御伽噺に導かれ異世界へ

ペンギン一号

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死んだ先が異世界で

ペンギンに出会った異世界で

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(あー…死んじまったな…)



真っ暗な視界が広がり続ける暗闇の世界。一人きりのこの世界で不意にそんなことをおもいながらぼーっとしていた。
ふわふわと浮遊するように漂い、先程まで襲いかかっていた痛みすらも感じない空間。そんな静寂の中で人生最後を考えて過ごす。
まさか、自分がこの歳で死ぬ事になるとは。最後に、凍夜に挨拶がしたかった。
次々と湧き上がる未練が紡の心を揺らす。
でも、多大に残して来た未練は沢山あるけど。
それでも…




助けた事に後悔は無い。



ばあちゃんに胸を張れる生き方はした。
幼い一つの命を守ることができたと。
揺らぐ意識の中そんなことを考えていると…




「コンっ!!」

「あだっ!?」

急に頭部に激痛が走る。
静寂を切り裂くような一撃。
死んだと思っていた紡を現実に引き戻すが如き衝撃が脳を揺さぶる。
現状に頭がついていかずにパニックになりかける。
まばゆい日差しが網膜を刺激する中、ゆっくりと目を開ける。
そこには…









「知らない生き物だ…」


頭の上にペンギンがいた

(うん…これは夢だな!もう一度寝たらきちんと天国に~…)

俺は荒唐無稽な現実に理解が追いつかず、また眠ろうと…




「コンコンコンコンコンっ!!」


めっちゃ叩かれた


「あー!もう!起きる、起きるから!叩くのやめてくれ!」

「くぇ~っ…」

何故だろう。ペンギンにしょうがねぇなみたいな態度取られた…理不尽すぎねぇか?
未だ頭上に陣取る、ムカつくペンギンを見つめながら目を覚ます。
前が薄れるほど霞む視界。それが長時間寝ていたことを物語る。

少しイラつきながら体を起こすとそこはベットの上だった。見た事も無いベットの上にペンギンと俺だけ。その現状を怪訝に感じながら体を起こす。
すると手につけていたばあちゃんのブレスレットがベットの上へと重力に導かれ、するりと落ちていく。
鉄骨に耐えきれなかったのだろうか。それはみごとに砕け散っているな。
いつも肌身離さず身に付けていた大事な形見が砕けた事実に胸が締め付けられる。
目尻に浮かぶ涙。
それを誤魔化すように紡は周りを見渡した。

そこは見たこともない場所。今まで一度もきたことがない家、それだけが分かる。
素材は木材だろうか。山小屋のような造りの家。
見た目に反して、かなり頑強に作られているようだ。


窓から外へと眺めてみると、そこは鬱蒼と茂った森ばかり。灰色の草や、毒々しい色の高い木などが目に入る。
一体どこだよここは。日本でもこんな植物なんか見たことは無いぞ。なんか植物が蠢いているし。
暗闇の中から、誘い込むようなその姿に、恐怖すら感じる。俺の本能が家から離れる事は危険と告げているようだな。
周囲には他に建物はなくこの場所で唯一、この家だけが立っていることが恐怖をさらに加速させる。

「あれは、危険だ…」

もう外を眺めるのはやめておこうか。
精神が削られるような恐怖に耐えきれず、森から逃げるように室内の探索へと切り替えた。

家の中は外とは違い、いたって普通。真ん中に設置された年代を感じる綺麗な机。壁には食器棚が備え付けられ、高級感のある色とりどりの食器が綺麗に並ぶ。
この机なんかかなり高価そうだな。無駄に彫刻が刻まれてるし。それにしてもこの家、だいぶ整頓されているようだな。
誰か住んでいるのであろうか。隅々が綺麗に掃除されている事が、この家に人の気配を感じさせた。



ある程度家の中を見回った後、俺は本題のペンギンとにらめっこをしている。
ペンギンも負けじと見つめ返している。
何故か此奴は起きてからずっと俺の側を離れないまま、付きまとっている謎生物。
どこに行こうとも、一緒について来ていた。


―――なんなんだこいつは?


