9 / 12
9章
氷柱
しおりを挟む
火傷をした澄子に付き添って、救急外来の待合で、叶太は座っていた。
救急車が止まり、玄関の方を向くと、遥の父の覚がやって来る。
「おじさん、どうしたんですか?」
「あっ、叶太。」
一緒にきた渉は、一度だけ会った事のある叶太の事を覚えていた。叶太の方をチラッと見ると、ストレッチャーに乗っている遥に付き添って歩いていった。
「遥、何かあったんですか?」
叶太は渉に聞いた。
処置室に吸い込まていく遥を、3人は呆然と見送った。
澄子が、治療を終えて出てくる。
「あら、渋谷くん、どうしたの?」
「遥が倒れたんだ。」
医者に呼ばれた覚は、遥が倒れた原因について説明を受ける。
「娘さん、ずっと風邪を引いていたのかな、ずいぶんと炎症反応が高くってね。」
覚は少し前から、遥が市販の風邪薬を飲んでいた事を、思い出した。
「それに、貧血と栄養不足。まあ、若い女性なら、けっこうある事だよ。娘さんには、ダイエットをやめるように、お父さんからちゃんと注意してくださいよ。」
遥に付き添っていた澄子は、
「お医者さん、なんて?」
そう聞いた。
「風邪をこじらせたみたいだ。あと、ちゃんと食べさせろって。」
「そっか。」
遥の横にいる叶太が、
「さっき看護師さんがきて、この点滴が終ったら帰っていいって言ってたよ。」
そう、覚に伝えた。
「渋谷くん、遥にちゃんと食べさせてるの?」
澄子がそう言った。
「ちゃんと、食べさせてるよ。」
少し大きな声で言った覚に、
「ごめん。渋谷くんも、いっぱいいっぱいだよね。」
澄子はそう言った。
遥が目を覚ます。
「遥。」
叶太が遥の顔を覗いた。
「なんで叶太がいるの?」
「おまえ、なんて格好してるだよ。」
「本当だね。」
遥は右手で顔を覆った。そうだ、渉が家にきていたはず。遥は顔から手をとって、渉の方を見た。
「ごめん。ずっと待ってたね。」
渉が叶太の隣りに並ぶ。
「渋谷、林さんの車に携帯落としただろう。」
「そうだったかな。」
渉は遥の携帯を枕元に置いた。
「林さんが家に届けにきて、遥に謝ってくれって。」
遥は渉の顔を見せると、
「謝るのは、私だよ。」
そう言った。
「なんかあったのか?」
「ちょっとね、いろいろ。哲の時もそうだった。」
遥はまた顔を右手で覆った。
「なんかよくわかんないけど、林さんはまた練習に来いって言ってたよ。」
「冴木くん、もう行けないよ。」
「それは、渋谷が決めたらいい事だから。」
渉は遥が言い出せないでいる理由を考えていた。渋谷が本当に好きなのは、ここにいる幼馴染なんだろう。林さんとも哲とも上手くいかなかったのは、2人はただの幼馴染なんかじゃなくて、とっくに結ばれているんだよ。
「渋谷、そんなジャージ着てたら、高校生に間違えられるぞ。」
「そうだね。恥ずかしいね。」
「俺、行くわ。早く元気なれよ。」
そう言って覚と澄子、最後に渉に頭を下げると、病室を出ていった。
「遥ちゃんの彼氏?」
澄子が聞いた。
遥は首を振った。
「むこうでできた友達です。大学も一緒で。」
遥はそう言った。
「遥ちゃん、今日は家においでよ。たくさん、唐揚げ作ったのよ。私、それで火傷しちゃったの。」
澄子は覚を見ると、
「渋谷くんにも、ちゃんとわけてあげるから。」
そう言った。
「叶太、」
遥は叶太の顔を見た。
「遥、おいでよ。話したい事、たくさんあるし。」
叶太は遥の手を握った。
「お父さん、行ってもいい?」
「行っておいで。」
叶太の家につくと、キッチンに唐揚げがたくさん用意されていた。
「遥ちゃん、まだ作りかけなの。私は手がこうだから、叶太と残りを揚げてくれる?」
「いいですよ。澄子さん、手、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。遥ちゃんも気を付けて。」
「はい。」
叶太が油を温めている遥の隣りにきた。
「まだ、けっこうあるね。」
「うん。」
「母さん、なんでこんなに作ろうとしてたんだろう?」
「叶太、大好きなんでしょう?澄子さんの唐揚げ。」
「好きだけど、作り過ぎ。」
遥は叶太を見て笑った。
「羨ましいなぁ。」
覚に渡す唐揚げをタッパーに詰めていた澄子は、
