6 / 12
6章
秋のはじまり
しおりを挟む
道沿いの木々が、なんとなく黄色くなり始める頃、どこからかやってきた冷たい風は、キレイな青空を連れてきた。
潤の店は少しずつ客が増え、最近は隣り町から、女性客がよく来るようになった。初めは数人の女子高生が、夏希から聞いたと言って店にやってきたが、そのうち待合の椅子がなくなる日が続いたので、仕方なく予約を取ることにした。
ベースの講師は、店が休みの火曜日だけにした。
夏希は時々、潤の店の前を通ったが、いつも客が遅くまでいて、最近はもう一人、女性の美容師が入ったという話しを聞いた。バスの窓から、2人が仲良さそうに話している姿を見ると、やっぱり自分はからかわれただけだったのかと、考えたりもする。
潤さんは嫌な事を忘れる魔法ではなくて、本当は私の事を遠ざけるおまじないを使ったのかもしれない。夏希はそう思っていた。
潤は夏希の髪がそろそろ、肩につく頃だと思いながらも、店に来ないし、町の中でも会う事がなくなり、やっぱり嫌われたか、そう思っていた。
あの日。
あの子にキスをしたのは、自分でもどうしてなのかわからない。
俺は川の底で動けなくなったあの子を、すくい上げようと生ぬるい水の中に手を入れた。自分の手の中で、泳いでいたと思ったあの子は、気がつくとまた水の中へ戻っていってしまった。高校生の気まぐれな感情なのかな。
バトミントン部全員が、2週間の自宅謹慎となり、お酒を飲んでいた有紗を含む5人は、2ヵ月の謹慎となった。2月の謹慎となると、留年は決定的となり、5人はそのまま自主退学をしたと、優芽からのラインで知った。
顧問の原田は別の高校へ条件付きの移動となり、あの日、疲れて眠っていた部員達のほとんどが、理由もわからず、家での退屈な2週間を過ごす事となった。
七海が自殺した後、すぐに起きた今回の事は、夏希が思っていた以上に、大きな代償を払う事となる。
今後1年間の対外試合禁止。後輩達は、3年生を憎んだ。
夏希達3年生は、学校推薦者を選ぶ校内選考では、バトミントン部というだけで、不利な立場となる事が、後からわかった。
夏希は謹慎が解けると、すぐに中間テストがあり、三者面談が行われた。
夕方。
順番を待つ夏希の隣りに青田がいた。
「城田、どうすんの?」
青田が聞いた。
「決めてない。」
夏希は愛想なく答えた。
青田の母はそんな夏希を見て、深いため息をついた。
「あなた達が悪いわけじゃないでしょう。」
そう夏希に言うと、
「そうですけどねぇ。同じ部員には変わりないんだし。」
依子が言った。夏希は青田をチラッとみると、青田は目を反らした。
廣岡が母親と教室から出てきた。代わりに青田が呼ばれた。廣岡はあの夜、有紗達と一緒にお酒を飲んでいたという噂もあった。2週間の謹慎で済ませたのは、原田から、廣岡への謝罪だったのかもしれない。決まっていた大学の推薦は取り消されたらしいが、また別の大学から、推薦の声が掛かっているらしい。
浮かない顔をしている青田が教室から出てくると、今度は夏希が担任に呼ばれた。
「城田さん、知っての通り、学校推薦は諦めてください。」
担任はそう言って推薦の条件を夏希の母に見せた。
「受験は非常に厳しいと思いますが、この前の中間テストで少し成績が伸びたので、このまま入れそうな大学を選んで受験しましょう。あまり選択肢はありませんが、進学を希望するなら、そうするしかありません。」
あの時、大人しく原田の言う事を聞けと言った担任の言葉など、夏希は上の空だった。玄関に散らばった画鋲を1人で集めた光景が、はっきりと浮かんでくる。
「城田、聞いてるか?」
担任は夏希にそう言ったが、空返事をすると、一通り担任の持論を聞いて、面談は終了となった。
「お母さん、ごめん。大学は行かなくてもいいから。」
「夏希、入ってくれさえすれば、あとはなんとかなるから、受験してごらん。」
母はそう言った。
次の日。
非常階段でさくらとお弁当を食べていると、
「ねぇ、砂田さん達はもういないのに、私達、やっぱり変だね。」
そう言ってさくらは笑った。
「なんとなく、あのクラスって苦手。」