ペンギンといっても寂れた地方のゆるキャラ感がある見た目をしているし。
磨き上げられたであろう光沢のある嘴を掲げ、俺の膝くらいしかない身長で堂々と胸を張ってドヤ顔をしている。
それが凛々しい顔立ちに妙に似合っており、その姿がさらに謎を加速させる。

こいつは一体なんなんだろうか…なぜ俺の側からずっと離れないのか…

そして…









「ペンギン用の燕尾服ってどこで売ってんだよ…」


何故か燕尾服を着ている。

訳がわからない。全てが謎のペンギンだ。

まぁ、ペンギンに話しても「この燕尾服は自作ですぞ」そうか、自作なのか…

ん…?あれ?
え?こいつ…




「しゃべったぁぁぁぁぁぁあああ!!?」



え!?ペンギンって喋るのか!?初めて知ったんだけど!しかも何故かおっさん口調!そんな見た目なんだし、もっと可愛く喋れよ!!
俺が驚いているとペンギンも話しかけてくる。



「失礼な!最近のペンギンは礼儀正しい紳士スタイルが主流ですぞ!」

「最近のペンギンすげーなオイ!!」

いきり立つペンギンと突っ込む俺、現場は混沌としていた。

謎のペンギンに困惑しながらも、その姿を観察する。

「どうしたのかね。そんな見つめて、私に惚れたのであるか?」

少し黙っていなさい。

あー…なるほどな。そういうことか。
よくよく考えたらわかることだった。現実的に喋るペンギンなんて存在するわけがない。


「ペンギン、お前ばあちゃんの式神だろ?」


ペンギンが固まった。やっぱりか。てことはペンギンとここの家もばあちゃんに関係ある場所ってことか。

「なるほど守子もりこ様のお孫様はなかなか個人プレーが好きなお方のようですぞ」

「何故だろう…その言い方に悪意を感じる…」

「いえいえ!自分だけで(言葉を)いっては自分だけで(納得して)いったので個人プレーが好きなジェントルマンかと思ったんですぞ!」

「やめてくれ!!純粋な高校生にそんなレッテル貼られたら心が壊れる!」

このペンギン危険すぎる!狙ったように的確に精神にダメージを与えてくる。懐かしいこの感覚。間違いない…ばあちゃんの式神だ…

初対面とは思えないふざけた会話を繰り広げるペンギンと人間。その光景はまるで、絵本の世界のようであった。
そんな二人は漸く、本題へと入っていく。

「よし、まず自己紹介しよう!俺の名前は御伽 紡。御伽 守子の孫で、生きているのなら16歳だな。特技も特にない、一般的な高校生だ。ばあちゃんの式神なら家族みたいなもんだし俺のことは紡って呼んでくれ」

「ふむ、よろしい。では、私の名はミスターP。ペンギン界隈では少しは名の知れたジェントルマンである。今後はミスター、もしくはピーと呼び捨てで構わないのである。」

「おう!よろしくなピー!」

「うむ、よろしくなのである。紡よ。」

初対面でわかった。どうやらばあちゃんは式神のセンスがおかしいようだ。
最後までボケてなかったはずなんだけどな。
まぁ、しょうがない。今できるのはこいつから情報収集することだけだし。
一つわかったのはこの式神は何故か俺のことを知っているということ。話したのは、ばあちゃんだと思うけどなんのために?
いや、それよりまず聞かなきゃいけないことがある。

「よし、それじゃ聞きたいんだけどさ、俺って生きてんの??死んでるの??」

「ふむ、紡は生きておるぞ。大丈夫である。紡が先ほど目を覚ましたときにつけていたブレスレットが砕けたのである。」

あー…うん。ばあちゃんの形見のブレスレット。肌身離さず、ずっと持ち歩いても一切傷つかなかった俺の大切な思い出。砕けたからもう戻せないよなぁ…

「あのブレスレットは一度だけどのような事象に対しても紡が死にかけたらここに飛ばして、生命回復をする機能がついた魔道具である。今は使用したので砕けた…つまりは紡は守子に助けられたということである。」



「あぁ…」
それは無意識に口から漏れた。
ピーの言葉が、胸に染み渡るように巡り、それに応じて、何か暖かいものに包まれる感覚に陥る。
俺は無意識に涙が瞳から溢れでていた。
ばあちゃんが亡くなってからというもの、一人きりの屋敷で只々耐えてきた。もう家族はいない。俺は一人しかいないんだと、心に刻んで。
当然、当時は寂しい時もあった。それを助けてくれる者はいないと無理やり乗り越えてきた。
でも、それでもばあちゃんは亡くなった後も俺を護ってくれていた。
死んでもなお、想い続けてくれていた。
そのことがとても嬉しく。とても暖かく感じて涙が止まらなくなる。
その場で崩壊したように崩れ泣く紡。
それを暖かく見守るピーがどうも不可思議で、でも嬉しかった。





――――――――――――――――





ようやく落ち着いてきて、ピーは話しを続けた。

「それで、生きてるとわかった以上次は、ここがどこなのかを知りたいのではないのですかな?」

正解だ。それを知りたかった。
雰囲気で察したのかピーは続ける。

「ここは、俗に言う異世界である。紡が住む世界とは違う秩序が存在する世界、守子様が紡に残した可能性の世界である!」

「いやいやいや!そんなわけないでしょ!陰陽師ですら現世から妖界へと飛ぶのには20人体制の儀式で2週間はかかるんだぞ!ブレスレット一個で異世界なんかに飛べるわけ…」

ピーの言葉に引っかかる。
あれ、ちょっと待てよ?
さっきピーのやつこのブレスレットを魔道具って言っていたよな。
なんだ魔道具って?陰陽師の法具ならわかるんだが。
まさかこれが可能性ってやつなのか?

「ピー、それが魔道具ってやつの力なのか?」

「うむ。紡は理解が早くて助かるのである。その通りである」

もしここが本当に異世界として、ピーの話を全部信じるとすると…
もしかしたら、もしかすると…

「ピー、正直に言ってくれ。ここでなら俺は式神を作れるのか?」

「無理である。」




悲報、異世界に来てまで俺は落ちこぼれだった…



ばあちゃんが残した可能性がこれなら小一時間ピーに説教してやろう。



「もともと紡は作るのに向いてはいないのである。
紡は法術に関しては不器用である。なので創作はもともと無理である。」

作るのが無理なら契約する法力がない俺には式神は扱えない。つまりは異世界にきてもやはり俺はどうしようもないということか。
ついに達観し諦めかけていたその時、

「法力が無い紡でも、この世界なら魔力があるのである。それが紡の可能性である!」

そう言いながらピーがどこからか出した一冊の本を俺に渡してくる。
それは、少し薄汚れた黒い表紙の分厚い本。見た事も無い本の表紙には『fairyland』と書かれており作者名は空白。それ以外は何も書かれていなかった。
ピーからその本をそっと受け取る。すると、急にその本の作者名に『御伽 紡』と記入され、本と俺が一本の線で繋がれ、一体になったような感覚に陥った。

「この本は何だ?いきなり俺と繋がったような気がしたが…」

「それは紡の為に守子の残した絵本。物語を引き出し、登場人物を使役する魔道具である」

「物語を引き出す?よくわからんがこれを使えば俺も式神を持てるってこと?」

「簡潔にいうとそういう事である」

生まれて初めて、目の前に現れた可能性。
それが今まで落ちこぼれとして生きてきた俺には眩しくみえる。
先程まで嫌だった目の前ペンギンのドヤ顔がとても心強く思えた。





―――――――――――――――――――





よし、希望がみえてきた!
それじゃ、あと聞きたいのは、


「あとは、ここから地球への戻り方を教えてくれ」


「知らないのである」





…ん?




「戻り方は?」

「知らないのである!」


詰んだぁぁぁぁああああああ!


えっ!?どうすんの?
戻れないとかどうすんの!?
凍夜や淵夏にも、もう会えないってこと…
異世界のこんな家の中、ペンギンと二人きりとか誰得だよ…
一人で自虐して凹んでいた。

「そういえば、守子様が言っていたのである。『この家には、異世界へとつながるドアがあるわ。紡にあったら教えてあげなさい』と」

「それは何処に?」

「忘れたのである!」

どうしてくれようか、このクソペンギン。平然とした顔で言い切りやがって。
ピーのドヤ顔に紡は苛立ちを隠せずにいる。
はぁ…キレたってしょうがない。先ずは、出来る限り自力で何とかしてみるか。
そう自分に言い聞かせ帰るための方法を模索していく。

さきほど、部屋の中はだいたい探し終えた。至って普通の小屋であり、何かしらがある様子もない。あとやることといえばピーから渡されたこの本なんだが…さっと中身を見たが綺麗に白紙であった。
どう使えばいいのだろうか。

少し悩んでいると、ふと思い出す。
確かピーは『物語を引き出し登場人物を使役する』って言っていた。
それが真実であるならば―――やって見る価値はあるはずだ。

俺は部屋の中心まで歩いていき、魔導書を広げる。

「うおっ!何だいきなり」

その瞬間、足元に鮮やかな白の魔方陣が浮かび上がる。それを見て確信する。



「間違ってなかった」



俺はすぐさま魔道書を掲げながらイメージする。それは昔ばあちゃんが一人で眠れない俺に語ってくれた物語。その中でも一番好きだったカッコいい、あいつのことを。



真剣な面持ちで、魔導書を掲げる紡。それを離れた場所から中一羽のペンギンが優しい笑顔で微笑みながら眺めていた。



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