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4、
再会と拒絶
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百合子さんは客間を出てからひたすら長い廊下をすたすたと歩いていく。
僕たちはその足を応用に列をなして歩いていた。
百合子さんが廊下の角を曲がろうとした時、僕たちの前に小さな女の子が現れた。
「亜子、廊下を走るのは危ないと言ったはずよ。」
すると百合子さんの言葉を遮るように、亜子という女の子は両手を広げた。
「ダメ!!お姉ちゃんは、今、かくれんぼ、してるんだよ!!教えてあげない、もん!!」
「亜子、お前影子のこと知ってんのか?」
「知ってる、けど、知らない!!お兄ちゃん達、には教え、ない!!」
亜子ちゃんの言葉に悠一は眉間にしわを寄せた。
「何わけわかんないこと言ってんだ!!」
「ヤダ!!お兄ちゃん怖い!!」
「んだと?!」
「お父さんと、同じ顔で怒ら、ないで!!」
「ッ……おい亜子!!」
悠一は亜子ちゃんのその一言に、声を凄ませて一歩踏み込んだ。
僕は慌てて悠一の腕を引いた。
「あ?」
「悠一……。」
僕が目で訴えると、悠一は悔しそうに唇を噛んだ。
悠一が一歩後退ったのを確認して、僕は亜子ちゃんの前でしゃがみ込んだ。
「亜子ちゃん、こんにちは。僕は、宗太って言います。」
「こんにちは。」
「僕たちね、ずっとリサさんも影子さんも見つからなくて、困ってたんだ。隠れるの本当に上手だよね。」
「うん。お姉ちゃんは上手だよ!」
「うん。だからね、僕たちは降参するんだ。鬼さんが降参って言ったらみんな出てくるよね?今その時なんだ。」
「」
「だからお願い、2人のところに行きたいんだ。」
「……わかった。いいよ。こっち!」
亜子ちゃんは僕の説得に笑顔で頷き、僕の手を引いて歩きだした。
その歩幅は僕にとっては狭くて歩くのはちょっと苦しい。でもその足取りと僕の手を握る手は力強く、僕は後ろで立ち止まる5人と百合子さんに頷いた。
それを見て、後ろから足音が付いてくる。
角を曲がってしばらく歩き進めると、一つの両開きの扉の前に来た。
「ここに、お姉ちゃんたちが、いるよ!」
「ありがとう、亜子ちゃん。」
「いいよ!ノックしてから扉開けるんだよ!!」
亜子ちゃんは得意そうな顔で扉をノックした。
「はい。」
「ッ……!」
あ、この声は……影子さん……影子さんだ。
「亜子だよ!」
「入っておいで。」
亜子ちゃんは扉をガラッと開いて影子さんの胸に飛び込んでいった。
影子さんは亜子ちゃんを受け止めてから、後ろに立ち尽くしていた僕たちに気が付いて目を細めた。
「亜子、どうして連れてきちゃったの?」
「お兄ちゃんたちが降参したって!鬼が降参したら隠れてる人たちは出てこないといけないんだよ!」
影子さんは亜子ちゃんの嬉しそうな顔を見てため息を吐いた。
「影子お姉ちゃんは、お兄ちゃんたちの、こと嫌い?」
「……。」
「でもお兄ちゃんたちは、きっと、影子お姉ちゃんのこと、大好きだよ?」
「亜子……。」
「リサさんのことも大好きだよ。」
僕は思わず声を上げた。
影子さんは眉間にしわを寄せて顔を上げた。
それでも僕は目を逸らさなかった。
「影子さんとリサさんのこと、ずっと……ずっと探してたんだ。」
「……あんたたち、余計なお世話って知ってる?」
「影子さん!」
「おい、影子!!」
「何?」
僕たちが声を荒げると、影子さんは冷めた目のまま首をかしげた。
「影子さん……帰りましょ?」
「……どこに。」
「あなたは僕のお姉さんだって、もう分かってるんです!!」
「……でしょうね。でも私の帰る場所はここだけ。」
「違う!!僕と母さんの居る家も影子さんが帰る場所です!!」
「……高校生にもなってシスコンぶるつもり?」
「影子さん!!」
「私はあんたと赤の他人よ。無駄足だったわね。」
影子さんの冷たい返事に、僕は二の句が継げなくなってしまった。
すると、亜子ちゃんが影子さんの腕から抜けた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんたちの話、聞いてあげて?」
「聞いてるよ。でもついていくつもりがないだけ」
「でも、宗太お兄ちゃんとお姉ちゃんたちは姉弟なんでしょ?」
「」
「私、お姉ちゃんと宗太お兄ちゃんが家族だってわかるよ?」
「……亜子。」
「だって、2人とも、私のこと大切にしてくれたもん。私の前にしゃがんでちゃんとお話してくれたよ?」
「……。」
影子さんは亜子ちゃんの頭をなでて、僕たちに歩み寄った。
「影子さん。」
「私のことはもう忘れなさい。」
「どうして!」
「私はあなたに必要ない。あなたの人生に無理くりねじ込むほどの価値はない。買いかぶり過ぎよ。」
「影子さん!!」
「もうあなたの居るべき場所に帰りなさい。百合子さん、帰り道の手配をしてあげてください。」