夏希はそう言った。
「夏希がいない間に学校祭もあってさ、委員長の山田が張り切っちゃって、なんかこっちはそれどころじゃなかったのに、もう独走状態。」
「山田くん、きっと廣岡くんがいなかったから、やりやすかったんでしょう。」
「そっか。廣岡が嫌だって言ったら、クラスの女子は、絶対反対するもんね。」
「ねえ、さくら。進路って決まった?」
「決まったよ。私ね、町の奨学金もらってね、看護学校に行くの。町に帰ってきたら、老人ホームで働くつもり。」
「へぇ、そんな事できるの?」
「看護師ってどこも足りないからさ。町に帰ってきてるれるのなら、けっこういい待遇してくれるよ。」
「それって看護師だけ?」
「そうだね。だけど、病院が直接奨学金を出している所もあるし、なりたいならいろいろ調べてみればいいよ。今度、資料持ってきてあげようか。」
「うん。」
「夏希、そういえばあの美容室、予約がぜんぜん取れないみたいだね。」
「いつも混んでるのは知ってたけど。」
「もう1人美容師さんが増えたけど、みんな男の人に切ってもらいたくて、一度切ってもらったら、半年先まで、予約を入れていくらしいの。」
「へぇ~。潤さん、ベースの講師はやめたのかな。」
「ベースの講師?」
「あっ、なんかそう、聞いた事があって。」
「やってないんじゃない?だって、あれじゃ毎日、休みなんてないみたいだし。」
「そんなに混んでるんだ。」
「だってカッコいいよね、あの人。」
「うん。」
「ねぇ、私達の成人式の予約、もうしておこうか。」
「無理だよ。成人式は着付けのできるマリ美容室って決まってるでしょう。」
「そうだったね。」
バス停で参考書を読んでいると、青田が隣りにきた。
「バス何時?」
「45分。」
「次は?」
「次は20時。」
「ずいぶん、時間が開くんだね。」
「帰る時間に合わせているからね。」
「城田、20時で帰れよ。」
「なんで?」
「一緒に図書館行かないか?俺、家に帰っても勉強しないから、少し勉強に付き合ってよ。」
「そんなの、1人でいけばいいでしょう。」
「1人なら、絶対行かないなら、頼んでるんだろう。ほら、飴やるからさ。」
「なにそれ。」
「行くぞ、早く。」
青田は歩き始めた。
遅れてついてくる夏希の手を繋ぐと、図書館までの道を急いだ。夏希は青田の手を離し、自分が先に歩き始めた。
「おい!待ってよ。」
「青田くん、飴ちょうだい。」
夏希は振り返って青田に手を出した。
「ほら。」
青田は夏希に飴をひとつ渡した。
夏希は飴を口に入れると、
「青田くん。これ好きだよね。」
そう言った。
「前に城田が持ってるの見たから。」
青田はそう答えた。
「私ね、今はこれ。」
夏希は別の飴を青田に渡した。
「すごく酸っぱいよ。口が痛くなるから。」
青田はそれを口に入れると、
「本当だ、酸っぱい。」
そう言って顔をしかめた。
図書館の自習室に着くと、青田はプリントをカバンから取り出すと、ここを教えてと指を指した。
「これ、物理?私、ぜんぜんわかんない。青田くん、答えある?」
「あるよ。」
夏希は答えをプリントにひとつずつ写すと、
「青田くん、こうだって。わかった?」
そう言った。
「次はこれ。」
次は問題を読むと、解けそうだったので、夏希は式書いていった。答えが違ったので、なんで?と言ってもう一度、ひとつひとつやり直していく。
「できた。」
「次はこっち。」
「もう、青田くん、一問くらい自分でやってみて。」
夏希がそう言って青田にプリントを向けると、青田はスラスラと問題を解いていった。
「そっか青田くん、理数はA組で勉強してるんだっけ。私が教えなくてもできるのに。」
夏希はそう言った。
「城田、じゃあ、国語教えて。」
「国語って、勉強するの?」
「するだろう普通に。」
「主人公の気持ちなんて、勉強しなくてもわかるでしょう?」
「わかるなら、教えろよ。」
閉館時間の19時になったので、2人は図書館を出た。
「青田くん、じゃあね。」
夏希は青田に手を振った。
「バス停まで送っていくよ。」
青田がついてきた。
「いいよ。早く帰ってご飯食べて、寝ればいいでしょう。」
