誘拐記念日

木継 槐

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4、

融解

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その時、6人の面々を押しやるように悠一が影子さんの後を追った。
「待てよ影子さん!」
悠一の声で影子は足を止める。
ってあれ?悠一、いつの間に影子さんに敬称付けるようになったんだろ……。
「まだ…俺の話が終わってねぇ。」
影子さんは溜息をついてから振り返った。
「なぁに?まだ一悶着起こしたいの?」
「あぁ。」
「はぁ、呆れた。もう情に引っ張られる子供の相手は飽き飽きなんだけど?」
影子さんは僕たちに視線を向けながら、煽るように口角を上げた。
「勘違いすんなよ。俺は、影子さんが宗太と家族になろうがなるまいが、宗太が泣こうが喚こうが、くっそどーーーーーーでもいい!!!!」
「なら何なの?」
悠一は一度息を強く吐いてから大きく息を吸った。

「あんた、俺と付き合えよ。」

「ッお兄ちゃん?!?!」
「…は?」
「なッ?!」
「「「「はぁああああああああぁぁぁ?!」」」」
いきなりの悠一の告白に、ここにいる僕たちが一斉に驚愕の声を上げた。
それでも、悠一はひるむことなく影子さんの目を睨むように見つめていた。
「何だよ、俺にも告白の権利ないとでも言いたいのかよ!」
「いや……権利がないとは言わないけど。」

「あんたに惚れたんだよ!だから何がなんでもOK貰う…俺はそのためにここに付いてきたんだ!!こいつら冷やかしとごっちゃにしてもらっちゃ困る!!」
悠一の告白は、後ろから見てる僕たちまで恥ずかしくなるほどまっすぐで、冷やかしと揶揄されたはずの透たちも黙って聞き入っていた。
それよりも僕は、耳まで真っ赤な悠一を僕は初めて見たかもしれないと追加で驚いていた。

「悠一君…本気なのね。」
「当たり前だろ。」
「なら「あ!待てよまだ話し終わってねえ!!」…なぁーに。」
影子さんが呆れるように返事をすると、悠一は振り返らないまま声を荒げた。
「おい宗太!!」

「ッ!な、何?」
「俺は影子さんと付き合うし、宗太ともずっと縁切らねぇからな!」
「はぇ?」
「俺はぜってぇ何も失わねえ!二兎追うし、二兎得る男だ!そうすれば影子さん、あんたは宗太から離れられない!!どうだ、わかったか!!」
啖呵を切ったものの、気恥ずかしくてさっきよりも真っ赤になる悠一。
「お姉ちゃん……。」
亜子ちゃんは不安そうに肩をゆすった。
「負けたわ……降参。」
「影子さん……。」
「ただ、私と付き合うにはふたつの条件を飲んでもらう。」

「あぁ!何でも飲んでやるよ!!」
悠一の満足そうな顔を見て影子さんは不敵な笑みを浮かべた。
「ひとつはリサに許してもらうこと。もうひとつは、"に認めてもらうこと。」
影子さんはそう言ってから僕に笑顔を向けた。
僕にとってはその笑顔はずっと待ち焦がれていた姉の笑顔だった。
そして悠一はフンと鼻を鳴らして僕の肩に手を回した。
「なんだ、簡単な事じゃねぇか!なぁ、宗太。」
「え、やだよ。」
「は?!」
「こんな危なっかしい人が姉さんの彼氏なんて。」
「おま、宗太!」
「ぜ~ったい認めない!!」
「お前はなんだかんだ言って優しいやつだろ?」
「だって、僕、これでも悠一にいじめられてたんだし?」
しかも原因聞いたらただの八つ当たりだったし?!
僕は悠一の腕をすり抜けて影子さんの側に立ち腕組みをしてやった。

「そ、そこはもう時効だろ?!しかも罰は受けたっていうか……い、いいだろ?」
「全然よくない!!それにリサさんにも酷い事してたんだし!!」
「それはおいおいさ、「ダメです~!!」……弟君、そこはご慈悲を!!」
僕がそっぽを向いてみると、悠一は必死に俺の腕にすがり寄った。
それを見て、透たちはけらけらと笑い、影子さんもいつの間にか笑い始めていた。
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