「元奥さん、渋谷くんの所に行ったの?」
覚にそう聞いた。
「来たけど、実家に帰ったよ。」
「私もバツイチだから、わかるけど、別れた相手って、世界一不幸になってほしいよね。」
「そうかもな。」
「叶太もそうやって育てて来ちゃったから、素直に好きになればいいのにさ、恋愛って汚いとかって思っちゃってるのよね。」
「みんな、親のせいなのか…。」
「親は親で必死だったんだし。」
「そうだな。」
「渋谷くん、時々、ご飯食べにおいで。私達は、そのうち、ちゃんとあの子達の前では揃って父親と母親になれると思うけど。」
晩ごはんが済むと、澄子が叶太の部屋に布団を持って行った。遥はお風呂に入っている。
「叶太、遥ちゃんは具合が悪いんだから、あんたは下で寝なさい。ゲームして夜更かしなんかしたらダメだからね。」
「わかった。」
澄子が部屋から出ていくと、遥が戻ってきた。
「俺、入ってくるわ。」
叶太が部屋を出ていった。遥がテーブルに置かれたゲームの攻略本を見ていると、叶太が帰ってきた。
「叶太、ゲームするの?」
遥が聞いた。
「たまにだよ。ついつい自分が勝つまでやろうとするから、朝になる事もある。」
「わかる。」
遥は叶太の隣りに座った。
「遥、どこの学校に行ってるの?」
「教育大。叶太は?」
「俺は隣りの公立大。ここから離れて、1人暮らし。」
「けっこう近くにいたんだね。」
「そうだね。」
「小百合は元気?」
「東京に行ったのは知ってるけど、それからは連絡はないんだ。」
「叶太が大切にしなかったんでしょう?」
遥は叶太の気持ちを確かめようとした。
「そんな事ないよ。」
「遥は?」
「何が。」
「彼氏いるんでしょう。車の中に、携帯を忘れるくらいだもの。」
遥は少し考えていた。
「どうしてかな、うまくいかないの。隣りにいるだけでいいなんて、やっぱりドラマの中の台詞なのかな。」
叶太は遥の肩を自分の方に寄せた。
「叶太、どうして、連絡先、教えてくれなかったの?」
遥は叶太にそう言った。
「もう会えないかもしれないのに、番号が残るのって辛いだろう。」
叶太は遥の手を握った。
「10年も隣りにいると、あんまりにも近すぎて、また明日って言えば普通に会えるって、いつも思ってたけど、遥がいなくなって、急に淋しくなって、小百合と付き合ったんだ。だけど、小百合を好きになろうとすればするだけ、遥の事を思い出して、苦しくなって。遥にも彼氏ができたって聞いたら、どうしようもなくなって。」
叶太は握っている遥の手を自分の胸に引き寄せた。
「叶太からもらったボタン、ちゃんと持ってるよ。忘れられないよ。ずっと会いたかった。」
遥は叶太の胸に顔をうずめた。
「遥。」
「ん?」
「キスした事、あるんだろう?」
「何、急に。」
「なぁ、あるんだろう?」
叶太は俯く遥の顔を覗き込んだ。
「そうだね、あるよ。」
遥は叶太の顔を見た。
「叶太は?」
「どうだろうな。」
叶太は目をそらした。
「人に聞いておいて、自分は何も言わないの?」
「俺、自分からした事はないから。どういう時にしたいと思うのかなって思ってさ。」
「そんなの知らないよ。」
遥は笑った。
叶太は遥の顔を見つめている。
「子供の頃は手を繋いでも、なんにも思わなかったのにさ、今は遥の手を握ると、もう離したくないって思うんだ。」
真剣な叶太の目を見た遥は、
「大人になるって、なんか困るね。」
そう言って叶太の手を握った。
どちらからともなくキスした2人は、目が合うと静かに笑った。
叶太は遥の体をベッドに倒した。
「風邪、伝染るよ。」
遥は叶太にそう言った。
「もうとっく伝染ってるよ。」
自分の頬を包んでいる叶太の手の温もりが、長く続いていた雨の終わりを告げるようだった。
雲の間から見えてきた太陽の光りは、初めは少し照れていたけれど、だんだんと濡れていたアスファルトを乾かすまで、大きく広がっていく。
「高校の時、遥の背中から、ゼッケンをはずしたよな。」
「そうだね。」
叶太は遥の上着を脱がせた。
「寒い?」
「ううん。」
目を閉じた遥の上に、叶太が重なる。
叶太は遥の唇に近づくと、どうしようもないくらいの好きという感情が、体中から溢れてきた。