「付き合ってもらったのはこっちだし。城田が家に着く頃まで、何も食べないで待ってるから。」
「青田くん、本当に私の事が大好きなんだね。」
夏希は青田をからかった。
「好きだよ。あんな事がなかったら、試合が終わってから、ちゃんと伝えようって思ってた。」
青田は真剣な顔をした。
「高校生のうちは、好きだとか嫌いだとか、まだよくわかってないから、気持ちが燃え上がっていくんだよ。もう少し大人になって、自分でいろんなものを選べるようになったら、きっとあの頃は若かったなぁって、恥ずかしい思い出になるから。」
夏希はそう言った。
「城田、ずいぶん大人びた事いうんだな。ド派手な男の人に教えられたのか?」
「はあ?」
「その人の事、好きなのか?」
夏希は吹き出した。
「本当は図書館なんて口実で、城田と話したかったんだ。」
夏希がいくら笑っても、青田は笑ってくれない。
「城田、本当は廣岡の事、好きだっただろう?」
「誰があんなやつ。それにね、私は別にそんな感情を持たなくても、生きていけるし。」
青田は夏希の髪を触り、
「それなら、なんで髪を切ったの?」
そう言った。
「けっこう伸びたでしょう。」
髪を触る青田の手から離れた。
「俺、城田に髪を切らせるようなそんな思いは、絶対させないから。」
青田は夏希を抱きしめた。
「残念でした。親に言われて切っただけでした。」
夏希は青田から離れた。
「城田、嫌いになる方法知ってるなら、教えてくれよ。俺、城田の事、ずっと好きだったんだよ。」
青田の目を見ると、なんだかとても切なくなった。
「いいよ。忘れさせてあげる。」
夏希は青田に近づくと、そっとキスをしようとした。目を閉じた青田の頬をつねると、
「じゃあね。」
夏希は笑って手を振った。
潤の店は少しずつ客が増え、最近は隣り町から、女性客がよく来るようになった。初めは数人の女子高生が、夏希から聞いたと言って店にやってきたが、そのうち待合の椅子がなくなる日が続いたので、仕方なく予約を取ることにした。
ベースの講師は、店が休みの火曜日だけにした。
夏希は時々、潤の店の前を通ったが、いつも客が遅くまでいて、最近はもう一人、女性の美容師が入ったという話しを聞いた。バスの窓から、2人が仲良さそうに話している姿を見ると、やっぱり自分はからかわれただけだったのかと、考えたりもする。
潤さんは嫌な事を忘れる魔法ではなくて、本当は私の事を遠ざけるおまじないを使ったのかもしれない。夏希はそう思っていた。
潤は夏希の髪がそろそろ、肩につく頃だと思いながらも、店に来ないし、町の中でも会う事がなくなり、やっぱり嫌われたか、そう思っていた。
あの日。
あの子にキスをしたのは、自分でもどうしてなのかわからない。
俺は川の底で動けなくなったあの子を、すくい上げようと生ぬるい水の中に手を入れた。自分の手の中で、泳いでいたと思ったあの子は、気がつくとまた水の中へ戻っていってしまった。高校生の気まぐれな感情なのかな。
バトミントン部全員が、2週間の自宅謹慎となり、お酒を飲んでいた有紗を含む5人は、2ヵ月の謹慎となった。2月の謹慎となると、留年は決定的となり、5人はそのまま自主退学をしたと、優芽からのラインで知った。
顧問の原田は別の高校へ条件付きの移動となり、あの日、疲れて眠っていた部員達のほとんどが、理由もわからず、家での退屈な2週間を過ごす事となった。
七海が自殺した後、すぐに起きた今回の事は、夏希が思っていた以上に、大きな代償を払う事となる。
今後1年間の対外試合禁止。後輩達は、3年生を憎んだ。
夏希達3年生は、学校推薦者を選ぶ校内選考では、バトミントン部というだけで、不利な立場となる事が、後からわかった。
夏希は謹慎が解けると、すぐに中間テストがあり、三者面談が行われた。
夕方。
順番を待つ夏希の隣りに青田がいた。
「城田、どうすんの?」
青田が聞いた。
「決めてない。」
夏希は愛想なく答えた。
青田の母はそんな夏希を見て、深いため息をついた。
「あなた達が悪いわけじゃないでしょう。」
そう夏希に言うと、
