしている。エドとミミも相当に耐えている。
「ア、アオ……かっこいいわよ…うっふっふ……」
「く…くっ…まだ先は長い…うっふ…」
エドもこらえきれない。一番耐えたのはウィルであった。
打ち合わせ通りである。ただ、こんなにアオが面白いとは思わなかったのだ。

そんなやり取りを繰り返し、喜びにむせぶ人々を後に残しながら王宮へと近づく。

突然エドが叫ぶ。
「ウィル、結界を!」 
アキラを襲ったのと同じ矢が5本、はっきりと目標を定めて襲ってくる。矢の先は赤々と燃え、しつこく標的を狙う。矢はウィルの結界に跳ね返され、その後アオによって無力化される。
周囲の人々は、あまりの出来事に身動きもできない。
「その場から動くな!」
ウィルが人々に向かって指示を出す。

次の瞬間アオが消えた。
と思ったら、あっという間に黒いローブの男を口に咥えて戻って来た。凄絶な青い炎が、身体じゅうからゆらゆらとわき上がっている。
頭を振ってその男を、放り投げる。男は地面に叩きつけられ、フードが脱げ、顔が露わになる。初老の男であった。
「一度ならず2度までもアキラを狙ったのか?!」
怒りに満ちたアオの声が響く。

「残念だな。自害はさせぬ。」
ウィルが傍らに立ち、一瞬で男の口の中の毒を取り出し、魔法で拘束した。
「貴方も、堕ちたものだな。聖獣様までその手にかけるおつもりか?」
ウィルの魔法の師であった。

「あ、あれは、魔塔主様だ!」
周囲の人々の誰かが口にする。それがざわざわと広まっていく。
「魔塔主様がフェンリル様と勇者様ご一行を襲ったのか?!」
「フェンリル様は我等の救いだ!」
「我等の救済に現れた聖獣様に何て事を!」

「静まれ。王に事情を聞こうではないか。我に牙を剥く者を、我は許すことは出来ぬ。」
アオが青い殺気をまといながら、静かに言う。聖獣フェンリルの怒りに人々は震えた。
本当は、我の番に、なのだが、許さぬところは一緒なのでよしとした。

いつの間にかエドの元には騎士団が集結している。優秀な門番は速やかに王宮に使いを出していたのだ。

衝撃的なニュースが伝わるのは速い。捕虜を含めた一行が王宮に着くころには、『せっかく現れてくださったフェンリル様、勇者様、聖女様御一行を、魔塔主が殺そうとした』、と言うニュースは、知らぬ人などいない状態になっていた。





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