救急車が止まり、玄関の方を向くと、遥の父の覚がやって来る。
「おじさん、どうしたんですか?」
「あっ、叶太。」
一緒にきた渉は、一度だけ会った事のある叶太の事を覚えていた。叶太の方をチラッと見ると、ストレッチャーに乗っている遥に付き添って歩いていった。
「遥、何かあったんですか?」
叶太は渉に聞いた。
処置室に吸い込まていく遥を、3人は呆然と見送った。
澄子が、治療を終えて出てくる。
「あら、渋谷くん、どうしたの?」
「遥が倒れたんだ。」
医者に呼ばれた覚は、遥が倒れた原因について説明を受ける。
「娘さん、ずっと風邪を引いていたのかな、ずいぶんと炎症反応が高くってね。」
覚は少し前から、遥が市販の風邪薬を飲んでいた事を、思い出した。
「それに、貧血と栄養不足。まあ、若い女性なら、けっこうある事だよ。娘さんには、ダイエットをやめるように、お父さんからちゃんと注意してくださいよ。」
遥に付き添っていた澄子は、
「お医者さん、なんて?」
そう聞いた。
「風邪をこじらせたみたいだ。あと、ちゃんと食べさせろって。」
「そっか。」
遥の横にいる叶太が、
「さっき看護師さんがきて、この点滴が終ったら帰っていいって言ってたよ。」
そう、覚に伝えた。
「渋谷くん、遥にちゃんと食べさせてるの?」
澄子がそう言った。
「ちゃんと、食べさせてるよ。」
少し大きな声で言った覚に、
「ごめん。渋谷くんも、いっぱいいっぱいだよね。」
澄子はそう言った。
遥が目を覚ます。
「遥。」
叶太が遥の顔を覗いた。
「なんで叶太がいるの?」
「おまえ、なんて格好してるだよ。」
「本当だね。」
遥は右手で顔を覆った。そうだ、渉が家にきていたはず。遥は顔から手をとって、渉の方を見た。
「ごめん。ずっと待ってたね。」
渉が叶太の隣りに並ぶ。
「渋谷、林さんの車に携帯落としただろう。」
「そうだったかな。」
渉は遥の携帯を枕元に置いた。
「林さんが家に届けにきて、遥に謝ってくれって。」
遥は渉の顔を見せると、
「謝るのは、私だよ。」
そう言った。
「なんかあったのか?」
「ちょっとね、いろいろ。哲の時もそうだった。」
遥はまた顔を右手で覆った。
「なんかよくわかんないけど、林さんはまた練習に来いって言ってたよ。」
「冴木くん、もう行けないよ。」
「それは、渋谷が決めたらいい事だから。」
渉は遥が言い出せないでいる理由を考えていた。渋谷が本当に好きなのは、ここにいる幼馴染なんだろう。林さんとも哲とも上手くいかなかったのは、2人はただの幼馴染なんかじゃなくて、とっくに結ばれているんだよ。
「渋谷、そんなジャージ着てたら、高校生に間違えられるぞ。」
「そうだね。恥ずかしいね。」
「俺、行くわ。早く元気なれよ。」
そう言って覚と澄子、最後に渉に頭を下げると、病室を出ていった。
「遥ちゃんの彼氏?」
澄子が聞いた。
遥は首を振った。
「むこうでできた友達です。大学も一緒で。」
遥はそう言った。
「遥ちゃん、今日は家においでよ。たくさん、唐揚げ作ったのよ。私、それで火傷しちゃったの。」
澄子は覚を見ると、
「渋谷くんにも、ちゃんとわけてあげるから。」
そう言った。
「叶太、」
遥は叶太の顔を見た。
「遥、おいでよ。話したい事、たくさんあるし。」
叶太は遥の手を握った。
「お父さん、行ってもいい?」
「行っておいで。」
叶太の家につくと、キッチンに唐揚げがたくさん用意されていた。
「遥ちゃん、まだ作りかけなの。私は手がこうだから、叶太と残りを揚げてくれる?」
「いいですよ。澄子さん、手、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。遥ちゃんも気を付けて。」
「はい。」
叶太が油を温めている遥の隣りにきた。
「まだ、けっこうあるね。」
「うん。」
「母さん、なんでこんなに作ろうとしてたんだろう?」
「叶太、大好きなんでしょう?澄子さんの唐揚げ。」
「好きだけど、作り過ぎ。」
遥は叶太を見て笑った。
「羨ましいなぁ。」
覚に渡す唐揚げをタッパーに詰めていた澄子は、
「元奥さん、渋谷くんの所に行ったの?」
覚にそう聞いた。
「来たけど、実家に帰ったよ。」
「私もバツイチだから、わかるけど、別れた相手って、世界一不幸になってほしいよね。」
「そうかもな。」
「叶太もそうやって育てて来ちゃったから、素直に好きになればいいのにさ、恋愛って汚いとかって思っちゃってるのよね。」
「みんな、親のせいなのか…。」
「親は親で必死だったんだし。」
「そうだな。」
「渋谷くん、時々、ご飯食べにおいで。私達は、そのうち、ちゃんとあの子達の前では揃って父親と母親になれると思うけど。」
晩ごはんが済むと、澄子が叶太の部屋に布団を持って行った。遥はお風呂に入っている。
「叶太、遥ちゃんは具合が悪いんだから、あんたは下で寝なさい。ゲームして夜更かしなんかしたらダメだからね。」
「わかった。」
澄子が部屋から出ていくと、遥が戻ってきた。
「俺、入ってくるわ。」
叶太が部屋を出ていった。遥がテーブルに置かれたゲームの攻略本を見ていると、叶太が帰ってきた。
「叶太、ゲームするの?」
遥が聞いた。
「たまにだよ。ついつい自分が勝つまでやろうとするから、朝になる事もある。」
「わかる。」
遥は叶太の隣りに座った。
「遥、どこの学校に行ってるの?」
「教育大。叶太は?」
「俺は隣りの公立大。ここから離れて、1人暮らし。」
「けっこう近くにいたんだね。」
「そうだね。」
「小百合は元気?」
「東京に行ったのは知ってるけど、それからは連絡はないんだ。」
「叶太が大切にしなかったんでしょう?」
遥は叶太の気持ちを確かめようとした。
「そんな事ないよ。」
「遥は?」
「何が。」
「彼氏いるんでしょう。車の中に、携帯を忘れるくらいだもの。」
遥は少し考えていた。
「どうしてかな、うまくいかないの。隣りにいるだけでいいなんて、やっぱりドラマの中の台詞なのかな。」
叶太は遥の肩を自分の方に寄せた。
「叶太、どうして、連絡先、教えてくれなかったの?」
遥は叶太にそう言った。
「もう会えないかもしれないのに、番号が残るのって辛いだろう。」
叶太は遥の手を握った。
「10年も隣りにいると、あんまりにも近すぎて、また明日って言えば普通に会えるって、いつも思ってたけど、遥がいなくなって、急に淋しくなって、小百合と付き合ったんだ。だけど、小百合を好きになろうとすればするだけ、遥の事を思い出して、苦しくなって。遥にも彼氏ができたって聞いたら、どうしようもなくなって。」
叶太は握っている遥の手を自分の胸に引き寄せた。
「叶太からもらったボタン、ちゃんと持ってるよ。忘れられないよ。ずっと会いたかった。」
遥は叶太の胸に顔をうずめた。
「遥。」
「ん?」
「キスした事、あるんだろう?」
「何、急に。」
「なぁ、あるんだろう?」
叶太は俯く遥の顔を覗き込んだ。
「そうだね、あるよ。」
遥は叶太の顔を見た。
「叶太は?」
「どうだろうな。」
叶太は目をそらした。
「人に聞いておいて、自分は何も言わないの?」
「俺、自分からした事はないから。どういう時にしたいと思うのかなって思ってさ。」
「そんなの知らないよ。」
遥は笑った。
叶太は遥の顔を見つめている。
「子供の頃は手を繋いでも、なんにも思わなかったのにさ、今は遥の手を握ると、もう離したくないって思うんだ。」
真剣な叶太の目を見た遥は、
「大人になるって、なんか困るね。」
そう言って叶太の手を握った。
どちらからともなくキスした2人は、目が合うと静かに笑った。
叶太は遥の体をベッドに倒した。
「風邪、伝染るよ。」
遥は叶太にそう言った。
「もうとっく伝染ってるよ。」
自分の頬を包んでいる叶太の手の温もりが、長く続いていた雨の終わりを告げるようだった。
雲の間から見えてきた太陽の光りは、初めは少し照れていたけれど、だんだんと濡れていたアスファルトを乾かすまで、大きく広がっていく。
「高校の時、遥の背中から、ゼッケンをはずしたよな。」
「そうだね。」
叶太は遥の上着を脱がせた。
「寒い?」
「ううん。」
目を閉じた遥の上に、叶太が重なる。
叶太は遥の唇に近づくと、どうしようもないくらいの好きという感情が、体中から溢れてきた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる