御伽噺に導かれ異世界へ

ペンギン一号

文字の大きさ
61 / 61
閑話 2

閑話 崩壊していくギルド内

しおりを挟む






大人数の笑い声や、酔っ払いの怒号が飛び交う。何時も喧騒に包まれている冒険者ギルド。
今日も、依頼を終わらせたのであろう冒険者達が、一階で盛大に騒いでいた。
酒を片手に皆が騒ぐいつもと変わらない風景…の筈だったが、そのギルドの二階で一箇所、どんよりとした空気の流れる場所があった。

「マスター…本日の分です」

「そうか、今回も変わらずか」

それは、数日前より恒例となった報告。
受付嬢が持ってきた一枚の紙。そこに書かれていたのは…

「また、辞めたのか…」

冒険者ギルドを脱退した者達の一覧であった。
ギルドマスターに詰め寄っていた第一陣の離脱者から伝わったのか、襲撃の際東門についていた者達から次々と脱退者が増えていた。
それは、日に日に増していっており、ここ数日は、毎日受付嬢の誰かが一覧と共に報告へと出向いている。


「辞めた奴らはなんと言っていた」

「…大体が、あんな化け物とは戦いたくないと」

「はぁ…やはりか」


『化け物』。それは当然紡の事である。
東門で戦っていた者達は、全ての者があの戦いを見ていた。
全てを消し去る、禍々しいオーラを振りまく化け物狼と、全てを救った冗談みたいな存在の化け物狐の頂上決戦を。
凶悪に周囲へと死を振りまく巨大な狼。それを一見ちっぽけな人物が、一人で討伐した英雄伝を。
見ていたものは、ほぼ全てが実感していた。『あの二つの化け物は俺達が戦っていい存在ではない』と。
本能で理解してしまったのだ。
『あれは自分達とは違う存在なんだ』と。
そんな者達が、先の脱退者から、この冒険者ギルドがその者と敵対していると聞かされる。
その結果、かなりの数、冒険者ギルドを脱退する者が、増える事態にまで発展していた。
その中には、当然人数の少ないSランクや、Aランクの者達も数人ほど含まれる。
それは、冒険者ギルドにとっては、かつてない大打撃となっていた。

当然、脱退する者へとギルドマスターとして、カレナは説得などもしている。
だが…今のところ、思い止まった者はただの一人もいなかった。
依頼の優先や、依頼金の上乗せなど、様々な提案を持ちかけていっても、全ての者が最後は口を揃えて言うのだ。

『ならば、あの化け物と和解しろ』と。

出来るならば、カレナもしているだろう。その為に、かなりの人員を使い、捜索の手を広げていた。
だが…

「脱退者は仕方ない。それで、話していた者は見つかったのか」

「…残念ながら、この街から出て行ったまま、未だこの街に戻ってきたという報告は受けていません」

「くっ…和解交渉すら出来ないなんて…」

紡が、面倒くささにかまけて、ウェルドの街へと来ていなかったために、会うことすら出来ていない状況が生み出されていた。

必死に探しても見つからず、時間がかかるたびに、増えていく脱退者。
そんなジレンマに苛まれて、カレナはかなりのストレスを抱えていた。
この状況を作り出した原因が、自身ということもあった為、周りに当たり散らすこともできず、只々ストレスを耐え続ける日々。
すでにカレナは胃に穴が開きそうな程精神的に病んでいた。

「マスター…1日でもお休みになられた方が」

「ダメだ。家へと帰り着いても、この件で悩んでしまう。さらに脱退者が増えたのではないかとね…
だから、ここにいた方が、まだ精神的に楽なんだ」

そう語るカレナは、力のない乾いた笑みを浮かべていた。
そこに訪れる一つの報告…

「マスター。失礼します」

新たな受付嬢が室内へと入ってくる。

「どうした、また脱退者が出たのか」

「いえ、そうではないのですが…」

言い渋る受付嬢。カレナの姿もあり、とても言いずらそうな表情を浮かべている。

「脱退者でなければ、一体どうしたというんだ」

「それが…商業ギルドから今、伝令が来まして…」

冒険者ギルドへと、商業ギルドから伝令が来るなど、中々無い。ただ事では無いのだろう。

「商業ギルドからだと。なんの話だ」

「それが…買取を制限させてもらうと…」

「なんだと!?」

商業ギルドへの卸。それは、冒険者ギルドにおいて、収入の柱の一つであった。
冒険者達が倒したモンスターを冒険者ギルドが解体し、それを商業ギルドが買い取る。その形で今まで成り立って来ていた。
それを今更制限をかけるなど、冒険者ギルドへの挑発。敵対行為と取られても間違いない話である。

「理由はなんと言っていた。理由次第では、冒険者ギルドは商業ギルドを敵とする話だぞ」

「それが…ここに来た伝令の話では、冒険者ギルドへの信用が無くなった。
商業ギルドは、街を救った英雄に付くと残して行かれました」

「くっ…また…またあの少年の事か!」

後悔の叫びが部屋の中に轟く。
片手で胃を抑えながら、憤るカレナ。
だが、いくら此処で憤っても、状況は一向に変わらない。
抑えても未だ疼き続ける痛みを感じながら、顔を歪めて立ち上がる。

「商業ギルドへと行ってくる。不在の間は任せる」

「分かりました」

商業ギルドへと弁明と、状況の改善のためにガタガタな体に無理をさせて向かっていく。

(せめて制限だけは解除させなくては…)

それを心配そうに見つめる二人の受付嬢。
二人が見つめるその背中は、昔の堂々とした姿は無く、枯れ木の様に、朽ちゆく哀愁が漂っていた。


しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

徒人
2018.11.04 徒人

好きです。

2018.11.04 ペンギン一号

感想有難うございます。
とても嬉しいです。
是非今後もお楽しみ下さい。

解除
名前が決まらん

人が鉄骨が突き刺さって無残な死に方をしてると言うのに、野次馬は一体どういう神経をしてるんだろう。
普通そんな事があったら、グロイし怖くて震えたりあるいは警察や救急車などに連絡をしていると思う。
──ま、何が言いたいかってゆーと…人が死ぬのに動画なんか撮ってる野次馬許さない。

2018.11.03 ペンギン一号

感想有難う御座います。
最近の、人間心理だと、他人の騒動に関わり合いになりたくない。
youtubeなどに乗せる動画撮影などが先だ。
という感じかな、と思い表現しました。
火事や事故などでも、写真をパシャパシャして、動かない人を見たことがあったもので…
今後もこの様な表現があるかもしれませんが、是非読んでいただけると有難いです。

解除

あなたにおすすめの小説

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される

希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。 ​すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。 ​その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。