強くて弱いキミとオレ

黒井かのえ

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松葉の指摘

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 松葉は隣のベッドに寝転がっている薫を見ている。
 梅野と部屋をチェンジしてから二週間が経っていた。
 
 薫はずっと大荒れだ。
 松葉には松葉の理屈があって薫につきあっている。
 単純にグループに属しているから、ではない。
 薫のイライラに引きずられている。
 もともと松葉自身、イライラして暴れたい気分だったのだ。
 つきあうことに異論はなかった。
 
 最初はかなりの人数で暴れていたのだが、今はずいぶんと減っている。
 薫の暴れぶりについていけないのと、街に出るたび変な連中にまとわりつかれることが原因だ。
 松葉のように自分なりの理由でもなければつきあう気になれなくて当然だった。
 
 梅野とも会っていない。
 携帯に時々メールが入っていたが、ほとんど返信していなかった。
 イライラに支配され過ぎている。
 
 昨日、八人とやりあい、勝ち負けもないまま、相手は姿を消した。
 薫が手加減しているせいもあるのだが、ある一定の時間が過ぎると、相手はまるで喧嘩に飽きたように姿を消す。
 それが常だった。
 
 最初に梅野を囲んできた連中より、もう一つランクが高いのか、簡単には倒せず、またそれがイライラを増徴させている。
 なにが狙いなのかわからなかった。
 宇崎に言われた言葉も気になる。
 
 ヤツらは表の連中だ。
 それは間違いない。
 けれど、なぜ表の連中が裏音羽の自分たちに絡んでくるのかはわからないままだった。
 
 なにかを知っているらしき宇崎に聞いてみようかとも思ったが、やめた。
 宇崎には当分かかわりたくなかった。
 弱い自分を松葉は心の底で恥じている。
 気持ちが弱いから流されそうになるのだ。
 
「なぁ、カオちゃん」
 
 寝転がった状態で、薫が痣だらけの顔を松葉のほうへ向ける。
 
「もう……潮時じゃねぇ?」
 
 ぷいっと顔をそむけられた。
 体まで壁のほうへ向け、無言で「聞く耳持たない」を示される。
 
「公平さんとさ、なにあったか知んねぇけど。このままじゃいらんねぇよ?」
「……るせえ」
 
 ベッドの上であぐらをかき、松葉は薫の背中に話しかける。
 
「小梅からメール入ってたけど、公平さんもかなりまいってるらしいぜ?」
 
 ぴくっと薫の体が震えた。
 正直な動きに松葉は微笑む。
 こういうところが薫なのだ。
 正直で嘘がない。
 まっすぐというわけではないのに、どこか愛嬌があって憎めない。
 
「いいのかよ。このまま公平さんとキれちまっても」
 
 薫は黙っている。
 
「つーか、ね。俺は小梅がいねぇと寂しいよ。カオちゃんが暴れんならいくらでもつきあうけどさ。俺も暴れてぇコトあるし。でも、俺はここに、この部屋に小梅がいねぇのが寂しい」
 
 のそっと薫が体を起こした。
 体は起こしたものの、まだ松葉には背を向けている。
 
「お前、小梅とそーいうカンケイ?」
 
 背を向けている薫には見えないが、松葉は首を横に振った。
 
「ちげーよ。小梅とはそーいうカンケイじゃねぇけど、さみしいモンはさみしいってコト」
 
 薫がようやく振り向き、怒ったような顔で松葉を見る。
 
「これから先はどうなんだ? 小梅を抱きてぇって思うことがあったら? そんで拒否されたら?」
 
 まったく薫は正直だ。
 なるほどこれが理由か。
 松葉は薫と公平がぎくしゃくし始めた理由を理解した。
 
「カオちゃんは公平さんのこと抱きてぇの?」
 
 うっと言葉に詰まったあと、隠しても無駄だと諦めたのか、がくっと肩を落とす薫。
 
「抱きてぇっても……俺ぁ、コオくんの嫌がるこたしたかねんだよ。でも、俺の体がよ、言うこときかねぇ。勝手に反応しちまって……それが嫌でたまらねぇ……」
「それ……」
 
 今度は松葉が言葉に詰まった。
 不審に思ったのか、薫が松葉に視線を向ける。
 苦笑しながら松葉は言った。、
 
「それ、相当、公平さんのこと好きってことじゃん」
 
 薫がきょとんとした顔をする。
 
「公平さんが嫌がることはしたくねぇんだろうけど、でも、しゃあねぇじゃん。体が勝手に反応しちまうくらい好きなんだろ」
「そうなんかな……?」
「さぁね。俺はそう思うけど?」
 
 考えこんでいるのか、薫は黙ってしまう。
 
「カオちゃんは公平さんに無理強いしたりしねぇよな?」
「当たり前だろが」
 
 怒った顔で答える薫に松葉は笑う。
 
「じゃあ、もういいんじゃん。告れば。そんであとは公平さん次第だろ。悩んでたって、荒れてたって解決することじゃねぇよ」
 
 言いながら、人に言うのは簡単なんだけどな、と松葉は思っていた。
 自分のことは棚上げにして、人にならばなんとでも言える。
 無責任かもしれなかったが、薫と公平に関しては薫が動かなければ膠着状態が解消されないのは確かだ。
 
「小梅がいなくて、よっぽどさみしいらしいな」
 
 薫が立ち上がる。
 
「そーだよ。さっさと仲直りしてほしいくらいにはね」
 
 二人がどうなるのかは、振ったサイコロの目が出てみるまではわからない。
 ただ。
 なんとなく。
 絶望的な状況にはならないような気がしていた。
 
「荒れてるカオちゃんと遊ぶのも楽しいけどさ。荒れてねぇカオちゃんのがいいってよ」
「まぁ、頑張ってみるわ」
 
 そう言って、軽く手を上げ、薫は部屋から出て行った。
 薫を見送りながら思う。
 まだ自分がどうしたいのかわからない。
 けれど、薫と入れ替わりに早く梅野が帰ってくればいいのにと、松葉は思っていた。
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