14 / 27
幼少期~煌の視点~
5
しおりを挟む
それから数日が経ったある日。
俺は山に散策に向かっていた。
本当は1人で動きたかったが、義母上に護衛を付けるよう勧められ、泣く泣く連れて歩くことにした。
しかし俺は知ってる。その護衛は…
劉 権の手下だ。
そんな奴らを信頼など誰ができまいか!
護衛がどんなに音をあげようとも、俺は足を緩めてやるものか。
この護衛たちは2人とも内官だ。
体力は武官より無い。
既に二人して息を切らし始めている。
いつも武官と鍛錬する俺にとってはなんとも無い。
そして歩みを進めるうちに山奥深く少し薄暗いところに来た。
ここはもう雑林と化し、全ての気がバケモノのように俺たちを見下ろして見える。
「世子様、もうそろそろ休憩しませんか?」
「そうです。世子様、体を痛めては大変です。」
「何を言っている!まだ序の口ではないか!!情のない。」
俺が鼻高々に内官達を見下していた。
その時。
ガサガサッ
「ッ……。」
少し前の茂みからなにかの通る音が聞こえた。
俺は足を止め護身用の短刀を懐から取り出した。
するとまた、ガサガサッと茂みが動く音が聞こえた。
今度は近づいてきている。
俺は短刀を鞘から抜き取って茂みの動きに意識を向けた。
茂みはついに割り開かれて、中からは…木の皮と獣の皮で体をおおった男が姿勢を低く四つ這いしてこちらを睨みつけていた。
「なんだ……人間か……。」
俺は向けていた短刀をぶらんと下ろし1歩男に近づいた。
その時男の姿は消え、俺の頭上に影が指した。
途端に俺の体は落ち葉の上に押し付けられた。
「ッ……何をする!?」
「ウガー!!」
俺が持っていた短刀は右手を抑えられたせいでてから抜け落ち、庇おうと向けた左手は突如男に噛み付かれた。
「いぎっ!?」
「うー!……ううう……。」
どう何足掻こうとも、その男はスッポンのように口を緩めない。
……その姿はまるで獣のようで、俺はこのモノの獲物になるのかもしれないと程なくして悟った。
その間に二人の護衛は一目散に逃げていて、今は残り香すらない。
無様な終わり方だな……。俺は結局こうやって死ぬのか……。
俺は抵抗をやめた。
すると、男の唸り声がやんだ。
まだ荒い息だが、心做しか噛み付いた時よりも噛む力が弱くなったような…。
「……。」
かと思うと、男は俺の手から口を離し後ずさった。
「……そなた……俺を殺さないのか?」
すると男は首を横に振り眉間にシワを寄せた。
そして何かを言うのか口を開いたが直ぐにやめて閉口した。
言葉が通じない…それは互いに同じらしい。
男はしばらく俺と目を合わせていたけど、不意に俺に背を向けてスタスタと山道を駆け上がっていった。
それを眺めていると男は戻ってきた。
かと思うとサッと俺の短刀に顔を寄せ咥えた。
「なッ……」
男はそのまま俺の短刀を質に山道を駆け上がっていく。
……時折足を止め、俺を振り返りながら。
どうやら俺をどこかに案内するつもりらしい。
俺は噛みつかれた腕を軽く押さえ、男の後を追った。
しばらくすると男は一つの古びた建物で足を止めた。
と言うよりこれはもう既に廃れた木の集まりに見える。
俺は山に散策に向かっていた。
本当は1人で動きたかったが、義母上に護衛を付けるよう勧められ、泣く泣く連れて歩くことにした。
しかし俺は知ってる。その護衛は…
劉 権の手下だ。
そんな奴らを信頼など誰ができまいか!
護衛がどんなに音をあげようとも、俺は足を緩めてやるものか。
この護衛たちは2人とも内官だ。
体力は武官より無い。
既に二人して息を切らし始めている。
いつも武官と鍛錬する俺にとってはなんとも無い。
そして歩みを進めるうちに山奥深く少し薄暗いところに来た。
ここはもう雑林と化し、全ての気がバケモノのように俺たちを見下ろして見える。
「世子様、もうそろそろ休憩しませんか?」
「そうです。世子様、体を痛めては大変です。」
「何を言っている!まだ序の口ではないか!!情のない。」
俺が鼻高々に内官達を見下していた。
その時。
ガサガサッ
「ッ……。」
少し前の茂みからなにかの通る音が聞こえた。
俺は足を止め護身用の短刀を懐から取り出した。
するとまた、ガサガサッと茂みが動く音が聞こえた。
今度は近づいてきている。
俺は短刀を鞘から抜き取って茂みの動きに意識を向けた。
茂みはついに割り開かれて、中からは…木の皮と獣の皮で体をおおった男が姿勢を低く四つ這いしてこちらを睨みつけていた。
「なんだ……人間か……。」
俺は向けていた短刀をぶらんと下ろし1歩男に近づいた。
その時男の姿は消え、俺の頭上に影が指した。
途端に俺の体は落ち葉の上に押し付けられた。
「ッ……何をする!?」
「ウガー!!」
俺が持っていた短刀は右手を抑えられたせいでてから抜け落ち、庇おうと向けた左手は突如男に噛み付かれた。
「いぎっ!?」
「うー!……ううう……。」
どう何足掻こうとも、その男はスッポンのように口を緩めない。
……その姿はまるで獣のようで、俺はこのモノの獲物になるのかもしれないと程なくして悟った。
その間に二人の護衛は一目散に逃げていて、今は残り香すらない。
無様な終わり方だな……。俺は結局こうやって死ぬのか……。
俺は抵抗をやめた。
すると、男の唸り声がやんだ。
まだ荒い息だが、心做しか噛み付いた時よりも噛む力が弱くなったような…。
「……。」
かと思うと、男は俺の手から口を離し後ずさった。
「……そなた……俺を殺さないのか?」
すると男は首を横に振り眉間にシワを寄せた。
そして何かを言うのか口を開いたが直ぐにやめて閉口した。
言葉が通じない…それは互いに同じらしい。
男はしばらく俺と目を合わせていたけど、不意に俺に背を向けてスタスタと山道を駆け上がっていった。
それを眺めていると男は戻ってきた。
かと思うとサッと俺の短刀に顔を寄せ咥えた。
「なッ……」
男はそのまま俺の短刀を質に山道を駆け上がっていく。
……時折足を止め、俺を振り返りながら。
どうやら俺をどこかに案内するつもりらしい。
俺は噛みつかれた腕を軽く押さえ、男の後を追った。
しばらくすると男は一つの古びた建物で足を止めた。
と言うよりこれはもう既に廃れた木の集まりに見える。
0
あなたにおすすめの小説
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!
ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。
転生チートを武器に、88kgの減量を導く!
婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、
クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、
薔薇のように美しく咲き変わる。
舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、
父との涙の再会、
そして最後の別れ――
「僕を食べてくれて、ありがとう」
捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命!
※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中
※表紙イラストはAIに作成していただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる