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閑話 2
閑話 崩壊していくギルド内
しおりを挟む大人数の笑い声や、酔っ払いの怒号が飛び交う。何時も喧騒に包まれている冒険者ギルド。
今日も、依頼を終わらせたのであろう冒険者達が、一階で盛大に騒いでいた。
酒を片手に皆が騒ぐいつもと変わらない風景…の筈だったが、そのギルドの二階で一箇所、どんよりとした空気の流れる場所があった。
「マスター…本日の分です」
「そうか、今回も変わらずか」
それは、数日前より恒例となった報告。
受付嬢が持ってきた一枚の紙。そこに書かれていたのは…
「また、辞めたのか…」
冒険者ギルドを脱退した者達の一覧であった。
ギルドマスターに詰め寄っていた第一陣の離脱者から伝わったのか、襲撃の際東門についていた者達から次々と脱退者が増えていた。
それは、日に日に増していっており、ここ数日は、毎日受付嬢の誰かが一覧と共に報告へと出向いている。
「辞めた奴らはなんと言っていた」
「…大体が、あんな化け物とは戦いたくないと」
「はぁ…やはりか」
『化け物』。それは当然紡の事である。
東門で戦っていた者達は、全ての者があの戦いを見ていた。
全てを消し去る、禍々しいオーラを振りまく化け物狼と、全てを救った冗談みたいな存在の化け物狐の頂上決戦を。
凶悪に周囲へと死を振りまく巨大な狼。それを一見ちっぽけな人物が、一人で討伐した英雄伝を。
見ていたものは、ほぼ全てが実感していた。『あの二つの化け物は俺達が戦っていい存在ではない』と。
本能で理解してしまったのだ。
『あれは自分達とは違う存在なんだ』と。
そんな者達が、先の脱退者から、この冒険者ギルドがその者と敵対していると聞かされる。
その結果、かなりの数、冒険者ギルドを脱退する者が、増える事態にまで発展していた。
その中には、当然人数の少ないSランクや、Aランクの者達も数人ほど含まれる。
それは、冒険者ギルドにとっては、かつてない大打撃となっていた。
当然、脱退する者へとギルドマスターとして、カレナは説得などもしている。
だが…今のところ、思い止まった者はただの一人もいなかった。
依頼の優先や、依頼金の上乗せなど、様々な提案を持ちかけていっても、全ての者が最後は口を揃えて言うのだ。
『ならば、あの化け物と和解しろ』と。
出来るならば、カレナもしているだろう。その為に、かなりの人員を使い、捜索の手を広げていた。
だが…
「脱退者は仕方ない。それで、話していた者は見つかったのか」
「…残念ながら、この街から出て行ったまま、未だこの街に戻ってきたという報告は受けていません」
「くっ…和解交渉すら出来ないなんて…」
紡が、面倒くささにかまけて、ウェルドの街へと来ていなかったために、会うことすら出来ていない状況が生み出されていた。
必死に探しても見つからず、時間がかかるたびに、増えていく脱退者。
そんなジレンマに苛まれて、カレナはかなりのストレスを抱えていた。
この状況を作り出した原因が、自身ということもあった為、周りに当たり散らすこともできず、只々ストレスを耐え続ける日々。
すでにカレナは胃に穴が開きそうな程精神的に病んでいた。
「マスター…1日でもお休みになられた方が」
「ダメだ。家へと帰り着いても、この件で悩んでしまう。さらに脱退者が増えたのではないかとね…
だから、ここにいた方が、まだ精神的に楽なんだ」
そう語るカレナは、力のない乾いた笑みを浮かべていた。
そこに訪れる一つの報告…
「マスター。失礼します」
新たな受付嬢が室内へと入ってくる。
「どうした、また脱退者が出たのか」
「いえ、そうではないのですが…」
言い渋る受付嬢。カレナの姿もあり、とても言いずらそうな表情を浮かべている。
「脱退者でなければ、一体どうしたというんだ」
「それが…商業ギルドから今、伝令が来まして…」
冒険者ギルドへと、商業ギルドから伝令が来るなど、中々無い。ただ事では無いのだろう。
「商業ギルドからだと。なんの話だ」
「それが…買取を制限させてもらうと…」
「なんだと!?」
商業ギルドへの卸。それは、冒険者ギルドにおいて、収入の柱の一つであった。
冒険者達が倒したモンスターを冒険者ギルドが解体し、それを商業ギルドが買い取る。その形で今まで成り立って来ていた。
それを今更制限をかけるなど、冒険者ギルドへの挑発。敵対行為と取られても間違いない話である。
「理由はなんと言っていた。理由次第では、冒険者ギルドは商業ギルドを敵とする話だぞ」
「それが…ここに来た伝令の話では、冒険者ギルドへの信用が無くなった。
商業ギルドは、街を救った英雄に付くと残して行かれました」
「くっ…また…またあの少年の事か!」
後悔の叫びが部屋の中に轟く。
片手で胃を抑えながら、憤るカレナ。
だが、いくら此処で憤っても、状況は一向に変わらない。
抑えても未だ疼き続ける痛みを感じながら、顔を歪めて立ち上がる。
「商業ギルドへと行ってくる。不在の間は任せる」
「分かりました」
商業ギルドへと弁明と、状況の改善のためにガタガタな体に無理をさせて向かっていく。
(せめて制限だけは解除させなくては…)
それを心配そうに見つめる二人の受付嬢。
二人が見つめるその背中は、昔の堂々とした姿は無く、枯れ木の様に、朽ちゆく哀愁が漂っていた。
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