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10章
小さな星
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優の家に着くと、より子と義之が2人を待っていた。
「おかえり。さあ、上がって。」
より子は2人を食卓に案内した。
朝からたくさんの料理を用意したより子は、優が好きたったものを一つ一つ凌に説明していた。
「母さん、もういいだろう。早く食べようよ。」
「そうね。」
食事が終わると、今晩から明日の朝にかけては北海道が猛吹雪になると天気予報が流れた。
凌は辰夫に電話を掛けた。
「いやぁ、凌、アカマルはすごかったなぁ。」
「辰夫さんは、雪は大丈夫ですか?」
「いつもの事さ。」
「明日の夕方にはそっちにつきますから、雪かきは程々にしてください。」
「凌、明日の汽車もバスもみんな運休だ。東京から千歳まで帰ってこれても、ここまで帰ってくるのは無理だろうな。千歳に宿をとってあるから、泊まって来なさい。」
義之が電話を変わってほしいと凌に言った。
「松本さん、雪、大丈夫ですか?」
義之が辰夫に話している。
「大丈夫ですよ。雪が晴れたら、ブルが入って雪かきしてくれますから。」
「そうでしたか。今日は本当におめでとうございます。すごく強い馬でしたね。」
「ありがとうございます。みんなのおかげですよ。」
「優の事も、いろいろありがとうございます。」
「優ちゃん、こっちの図書館に就職する事になってね、私達も喜んでるんですよ。優さんがいなくなると、淋しくなるなぁって話していんたけど、またここで暮してくれるって言うんで、お父さんには申し訳ないですけど、とっても嬉しいんです。」
「そうでしたか。わがままに育ててしまったから、ご迷惑掛けてんじゃないかと心配してました。」
「いえいえ、女房も優ちゃんに助けられておりますよ。お二人もこっちに一度遊びに来てください。」
「そうですね、ぜひ。」
「明日は千歳の牧場のオーナーが宿を取ってくれているんで、2人はそこに泊まるように言ってください。凌には、必ずお礼をするように言ってください。」
「わかりました。それじゃあ、おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
凌がお風呂に入っている間、
<浅尾さんの事は?>
より子がノートにそう書いた。
<ちゃんと断る。>
優はそう書いた。
<すごい人なんでしょう?潤が言ってたよ。>
<そうみたいだね。>
<本当にいいの?>
<何が?>
「ちょっと、優。」
より子は少し呆れた。
<ピアノ弾いてもいい?>
優はそうノートに書くとピアノの前に座った。
お風呂から上がってきた凌は、優のピアノを初めて聞いた。
「本当に弾けたんですね。」
凌は義之に言った。
「えっ?」
より子はびっくりした。
「前にピアノの前に座って、少しだけ触ってやめた事があるんです。」
「母さんと優のケンカは、すごかったからな。俺はピアノのほうが2人から逃げ出したと思っていたよ。」
義之は笑った。
「失礼ね、お父さん。凌さん、何か飲む?」
「水、もらいます。」
凌が言った。
「あら、お酒でもいいんですよ。」
「せっかくだし、一緒に飲もうよ。」
義之は凌にビールを注いだ。
「優はずいぶん変わったな。」
「耳はずっと治らないんですか?」
「そうだな、たぶん。向こうではいろいろと困っただろう、生き物を扱っているんだしな。」
「馬とは話せるみたいですよ。自分も話してみたかったです。いろんな事。」
凌はそう言った。
「元々おしゃべりな子だったんだよ。」
義之が言うと、
「そうなんですか。」
凌は優の方を見た。
優はピアノを弾き終えると、お風呂場へ向かった。
「凌さん、優は騎手の方とお付き合いをしてるって聞いたんだけど。」
より子が凌に聞いた。
「そうですよ。今日、勝った馬に乗っていたあの人です。」
「優はどういうつもりでいるのかしらね。」
「それはわかりません。」
凌はそう言った。
凌が潤の部屋で窓を見ていると、優が入ってきた。
凌の隣りに座ると、何か言いたそうに下を向いていた。窓の方を見て、カーテンを開けると、針の先で穴を開けたような小さくて消えそうな星を指さした。
凌が優の指を指す方を向くと、優は窓を開けた。
冷たい風が一気に部屋を冷やす。凌は慌てて窓を閉めた。
「もう、寝なよ。」
凌は優にそう言った。
「?」
<もう、寝なよ。>
凌は優の手のひらにそう書いた。
優は首を振ると、凌の肩に寄り掛かった。
凌は優の持っているノートを手に取ると、
<浅尾さんが怒るよ。>
そう書いた。
優はまた首を振ると、凌の肩にもう一度寄り掛かった。
<大事な事なんだよ。>
凌はノートに書いて、左手の薬指に指輪をはめる仕草をした。
優はノートを凌から奪うと、
<好き。>
と書いて、凌を指さした。
<ダメだ。>
<どうして?>
優は泣いているフリをした。
「おい、バレてるよ。」
凌は優の手を掴んだ。
優は嬉しそうに笑うと、凌の胸に飛び込んだ。
何度離れようとしても離れない優に、凌は向き合った。
「優、俺は何も持ってない。助けてくれる家族も、優が遊んで暮らせるだけのお金も、浅尾さんの様な世間からの期待も希望も、何もない。俺の所へ来たらダメだ。」
凌がゆっくり優に言うと、優は凌の右腕を軽く叩いた。
「なんだよ。」
<この手があれば、引っ張ってくれる。>
優はノートにそう書いて、抱きしめる仕草をした。
「本当にしつこいなぁ。」
凌はそう言って優を抱きしめた。
目があった2人は、口づけを交わした。
「おかえり。さあ、上がって。」
より子は2人を食卓に案内した。
朝からたくさんの料理を用意したより子は、優が好きたったものを一つ一つ凌に説明していた。
「母さん、もういいだろう。早く食べようよ。」
「そうね。」
食事が終わると、今晩から明日の朝にかけては北海道が猛吹雪になると天気予報が流れた。
凌は辰夫に電話を掛けた。
「いやぁ、凌、アカマルはすごかったなぁ。」
「辰夫さんは、雪は大丈夫ですか?」
「いつもの事さ。」
「明日の夕方にはそっちにつきますから、雪かきは程々にしてください。」
「凌、明日の汽車もバスもみんな運休だ。東京から千歳まで帰ってこれても、ここまで帰ってくるのは無理だろうな。千歳に宿をとってあるから、泊まって来なさい。」
義之が電話を変わってほしいと凌に言った。
「松本さん、雪、大丈夫ですか?」
義之が辰夫に話している。
「大丈夫ですよ。雪が晴れたら、ブルが入って雪かきしてくれますから。」
「そうでしたか。今日は本当におめでとうございます。すごく強い馬でしたね。」
「ありがとうございます。みんなのおかげですよ。」
「優の事も、いろいろありがとうございます。」
「優ちゃん、こっちの図書館に就職する事になってね、私達も喜んでるんですよ。優さんがいなくなると、淋しくなるなぁって話していんたけど、またここで暮してくれるって言うんで、お父さんには申し訳ないですけど、とっても嬉しいんです。」
「そうでしたか。わがままに育ててしまったから、ご迷惑掛けてんじゃないかと心配してました。」
「いえいえ、女房も優ちゃんに助けられておりますよ。お二人もこっちに一度遊びに来てください。」
「そうですね、ぜひ。」
「明日は千歳の牧場のオーナーが宿を取ってくれているんで、2人はそこに泊まるように言ってください。凌には、必ずお礼をするように言ってください。」
「わかりました。それじゃあ、おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
凌がお風呂に入っている間、
<浅尾さんの事は?>
より子がノートにそう書いた。
<ちゃんと断る。>
優はそう書いた。
<すごい人なんでしょう?潤が言ってたよ。>
<そうみたいだね。>
<本当にいいの?>
<何が?>
「ちょっと、優。」
より子は少し呆れた。
<ピアノ弾いてもいい?>
優はそうノートに書くとピアノの前に座った。
お風呂から上がってきた凌は、優のピアノを初めて聞いた。
「本当に弾けたんですね。」
凌は義之に言った。
「えっ?」
より子はびっくりした。
「前にピアノの前に座って、少しだけ触ってやめた事があるんです。」
「母さんと優のケンカは、すごかったからな。俺はピアノのほうが2人から逃げ出したと思っていたよ。」
義之は笑った。
「失礼ね、お父さん。凌さん、何か飲む?」
「水、もらいます。」
凌が言った。
「あら、お酒でもいいんですよ。」
「せっかくだし、一緒に飲もうよ。」
義之は凌にビールを注いだ。
「優はずいぶん変わったな。」
「耳はずっと治らないんですか?」
「そうだな、たぶん。向こうではいろいろと困っただろう、生き物を扱っているんだしな。」
「馬とは話せるみたいですよ。自分も話してみたかったです。いろんな事。」
凌はそう言った。
「元々おしゃべりな子だったんだよ。」
義之が言うと、
「そうなんですか。」
凌は優の方を見た。
優はピアノを弾き終えると、お風呂場へ向かった。
「凌さん、優は騎手の方とお付き合いをしてるって聞いたんだけど。」
より子が凌に聞いた。
「そうですよ。今日、勝った馬に乗っていたあの人です。」
「優はどういうつもりでいるのかしらね。」
「それはわかりません。」
凌はそう言った。
凌が潤の部屋で窓を見ていると、優が入ってきた。
凌の隣りに座ると、何か言いたそうに下を向いていた。窓の方を見て、カーテンを開けると、針の先で穴を開けたような小さくて消えそうな星を指さした。
凌が優の指を指す方を向くと、優は窓を開けた。
冷たい風が一気に部屋を冷やす。凌は慌てて窓を閉めた。
「もう、寝なよ。」
凌は優にそう言った。
「?」
<もう、寝なよ。>
凌は優の手のひらにそう書いた。
優は首を振ると、凌の肩に寄り掛かった。
凌は優の持っているノートを手に取ると、
<浅尾さんが怒るよ。>
そう書いた。
優はまた首を振ると、凌の肩にもう一度寄り掛かった。
<大事な事なんだよ。>
凌はノートに書いて、左手の薬指に指輪をはめる仕草をした。
優はノートを凌から奪うと、
<好き。>
と書いて、凌を指さした。
<ダメだ。>
<どうして?>
優は泣いているフリをした。
「おい、バレてるよ。」
凌は優の手を掴んだ。
優は嬉しそうに笑うと、凌の胸に飛び込んだ。
何度離れようとしても離れない優に、凌は向き合った。
「優、俺は何も持ってない。助けてくれる家族も、優が遊んで暮らせるだけのお金も、浅尾さんの様な世間からの期待も希望も、何もない。俺の所へ来たらダメだ。」
凌がゆっくり優に言うと、優は凌の右腕を軽く叩いた。
「なんだよ。」
<この手があれば、引っ張ってくれる。>
優はノートにそう書いて、抱きしめる仕草をした。
「本当にしつこいなぁ。」
凌はそう言って優を抱きしめた。
目があった2人は、口づけを交わした。
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