「そうですけどねぇ。同じ部員には変わりないんだし。」
依子が言った。夏希は青田をチラッとみると、青田は目を反らした。
廣岡が母親と教室から出てきた。代わりに青田が呼ばれた。廣岡はあの夜、有紗達と一緒にお酒を飲んでいたという噂もあった。2週間の謹慎で済ませたのは、原田から、廣岡への謝罪だったのかもしれない。決まっていた大学の推薦は取り消されたらしいが、また別の大学から、推薦の声が掛かっているらしい。
浮かない顔をしている青田が教室から出てくると、今度は夏希が担任に呼ばれた。
「城田さん、知っての通り、学校推薦は諦めてください。」
担任はそう言って推薦の条件を夏希の母に見せた。
「受験は非常に厳しいと思いますが、この前の中間テストで少し成績が伸びたので、このまま入れそうな大学を選んで受験しましょう。あまり選択肢はありませんが、進学を希望するなら、そうするしかありません。」
あの時、大人しく原田の言う事を聞けと言った担任の言葉など、夏希は上の空だった。玄関に散らばった画鋲を1人で集めた光景が、はっきりと浮かんでくる。
「城田、聞いてるか?」
担任は夏希にそう言ったが、空返事をすると、一通り担任の持論を聞いて、面談は終了となった。
「お母さん、ごめん。大学は行かなくてもいいから。」
「夏希、入ってくれさえすれば、あとはなんとかなるから、受験してごらん。」
母はそう言った。
次の日。
非常階段でさくらとお弁当を食べていると、
「ねぇ、砂田さん達はもういないのに、私達、やっぱり変だね。」
そう言ってさくらは笑った。
「なんとなく、あのクラスって苦手。」
夏希はそう言った。
「夏希がいない間に学校祭もあってさ、委員長の山田が張り切っちゃって、なんかこっちはそれどころじゃなかったのに、もう独走状態。」
「山田くん、きっと廣岡くんがいなかったから、やりやすかったんでしょう。」
「そっか。廣岡が嫌だって言ったら、クラスの女子は、絶対反対するもんね。」
「ねえ、さくら。進路って決まった?」
「決まったよ。私ね、町の奨学金もらってね、看護学校に行くの。町に帰ってきたら、老人ホームで働くつもり。」
「へぇ、そんな事できるの?」
「看護師ってどこも足りないからさ。町に帰ってきてるれるのなら、けっこういい待遇してくれるよ。」
「それって看護師だけ?」
「そうだね。だけど、病院が直接奨学金を出している所もあるし、なりたいならいろいろ調べてみればいいよ。今度、資料持ってきてあげようか。」
「うん。」
「夏希、そういえばあの美容室、予約がぜんぜん取れないみたいだね。」
「いつも混んでるのは知ってたけど。」
「もう1人美容師さんが増えたけど、みんな男の人に切ってもらいたくて、一度切ってもらったら、半年先まで、予約を入れていくらしいの。」
「へぇ~。潤さん、ベースの講師はやめたのかな。」
「ベースの講師?」
「あっ、なんかそう、聞いた事があって。」
「やってないんじゃない?だって、あれじゃ毎日、休みなんてないみたいだし。」
「そんなに混んでるんだ。」
「だってカッコいいよね、あの人。」
「うん。」
「ねぇ、私達の成人式の予約、もうしておこうか。」
「無理だよ。成人式は着付けのできるマリ美容室って決まってるでしょう。」
「そうだったね。」
バス停で参考書を読んでいると、青田が隣りにきた。
「バス何時?」
「45分。」
「次は?」
「次は20時。」
「ずいぶん、時間が開くんだね。」
「帰る時間に合わせているからね。」
「城田、20時で帰れよ。」
「なんで?」
「一緒に図書館行かないか?俺、家に帰っても勉強しないから、少し勉強に付き合ってよ。」
「そんなの、1人でいけばいいでしょう。」
「1人なら、絶対行かないなら、頼んでるんだろう。ほら、飴やるからさ。」
「なにそれ。」
「行くぞ、早く。」
青田は歩き始めた。
遅れてついてくる夏希の手を繋ぐと、図書館までの道を急いだ。夏希は青田の手を離し、自分が先に歩き始めた。
「おい!待ってよ。」
「青田くん、飴ちょうだい。」
夏希は振り返って青田に手を出した。
「ほら。」
青田は夏希に飴をひとつ渡した。