百合子さんは影子さんの言葉に息をついてから頷いた。
影子さんは目も合わせないまま、僕たちの横をすり抜けて扉に手をかけた。
僕たちはその足を応用に列をなして歩いていた。
百合子さんが廊下の角を曲がろうとした時、僕たちの前に小さな女の子が現れた。
「亜子、廊下を走るのは危ないと言ったはずよ。」
すると百合子さんの言葉を遮るように、亜子という女の子は両手を広げた。
「ダメ!!お姉ちゃんは、今、かくれんぼ、してるんだよ!!教えてあげない、もん!!」
「亜子、お前影子のこと知ってんのか?」
「知ってる、けど、知らない!!お兄ちゃん達、には教え、ない!!」
亜子ちゃんの言葉に悠一は眉間にしわを寄せた。
「何わけわかんないこと言ってんだ!!」
「ヤダ!!お兄ちゃん怖い!!」
「んだと?!」
「お父さんと、同じ顔で怒ら、ないで!!」
「ッ……おい亜子!!」
悠一は亜子ちゃんのその一言に、声を凄ませて一歩踏み込んだ。
僕は慌てて悠一の腕を引いた。
「あ?」
「悠一……。」
僕が目で訴えると、悠一は悔しそうに唇を噛んだ。
悠一が一歩後退ったのを確認して、僕は亜子ちゃんの前でしゃがみ込んだ。
「亜子ちゃん、こんにちは。僕は、宗太って言います。」
「こんにちは。」
「僕たちね、ずっとリサさんも影子さんも見つからなくて、困ってたんだ。隠れるの本当に上手だよね。」
「うん。お姉ちゃんは上手だよ!」
「うん。だからね、僕たちは降参するんだ。鬼さんが降参って言ったらみんな出てくるよね?今その時なんだ。」
「」
「だからお願い、2人のところに行きたいんだ。」
「……わかった。いいよ。こっち!」
亜子ちゃんは僕の説得に笑顔で頷き、僕の手を引いて歩きだした。
その歩幅は僕にとっては狭くて歩くのはちょっと苦しい。でもその足取りと僕の手を握る手は力強く、僕は後ろで立ち止まる5人と百合子さんに頷いた。
それを見て、後ろから足音が付いてくる。
角を曲がってしばらく歩き進めると、一つの両開きの扉の前に来た。
「ここに、お姉ちゃんたちが、いるよ!」
「ありがとう、亜子ちゃん。」
「いいよ!ノックしてから扉開けるんだよ!!」
亜子ちゃんは得意そうな顔で扉をノックした。
「はい。」
「ッ……!」
あ、この声は……影子さん……影子さんだ。
「亜子だよ!」
「入っておいで。」
亜子ちゃんは扉をガラッと開いて影子さんの胸に飛び込んでいった。
影子さんは亜子ちゃんを受け止めてから、後ろに立ち尽くしていた僕たちに気が付いて目を細めた。
「亜子、どうして連れてきちゃったの?」
「お兄ちゃんたちが降参したって!鬼が降参したら隠れてる人たちは出てこないといけないんだよ!」
影子さんは亜子ちゃんの嬉しそうな顔を見てため息を吐いた。
「影子お姉ちゃんは、お兄ちゃんたちの、こと嫌い?」
「……。」
「でもお兄ちゃんたちは、きっと、影子お姉ちゃんのこと、大好きだよ?」
「亜子……。」
「リサさんのことも大好きだよ。」
僕は思わず声を上げた。
影子さんは眉間にしわを寄せて顔を上げた。
それでも僕は目を逸らさなかった。
「影子さんとリサさんのこと、ずっと……ずっと探してたんだ。」
「……あんたたち、余計なお世話って知ってる?」
「影子さん!」
「おい、影子!!」
「何?」
僕たちが声を荒げると、影子さんは冷めた目のまま首をかしげた。
「影子さん……帰りましょ?」
「……どこに。」
「あなたは僕のお姉さんだって、もう分かってるんです!!」
「……でしょうね。でも私の帰る場所はここだけ。」
「違う!!僕と母さんの居る家も影子さんが帰る場所です!!」
「……高校生にもなってシスコンぶるつもり?」
「影子さん!!」
「私はあんたと赤の他人よ。無駄足だったわね。」
影子さんの冷たい返事に、僕は二の句が継げなくなってしまった。
すると、亜子ちゃんが影子さんの腕から抜けた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんたちの話、聞いてあげて?」
「聞いてるよ。でもついていくつもりがないだけ」
「でも、宗太お兄ちゃんとお姉ちゃんたちは姉弟なんでしょ?」
「」
「私、お姉ちゃんと宗太お兄ちゃんが家族だってわかるよ?」
「……亜子。」
「だって、2人とも、私のこと大切にしてくれたもん。私の前にしゃがんでちゃんとお話してくれたよ?」
「……。」
影子さんは亜子ちゃんの頭をなでて、僕たちに歩み寄った。
「影子さん。」
「私のことはもう忘れなさい。」
「どうして!」
「私はあなたに必要ない。あなたの人生に無理くりねじ込むほどの価値はない。買いかぶり過ぎよ。」
「影子さん!!」
「もうあなたの居るべき場所に帰りなさい。百合子さん、帰り道の手配をしてあげてください。」
百合子さんは影子さんの言葉に息をついてから頷いた。
影子さんは目も合わせないまま、僕たちの横をすり抜けて扉に手をかけた。
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