眠れるsubは苦労性

あうる

文字の大きさ
4 / 15

3

しおりを挟む
「相手先のドム、不能にしてやりましょ?」
「いやまて、早まるな!」

にっこり笑って拳をきゅっとひねる紬には不穏なものしか感じない。

「相手のせいだけじゃない。ここ最近疲れが溜まっていたせいもあると思う」
「んじゃ、あの猿もついでにきゅとーー」
「まて!だからなんでお前はそうオレのことになると途端に待てが出来なくなるんだ!?」
「そんなの相手先輩だからに決まってるでしょうが!!先輩の馬鹿っ!!」

売り言葉に買い言葉。
エリートであるはずの後輩は、俺絡みの件になると途端に子供帰りを起こす。

「相手が俺だから?違うだろ?」
「違いません」 
「相手がサブだから、ドムお前は放って置けないんじゃないのか」
「違いますってば。
サブとかドムとかじゃなく、純粋に先輩が大切なんです。
……そりゃ、先輩がパートナーになってくれたらなとは思いますけど」

二人の中学時代。
俺がサブであることを告げられたその一年後、紬もまた、ドムとしての診断を受けた。

「先輩、俺……」

どうしよう、と。
放課後の空き部屋で、親よりも先にその診断書を見せられた俺は、ただ抱きしめてやることしかできなくて。
気づけばずっと、紬は俺の大切な後輩で居続けた。
思えば、それがいけなかったんだ。

「いいか、お前のそれは刷り込みだ。
思春期の一番いい時代を俺と過ごしたから脳が勘違いしてるんだよ」

「バグだ、バグ」と、ゲーム好きな紬にわかりやすいように伝えてやったつもりだった。

学生時代ラプレイパートナー選びに苦悩する紬に、ならば俺が相手をしてやると告げてからはや10年以上。
変わることのなかった関係を、今更どうこうできるとは思えない。

「俺はいつだって本気です!先輩用のカラーだって、すでに用意してありますし……」
「まさか犬用じゃないよな?」
「………そんなわけないじゃないですか。先輩のばーかばーか」

べーっと舌を出す紬。
ふざけた口調だが、その表情は真剣だ。
……俺が、絆されてやってもいいかと思うくらいには。

「あるならなぜさっさと持ってこない?」
「へ?」

案の定、呆気にとられた間抜け顔の紬。
俺からそんなことを言い出すとは夢にも思わなかったのだろう。

「い、いいんですか?持ってきて」
「流石に外にカラーはつけていけないが、家の中でなら構わない」
「それって…!」
「お互いしかプレイをする相手がいないなら、そうするのは妥当な行為だろう」

ドムには己のサブにカラーをつけさせることで安心感を持つものも多いと聞く。
反対に不安が多いと、今のこの紬のように何に対しても警戒心を剥き出しにしたディフェンス状態をおこすと。

「あくまで仮だがな」
「仮でもなんでもいいです。俺がこれから先も一生、先輩から離れなきゃいい話なんで」

大真面目な顔で箸を置き、すっくと立ち上がる紬。

「おい、今から取りに行くつもりじゃ……


「いえ、ちょっと俺の部屋に……」
「お前の部屋じゃなく俺の書斎。ってかウチに持ってきてたのか!?」

いつの間にそんなものまで。 

「今から取ってくるんで、絶対待っててくださいよ!?」

そこに座ってて!と強い口調で言われて身体が思わずビクリと反応した。

「……あ、違います…今のはコマンドじゃなくて、ただのお願いっていうか……!」
「………わかってる。あらならさっさと持ってこい」
「はい……!」

焦る紬に、心配ないと告げると一目散部屋を目指して駆けていく。
サブである俺よりもよっぽど犬みたいなやつだ。

「いや……違うな」

箸を再び手に持ち、冷めたげんこつ揚げを口に入れる。
最初にこれを食べさせた時の、猜疑心に溢れた紬の顔を思い出した。
あいつも俺も、長い間に随分変わったものだ。

「あいつは犬じゃなく、躾けのできた狼か」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~

Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい 俺だけに命令して欲しい 俺の全てをあげるから 俺以外を見ないで欲しい 俺だけを愛して……… Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、 でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ 俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です! Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。 こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!

不器用な僕とご主人様の約束

いち
BL
敬語のクラブオーナー×年下のやんちゃっ子。遊んでばかりいるSubの雪はある日ナイトクラブでDomの華藍を知ります。ちょっと暑くなってくる前に出会った二人の短編です。 🍸カンパリオレンジのカクテル言葉は初恋だそうです。素敵ですね。 ※pixivにも同様の作品を掲載しています

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...