夏希は飴を口に入れると、
「青田くん。これ好きだよね。」
そう言った。
「前に城田が持ってるの見たから。」
青田はそう答えた。
「私ね、今はこれ。」
夏希は別の飴を青田に渡した。
「すごく酸っぱいよ。口が痛くなるから。」
青田はそれを口に入れると、
「本当だ、酸っぱい。」
そう言って顔をしかめた。
図書館の自習室に着くと、青田はプリントをカバンから取り出すと、ここを教えてと指を指した。
「これ、物理?私、ぜんぜんわかんない。青田くん、答えある?」
「あるよ。」
夏希は答えをプリントにひとつずつ写すと、
「青田くん、こうだって。わかった?」
そう言った。
「次はこれ。」
次は問題を読むと、解けそうだったので、夏希は式書いていった。答えが違ったので、なんで?と言ってもう一度、ひとつひとつやり直していく。
「できた。」
「次はこっち。」
「もう、青田くん、一問くらい自分でやってみて。」
夏希がそう言って青田にプリントを向けると、青田はスラスラと問題を解いていった。
「そっか青田くん、理数はA組で勉強してるんだっけ。私が教えなくてもできるのに。」
夏希はそう言った。
「城田、じゃあ、国語教えて。」
「国語って、勉強するの?」
「するだろう普通に。」
「主人公の気持ちなんて、勉強しなくてもわかるでしょう?」
「わかるなら、教えろよ。」
閉館時間の19時になったので、2人は図書館を出た。
「青田くん、じゃあね。」
夏希は青田に手を振った。
「バス停まで送っていくよ。」
青田がついてきた。
「いいよ。早く帰ってご飯食べて、寝ればいいでしょう。」
「付き合ってもらったのはこっちだし。城田が家に着く頃まで、何も食べないで待ってるから。」
「青田くん、本当に私の事が大好きなんだね。」
夏希は青田をからかった。
「好きだよ。あんな事がなかったら、試合が終わってから、ちゃんと伝えようって思ってた。」
青田は真剣な顔をした。
「高校生のうちは、好きだとか嫌いだとか、まだよくわかってないから、気持ちが燃え上がっていくんだよ。もう少し大人になって、自分でいろんなものを選べるようになったら、きっとあの頃は若かったなぁって、恥ずかしい思い出になるから。」
夏希はそう言った。
「城田、ずいぶん大人びた事いうんだな。ド派手な男の人に教えられたのか?」
「はあ?」
「その人の事、好きなのか?」
夏希は吹き出した。
「本当は図書館なんて口実で、城田と話したかったんだ。」
夏希がいくら笑っても、青田は笑ってくれない。
「城田、本当は廣岡の事、好きだっただろう?」
「誰があんなやつ。それにね、私は別にそんな感情を持たなくても、生きていけるし。」
青田は夏希の髪を触り、
「それなら、なんで髪を切ったの?」
そう言った。
「けっこう伸びたでしょう。」
髪を触る青田の手から離れた。
「俺、城田に髪を切らせるようなそんな思いは、絶対させないから。」
青田は夏希を抱きしめた。
「残念でした。親に言われて切っただけでした。」
夏希は青田から離れた。
「城田、嫌いになる方法知ってるなら、教えてくれよ。俺、城田の事、ずっと好きだったんだよ。」
青田の目を見ると、なんだかとても切なくなった。
「いいよ。忘れさせてあげる。」
夏希は青田に近づくと、そっとキスをしようとした。目を閉じた青田の頬をつねると、
「じゃあね。」
夏希は笑って手を振った。
10
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
簒奪女王と隔絶の果て
紺乃 安
恋愛
穏やかな美青年王子が、即位した途端に冷酷な王に変貌した。そしてそれが、不羈の令嬢ベアトリスの政略結婚相手。
ポストファンタジー宮廷ロマンス小説。
※拙作「山賊王女と楽園の涯」の完結編という位置づけでもありますが、知らなくとも問題ないよう書いてあります。興味があればそちらもお読みください(ただしずいぶんジャンルが違い、とても長いです)。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる